第16話「約束に向って走れ!」(1974年1月15日)
澄み切った冬空の下、鳥の囀る野に立っている五郎と豪作。

豪作「景色はよかし、うーん、空気もうまかねえ」
五郎「豪作、新人類が各地で建設労務者を狩り集めていると言う情報を掴んだんだ」
豪作「ええーっ」
五郎「場所はどうもこの辺りらしい」
豪作「あ、い、は……」
目的地までそんなこと一言も聞いていなかった豪作、思わずおたおたと周囲を見回す。
何も言わない五郎も五郎だが、聞かない豪作も豪作である。
と、向こうの山の中腹で突然激しい爆発が起きる。

二人が急いで駆けつけると、あちこちから煙が上がり、屋根付きの階段の下には、ひとりの囚人服のようなものを来た中年男性が倒れていた。
五郎「どうしたんですか」
男「新人類帝国のアジトが突然、爆発したんだ」
周囲には、他にも数人の人間が倒れていたが、息があるのは最初に見付けた男性だけだった。
五郎「新人類の秘密の工場で働かされていたんですね」
男「無理やり、ここに連れてこられて……」
五郎たちはひとまず男を安全な場所まで連れて行く。

五郎「早く病院に行って手当てしなければ……」
男「俺は病院には行かないっ」
豪作「何故じゃ?」
男「妻と娘に早く会わなきゃいけないんだ」
男は、平和に暮らしていた彼らの村に突然新人類帝国がやってきて、強引に連れ去られた時のことを回想する。

男の妻・志乃と、娘のレイコ。
レイコちゃん、なかなか可愛い。

男「あれからもう1年になる。どうしているか、そればかり気になって……もし、新人類が妻たちまでも……ああ、俺は行く。行かなきゃいけないんだ! 妻と子供に会わなきゃいけないんだ!」
豪作「その体では無理じゃ」
五郎(なんか、犬みたいな顔しとるな……) この男性を演じるのは、「仮面ライダー」84話でも不釣合いなほど可愛い娘(丘野かおり)を持つ父親を演じていた大神信さんである。
梃子でも病院に行こうとしない男の様子を見て、五郎は代わりに自分が行くと申し出る。
五郎「その願いは私が果たそう! あなたの奥さんと娘さんは私が探そう」
男「すまん、頼む、妻はこの山奥の佐久間村にいる。これが娘の写真だ」
などと言ってる間に、ファントム兵が至近距離に現われる。五郎は、自分がまず囮になって敵をひきつけ、その間に二人を町の病院へ行かせようとする。

五郎、数人のファントム兵を素手で殴り倒すが、トゲバンバラと言う怪人の放った猛毒入りの棘を左手に受け、変身ポーズを決めてもサナギマンへの変転が出来なくなる。
五郎、崖下の斜面を伝って、ひとまずトゲバンバラから逃れ、だだっぴろい荒野に出る。

と、休む間もなくバイクに乗った二人のファントム兵が向かってくる。

ファントム兵はそれぞれロープを投げて五郎の腕にからませ、五郎を引き摺り回す。
これは、どうやって撮ってるのか分からないが、かなり激しく砂埃が立っていることからも、結構なスピードで引っ張られているのではないだろうか? 腹にはプロテクターのようなものを付けているのだろうが、なかなか大変な撮影だったと思われる。

なんとかロープを振り解いた五郎、「そうだ、ライジンゴーを呼ぼう。ゴー! ライジンゴー!」と、右手を上げて叫ぶ。

即座に地平線の向こうから頼もしき相棒の姿が現われ、ぐんぐん近付いてくるが、

よく目を凝らせば、それはライジンゴーではなく、ファントム兵の乗ったジープだった。
ライジンゴーは、恐らく、毒が回って視力がぼやけていた五郎の目に映った幻影だったのだろう。
では、本物のライジンゴーは何処へ? と言うのが長年特撮ファンの間で議論されている問題だが、近年では、「ゴー(行け)!」と言われたので、とりあえずGSにでも行っていたのでないかと言う説が有力である。

それはともかく、ファントム兵が手に手榴弾を持っているのを見て、全速力で反対方向へ駆け出す五郎。

まず、五郎の真後ろで激しい爆発が起きる。

なんか、手前に映っている石がいかにも怪しくてヤな予感がしたのだが、

案の定、そこを通り過ぎた直後に、再び爆発。

さらに、五郎を追い越しながら投げたファントム兵の手榴弾が背後で爆発。
このセメント爆発は、いわゆる「角」がひとつひとつ数えられるくらい鮮明に出て、実に美しいのだが、

一瞬で「角」が崩れて煙の固まりになったところに、画面左手から爆発した筈の手榴弾が飛んできて、

五郎の右足に当たって跳ね返っているのがはっきり確認できる。
これは完全に偶然の悪戯なのだが、こともあろうに
「五郎の足」に当たるのはどうかと思う。
ついでに、コマ送りしたら、手榴弾が落ちる前に勝手に五郎の後ろで爆発が起きているのが丸分かり。
ま、一発勝負の撮影だから、仕方のないミスであろう。

その後も何発も手榴弾が投じられ、画面全体が煙に覆われ、現場はさながら戦場のような有様となる。
この一連の爆発シーンは、「仮面ライダー」や「V3」のそれに匹敵するほどの凄まじさである。しかも伴直弥さん、生身かつ吹き替えなしだもんね。

CM後、手榴弾地獄を突破した五郎は、精も根も尽き果てたと言うように、剥き出しの山肌に身を横たえる。

それでも、目指す佐久間村はすぐそこだと自分を励まし、険しい崖をよじ登る。

その最中、五郎に語り掛けるものがあった。他ならぬ五郎自身であった。
悪い五郎「渡五郎、何故危険を冒してまでお前は行かなければならないんだ?」

良い五郎「待っているからだ、少女とその母が」
悪い五郎「それがお前とどういう関係があるというのだ?」
良い五郎「関係ない。だが俺は約束した。
男が一度約束した以上、死んでも約束を守らなきゃならないんだ! それが男なんだ!」
悪い五郎「……」
頭の中に、同じ人間の良心と悪心を擬人化した天使と悪魔がいて対立すると言うのは漫画などでよくある古典的表現だが、実写ドラマではあまり見たことがない。
それにしても五郎の魂の叫びのような最後の台詞、平気で約束破りまくる大映ドラマの主人公たちに聞かせてやりたいものである。
その後、堰堤の横の垂直に近い斜面をなんとか這い登った五郎だったが、登ったところでトゲバンバラの毒が全身に回り、河原の上に倒れて意識を失ってしまう。

そんな五郎の足元に立ったのが、どてら姿も可愛いレイコと言う娘であった。
レイコは五郎を自宅へ連れて帰り、母親と一緒に看病する。

五郎のうわごとから、二人は五郎が何故こんなところまで来たのかを知り、胸を熱くしていた。
レイコ「お母さん、この人は、私たちにお父さんのことを知らせるためにこんな目に遭ったのね」
志乃「ほんとになんて人だろうねえ」
レイコ「薬はないの?」
志乃「ここには毒草しか……毒草も使いようによっては薬になるんだけどねえ」
レイコ「お母さん、この人は放っておけば死ぬわ」

青黒い顔をして、全身をぶるぶる震わせている五郎に、
「ダメで元々、助かったら超ラッキー!」的なノリで、毒草から作った薬を飲ませる二人。
五郎「うっ……」(バタッ)
レイコ「あ……、やっぱり死んじゃったじゃない!」
志乃「まあ、いくら薬っぽく飲ませても、所詮は毒だからねえ」
レイコ「そりゃ普通、死ぬわよねえ。でも良かった、お父さんが無事なことが分かって!」
こうして五郎は、「うう、やっぱり約束なんて守らなきゃ良かった……」と薄れ行く意識の中で思いながらあの世へ旅立ったのでした
……嘘である。

二人は、五郎を探していたトゲバンバラたちに捕まり、五郎の居場所を吐かせようと痛め付けられるが、ここでやっと五郎の体から毒が抜け、五郎はサナギマン、ついでイナズマンに変転して、悪人どもをぶちのめすのであった。
なお、今回は火薬の在庫一掃セールでもやっていたのか、

空を飛ぶライジンゴーの攻撃で、ファントム兵士たちの周囲で激しい爆発が起きる、なんて言うシーンも出て来る。
事件解決後、山道を、母娘と一緒に病院へ向かう五郎の姿を映しつつ、幕。
ナレ「五郎の胸には約束を果たしたと言う安らぎがあった。だが、それは束の間の安らぎに過ぎないのだ」
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