ネタバレ注意! 解決編です。
そう言えば、原作には康雄の妹で元気娘の由紀子(だっけ)と言うキャラもいたなぁ。康雄とか、由紀子とか、あるいは田代などは、横溝正史が好んで使う名前だな。
警察は、古林の死体のそばにいた宮田文造を容疑者として連行する。妹の峯子は、夫の慎一郎に縋るが、慎一郎は「私が行っても何にもならん。心配しなくてもじきに帰ってくる」などと相変わらず頼りにならない。いや、なろうとしない。

峯子「私が結婚してから一度でも、あなたにお願いしたことがありました? いつもそうなんです。この23年間ずっと逃げてばっかりいらっしゃるんです!」
夫をなじる峯子だが、
慎一郎「あんた、今、私が逃げてばかりいると言ったな? 私にそうさせたのは誰だ?」
峯子「あなた、今でも朋子さんのことを?」
慎一郎「私が言ってるのはあんたと古林のことだ! 私が知らないとでも思っていたのか? だがこのことは誰にも喋っちゃいない。あんたのためじゃない、(娘の)都のためだ」
慎一郎は、古林と峯子の不倫関係を以前から知っていたらしい。それにしても、とても横溝シリーズとは思えないシリアスな相克劇だ。原作にはこういうシーンはなかったと思うけど。
金田一はパウロ神父を尋ね、鮎川マリと母の君江は、常に教会へは別々に来ていたことを確認する。

また、康雄にもパーティーの夜のことを聞こうとする。
康雄「何も話すことなんかありませんよ」
金田一「待ちたまえ。人が二人も殺されたんだ。君には答える義務がある!」
康雄「そんなものありませんよ! 僕は小さい時から人殺しの甥だと責められてきた。みんなから爪弾きにされて家も潰された。金田一さん、あなたにはこの悔しさが分かりますか?」 目に涙を浮かべて訴える康雄だが、金田一は「だから、マリさんに協力する気になったんだね? 言いにくいことを喋らせて悪かったね」と、一人合点してその場を去る。
康雄はパーティーの前にマリに会い、彼女に協力を求められていたのだ。

金田一はその足でマリの元を訪れ、君江と言う女性は最初から存在せず、マリの一人二役だったことを指摘する。つまり、常に黒衣のベールを被った鮎川君江と言う架空の女性を演出していたわけだ。時には、家庭教師の河野朝子が君江を演じることもあった。
そして、マリは、君江がやはり玉造朋子であり、自分が朋子と慎一郎との間に生まれた娘だとも告白する。
杢衛が想像したとおり、23年前、殺人の嫌疑をかけられた君江はパウロ神父によって海外へ逃がされ、異国の地でマリを産み落とした。そしてブラジルでコーヒー王と呼ばれたゴンザレスの元で働いた。ゴンザレスに求婚されたが、それには応じず、ゴンザレスは代わりにマリを養女にしたのだ。
その君江こと朋子は、2ヶ月前に病死したと言う。
マリ「母は死ぬ前に初めて日本に帰りたいと申しました。私は英二さんを殺してはいない、それだけは慎一郎さんに知っておいて貰いたい……泣きながら私の手を握って息を引き取りました。父に手紙を出せばそれで済むことだったかも知れません」 だが、マリは自らの手で母の潔白を証明しようと日本へやってきたのだ。
パーティーの夜、鍾乳洞へ入っていった黒衣の女性は、河野朝子が変装したものだった。それをあらかじめ打ち合わせていた康雄が君江だと証言したのだ。マリは、当時の関係者を町へ集め、23年前の事件と同じ状況を作って、真犯人を炙り出そうとしたのだ。
金田一は真犯人が誰か分かっているが、確証を握るためマリに協力を要請する。
文造は警察から釈放されて帰ってくる。妹の峯子があれこれ話していると、河野朝子がマリからの手紙を金田一に渡してくれるよう頼みに来る。
金田一は手紙を読んだあと、興奮した面持ちで出掛ける。その後、何者かが金田一の置いていった手紙を盗み読みする……。それには、犯人を示す決定的な手掛かりを得たので、鍾乳洞まで来てくれと書かれてあった。
無論、これは金田一が犯人を誘い出すためにマリに書かせたニセ手紙だった。
なお、康雄と都は原作とだいぶ違い、真相が明らかになる前にさっさと町を出てしまう。しかも、二人はマリと一緒にブラジルへ行くことになるのだ。
金田一は
峯子が犯人だとあっさり日和警部に告げた上で、鍾乳洞で犯人が来るのを張っていた。囮のマリが怪しい人物に襲われるが、警察に追われて逃げて行く。それを追っていった金田一たちは、犯人である筈の峯子の絞殺死体を発見する……。

追い詰められた怪人物は、その素顔を晒す。そう、峯子の兄の宮田文造(植木等)だった。
文造「もうちょっとで矢部のものはカマドの灰まで俺のものになったって言うのに、妹に邪魔されるとは皮肉にできてるよ全く……署長さん、一つお願いがあるんですがね、こんな兄貴を持った妹は可哀相な女です。あたしの分までどうか供養してやってください」 それだけ言って、文造は井戸へ自ら身を投げる。
日和警部は、新聞記者たちには文造の財産目当ての犯行だったと説明し、峯子はそれを止めようとして殺されたのだと話す。

だが、最後の最後に金田一が真相をマリに説明する。あくまでこれは僕の推理だと断った上で……。

23年前、当時から不倫関係にあった古林と峯子は、鍾乳洞でいちゃついていたところを、朋子を探していた英二に見られてしまい、咄嗟に古林が英二を殺したのだ。

今回の杢衛殺しも、23年ぶりに会った二人がいちゃついているところを、杢衛に見られたため、古林が思わず殺してしまったのだ。
23年前から全然顔が変わってねえじゃねえかとか、突っ込まないように。 その後、峯子は自分を食い物にしようとする古林を、君江(朋子)の仕業にして殺したのだが、それを文造に見られてしまった。神父が見た、鐘楼の上に現れた黒衣の女性は、峯子が変装したものだった。

峯子は金田一宛の手紙を見てマリを殺そうとしたが失敗し、兄の文造によって殺されてしまう。
文造「死んでくれ、死んでくれ峯子、こ、こうするしかないんだ……許してくれ」 泣いて詫びながら妹を手に掛ける植木等の演技が胸を打つ。
文造はその後、自分が犯人だと警察の前で明言した上で、自殺したのだ。

マリは何故文造がそんなことをしたのか理解できないと言う。金田一は、
「都さんの為ですよ。文造さんはあの子を我が子のように可愛がっていた。母親が犯罪者であるよりは、立派な母親は持ったが悪い伯父がいたと言うほうがどれだけ救われるか知れませんからね。これが日本人の持つ愛情、自己犠牲ですよ」 ドラマでは古谷一行は激することもなく淡々と話しているが、原作では金田一が「凶暴」な眼差しでマリに叩き付けるように告げるのが、金田一ファンの間では有名である。

そして、最後に慎一郎とマリの感動の親子対面。詳しくは実際に見て泣いて欲しい。

と、金田一が窓から庭を見ていると、

まるで朋子の化身のように、蝶がひらひらと舞っていた。
横溝正史シリーズ、最後は金田一と日和警部の会話で終わることが多いが、原作はこのままフェードアウトするのもさっぱりしてて良い。
最初に書いたように、この作品、シリーズの中では最も完成度が高いと思う。その分、あまり突っ込みどころがないので、レビュー(と言っていいものやら)をしてもあまり楽しくないのが玉に瑕だ。