第28話「完璧な偶然!~ノブヒロさん殺人事件」(2006年7月8日)
冒頭、雷が机の上に腰掛けて足をぶらぶらさせながら、エンタメ雑誌を読み耽っている。刑事部屋で。
そこへ高村が来て、

高村「あれ、映画?」
雷「はい、今度友達と見に行こうと思って……この『恋する日曜日』って、面白そうだと思いません」
高村「うん、これもいいけど、僕はどっちかっちゅうとこの『新耳袋ノブヒロさん』、理名ちゃんのファンだしさ」
「恋する日曜日」は、他ならぬ小出さんが主演の映画だと思うが、良く分からない。
「ノブヒロさん」は見たことあるが、つまんなかったと言うことしか覚えていない。

高村「夏はホラーでしょ、やっぱり」
雷「うーん」
で、その雑誌の表紙も、何気に小出さんなのだった。
と、ちょうどそこへ、成城の探偵事務所で、所長・耳袋ノブヒコと言う男の撲殺死体が発見されたという知らせが入る。
二人が現場に着いた頃には、もう柴田たちによる鑑識作業が行われていた。

柴田「死因は金属バットで殴られたことによる脳挫傷、死亡推定時刻は午後3時前後と思われます」
はい、みなさま、右手に見えますのが、飛び切り可愛い女子高生の「ひかがみ」になります。
寿命が伸びますねえ。

高村「銭形君、第一発見者の豊島圭子さん、彼女、犯人を見てる」
雷「犯人を?」
圭子「はい、浮気調査をこちらの探偵事務所に頼もうと思ってきたんです。そしたら突然男の人が飛び出してきて……」
それは、青いレインパーカーを着た男で、圭子以外にも目撃した通行人が複数いると言う。
フェミニンで色っぽい豊島圭子を演じるのは、田中有紀美さん。役名は、シリーズの監督のひとり、豊島圭介から。
柴田が、机の中にあった「極秘」と書かれた封筒を発見する。
中には数枚の写真が入っていて、男女が路上で抱き合ってるのを盗み撮りしたようなものだった。

雷「浮気写真ですね」

高村「君にはちょっと早いな、ふっふっ」
雷「全然平気ですよ、このぐらい」
高村「いやいやいや」
高村、すぐに雷の手から写真を取り上げてしまう。

高村「ぜんぜん」
雷「……」
不満そうに口を尖らして高村を見る雷が可愛いのである!
それに、高村と雷が、口やかましい父親とその娘のように見えて、実に微笑ましい。
草刈さんには、実際に同じ年頃の娘がいるしね。
ところが、ふとその写真を見た圭子が、意外なことを言い出す。

圭子「この人です、私が見た男の人は」
高村「リアリィ?」
驚いて圭子を見る雷の顔が、まん丸でめっちゃ可愛い!
耳袋の報告書から、その男が廣木隆二と言う、映画会社の社長だと言うことがすぐ判明する。
この役名も、シリーズ監督の廣木隆一のもじりである。
廣木は、前社長の娘と結婚して現在の地位を手に入れた、要するに婿養子であり、浮気が発覚したら身の破滅となるだろうから、殺害動機は十分あると考えられた。
だが、

廣木「私は殺害現場から飛び出してきた? はっ、一体どこの女がそんなバカなこといったんです? 確かに私は出来心でしたたった一度の浮気をネタに耳袋から脅迫を受けていました。だけどそんなことで人殺しなんてしませんよ」

高村「今日の午後三時、どちらにいました?」
廣木「三時ですか、その時間なら六本木にいました。六本木の映画館で映画を見て、終わったのがちょうど三時ごろじゃなかったかなぁ」
雷「映画はおひとりで?」
廣木「ええ」
高村「だとしたらアリバイは証明できませんね」
廣木「ああ、ちょっと待ってください、そう言えば、映画を見た後、近くの喫茶店に入って、そこで三原を見かけました。大学時代の友人です。綺麗な女性と一緒だったから、邪魔をしたらいけないと思って声は掛けませんでしたけど」
雷「三原さんはあなたに気付いたんですか」
廣木「いやぁ、気付きませんでした」
二人は三原と言う人物に裏を取るが、やはり、その時間に廣木の言う喫茶店にいたことが判明、あっさりアリバイが成立してしまう。
なお、三原と言うのも、三原光尋監督から来ているのである。

高村「犯行現場の成城から六本木まで車で30分以上かかるから、犯行時間が三時だとすると、三時過ぎに六本木にいるってことは、こりゃ全く不可能だよ」

雷「でも、なんか腑に落ちないですよね、三原さんが六本木で女友達と出会ったのも偶然、その三原さんたちを廣木さんが喫茶店で見たのも偶然、偶然が多過ぎると思いませんか?」
高村「ああ、確かにな」
雷「それに廣木さん本人の姿は六本木で誰にも見られていないんですよ」
高村「だよね」
雷「うーん」
いつも変な事件ばかり手掛けている二人、こうやって普通(?)の事件に遭遇して、普通に容疑者にアリバイが成立してしまうと、たちまち手も足も出なくなってしまうのだ。

高村「そうか、そう言うことか……」
と、不意に、高村がカメラに急接近すると、名探偵っぽい台詞を口にする。
雷「わかっちゃったんですか、高村さん?」
高村「うん、分かっちゃったからね、歌うよ」 雷「?」
だが、スタッフも、普通の事件を普通に主人公が解決するような退屈な展開には耐えられない体になっていて、

高村が指を鳴らすと、いきなり部屋が薄暗くなって、ミラーボールが乱舞するディスコティックな空間に早変わりし、
高村「僕に解けない謎はない、だって僕はバーボン刑事~♪」
と、高村、スタンドマイクに向かって自分のテーマソングを熱唱し始めるのであった。
ケータイ刑事を一度も見たことのない人に、このシーンを見せたら、一体どんな感想を抱くか、興味のあるところである。
しかし、実際、今回のストーリーは索漠としていて面白味に欠け、この唐突な……と言うか、強引にねじ込んだようなお遊びシーンがなければ、自分もスルーしていたことだろう。

最初は戸惑っていた雷も、すぐノリノリになって一緒に踊り始め、

高村「ボンボンボン、バーボーン刑事(デカ)!」
雷「刑事(デカ)!」
高村に合わせて元気良くコール。
このポーズと表情、可愛過ぎ……。

さらに、歌い終わった高村が、「ケータイ刑事・ザ・ムービー、オリジナルサウンドトラックアルバム、さー、テレビの前の君ぃ、CDショップへレッツゴー!」と、番組CDの宣伝までするやりたい放題。
何事もなかったように元の刑事部屋になり、雷が、「で、その答えは?」

高村「廣木隆二は双子だった」
雷「双子?」
高村「廣木にはそっくりな双子がいて、ひとりが成城で犯行を行ってる間、もうひとりは六本木の喫茶店にいた、それ以外考えられない」
その挙句に高村が自信たっぷりに提示したのは、「双子」と言う、縄文時代のトリックだった。
高村「以上、証明終了、QED」
雷「あ、イトコのパクリ! って、多分違うと思いますよ、だってそれだったら、六本木の喫茶店でもうひとりの廣木さんは三原さんに必ず声を掛けた筈です、自分がそこにいたという確実な証拠が欲しい訳ですから」
高村「そうか、そうだよな」
優しい雷は、高村のしょうもない推理も黙殺することなく、丁寧に説明した上で却下してくれる。

雷「こんなのはどうですか、ビデオカメラ撮影説」
高村「ビデオ撮影?」
雷「はい、ビデオカメラを喫茶店の目立たないどこかに設置して隠し撮りをしたんです、そして犯行のあと、カメラを回収した」
高村「そしたらたまたま三原さんとその女性が写ってたってこと?」
雷「時刻も画像に記録できますから、撮影された時間も分かります」
雷はビデオカメラを利用したのではないかと言う高村よりは現実的な推理をするが、それには、犯行時間に、偶然知り合いが映っていたと言うのは話が出来過ぎていると言う弱点があった。
だが、そこへ当の廣木がやって来て、雷たちの推理を根底からひっくり返してしまう。

廣木「映画の終わった後、パンフレットを買ったんですよ、その領収書です。これを貰う時、店員さんがこの『廣』って言う字を何度も間違えたんです。いくら言っても簡単な方の『広』を書いちゃって」
その店員とちょっとした悶着になったので、自分のことを良く覚えている筈だと言うのだ。
二人は早速映画館へ足を運び、その店員から話を聞くが、廣木の話は事実だった。
高村「これで廣木のアリバイは完璧だ」
雷「ええ……でも、完璧になったばっかりに矛盾が生じました。私、ずっと気になっていたことがひとつだけあるんです」
高村「どういうこと?」
雷「高村さんの言うとおりですよ、ひとりの人間が同じ時刻に別々にいることは出来ない」
雷は、詳しいことは言わず、もう一度廣木に会って真相を明らかにしようと言うが、そこへ、その廣木の毒殺死体が駐車場の車の中から発見されたと言う知らせが入る。

高村「これ、自殺じゃないよね」
柴田「もう逃げられないと思って観念したんじゃないですか」
高村「いや、ちょっと待って、観念って言うか、廣木のアリバイは完璧だった。このタイミングで自殺するなんて考えられない」
雷「私もそう思います。絶対変ですよ、自殺するなんて」
その車のトランクから、青いレインパーカーと数本のビデオテープが出て来る。
ビデオテープにはやはり、喫茶店の店内の様子が録画されていた。
高村「君のビデオ撮影説は正解だったかも知れないよ」
雷「だけど、変だと思いませんか、この映像、時間が記録されていません、これじゃ三原さんたちが映っていたとしてもそれが何時なのか分からないじゃないですか」
と、雷は疑問点を口にするのだが、廣木のアリバイは、既に映画館の店員がはっきり証明しているのだから、そもそもそんなビデオ自体必要ないのでは?
ついでに、犯人がそんなビデオをわざわざ残しておく訳がない。
高村、ついでに他のテープもすべてチェックしようとするが、

雷「わかった。たぷん、どのテープを見ても同じだと思いますよ、そしてどのテープにも三原さんは映っていません」
雷、あっさり真相に辿り着く。
これも、なんで真相に気付いたのか、肝心の描写が抜けているのが物足りない。
特に盛り上がりもないまま、ここから解決編となる。

川のそばで、深刻な顔で数枚の写真を見詰めている圭子。

それには、彼女自身の浮気写真が映っているのだが、さりげなく、ラブホの前で浮気相手にお姫様抱っこされて喜んでる圭子と言う、
「そんな奴いねえよ」的な写真が含まれているのが、このドラマの油断のならないところなのである。
圭子、写真を封筒に入れてライターで火をつけようとするが、そこへ雷のお仕置きが落ちてくる。
ま、だいたい、そんな写真を真っ昼間の屋外で処分しようとする奴もいないと思うんだけどね。

圭子「なんなのよ、一体?」
はい、みなさま、左手に見えますのが、飛び切り可愛い女子高生の「ひかがみ」です。
そして右手に見えますのが、四つん這いになって胸元が見えそうになっている人妻です。
寿命がますます伸びますなぁ。

雷「廣木さんを自殺に見せかけて殺害したのは、あなたですね」
圭子「何をバカなこと言ってるの?」
雷「廣木さんだけじゃありません、最初に殺された耳袋ノブヒコさんも、あなたの仕業です。あなたは廣木さんと共謀して耳袋さんを殺害した。耳袋さんを殺害した後、あなたは用意していたレインパーカーを着て表に飛び出した。犯人がレインパーカーを着た男性であることを通りの人たちに見せる為に……そしてあなた自身も犯人が男の人であることを証言する。そうすることで誰もが犯人は男性だと思う、そのあと、あなたは容疑の目を廣木さんに向けさせた」

雷「一方、廣木さんは自分自身のアリバイを作る為、六本木の映画館にいた。自分に疑惑がかかっても完璧なアリバイがあれば、いずれ捜査線上から消える、そして最後にあなたがレインパーカーの男性は見間違いだったと証言を翻せば、捜査は混乱したまま振り出しに戻る。しかしその時にはもう、自分たちに容疑の目が向けられることはない。それがあなたたちの計画だったんですよね」
圭子「……」
雷「ところが、六本木の喫茶店で偶然三原さんを見掛けた廣木さんは、そのことを先に利用しようと考えた。廣木さんはあなたとの殺人計画を、より複雑なものにしようとしたんです。しかし、そうすることによって廣木さんはひとつミスを犯した」
圭子「ミス?」
雷は、廣木の「はっ、一体どこの女がそんなバカなこといったんです?」と言う台詞を引いて、
雷「どうして、目撃証言をした人が女の人って分かったんでしょう、私たちは一言も女性だなんて言わなかったのに」

高村「そうかー、ずっと気になってたことって、それだったんだー」
と、ここで、高村が後ろの石段から河原に降りて来る。
雷「違いますよ、高村さん」
高村「え、じゃあ、廣木が犯したミスってのは」
雷「わざと証言者を女の人って言ったことです」
高村「わざと?」
雷「ええ、確かにそうすれば、自分に向けられた疑惑は深まり、捜査をより混乱させることが出来る。でもその一言が、逆に事件を解明する鍵になりました。本当に廣木さんが六本木にいたとすれば、目撃証言をした人が女の人だと分かる筈がない、これは一体どう言うことか、答えはこうです。廣木さんはあらかじめ、自分が犯人だと証言する人間が女の人であることを知っていた、つまりあなたと廣木さんは共犯なんです。ところがその廣木さんが自殺に見せかけて殺された」
雷は、レインパーカーもビデオテープも、廣木に罪を着せる為の犯人のトリックだったと言い、
雷「そんなことが出来るのは、共犯者の豊島圭子さん、あなたしかいない」
しかし、廣木の「女」と言う一言だけで、圭子が共犯者→だから圭子が廣木を殺したと、そこまで決め付けるのはどうかと思うよ。
単に(目撃者が女だと聞いたと)思い違いをすることだってあるだろうし……。
圭子も、「そんなの全部推測じゃない、証拠があるの?」と反撃するが、雷はあのレインパーカーを取り出し、
雷「あなたはこれを着て、殺人犯に成りすましたんです。ちょうどこの部分に髪の毛が付着していました。DNA鑑定の結果、あなたの毛髪だと判明したんです」
……って、いつ、圭子のDNAを採取してそれと比較したんだよ? 違法捜査じゃないの?
それ以前に、それが推理の決め手じゃあ、あまりにつまらないよね。
もっとも、圭子はそれであっさり観念して、自分も廣木のように耳袋に強請られていたこと、廣木と組んで犯行に及んだこと、その後、廣木に交際を迫られたので殺したことなどを、すらすら自供する。

圭子「男なんてみんな同じ、駄目よ、男なんて信用しちゃ」
雷「……」
圭子「泣くことになるのはいつも女なんだから」

雷「……」
無論、まだ雷に圭子の言葉が理解できる筈もなく、ただ、悲しそうな目で高村に連行される圭子の後ろ姿を見送るだけであった。
以上、ストーリーは平凡な癖に、解決編の台詞が妙に長くて書くのがしんどいエピソードだった。
最後に他の疑問点を書いておく。
まず、廣木は、浮気がバレたら身の破滅だというのに、(圭子が)耳袋の事務所にその密会写真を置いたままにしていたと言うのは、おかしいのではないだろうか?
警察が、その写真を廣木の奥さんに見せたら一発でアウトじゃないか。
それと、どうして圭子は、お誂え向きのビデオテープを用意できたのか?
雷のビデオ撮影説は、あくまで雷と高村の会話の中でしか出て来ない推理なのだから、それをどうやって圭子が知ることが出来たのか?
第一、繰り返すようだが、映画館の店員が廣木のアリバイをしっかり証言しているのだから、そんなビデオは最初から必要なかった。必要なかったものを置いたところで、偽装だとバレてしまうのは分かりきっているではないか。
犯人ではない、と言うより、絶対犯行を行えない廣木が、必要のないビデオとレインパーカーをトランクに入れた状態で死んでいるのを見て、警察が「犯人は廣木で、観念して自殺したのだ」と思ってくれると、圭子は本気で考えていたのだろうか?
だとすれば、かなりのアホである。
そう言えば、誰かが「もう逃げられないと思って観念したんじゃないんですか」って言ってたなぁ。
なお、犯人が複数いたと言うのは、いわばミステリーにおけるオールマイティーな手段で、それを用いればどんな不可解なトリックでも可能になってしまうのだから、作る側も、その共犯関係を視聴者に悟られぬよう、クリスティーの「スタイルズ」や、坂口安吾の「不連続」のように、最大限の趣向を凝らす必要があると思うのだが、今回のエピソードではその辺の配慮がほとんど見られないのが遺憾である。
そもそも、浮気写真を回収するだけなら、無理に耳袋を殺さずとも、事務所に押し入って盗み出せば済むことだったのではないか?
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