第43話「怪獣を塩漬にしろ!」(1974年1月25日)
さおりさん以外のレギュラー陣の出番が極めて少ない異色エピソード。
冒頭、緑豊かな地球のビタミンCを狙って、一隻の宇宙船が地球に侵入してくる。

なんとなくヒワイな形しとるな……。
しかし、すぐに迎撃に出たZATの戦闘機によってあっさり撃墜されてしまう。
光太郎「真っ昼間侵入してくるなんて大胆な宇宙人ですね」
北島「ああ、地球の空はZATがしっかり守ってることを知らないんだから、よっぽど宇宙の片田舎から来た、宇宙人なんだろう」
まるでいつもタロウの力を借りずに独力で地球を守っているかのように自信たっぷりに語る北島隊員。
だが、その宇宙船が撃破された後、サッカーボールほどの大きさの球が空中に漂流したことにZATは気付かず、引き揚げてしまう。
その夜、寒空の下、さおりさんが息せき切って店仕舞い途中の八百屋にやってくる。

さおり「こんばんはー」
善助「いらっしゃい! あ、わかった」
さおり「何が?」
善助「すき焼き用の長ネギ買い忘れたんでしょう」
さおり「あらぁ、そんなにいつも忘れん坊じゃありませんからね! はい、PTAの会合の通知」
善助「こりゃどうも、すみません」
さおり「武志ちゃんは?」
善助「裏の柿の木をお守りをさせてんですよ」
さおりの弟の健一と、善助の息子の武志は同級生で、さおりと善助も顔見知りの間柄らしい。

さおり「まあ、この寒さに? また何か悪戯したんですか」
善助「いえね、八百屋のせがれの癖に野菜が嫌いだって飯を食わねえもんですから」
管理人は、髪が少し頬にかかったこのさおりさんの顔が大好きである!

さおり「この前うちに来た時にはなんでもよく食べてたのに」
善助「どうも、あっしの料理の腕が悪いんですかねえ」
さおり「おじさん、もう許してあげても良いでしょ。好き嫌い言わないように私が言い聞かせるわ」
善助「どうもすみません」
さおり「武志ちゃん寂しいのよ、無理もないわ。お母さんが亡くなってまだ3ヶ月にもならないんですもの」
八百屋の主人・善助を演じるのは悪役の多い大木正司さん。
その武志、裏庭でつまらなさそうにぶらぶらしていたが、「武志クン!」と、優しくさおりさんに話し掛けられると、慌てて濡れ縁に座って、星を見上げながら、「私は真っ赤なリンゴですぅー~♪」と、空元気を出して歌い始める。

母親を失った悲しさを人に見せまいとする少年の健気さに、さおりさんは自然と笑顔になる。

武志「やあ、お姉ちゃん、今夜は星が奇麗だね」
さおり「何言ってるの、さ、お父さんに謝って上げるから、うちに入んなさい」
武志「折角涼みながら星の観察してたのにぃ、ま、お姉ちゃんの顔、立てとくか」
こまっちゃくれた口を利く少年・武志を演じるのは、「仮面ライダー」のレギュラーだった矢崎知紀さん。

さおり「武志ちゃん、人間はね、死ぬとお星様になるのよ、星になったお母様が見てるんだから、良い子にならなくちゃダメじゃない」
連れ立って歩きながら、さおりさんが紋切り型の慰めと励ましの言葉を掛けるが、
武志「お姉ちゃんて案外非科学的なこと言うんだね、星って言うのはね、恒星と惑星があってさ、太陽みたいな火の玉か、地球みたいな土や石の塊なんだよ、分かった?」
武志は生意気な減らず口を叩くと、ひとりでさっさと行ってしまう。

さおり「あ……」
少しムッとしたように口を結ぶさおりさんが可愛いのである!

善助「こらっ、男が食い物のことでごちゃごちゃ言うのがみっともねえってことが分かったか?」
表から入ってきた武志に善助が改めて説教するが、
武志「男はまずいものをまずいって言えないくらい、気が弱くて良いのかい?」
善助「こぉのっ」
武志「いくら八百屋だってねえ、売れ残りの人参や芋ばっかりじゃ、うんざりだよ! 父ちゃん、料理学校に行くと良いぞ!」
痛烈な捨て台詞を残して、どたどたと2階の自室へ駆け上がる。

善助「まぁだ、言ってやがる。あれですからねえ」
さおり「……」
さおりさん、画面では口を開いて何か言いかけているのだが、無情にもフィルムはここで次のシーンに切り替わる。
正直なところ、管理人的には今回の見所は、この序盤のさおりさんの出番だけなんだよね。
よって、ここでお開きにしても良いのだが、なんとか続ける。

父親やさおりさんの前では強がって見せた武志だが、ひとりになると窓から夜空を見詰め、亡き母親のことに思いを馳せては涙を流していた。
武志「チェッ、人間が死んだって星なんかになる訳がないじゃないか! でも、もし母ちゃんが星になってたら、あのなんだか優しく光ってる奴かな? 母ちゃんの煮た大根はうまかったなぁ……」
と、物思いに耽る武志の目の前にあのボールが降って来て、ふわふわと浮かぶ。
武志が物干し竿でそれを叩き落すと、部屋の中に転がったボールが卵のように割れて、中から小さなワニのような動物が顔を出す。
びっくりしつつ、懸命に何かを訴えて鳴き続けるその動物に惹かれた武志は、内緒でその動物を育てることにする。それは何故か野菜ばかり好んで食べるので、八百屋の息子の武志にはお誂え向きの生き物だった。
凄まじい食欲を発揮して武志の与える野菜のクズを貪り食った動物は、あっという間に人間ほどの大きさに成長し、武志はそれを誰にも見付からないよう、裏山の洞窟の中に住まわせる。

動物「モットー、モットー!」
武志「お前はモットー、モットーとしか鳴かないんだなぁ。じゃあお前の名前はモットクレロンだ」
動物「モットー、モットー! モット、モット、モットー!」
武志「僕が呼ぶまで、絶対出てきちゃダメだぞ」
動物「モットー! モットー、モットー、モットー!」
武志「うるさい、後はまた明日!」
武志、際限なく食べ物をほしがるモットクレロンの頭をペチッと叩く。
この段階ではまだ怪獣の声も甲高い声質なので、「モットー、モットー」と鳴き続けてもそれほど不気味ではない。
現実世界に嫌気が差している武志は、モットクレロンがもっと大きくなったら、その背中に乗って遠い星にいるかもしれない母さんに会いに行こうと、夢のようなことを思い描いていた。
武志、しつこく怪獣にねだられて、仕方なく一旦家に帰って、野菜を調達しようとするが、父親は仕事のことばかりで、武志のことなど眼中にないように邪険に扱う。

武志(父ちゃんは僕のことなんか全然可愛くないんだ……仕事ばかり手伝わせて店のほうが大事なんだ)
武志の胸の中で、母親が亡くなって以来、積もりに積もっていた不満が遂に爆発する。武志は、いきなり父親の体を突き飛ばすと、売り物の大根を掴んで走り出す。
善助「おい、武、何処行くんだ?」
武志「父ちゃんなんか大嫌いだーっ!」
しかし、モットクレロンは武志の予想を超えて成長し、

その夜、勝手に洞窟を抜け出て道路を遮り、走ってきたトラックを襲って、積んでいた野菜をむさぼる。
既にいつもの怪獣ほどのサイズになったモットクレロンは、「モットー、モットー!」と言う鳴き声もおっさんのように野太くなっていて、延々と同じ言葉を繰り返す姿には、一種の狂気のような物が感じられるようになっていた。
これはまぁ、怪獣に限らず、人間でもずーっと同じことを喋り続けている人間が怖いのと同じである。

翌日、武志が洞窟に行くと、その背後に巨大化したモットクレロンがにゅっと顔を出す。

武志「あっ、お前、いつの間にそんなに大きく?」
モットクレロン「モットー、モットー!」
武志「じゃあ昨夜の野菜泥棒はやっぱりお前か?」
モットクレロン「モットー!」
武志「何がモットーだ、人に迷惑かけて平気なのか?」
武志、怪獣に人の道を解こうとするが、無論、そんなことを聞くような奴ではない。代わりに盛大な屁を武志に向かってお見舞いすると、さらに「モットー、モットー!」と鳴きながら武志に石などを投げ付ける。
武志「チクショウ、育ててやった恩を忘れやがって、僕はお前の父ちゃんなんだぞー」
モットクレロン「モットー、モットー、モットー!」
CM後、住宅地に現れたモットクレロンの姿に、人々がパニック状態で逃げ惑っている。
武志、自暴自棄になって、ひとりで怪獣に向かっていこうとする。それを慌てて善助が引き止める。

武志「あの怪獣は僕が育てたんだ、野菜のおかずは食べたふりしてみんなあいつに食べさせたんだ! あの怪獣に母ちゃんのところに連れてって貰おうとしてたんだ!」
善助「母ちゃんはな……」
武志「星にいるかも知れないじゃないか!」
善助「何を言ってんだ、もう」
武志「父ちゃんなんか大嫌いだ、野菜しか可愛がらないじゃないか、離してよー、母ちゃんのところに行くんだ!」
善助の腕を振りほどこうと、無茶苦茶に暴れる武志。
書き忘れていたが、矢崎さん、とても演技がうまいのです。
善助、やもえず武志の顔を引っ叩いて大人しくさせる。

善助「母ちゃんがいなくて寂しいとか、父ちゃんが一緒に遊んでくれないとか言う前に、あれを見てみろ。男はなぁ、泣き言を言う前にまず戦うものなんだ。お前が怪獣を育ててしまったのなら、お前が退治するほかしょうがないだろ」
モットクレロンと戦うZATの戦闘機を示しながら、息子に諄々と言い聞かせる善助。
……しかし、普通、こういう台詞は完全な第三者(光太郎やさおりさん)が言うべき説教だよね。
「父ちゃんが遊んでくれない」って、当の父ちゃんが言うのは、なんか間違ってるような気がする今日この頃なのです。
ともあれ、善助は息子を納得させると、自分の店に引き返す。そして手当たり次第に店先に並べてある野菜を道にばら撒き始める。

善助「まず、店の野菜を外へ放り出せ」
武志「だってえ」
善助「あいつの好物は野菜だろ、餌を撒いておびき寄せるんだ」
武志「父ちゃん、店より野菜より俺のほうが大事なんだね?」
善助「馬鹿ぁ、当たり前じゃないか!」
その言葉を聞いて、武志はたちまち明るい笑顔を取り戻す。
二人はヤケクソ気味に店の売り物を路上にぶちまけるが、そうこうしているうちに、ZATの戦闘機はモットクレロンの吐き出す野菜スプレー(命名・管理人)によって順調に叩き落される。

地上に降りたZATの攻撃もものともせず、「モットー、モットー!」と鳴きながら住宅地を突進するモットクレロン。

二人の作戦は図に当たり、モットクレロンは路上に散乱している野菜に惹かれて、店の前にやってくる。
二人は勇敢にも、物干し台の上から、身を屈めて野菜を食っているモットクレロンに竹槍を突き立てる。
しかし、そのくらいで倒せればZATも苦労はしない訳で、あっさり吹き飛ばされた上、その口に吸い込まれてしまう。

それを見た光太郎、飛んできた大根を掴んだまま、タロウに変身する。
タロウ、まずはモットクレロンの喉を蹴って善助たちを吐き出させてから、バトル開始。

モットクレロン、怪獣としても駄々っ子のように知能は低いのだが、ひたすら「モットー、モットー!」と叫びながらのラッシュ攻撃に、大人のタロウもたじたじとなる。
野菜スプレーを全身に浴びたタロウ、早くもカラータイマーが点滅し始める。
もっとも、元々正体不明の宇宙人が、地球のビタミンCを集める為に送り込んだモットクレロンの目的は地球征服でも、タロウを倒すことでもないので、力尽きたタロウを放置して善助の店の野菜をバリボリ食べ始める。
タロウ(そうだ、塩漬けだ。塩漬けにしてやるんだ!)
その背中を見ていたタロウの脳裏に、モットクレロンを退治する妙策が浮かぶ。
タロウ、最後の力を振り絞って立ち上がると、体に付いた野菜スプレーをモットクレロンの口に逆流させる。

そして、近くの酒屋から大量の塩を拝借すると、それを指先から噴射して、モットクレロンの体内に流し込む。

仕上げとして、いわば塩漬けになったモットクレロンの体を巨大な樽(何処にあったんだ?)の中に押し込み、さらに自分も樽の中に入り、両足を乗せてぐいぐい押し付ける。
すると、樽の穴から、野菜スプレーと同じ、緑色のエキス(野菜のエネルギー)がどんどん搾り出され、

最終的には、武志が洞窟で飼っていた頃のサイズにまで縮小される。
それでも武志は怪獣を芯から憎むことが出来ず、

タロウの足元で、「モット、モット、モットー!」と可愛らしい声で鳴きながら飛び跳ねているモットクレロンに、地球のお土産として白菜の束を投げてやるのだった。
タロウがその体をひょいと空に投げ飛ばすと、モットクレロンは白菜を背負ったまま、上機嫌で宇宙に帰って行くのだった。

武志「あいつ、まだモットーなんて言ってやがる」
善助「食いしん坊な怪獣だ」
お互い顔を緑色に塗りたくったまま、にこやかにモットクレロンを見送る善助・武志親子であった。

ラスト、今では進んで店の手伝いをするようになった武志の姿があった。
ZATの隊員や、さおり・健一も顔を覗かせる。
しかし、ここでも森山隊員の姿は見えず、そこが非常に残念なのであった。
健一「早く支度しないと学校に遅れるぜ」
武志「大丈夫、この頃は野菜をバリバリ食べてるから、走っていけば十分に間に合うんだよ」
健一「そうか」
さおり「あら、じゃあ、おじさんのお料理の腕が上がった訳ね」
武志「違う、違う、僕が作ってやるの」
善助「それがひどい味でしてね……」
善助のぼやきにみんながどっと笑う。
ランドセルを背負って元気に走っていく武志と健一の後姿を映しつつ、幕となる。