「トイレの花子さん」 は、1995年7月1日に公開された劇場用作品である。
監督は松岡錠司氏。
いわゆる「学校の怪談」の定番「トイレの花子さん」を題材にしたホラー映画で、まぁ、別にヒットもしなかった(かどうかは知らんが)マイナーな作品なのだが、ホラー映画としてより、傷つき、壊れやすく、時に残酷な子供たちの感情や人間模様を繊細なタッチで描いた秀逸な学園(児童?)ドラマとして、管理人が高く評価している作品なのである。
で、もう随分昔の話だが、引っ越しする前のブログでも取り上げたことがあるのだが、当時のことで内容的にはごく簡単なもので、以前から、もっとしっかりしたレビューを書きたいと思っていたのだが、なにしろ、長編映画のレビューは骨が折れるので、つい億劫になってなかなか着手できなかった次第である。
さて、舞台は都内のとある小学校。
折りしも、その周辺の小学校では、頻々と残虐な少女誘拐殺害事件が起きており、子供たちは怖さ半分、興味半分で、寄るとさわるとその話題で盛り上がっていた。

由紀「どうする、今度はうちの学校かもよ~」
子供たち「まさか」
由紀「わかんないよ、でも、こういうのって面白いよね」
3年生のとあるクラスでも、由紀と言う、クラスのリーダー的な女子が中心になって、その殺人鬼の話題に熱中している。
由紀を演じるのは、伊牟田麻矢さん。
そう、後の浜丘麻矢さんである。
やがて、坂本なつみと言うショートカットで男の子みたいな女の子が入ってきて、自分の席に向かうが、

なつみ「……」
机には、チョークでこんな悪戯書きがされていた。
管理人だったら、とりあえず犯人を見付け出してその机を投げ付けるか、そいつの家に放火してやるところだが、おとなしいなつみは、いつものことなので慣れているのか、黙って手袋をした手で拭い去るのだった。
あ、ちなみに、公開は7月だが、劇中は冬場の設定である。
なつみ、別にいじめられっ子というほどではないが、由紀に目を付けられており、しょっちゅうこんな嫌がらせを受けているのだった。
無論、その悪戯書きも、由紀の仕業だった。

由紀「なつみ、こっちおいでよ、今からこっくりさんやるんだ」
なつみ「でも……」
由紀「やるの」
由紀たちは、犯人は誰か、そして次に殺されるのは誰か、こっくりさんで占ってみようと言うことになり、由紀は強引になつみも参加させる。
五十音表が書かれた紙の上に5円玉を置き、それを選ばれた三人がひとさし指で押さえ、「こっくりさん、こっくりさん……」と呼びかけて、あれこれ質問をする。
その結果、犯人は何故か「トイレの花子さん」であり、次の標的は「なつみ」と言う女の子、事件が起こるのは明日と言うお告げが下る。
純真ななつみは、それが由紀の仕掛けた悪戯などとは夢にも思わず、本当に自分が殺されるのではないかと怯える。
で、給食の時間になると、形式上の主役である、兄の拓也の教室へ行く。

加奈子「拓也君」
拓也「なに?」
6年生の拓也は、給食当番で忙しく働いていたが、なつみとも顔見知りである加奈子と言う女の子がなつみに気付いて、拓也に教えてくれる。
給食当番の白衣が可愛い加奈子を演じるのは、鈴木夕佳さん。
拓也、てっきり、なつみが給食費でも忘れたのかと、すぐ廊下に出て財布から金を出すが、なつみは首を横に振り、
なつみ「お兄ちゃん、あのね……」
拓也「この格好見ろよ、忙しいのわかるだろ? 帰ってから聞いてやるから」
給食当番で「俺忙しいの」アピールするのが、いかにも昔の小学生っぽくて微笑ましい。
今も、やっぱり給食当番とかってあるのかなぁ?
なつみ「待ってよ、今度は私が狙われるんだって」
拓也「誰に?」
なつみ「トイレの花子さん」
拓也「誰がそんなこと言ったの」
なつみ「こっくりさん」
拓也「あっそ」
拓也、あまりの馬鹿馬鹿しさにさっさと教室に戻ってしまう。
なつみは自分の教室に戻る前に、花子さんが出ると噂されている、6年生の女子トイレに寄ってみる。

噂では、そのトイレの一番奥の個室に出るらしく、何の変哲もないトイレなのに、なつみの目には足を踏み入れることすら憚られるような恐ろしい空間に感じられるのだった。
よくあるホラー映画では、なつみが立ち去った後、かすかに開いていた個室のドアがひとりでに閉まったりするものだが、まだ序盤なので何も起きない。

放課後、屋上のヤギの飼育小屋で、同じクラスの加藤ヒロシ少年とヤギのメエスケの世話をしているなつみ。
この学校では、一日交替で、各クラスに当番が振り当てられ、その日の日直がヤギの面倒を見る決まりになっているらしい。
ヒロシが自分のテストの答案をヤギに食べさせているのを見て、
なつみ「やめなよ、加藤君のテストなんか食べたらメエスケだっておなか壊しちゃうわよ」
ヒロシ「それ、イヤミ?」
なつみ「そうよ」
ヒロシ「……」
そこへ由紀が、取り巻きを引き連れて横の道を通りかがるが、

二人を見て立ち止まり、「あの二人ってさ、おかしいよね~」「超ダサいカップル~」などと、聞こえよがしに囁いて、笑い声とともに去って行く。

なつみ「嫌な感じ!」
言い忘れたが、なつみを演じるのは、チャイドルとして一世を風靡した前田愛さん。
由紀がしきりとなつみを目の敵にするのは、なつみが本当は自分以上に美形だと言うことを知っているからなのだろう。
なんだかんだで仲の良い二人は、川沿いの道を話しながら帰っていたが、

冴子「あのー」
川のふちに立っていた、黒いコートにベレー帽の女の子に声を掛けられる。

冴子「ちょっと教えてくれないかな?」
ヒロシ「はい」
冴子「本町小学校ってどこにあるの?」
ヒロシ「え、あのー、住所は……」
なつみ「この川に沿っていけば、右側に見えます」
見知らぬ美少女に話しかけられて戸惑っているヒロシのかわりに、簡潔に答えるなつみ。
冴子「ありがと」
冴子はそう言って、すたすたと彼らの来た方へ歩いていく。
これが、なつみと、「トイレの花子さん」こと、水野冴子との出会いだった。
ヒロイン冴子を演じるのは、河野由佳さん。
もっとも、ストーリー自体は、基本的になつみの目線で進むんだけどね。
なつみの家は、小さな町の牛乳屋さんであった。
母親は既に亡くなっており、父親の雄二、祖父、そして拓也との四人暮らしである。

雄二「ちょっとじいちゃん、たまには手伝ってよ」
祖父「悪いけど大詰めなんだ」
夕食の支度をしていた雄二が声を掛けるが、なつみの祖父は、テレビゲームの将棋に夢中で、振り向こうともしない。
雄二「ボケ防止って言ってるけど、それじゃ将棋ボケになるよ」
祖父「かと言って今更後に引けないしな」
優しく働き者の父親を演じるのは、若き日のトヨエツ。
祖父役は、梅津栄さんである。
翌日、始業前の職員室で、校長が例の誘拐殺人事件について話し、あらためて教職員たちに安全対策に万全を尽くすよう、注意喚起を行う。

同じ日、拓也のクラスに転入生がやってくる。
そう、なつみが道を聞かれた、水野冴子であった。
担任の百合子先生を演じるのは、大塚寧々さん。
百合子「じゃあ、自己紹介してくれるかな」
冴子「断る!」 百合子「……」
じゃなくて、
冴子「水野冴子です、転校なんて初めてなんで今日はちょっとドキドキしてます。友達いっぱい作りたいです。仲良くしてください」
そのアイドルなみの美貌と、初々しい挨拶に、期せずして教室から拍手が起こる。
そして偶然にも、冴子は、我らが拓也の隣の席になるが、多分、偶然ではない。
拓也もほぼ一目でフォーリンラブしてしまうが、

以前から拓也のことを憎からず思っていた加奈子だけは、じっとりとした嫉妬の目を冴子に注ぐのだった。
しかも、算数の授業では、クラスの誰にも解けなかった問題をスラスラ解いて見せ、ルックスだけではないところを見せ付ける。

加奈子「なんか頭良いわよねえ、嫌いかもしんない。ああいうタイプ」
女の子「理由は別じゃないの?」
加奈子「どういう意味よ」
女の子「転校生だからね。ちやほやされるのは今だけよ」
加奈子「あーいやだ、なんであんな女が転校してくるんだろう?」
休み時間、トイレでメイクを直しながら、冴子について話している加奈子たち。
……って、さすがに小学生が口紅塗ってたら、百合子先生にぶっ飛ばされると思うので、リップクリームを塗ってるだけなのだろう。
と、二人は、普段使われることのない一番奥の個室、すなわち「花子トイレ」が使用中なのに気付いて驚き、思わず後ずさりしてしまうが、

ゆっくりドアが開いて出て来たのは、他ならぬ冴子だった。
冴子は転校したばかりで、そんな噂など知らなかったのだ。

加奈子「見たぁ?」
女の子「花子さん!」
子供と言うものは愚かなもので、二人は勝手にそう騒ぎ立てると、トイレからピューッと逃げ出してしまう。
間の悪いことに、その声を、花子さんの存在を確かめに来た由紀たちに聞かれてしまう。

冴子「あら、昨日はありがと」
なつみ「……」
その直後だけに、前を通りがかった冴子に話しかけられても、なつみは押し黙ったままだった。
その晩、夕食後のつれづれに、なつみはそのことを話題にする。
なつみ「あっという間に噂になっちゃったんだ。その人がトイレの花子さんだって」

雄二「拓也のクラスの転校生ねえ……その子、可愛いだろ」
なつみ「うん」
雄二「やっぱりなぁ」
なつみ「何が?」
雄二「そいつは一種の嫉妬だよ。みんな焼餅やいてるんだ」
なつみ「でもね、みんなこっくりさんの言うとおりになったって騒いでた」
拓也「なつみ、いい加減にしろよ、お前みたいなのがいるから変な噂が広がるんだ」
二人のやりとりを黙って聞いていた拓也、やがて、腹立たしげに妹を叱り付ける。
雄二は、拓也に悪戯っぽい視線を注ぐと、

雄二「拓也、その子、良い子なの?」
拓也「何言ってんだよ」
雄二「別に」
拓也「なんだよ」
雄二&なつみ「……」
まるで、その顔に「俺は冴子のことが好き」とでも書いてあるように、世にも嬉しそうな含み笑いをしつつ、じんわりと拓也の顔を見詰める雄二となつみだった。
翌朝、何も知らずに冴子が登校してくるが、例の噂のせいか、無視こそしなかったが、みんな冴子を避けるようによそよそしい態度を見せる。
しかし、小学6年にもなって、それもあと少しで中学生になろうかと言うのに、そんなくだらない噂を信じるというのは、自分の経験と照らし合わせても、いささか幼稚すぎる気もするが、まぁ、そうしないとストーリーが進まないので仕方あるまい。
だいたい、冴子はどう見てもただの人間なんだから、そもそも「トイレの花子さん」である筈がないだろうが。
拓也は、そんな噂など気にせず、普段と同じように冴子に接する。

冴子「ねえ、坂本君、みんななんかあったの?」
拓也「え、どうして」
冴子「なんだか変だもん」
拓也「そんなことないよ。それよりさぁ、算数の宿題見せて、お願い」
だが、再び間の悪いことに、その日の休み時間、窓から身を乗り出して遊んでいた男子たちを、冴子が危ないから注意しようとするが、逆にそれが男子を脅かす結果になってしまい、危うく窓からおちそうになるという事件が起きる。

拓也「何やってんだよ、バカなことするなよな」
男子「だってさぁ」
冴子「ごめんなさい」
加奈子「わざと脅かしたんでしょ、どういうつもりなのよ」
拓也はむしろ男子を責めるが、加奈子たちはここぞとばかりに冴子の責任を必要以上に追及する。
冴子「私、ほんとにごめんなさい」
加奈子「謝らないで、私は嘘つかないでって言ってるだけよ。やっぱり花子さんだ」
冴子「花子さん?」
加奈子「花子さん、あなたは人殺しなの?」
冴子「やめて……」

拓也「よせよ」
完全な言い掛かりをつけて冴子に迫る加奈子たちを見兼ねて、拓也が割って入る。
拓也はこう見えて児童会長もしている、正義感の強い少年なのだ。
拓也「水野がわざとする訳ないだろ」
加奈子「坂本君、水野さんのこと良く分かるのね」
拓也「どういう意味だよ」
と、そこへ百合子先生が来たので、その場は一応それでおさまる。
放課後、下駄箱の前で、改めて拓也が冴子を慰めていると、向こうの下駄箱の上からなつみがひょこっと顔を出し、おずおずと二人のそばに近付く。

冴子「あ」
なつみ「……」
なつみ、黙ってぺこりと頭を下げる。
冴子「友達なの、ね?」
なつみ「……」
照れているのか、なつみ、自分が拓也の妹だと言い出せないでいると、

拓也「妹……」
なつみ「なつみです」
拓也も少し照れ臭そうに紹介するのだった。
こういう、いかにも子供同士らしい、ぎこちない感じなども実にリアルである。
一方、帰宅中、百合子先生は団地で牛乳を配達中の雄二と出会う。

雄二「あ、先生」
百合子「こんにちは」
雄二「こんにちは、ここ、帰り道なんですか。じゃあ、僕、結構見られてましたね。声掛けてくれれば良かったのに」
百合子「いつもお忙しそうだから」
雄二「じゃあ、今日は特別ですか」
百合子「ええっ、はっ」
独身の百合子先生と、やもめの雄二が、互いをなんとなく意識している感じが、このドラマに優しい温かみを添えている。
どういう話の流れからか、明日、雄二が学校を訪ねて、子供たちのことについて百合子先生と話すことになる。いわば、逆家庭訪問である。
ちょっと分かりにくいが、次のシーンでは早くも翌日の放課後となっており、たまたま当番クラスの日直だった拓也と冴子が、ヤギの世話をしている。

冴子「メエスケって可愛いね」
拓也「こいつ、最初のうちはよくおなか壊してね」
冴子「どうして?」
拓也「悪い点のテストをメエスケに食べさせると、今度は良い点が取れるって噂になってさぁ。効き目がないって分かったら、そんな噂はすぐ消えたけど。噂なんてそんなもんだよ」
拓也、そうやって遠回しに、同じ噂に苦しめられている冴子のことを励ましているのだろう。
冴子「ねえ、坂本君も食べさせた?」
拓也「ちょっとな」

冴子「……」
拓也の返事に微笑む冴子だったが、

不意に顔を歪めると、ほうきを掴んで立ったまま、しくしくと泣き始める。
最初はなんとか込み上げてくる涙を堪えようと努力していたが、

途中から子供のように(……って、子供なんだけど)声を上げて泣き出し、遂にはその場に座り込んで手放しで泣きじゃくる。
クールな冴子の突然の激情に、拓也も一瞬戸惑うが、なにしろ生まれついていのモテ男なので、さりげなくハンカチを取り出してその手に握らせ、
拓也「使えよ、俺、学級日誌先生に出してくる」
薄暗い、人気のない廊下を歩いて職員室まで行き、戸を開けるが、

そこに父親の姿を見出し、思わず固まる拓也。
百合子「ああ、こっちにいらっしゃい」
百合子先生に手招きされるが、固まったままの拓也を振り返り、
雄二「児童会長とかやってる割には恥ずかしがり屋なんですよ」
百合子「ふふっ」
一方、ようやく泣き止んだ冴子、ふと、泥に汚れたサッカーボールのキーホルダーが落ちているのを見て、拾い上げ、白い手で泥を拭う。
さっき、拓也がハンカチを取り出そうとした拍子に、ポケットから落ちたものだった。
と、同時に、風が吹き始め、本格的な雨になる。

そのキーホルダーを強く握り締め、雨に打たれながら、何事か一心に念じていると、一際強い一陣の風が、冴子の体を抜き抜けていく。
これは、冴子の(この状況から抜け出したいと言う)願いが、学校に巣食う守護神的なもの……すなわち、本物の「トイレの花子さん」に通じたことを意味しているのだろうか?

女の子「やっぱりやめようよ~」
加奈子「ダメ、坂本君の前で自分が花子さんだって認めさせるのよ」
同じ頃、しつこく冴子を目の敵にしている加奈子が、友人と共に、人気のない廊下を闊歩していた。

ところが、そんな彼らの前方、廊下の突き当たりに、黒い人影が立っているのを見て、三人はギョッとして立ち止まる。
その姿をはっきり見ていれば、それが冴子ではないことが分かり、噂も雲散霧消していたと思われるが、あいにく、距離があったので、あくまで人影と言うことしか分からなかった。
影がスッと廊下の向こうに消えるのを見た三人、たちまち恐怖に駆られ、その場から反対方向へ走り出す。
下駄箱のところまでやってくるが、その足元に大量の血が流れているのに気付き、ほとんどパニック状態となり、腰を抜かしたようにその場に座り込んでしまう。
しかも、既に玄関のドアは施錠されており、出られない。三人は、ドアを叩いて叫び、中庭を挟んだ職員室にいる百合子先生に助けを求めるが、閉め切った窓ガラスと折りからの風雨に遮られて、その声は届かない。
そして、職員室の窓の外には、

メエスケの生首が、ごろんと転がっているのだった……

一方、冴子は、何故か右手に鎌を持ち、周囲に気を配りつつ、濡れたままの髪で校内をうろついていた。
うーん、可愛い!

拓也「失礼します」
女の子「きゃああああーっ!」
と、雄二たちがそろそろ面談を終えて帰ろうとした時、やっと加奈子たちの悲鳴が聞こえてくる。
校舎の中を回って、職員室のある棟まで移動してきたのだろう。

結局、あの人影とは出会わないまま、三人は鎌を持って立っている冴子の姿を見て、もう一度けたたましい悲鳴を上げる。
もっとも、冴子も次の瞬間、その場にばったりと倒れてしまう。
ほどなく、雄二たちも駆けつける。

状況はさっぱり分からなかったが、雄二はとりあえず気絶している冴子の体を抱き起こし、抱え上げる。
雄二「先生、病院」
百合子「はいっ」
後編に続く。
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