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　第58話「怪人毒トカゲ　おそれ谷の決斗！！」（1972年5月6日）

　深夜の大田黒科学研究所。

　その研究室では、3週間前に死んだワンコをＸアルファ液と言う薬品によって蘇らせると言う、科学史上の一大実験が行われていた。

　で、Ｘアルファ液を注射されたワンコの死体は……針を刺される前から動いているような気がするが、それは見なかったことにして……特殊な光線を浴びると、あっさり生き返ってしまう。

　
　良子「博士、犬が生き返ったわ、博士！」
　山本「博士、良子さん、我々はとうとうやったんですね。死後3週間も経った犬を生き返らせることに成功したんですね！」
　太田黒「山本君、Ｘアルファ液が成功したとなれば、早速明日、城北大学で臨床実験をやる。君はこのＸアルファ液を大学まで届けてくれたまえ」
　山本「はい！」

　しかしまぁ、完全に死んだ生物を生き返らせるなんて、もし公表されたら人間社会が根底から覆るような一大センセーションを巻き起こすだろう。いや、とてもじゃないが公表など出来る筈がなく、ショッカーに狙われずとも、闇から闇に葬り去られたことだろう。

　それにしても、だいたい隔週で、何でも燃やしちゃう薬品だの、人類を滅ぼす光線だの、地軸を動かす装置だの、生物を生き返らせる薬だの、滅茶苦茶な発明がされていた70年代の日本と言う国は、マッドサイエンティストの巣窟だったのだろうか。

　前にも書いたけど、ショッカーよりよっぽど怖いっつーの。俺は母ちゃんの奴隷じゃないっつーの。

　
　二人きりになると、博士は感極まって良子の両腕に手を置く。

　大田黒「ありがとう、君のお陰だよ」
　良子「どさくさ紛れに触らないで下さい。訴えますよ」
　大田黒「……」

　だが、既に彼らの研究はショッカーの知るところとなっていた。

　建物から出て来た山本助手は、待ち構えていた怪人・毒トカゲ男に襲われて殺されるが、死ぬ間際にＸアルファ液の入ったケースを乱暴に投げ付けて、爆発・焼失させる。

　恐らく、ニトログリセリンのように不安定な物質だったのだろう。

　
　空しくノーブラ、いや、手ブラ、いや、手ぶらで帰還した毒トカゲ男、首領（ワシのマーク）に対して、地獄大使と一緒にナチス式の敬礼を施す。

　ここで地獄大使の左手が毒トカゲ男の顔にヒットして「いてっ」「あ、すまん」と言うやりとりがあったら面白いのになと思った管理人は今、室温5度の部屋でこの記事を書いているのである。色んな意味で寒い。

　
　首領「何故殺してしまったのだ、山本を生かしておけばＸアルファ液の秘密を喋らせることができるのだぞ」
　怪人「こうなったら直接大田黒を誘拐して……」
　首領「待て、待つのだ、今、大田黒を誘拐してライダーに気付かれてはまずい」
　地獄大使「そ、それでは、Ｘアルファ液を諦めろと？」

　
　首領「諦めはせぬ、我々ショッカーの科学力をより完全にする為に、Ｘアルファ液はなんとして奪い取らねばならん。この女はもうひとりの助手、橋本良子、ライダーに気付かれずにＸアルファ液の秘密を奪い、科学力増強作戦を成功させるには、この女を利用するしか手がない」
　地獄大使「わかりました」

　首領、モニターに良子の映像を映し出し、新たな命令を下す。

　当然、「科学力増強」と言うのは死者を蘇らせることが出来るというとんでもない薬品を手に入れること……と思いきや、

　
　あにはからんや、ショッカーは2年前に死んだイギリスの科学者2名の死体（ロンドン博物館に冷凍保存されているらしい）を盗み出し、Ｘアルファ液で生き返らせ、彼らに殺人兵器を作らせようと言う、まわりくどいことを考えていたのだ。

　この映像は、地獄大使がニタニタしながら思い描いた未来予想図である。

　いや、なんと言うか、ショッカーの発想は何か根本的なところで間違ってると思うんですが……。

　寒くてうまいたとえが思い浮かばないが、100万円の入っている金庫を壊そうとして、1000万円もする爆弾を使うみたいな……。

　それより過去にライダーに倒された全ての怪人を蘇らせるとか、もっと建設的な利用法があるのでは？　あるいは、Ｘアルファ液を世界中の金持ちに売り付けて巨利を得るとか。

　翌朝、その良子は山本が殺されたとも知らず、いつもどおりの朝を迎えていた。

　
　五郎「おはようございます。清君は？」
　良子「あ、ちょっと待ってね、すぐ呼んでくるわ」

　良子が玄関先の掃除をしていると、弟・清の友人たちが迎えに来る。

　で、例によってそのひとりが五郎なのである。

　お前は東京じゅうの子供と知り合いなのか？

　いくらなんでも顔広過ぎだろ。

　
　良子「清ちゃん、早くしないと五郎ちゃんが見えてるわよ」

　弟の部屋に入りながら早く学校へ行くよう促す良子。

　いくらなんでも髪多過ぎだろ。

　
　清「父さん、母さん、行って来ます」
　良子「はい、早くするのよ」

　清は、既に亡くなっている両親の写真に向かって挨拶していた。

　しかし、いつものことだが、70年代のドラマは女性のミニスカ率が高くて良いね。すぐ研究所に出勤するつもりなのか、スーツの上にエプロンを付けているスタイルも可愛い。

　どうせなら、もう少し短いスカートを履いて欲しかったところだが……。

　ところで「仮面ライダー」で事件に巻き込まれる被害者として、両親のいないしっかり者の姉と、年の離れた甘えん坊の弟（あるいは妹）と言う組み合わせが異様に多い。

　これは、たった二人だけの兄弟と言うことで、片方がショッカーに捕まった場合、よりドラマが盛り上がることを期待した作劇上の意味もあると思うが、実際のところは、両親を登場させるとその分、余計なギャラが発生して只でさえ少ない制作費がますます圧迫されるのを防ぐ狙いだと思う。

　無論、ちゃんと両親が登場するケースもあるんだけどね。

　さて、毒トカゲ男は首尾よく良子を拉致するが、その現場を五郎たちに目撃されてしまい、首領の恐れていたように早くもライダーたちに知られる羽目となる。

　
　立花「なに、姉さんがショッカーに誘拐？」
　ユリ「ショッカー、姉さんを連れ去って何をしようって言うのかしら」
　トッコ「まさか清君の姉さんは、既にショッカーに……」

　
　エミ「ああーっ！」
　立花「こらっ」

　つい口を滑らせて余計なことを言ってしまったトッコを、エミが慌てて制するが、既に手遅れ。それを聞いた清はますます暗い眼差しになってしまう。

　
　エミ「トッコったらぁ、清君の気持ちがちっとも分かってないのねえ」

　でかいなりして、申し訳なさそうに首をすくめるトッコが可愛いのである！

　
　トッコ「すいませーん」

　ユリに頭を小突かれ、ペロッと舌を出してみせるトッコが可愛いのである！

　
　清「お姉ちゃんが殺されたら、僕、死んじゃうんだ」
　五郎「大丈夫だよ、僕たちには本郷猛の兄ちゃんも滝兄ちゃんもいるんだ。必ず君の姉さんを助け出してくれるよ」
　立花「五郎の言うとおりだ。なんだ、男の子が涙なんか流しちゃみっともないぞ。仮面ライダーが泣いてる清君見たら笑っちゃうぞ」

　などと言ってると、その仮面ライダーこと猛と、滝の二人が部屋に入ってくる。

　
　立花「ショッカーの奴らが清君の姉さんを誘拐したんだ」
　猛「なんだって？　確か清君の姉さんは大田黒研究所の助手だ」
　滝「大田黒博士といえば、日本で有名な生化学者だな」
　猛「ああ、俺の先輩だ！」

　五郎なみに顔の広い猛であった。

　猛「噂では近頃博士は画期的な研究をしてるとか」
　立花「まさかそれをショッカーが狙ったんじゃ？」

　毒トカゲ男は、良子を連れて研究所へ行き、良子を人質にしてＸアルファ液のデータを要求する。博士もそれに従おうとするが、そこへ猛と滝が飛び込んできて阻止する。

　毒トカゲ男は良子を連れて車で逃走、猛もライダーに変身してサイクロンで追いかける。

　
　その後、河原や、川にかかった細い橋の上などでバトルが展開される。

　それにしても、この橋の細さは尋常ではなく、よくこんなところでアクションが出来るものだと感心する。

　二人とも河原に下りて睨み合っていると、

　
　良子「助けてー」

　その頭上の橋を、戦闘員に手を引かれながら良子が渡って行く。

　「助けてー」と叫びつつ、女優さんがその戦闘員だけを頼りにしていたのは言うまでもない。

　
　しばしどつき合った後、二人仲良く、相手の顔を至近距離で凝視しながらジャンプして、

　ライダー「……」
　怪人「……」

　若干気まずい空気になりながら、

　
　再び橋の上に着地する。

　ライダー＆怪人（我々はさっきから上がったり降りたり、一体何をしているのだろうか？）

　
　毒トカゲ男、山本をどろどろに溶かした赤い毒液を吹き付ける。ライダーは溶けこそしないが体がしびれてまともに動けなくなる。

　ついで背中を蹴られて、

　
　橋から落ちそうになるが、ロープを掴んで左手一本で支える。

　……ま、別に落ちても特に問題はなかったと思うが。大して高い橋じゃないし。

　
　怪人「ロープを切ってやる」

　これから自分のすることを言ってから、行動に移る毒トカゲ男。

　怪人と言うのはそう言うものなのである。

　
　が、それに続いて映し出されるのが、いかにもミニチュアっぽい橋とライダーの人形だったので、手に汗握って食い入るように見ていた当時のちびっ子たちも思わずブラウン管に頭突きをかましたのではないだろうか？

　
　これは、怪人がロープを切ってライダーごと橋を落としてしまうからこういうことになったのだが、普通にライダーを橋から蹴落とすようにしておけば、わざわざしょぼい特撮を披露して視聴者の失笑を買うこともなかったのではないだろうか。

　予算規模が違うから仕方ないとはいえ、この数年前に「ウルトラマン」や「セブン」で今でも通用する精巧なミニチュアセットがガンガン作られていたことを思うと、やっぱり円谷プロは凄いよね。

　
　ショッカーのアジト。

　良子が台の上に縛られていて、頭上にはギロチンのような電動ノコギリ。

　この女優さん、さほど美人ではないのだが、この角度から見ると妙に色っぽく見える。

　
　と、高笑いを響かせながら、地獄大使と毒トカゲ男が階段を降りてくる。

　彼らは仮面ライダーが死んだものと思って、すこぶるご機嫌なのだ。だが、

　首領「地獄大使、ライダーはまだ生きている！」
　怪人「なんですって」
　首領「失敗すれば、諸君は死だと言うことは良く分かっているな、だがもう一度だけチャンスを与える」

　首領の一言で、たちまち笑顔が怒りの形相に変わる。

　地獄大使「悪運強い仮面ライダーめ、こうなったら本郷と滝に大田黒の書類を持ってこさせるのだ！」

　で、何をトチ狂ったか、地獄大使、わざわざ猛たちをその運び役に指名するのだった。

　しかし、悪の人がヒーローに対して「悪運強い～め」と言うのもナンだな。

　
　一方、レーシングクラブでは、清少年が心配のあまり、目の前に並べられたご馳走にも目をくれず、ひたすら沈み込んでいた。

　立花「なんとかならんのか」

　おやっさんは、早く良子が救出されることを願って言っているのだが、清少年のあまりに女々しい態度に苛立っているようにも見える。

　
　と、既にレーシングクラブに戻って休んでいた猛がふらふらしながら現われる。

　立花「猛、駄目じゃないか、寝てなきゃ」
　猛「おやっさん、滝は」
　立花「大田黒研究所だ。猛、待て、その体じゃ無理だ。滝に任しとけ」
　猛「行かしてくれよ」

　おやっさんがすぐ気付いて腕ずくでもベッドに連れ戻そうとするが、猛はどうしても出掛けようとする。

　
　立花「バキヤロウ！　自分の体、考えるんだ！」

　久々におやっさんの怒号が炸裂する。

　
　猛「はぁーっ、おやじさぁん……」

　猛、首を横に振って溜息をつき、珍しく甘えるような目になるが、

　
　猛「行かしてくれよ、おやじさん！」

　一転、おやっさんにも負けない大声を張り上げるのだった。

　立花（もうっ、急に大きな声出す人嫌ーい）

　おやっさんも諦めて、やむなく猛の願いを聞き入れるのだった。

　
　再びアジト。

　頭上のノコギリが回転し始めたので、身をよじって助けを求める良子。

　
　地獄大使「へへへへへ、テストは上々だな。ノコギリのスイッチを切れ」

　ショッカーの皆さんは、本番前の実験で成功するのが三度の飯より好きなのです。

　で、本番で必ず失敗するのも三度の飯より好きなのです。

　だが、今回の地獄大使の仮面ライダーおもてなしプランはそれなりに巧妙で、

　地獄大使「この女を見た本郷は助けようと電気ノコギリのスイッチを切るに違いない。この女に触れればたちどころにアジトの周りに設置されている爆弾に電流が流れ、大爆発を起こす」

　と言うものだった。

　つまり、ノコギリの作動スイッチと、爆弾の起爆装置を連動させると言うものだったが、それにしては、「この女に触れれば」と言う台詞がおかしくないか？　ここは単に「スイッチを切れば」で良かったのでは？

　ショッカーにしては巧妙な罠であったが、彼らはひとつだけ大きなミスを犯していた。

　さて、準備が整ったところで、地獄大使は良子を人質にして、大田黒にＸアルファの書類を持ってくるよう命じる。書類を託された滝はおそれ谷に向かうが、あっさり敵の手に落ちてしまう。

　
　滝を十字架に縛り上げ、ノコギリを作動させ、猛の来るのを待つ毒トカゲ男。

　
　やがて、お待ち兼ねの仮面ライダーが到着する。怪人や戦闘員は、あらかじめアジトを空にして、ライダーが罠に掛かるのを見物しようとする。

　ライダー、反射的にノコギリのスイッチを切ろうとするが、

　良子「だめえ、スイッチを切ったらこのアジトが大爆発を起こす仕組みになってます！」

　と、良子に止められる。

　そう、地獄大使、うっかりして、良子の前で罠の内容をべらべら喋っちゃっていたのである！

　……

　地獄大使、ひょっとしなくてもアホやろ。

　これも、良子の口に猿轡をしておけば簡単に防げたケアレスミスだったのだが。

　
　いや、それ以前に、肝心の爆弾がライダーが飛び込んできたらすぐ目に入るような場所に仕掛けてあるので、良子が言わなくても気付いていた可能性が大である。

　ライダーと滝は手分けをしてあっという間に全ての爆弾を取り外してしまう。

　
　首領（なんか、こいつら毎週アジトに来てるような気が……）

　その上でスイッチを切り、なんとか良子の命を救うのだった。

　三人が地上に出たところで戦闘員たちが襲ってくる。

　
　滝はバイクの尻に良子の尻を乗せて先にその場を離れてしまうのだが、良子の座り方が、いかにも緊迫感のないデート感覚なのが割とツボであった。

　まぁ、ミニスカだからシートにまたがる訳には行かなかったのだろうが、ここは敢えて、ここは敢えて、チャレンジして頂きたかった。

　で、信じがたいことに、何故か毒トカゲ男はまだ滝から奪った書類を持っていて、それを持ったままライダーと戦っちゃうのである。

　時間はたっぷりあったのだから、さっさと地獄大使に渡しておけば良かったのに。

　……と言うか、ライダーと戦うことより書類をゲットすることが本来の任務だったのだから、襲撃しないで引き揚げれば良いのである。

　
　そろそろ管理人が突っ込むのに疲れた頃、ライダーの「ライダーヘッドクラッシャー」が炸裂、毒トカゲ男は高所から叩き落され、爆発して果てる。

　
　ライダー（俺は勝ったぞ）

　見りゃあ分かるよ！

　
　ラスト、路上で清と良子が感動の再会を果たす。

　珍しくレギュラー総動員でそれを祝福する。少し遅れて猛も書類を持って駆けつける。

　大田黒「ありがとう、皆さんお世話になりました」

　そして、「死人を生き返らせる薬」も何のこともなく大田黒の手に戻ってくる。

　うーむ、やっぱりそんな薬が世に出るのはどうかと思うけどね。

　大田黒が考えを改め、「こんな薬を手にしたものは神にも悪魔にもなれる。私はこの発明を世に出すつもりはありません」などと言うシーンでもあれば安心できるのだが。

　
　ちなみに最後の場面では、トッコも違う衣装と髪型で参加していて、これが実にかわゆいのだ。

　しかし、いつものようにカメラはその姿をまともに映してくれず、せいぜい上の二つくらいしか貼る画像がなかったことを残念に思う。

　以上、今回も、終わってみたらストーリーがあったようななかったような、いつもの「仮面ライだー」らしいエピソードであった。

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