第28回「魂の輝くままに」(1985年10月29日)
いよいよ、いよいよ、最終回である。
これを書いているのは2月下旬だが、第1話を書いたのが2018年の3月下旬なので、全話書き上げるのに約2年、正確には23ヶ月ほど掛かった計算になる。
まあ、ボリュームと内容から考えれば、我ながらまずまずのペースで来れたと思う。
とにかく、このエピソードさえ書き上げれば、このつらく苦しいレビューから解放されるのだ。頑張ろう。
ただ、最初に言っておくと、この最終回、あんまり面白くない。
詳細は後述するが、色々と肝心なことが放置されたまま、路男の死でなし崩し的に話が終わってしまったような印象で、大いに不満である。
もっとも、管理人の狭い視聴範囲から言うと、大映ドラマって、途中までは面白いんだけど、終盤になればなるほどつまらなくなる傾向があるので、あえて驚くには値しないかもしれない。
「スクールウォーズ」しかり、「不良少女」しかり、「スタア誕生」しかり、「アリエスの乙女たち」しかり……そう言えば、最近やっと見終わった「天使のアッパーカット」も、登場人物の死で強引に問題が解決されると言う点で、本作に通じるものがある。

さて、前回のラスト、路男の命があとわずかと知って路男への秘めていた愛を奔出させた千鶴子が、いつもの溜まり場で路男と二人きり、それも、下着姿で抱き合い、しかも、ドアのすぐ向こうに、よりによって雅人が立っているという、心臓バクバクの状況の続きから。
ただ、雅人がドアをその眼光で貫かんとせんばかりに凝視しているだけでは話が進まないので、
耐子「千鶴子お姉さん、いるの? 雅人さんと一緒に迎えに来たのよ」
と、耐子が雅人の代わりに呼びかけることで、やっと止まっていた時間が動き出す。

千鶴子「……」
だが、既に自分の中で答えを出しているのか、千鶴子の様子に動揺は見られない。
で、てっきり、雅人が入ってきて修羅場になるのかと思ったら、

一瞬でドレスを着た千鶴子が、自らドアを開けて出て来たので、思わず膝カックンとなる管理人であった。

雅人「……」
もっとも、雅人はとっくの昔に千鶴子の「不貞」を見抜いていたのか、一言も口を利かず、物凄い目つきで、ぽろぽろ泣いている千鶴子を睨み据える。
まあ、実際、結局この一週間の間に二人の間に何があったのか、具体的なことは全然説明されないままなんだよね。下着姿の千鶴子と抱き合っていただけなのか、それとも、遂に一線を超えてしまったのか……
あるいは、スタッフとしてはもっと直截的な描写にしたかったのだが、伊藤さんが……と言うより番組そのものがラブシーンNGだったので、こんな蛇の生殺し的な描写にするしかなかったと言うことか?
要するに、千鶴子が下着姿になったと言うことは、現実にチョメチョメが行われたと言うことの暗示なのだろうか?
そうでないと、この後の雅人の火の吹くような怒りが説明できないから、そうなんだろうなぁ。
それはさておき、雅人は千鶴子の体を押しのけると、店の中に踏み込む。

階段の上にはしのぶたちの姿もあったが、前回のラストでは雅人には同行してない筈なんだけどね。
雅人、片頬をひくつかせながら、立ち上がった路男に近寄ると、
雅人「雅人パンチ!」 いきなり必殺の「雅人パンチ」を繰り出す。
その拳速は凄まじく、路男は自分が殴られたことすら分からず、一瞬の間を置いてから、

豪快にぶっ飛ばされる。

千鶴子「雅人さん、殴るなら私を殴って、私はあなたを裏切ったわ、これまで私がどんなことをしても私を見捨てず、ずっと支えてくれたあなたを裏切ってしまったわ」
雅人「……」
千鶴子が二人の間に割って入り、その体で雅人の怒りを受け止めようとする。
でも、あまりにストーリーがめまぐるしいので二人ともすっかり忘れているようだが、かつては雅人の方が千鶴子を裏切る形でしのぶと一方的に婚約したこともあったわけで、
「どんなことをしても私を見捨てず、ずっと支えてくれた」と言うのは、事実と異なると思うんだけどね。
それはともかく、千鶴子がはっきり「裏切った」と言ってるからには、やっぱり二人の肉体は結ばれてしまったのだろうか。うーむ、あまり想像したくない図だが。

千鶴子「雅人さん、私を好きなだけ殴って!」
雅人「……」
千鶴子「私は路男さんを放っておけなかったの、ひとりに出来なかったの……」
雅人「……」
可愛いゴジラ顔で訴える千鶴子であったが、路男の命があと僅かとは知らない雅人たちには、単なる千鶴子の気まぐれとしか思えず、
耐子「あなたは卑怯よ、雅人さんは一生あなたに寄り添って、あなたの心の支えになろうと決めてた人なのよ、その雅人さんを裏切るなんて娼婦も同然じゃない!」
大人しい耐子まで、千鶴子の前に進み出ると、激しく千鶴子を非難し、罵倒する。
しかし、浮気したからって、
「娼婦も同然」って、いくらなんでも言い過ぎだよね。
まあ、大映ドラマ独特の倫理観を一言で言い表した台詞ではあるが。
しのぶ「タエちゃん、やめなさい」
耐子「やめないわ、あなたは人の信頼や思いやりを平気で裏切る人なのね。感情の赴くままに何でもやって、いつもいつも許されると思ってるの?」
千鶴子「……」
しのぶ、気が付いたら、耐子より目立たない存在に落ちぶれちゃってたなぁ。
終始無言だった雅人が、腹の底から搾り出すような声で、
雅人「千鶴ちゃん、僕は君を信じていた。それなのに、どうしてこんなバカなことをしたんだ? 君は田辺が好きだったのか? 好きだったのか?」
千鶴子「……」
雅人「田辺、俺はお前を許さん、千鶴ちゃん、君も許さん」
今まで見せたことのないような怖い顔で宣言すると、そのまま部屋を出て行く。
耐子「お姉さん、こうなるのも運命だなんて言わせないわ、それで許されると思ったら大きな間違いよ!」 耐子も、我慢ならないと言うようにもう一度叫んでから、その場から走り去る。
この台詞、ちょっと変えてこのドラマの脚本家に叩きつけてやりたくなる。
耐子「江連さん、こうなるのも運命だなんて言わせないわ、それで視聴者が納得すると思ったら大きな間違いよ! あと、話の展開に困ったら人殺すの、いい加減にやめてっ!」 それはさておき、一人取り残されたしのぶは、
しのぶ(私も台詞欲しい……) じゃなくて、
しのぶ「千鶴子さん……」
千鶴子「しのぶさん、放っておけなかったの」
しのぶだけは千鶴子に同情的な様子であったが、悲しそうな顔で一礼すると、踵を返して部屋を出て行くのだった。
路男「しのぶ、雅人のところへ行ってくれ……
殴られても蹴られても、あんたは雅人のそばについていればいいんだっ」
二人きりになると、DV夫のところへ帰るようすすめる無責任な警官のようなことを言って、千鶴子を部屋から閉め出す路男であった。
……
そう言えば、送別会は? たくさんのゲストを招いておきながら、肝心の主役が会場を抜け出して恋人とイチャイチャしてたなんて、それこそ
「人の信頼や思いやりを平気で裏切る」行為と言えるだろうが、劇中では一切言及されることなく、「なかったこと」にされてしまう。
「なかったこと」と言えば、あれだけ千鶴子が熱心に頼み込んで叶えてもらったアメリカ留学の話も、綺麗さっぱり空の彼方に吹っ飛んでしまいましたとさ!
ま、そんな些細なことはさておき、翌日、千鶴子は両親に、重大な決意を告げる。
なんと、家を出て、路男と同棲するというのだ。
すっかり物分りいい両親になった大丸夫妻であったが、さすがにこれには色を成して反対する。

剛造「そりゃいかん、雅人の立場を考えてみろ」
則子「あなた、そんな身勝手なことが許されると思ってるの?」
千鶴子「全ては私の身勝手です、許されることではないことは分かっています、でも私は、誰が好きとか嫌いとかではなくて、路男さんのそばにいて一生彼の力になろうって決めてしまったんです」
千鶴子、路男の余命のことは一切口にせず、ひたすら自分の決意だけを語る。
しかし、「好きとか嫌いではなく」って言うけど、誰がどう考えても路男のことが好きだから一緒に暮らそうとしているのは明白なので、逃げ口上のようにも聞こえる。
どうでもいいが、三人のこの立ち位置、団子三兄弟のようでちょっと笑える。
家族が話し合うのに、こんなソーラーレイシステムみたいな(?)ポジショニングで話す奴ぁいないよね。
剛造「雅人はどうするんだ? 今までずーっとお前を支えてきた……」
千鶴子「……」
剛造「片腕をなくした田辺君に同情するお前の気持ちは分からんでもない、だが、一生の問題を、その時、その時の感情で、軽率に決めちゃならんぞ」
千鶴子「私は路男さんと暮らしていきます」
剛造「お前は、この大丸の家を捨てると言うのか?」
剛造は、もし路男と同棲するのなら、二度とこの家の敷居をまたいではならんと、今までもう五、六回言ったような最後通牒を突きつけるが、それでも千鶴子の決心は動かなかった。

早くも荷物をまとめて自分の部屋から出てきた千鶴子、ふと、雅人の部屋に目をやるが、千鶴子が家を出て行こうとしているのを知っているであろうに、千鶴子を拒絶するかのように、そのドアは冷たく閉ざされたままであった。

雅人「……」
雅人はあれ以来、部屋にこもりっきりで、千鶴子とは口も利かない状態が続いているのだ。
千鶴子はそのまま階段を降りて玄関に向かおうとするが、
則子「千鶴子さん、これ、お父様が……あなたの留学に掛かるはずだったお金よ」
なんだかんだ言ってもね、そこは親である。
則子は、剛造から託された分厚い袱紗包みを千鶴子に差し出す。

千鶴子「……」
則子「お父様のお言付けがあるわ、魂の輝くままに……」
千鶴子「魂の輝くままに……
どういう意味ですか?」
則子「あなたー、どういう意味ですかってー」
剛造「聞き返すな、そんなことっ!」 嘘である。
千鶴子は、背中を向けて立っている剛造の姿に涙しながら、金を受け取って家を出て行くのだった。

OP後、千鶴子が路男の住まいにあらわれる。
千鶴子「今日から私もここに住むわ」
路男「待てよ、どういうことだ?」
千鶴子「家を出て来たの、あなたとここに住むためによ」
路男「俺ならもう大丈夫だと言ったはずだ」
千鶴子「路男さん、私は思い付きとか気まぐれでこんな気になったんじゃないわ、私の心の中にはずっとあなたが住み着いていたの、いつも隠れてるんだけど、ときたまひょっこり顔を出して、
『オイ鬼太郎!』」
間違えました。
千鶴子「……私を怖い目で睨みつけるの、『千鶴子、ハンパな生き方は俺がゆるさねえ』、そういって、私を脅かすの」
路男(俺、ほとんど妖怪じゃねえか……) 現実の世界では絶対聞けないような、まわりくどい「愛の告白」をすると、

千鶴子「今度は私があなたを睨みつける番よ、
『路男、ハンパな生き方は私が許さないよ。トランペットを握るんだ。片腕をなくしたぐらいで泣きを入れるんじゃないよ。そんな男は願い下げだね!』」
まるっきりモナリザが言ってるようにしか聞こえない口調で、路男に発破をかける。
「不良少女」では、逆に朝男がモナリザを励ます役だったけどね。
路男、不貞腐れた態度でトランペットを掴み、なんとか吹こうとするが、すぐ諦めてビリヤード台に投げ出す。
路男「無茶だ、片腕じゃ勝負になんねえよ」
千鶴子「泣き言いうんじゃないよ、両手をなくして口に筆を咥えて絵を書く人もいるわ、本を読みながら、足でテレビのリモコンを操作する人もいるわ!」
路男(それはただの物臭な奴だろうが……) 間違えました。
千鶴子「泣き言いうんじゃないよ、両手をなくして口に筆を咥えて絵を書く人もいるわ、足でタイプを打つ人だっているわ! 苦しみや悲しみを生きる情熱に変えた人はたくさんいるの、その人たちに恥ずかしいと思わないの?」
路男「いや、会ったことないんで……」 嘘はさておき、千鶴子に言われて再びペットを手に取る路男だったが、一朝一夕で吹けるようになるはずがない。

千鶴子「焦ってはダメ、時間はたっぷりあるわ。ゆっくり練習したらいいの……あなたなら出来るわ。あなたは不屈の男なの!
あなたには優子さんが憑いてるわ、良さんが憑いてるわ、私も一生……あなたとともに生きていくわ」
路男「千鶴子……」
優子&良(ワシらは悪霊か!) 路男、感極まったような目で千鶴子を見詰め、片腕でその体を抱き寄せる。
一部の朝男ファンには絶対承服できない展開かもしれないが、朝男だったら、絶対こんな申し出を受けることはないのだと思って怒りを堪えて頂きたい。

こうして、路男と千鶴子の、楽しくもささやかな同棲生活が始まり、その様子が、スケッチ&イメージ風に描かれる。
ただ、どうにももどかしいのは、血気盛んな若い男女がひとつ屋根の下……いや、文字通りひとつの部屋で寝泊りすることになったというのに、避けて通れないセックスの問題について、一切触れられずに話が進められていくことである。
いくら番組が露骨なラブシーンを忌避したいからと言って、そこをスルーしてしまうのは、子供向けドラマならいざ知らず、ティーン向けドラマとしては不誠実な態度と言わざるをえない。
別に、伊藤さんの下着姿やヌードが見たいから言ってるわけではない(力説)
それに、映像を見る限り、
「あたい、路男のお嫁さんになりに来たの」と言うより、家事手伝いに来ているようにしか見えないのだった。
まあ、この点については、今更どうこういったところで仕方ないのでこれ以上は触れまい。
もっとも、異様に潔癖症揃いの大映ドラマのことだから、正式に結婚するまではエッチはダメということで、ほんとに肉体関係レスの同棲生活だったと言うこともありえなくはないと思う。
そんな、一見華やかな二人の姿に続いて、対照的に、バーのカウンターで酒カッ食らっている雅人の落ちぶれた様子が映し出される。

雅人「しのぶさん、僕のことなら心配しないで結構、僕はそんな価値のない男だ。哀れなピエロだ」
しのぶ「そんな悲しいこと言わないでください、雅人さんらしくありま温泉」
雅人「えっ?」
しのぶ「えっ?」
嘘はさておき、そばにしのぶがいて、しきりに雅人を励ますが、
雅人「僕は今まで感情は知性でコントロールできるもんだと信じてたし、
そう訓練してきたつもりだ。それなのに、自分の気持ちやプライドをペッチャンコにされるとどうしていいか分からない」
しのぶ「雅人さん……」
どうでもいいが、「訓練してきた」って鶴見さんが言うと、「高校聖夫婦」で、伊藤麻衣子さんと正式に結婚して同棲しながら、ずーっとエッチしないで耐えてきたことを指すのかと思ってしまう。
雅人「千鶴ちゃんの心の支えになると息巻いていた僕が、実は千鶴ちゃんを心の支えに生きてきたんだ。そのことがようく分かった」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと、ふらりと立ち上がって、力尽くでも千鶴子を取り戻すと言い出すが、しのぶがそれを止める。

しのぶ「やめて、雅人さんのつらい気持ちは良く分かります、でも、千鶴子さんももっとつらい筈です」
雅人(そうかなぁ?) ボールをぶつけられたほうより、ぶつけたほうがもっと痛いなどと、野球解説者が口にするクソみたいな論法で説得しようとするが、雅人じゃなくても首を傾げたくなるだろう。
しのぶが言いたかったのは、千鶴子も心の中で雅人の許しを求めていると言うことなのだが、それもなんか違うような気がする。
公平に言って、何の落ち度もない恋人を捨てて他の男に走った女性が、元の男に許されることを期待すると言うのは、厚かましいにもほどがあると言うものだろう。
まあ、あくまでしのぶの憶測であって、千鶴子本人が期待していることではないのだが。
しのぶ「雅人さん、女は同情や哀れみで、生涯の伴侶を決めたりしないわ、千鶴子さんはほんとうに路男さんを愛してたんだと思います。だから非難を覚悟で愛に殉じたんだと思います。私には千鶴子さんを責めることは出来ません。千鶴子さんの勇気が眩しすぎるくらいなんです」
雅人「しのぶさん、つらいこと言ってくれるよ」
逆に千鶴子のことを褒め称えるしのぶの言葉に、雅人は一言ぽつりとつぶやくと、力ない足取りで店を出て行く。
しのぶにしてみたら、恋のライバルが自分から消えてくれたのだから、千鶴子に対して、いくら感謝しても感謝したりない気持ちになっても不思議はない。
しかし、しのぶの推測が当たっているなら、さっきの千鶴子の「好きとか嫌いではなく」と言う台詞が、完全な虚偽だったことになるなぁ。
まあ、同じエピソードの中で言うことがコロコロ変わるどころか、同じ台詞の中で矛盾したことを言うことさえある大映ドラマの登場人物の片言隻句にいちいち目くじらを立てていては捕鯨船がいくらあっても足りないのである。

続いて、河原で寄り添うようにペットの練習をしている二人の姿。
なかなか上手く吹けずに苛立つ路男だったが、
千鶴子「今度は私のためにだけ音を出して……私は耳を澄ませて聞いているわ」
路男「今度はあんたのためだけに音を出すぜっ」
千鶴子の言葉に立ち上がって、もう一度吹き始める。
……
なんか、路男、千鶴子の言いなりみたいで、ちょっと情けない。
そもそも、コイツ、本気でトランペッターになりたいと思っているのだろうか?
結局、それも、弟の後釜を探していた優子に見出され、無理矢理ペット吹きにさせられただけなんじゃないかと言う気がする。
一方、しのぶは、安アパートで静子と耐子と一緒に色恋沙汰とは無縁の地味な生活を送っていた。

耐子「お姉ちゃん、雅人さんと上手く行ってる?」
勉強中、急に姉の方を振り向いた耐子の横顔が綺麗なので貼りました。
耐子「雅人さんもお姉ちゃんも好きだってひとこと言えば済むのに」
しのぶ「そんな簡単にはいかないわよ」
耐子「恋は単純明快なのが一番よ」
恋愛経験もないのにわかったようなことを言う耐子であったが、
しのぶ「雅人さんが千鶴子さんを許さない限り、私と雅人さんの間には何も始まらないわ」
耐子「お姉ちゃん……」
しのぶ「私ねえ、千鶴子さんも私もまだ18年前の呪いから完全に自由になってないと思うの。まだひとつ、最後の悪夢の鎖が私たちを締め付けてるような気がするの」
しのぶは、その鎖も、雅人が千鶴子を許すといえば切れると言うのだが、正直、18年前の事件と、今回の恋愛問題とは、全然別のものだと思うんだけどね。
この辺は、「乳姉妹」と言うタイトルのドラマなのに、終盤になってしのぶの存在が霞み、いつの間にか千鶴子と路男の悲恋物語になってしまったことへのスタッフの忸怩たる気持ちが、しのぶの口を借りて視聴者にエクスキューズしているようにも聞こえる。
そんなある日、静子が、実の娘である千鶴子のところへ、明るい笑顔と差し入れの袋を引っさげて会いに来る。

千鶴子「お母さん、私……」
静子「何も言わなくて良いのよ、あなたが決めたことだから……あなたは路男さんの心の支えになってあげれば良いの」
さすがに苦労人の静子は、余計なことは何も言わず、ただ千鶴子を元気付けるのだった。
千鶴子「私、雅人さんのことを思うとつらいんです」
実の母親を前に、思わず本音を漏らす千鶴子。
静子も、やや容(かたち)を改め、

静子「あなたは心のどこかでしのぶのために雅人さん諦めようと?」
千鶴子「お母さん、私は雅人さんが心の中でしのぶさんを愛してることを知ってました。しのぶさんが私のために雅人さんを諦めようとしてたことも知ってました。とってもつらかったし、私が身を引くべきだって、いつも思ってました。でも、私と路男さんがこうなったのはそれとは違うんです!」
千鶴子の涙ながらの叫びに、静子は何度も頷き、

静子「路男さんの孤独があなたの魂を揺さぶってしまったのね。しのぶさんがそう言ってましたよ」
千鶴子「しのぶさんが?」
静子「あの子は今、誰よりもあなたの心を理解してるわ、まるで双子の兄弟のようにあなたの心を深ーく理解しているわ。母さん、こんな嬉しいことはないわ、私の乳を吸って育ってあなたとしのぶさんが、肉親以上に思いやってくれてるんだもの」
なんとなく取ってつけたような感じは否めないが、「乳姉妹」の「乳」担当の静子のこの言葉で、しのぶが言っていた「18年前の呪い」から、二人はやっと解放されたと言うことなのだろう。
千鶴子「お母さん、しのぶさんに、雅人さんの心の支えになってくれるよう言って下さい」
静子「雅人さんがあなたを許す日が必ず来ると母さん、信じてるわ。あなたと路男さん、しのぶさんと雅人さん、いつかきっとひとつの光の中ですべてを許しあって本当の友人になる時が必ず来ると思う」
千鶴子「お母さん、路男さんは……」
静子「路男さんは、なんなの?」
千鶴子、思わず路男の命があと僅かだということを打ち明けてしまいそうになるが、なんとか堪えて誤魔化すのだった。
……
それにしても、冷静に考えたら、なんで白川は千鶴子に
だけ路男の病状を説明したのだろう? 白川が路男に肉親がいないと思い込んでいたのなら、千鶴子だけじゃなく、少なくとも雅人には話すのが普通ではないか。
結果的に、実の母親の育代は知らないのに、他人の千鶴子は余命を知っていると言う、不自然な状況になっているわけだが、無論、そうしないとストーリーが盛り上がらないからなのだが……
ついでに言うと、白川が前回の告知以降、まったく姿を見せなくなったのは、撮影の都合があるとはいえ、あまりに薄情と言うか、医者としてあるまじき態度のように見える。
どうせもう助からないからほっとけと言うことなのかもしれないが、
「腕を切ったら助かると思ったら、助かりませんでした。てへっ!」で済ませるには、あまりにひどい医療ミス……とまでは行かないが、重大な判断ミスであったことは明らかなのだから、せめて退院後の路男の様子を見に来るとか、最低限の誠意は見せて欲しかったところである。
後編に続く。
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