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劇場版「「トイレの花子さん」(1995年) 後編

 「トイレの花子さん」

 の続きです。

 事件の翌日、百合子先生が冴子を除く4人を職員室に呼び、懇々と説明している。

 
 百合子「あなたたちが誤解していると困るから、ちゃんと言っておくわね。メエスケは水野さんがトイレに行ってる間に殺されたの。戻ってきた水野さんは今度は自分が殺されるんじゃないかって、怖くなったのよ。だから、落ちてた鎌を拾って逃げ出したの。分かるでしょう?」

 本当に分かっているのか、4人は無言で頷くだけだった。

 教室でも、ヤギを殺したのが外部の人間であること、冴子がショックのあまり失語症になったことをいつになく厳しい面持ちで説明する百合子先生。

 だが、大人がいくら情理を尽くして言ったところで、冴子が「トイレの花子さん」だという愚にもつかない噂は消えそうになかった。

 その後、校舎の屋上でその事件について話しているなつみとヒロシ。

 ヒロシはなつみのことが好きらしく、遂には愛の告白までするのだが、最初からヒロシなど眼中にないなつみは、軽く聞き流す。

 

 
 と、そこへ由紀たちが物凄い勢いで走ってきて、

 由紀「祟りよ、トイレの花子さんの祟りのせいでメエスケは死んだのよ! 水野冴子は花子さんの乗り移りよ!」

 
 なつみ(……って、私に言われても)

 なんだかんだで、由紀はなつみのことが好きなのではないだろうか。

 数日後、ショックで寝込んでいた冴子が、久しぶりに登校してくる。

 3年生のなつみも、友人からそのことを知らされ、少し落ち着かない気分になる。

 ちょっと様子を見てこようと、6年の教室に向かうが、その途中、階段の踊り場にある大きな鏡をなんとなく見ると、

 
 背後の階段に、その冴子が立っているのが映り込んでいた。

 
 ドキッとして振り向くが、そこには誰もいない。

 首を傾げつつもう一度鏡を見ると、

 
 今度は、彼女のすぐ後ろに立っているではないか。

 ホラー映画では常套的な演出だが、なかなかの怖さである。

 冴子「会いに来てくれたんでしょう? 嬉しいわ」

 喋れない筈の冴子が、はっきりした口調で話しかけてくる。

 冴子「私、あなたみたいな女の子が好きなの。だから今度はあなたよ」

 その言葉と共に、位置的に届く筈のない右肩に冴子の手が置かれ、ハッとして振り向くと、無人の階段の上を、コツコツと乾いた音を立てながら、メエスケの生首か転がり落ちてくる。

 
 なつみ「……!」

 足元に転がったヤギの生首を見て、なつみは思わず息を飲み、ついで視線を上げる。

 間髪入れず、冴子が目の前で鎌を振って、なつみの視界を真っ二つに切り裂く。

 次になつみが目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。

 無論、それは、なつみの見ていた悪夢に過ぎなかったのだ。

 先生「だいじょうぶ?」

 ベッドのそばには、保健の先生がいて心配そうになつみの顔を覗き込んでいた。

 先生「軽い貧血ね」
 なつみ「私、何処で……」
 先生「トイレよ、覚えないの?」
 なつみ「……」

 なつみは一眠りした後、保健室を出て、もう一度あの鏡のところへ足を運ぶ。

 と、さっきと同じく、冴子が階段をゆっくり降りて来て、なつみの前に立つ。

 今度は本物の冴子だった。

 
 なつみ「……」

 なつみ、さっきのことがあるので、ついあとずさってしまう。

 
 冴子「……」

 冴子、口を開きかけて、声が出ないことを思い出し、少し悲しそうな目になるが、改めて大きく口を動かして、「なつみちゃん……」と呼びかける。

 なつみが答える前に、冴子は人の気配を感じ、振り向くと、階段の上から、たくさんの生徒たちが怪物でも見るような目で冴子を見詰めていた。

 冴子、逃げるように、その場を去っていく。

 
 その後、中庭のグラウンドで、体操服の生徒たちが、男女互い違いに手をつないで輪になって、「マイムマイム」の音楽に合わせて、時折「ヘイ!」と言うコールを入れつつ、踊りまくると言う、割りと恥ずかしい授業が行われている。

 そうか、まだこの頃はブルマだったんだなぁ。

 病み上がりの冴子がブルマ姿を披露してくれないのが残念だと言う人、あとで職員室に来るように。

 授業の後、冴子がこの前借りたハンカチを拓也に返す。

 拓也「ありがとう」

 相変わらず、拓也だけは冴子に普通に接してくれるのが救いだった。

 冴子、ついでにあのキーホルダーも返そうとするが、

 
 そこに、例によって加奈子が割り込んでくる。

 加奈子「誤魔化されないわよ、あの草刈鎌、なんに使ったの?」
 拓也「よせよ。水野は喋れないんだぞ」
 加奈子「声が出なくなったなんて嘘よ、ほんとうのこと言えないからでしょ」
 拓也「やめろよ、太田!」

 大変ムカつく女だが、その可愛過ぎるブルマ姿に免じて許そう!

 冴子、何を思ったか、和解を求めるように加奈子に右手を突き出すが、加奈子は逆に怯えたようにどんどん後退して行く。

 それでも冴子が執拗に握手を求めるものだから、加奈子も激しく拒絶してヒステリー状態になり、他の生徒たちも集まってちょっとした騒ぎになる。

 結局、加奈子はそのまま保健室に担ぎ込まれ、冴子は一人でその場に取り残されてしまう。

 やることなすこと、すべてが裏目に出てしまう冴子。

 
 返せずじまいだったキーホルダーを掌に乗せ、悔しそうに唇を噛みながら、ふと前方の校舎に視線を向けると、

 
 そこに、こちらを見詰めているなつみの顔があった。

 
 冴子「……」

 寂しそうな、今にも泣き出しそうな瞳で、なつみの顔を見上げる冴子だったが、

 
 あの悪夢が尾を引いているのか、あるいは、周りの目が気になるのか、なつみもぷいと視線を逸らし、背中を向けてしまうのだった。

 放課後、いつものようになつみがヒロシと一緒に校舎から出て、保健室の横を通りかかると、中から女の子の泣き声が聞こえてくる。

 
 なつみが窓から中を覗くと、そこには、泣きじゃくる加奈子に抱き付かれて困ったような顔をしている兄の姿があった。

 拓也もなつみに気付くが、何も言えずに固まっていた。

 
 なつみ、何か不潔なものでも見たような険しい顔つきになると、さっさと立ち去ってしまう。

 よほど腹が立ったのか、ヒロシとは一言も口を利かず、早足でテクテク帰って行くなつみ。

 もっとも、その後、ひとり教室に残っていた冴子のところに拓也が来て、

 拓也「先生が送っていったよ、ちょっと興奮しただけだって」

 安心させるようにそう言っていた。

 冴子、つと立ち上がって黒板の前に立つと、チョークで「いつもありがとう」と拓也への礼を記す。

 拓也も、あえて声を発さず、

 
 同じように黒板に文字を書いて、冴子と筆談を交わすのだった。

 大変心温まる、麗しい青春の1ページである。

 最後に「水野を信じてる」と言う文章を見て、元気を取り戻した冴子、改めてキーホルダーを返そうとするが、

 拓也「母さんから貰ったんだ。お守りみたいなもん、だからしばらく水野が持ってなよ」

 拓也、一旦受け取ったキーホルダーを、すぐ冴子に渡してやるのだった。

 そんな大事なものを貸してやったことから見ても、拓也の冴子への気持ちは変わらず、なつみが誤解して憤慨したように、拓也が冴子から加奈子に乗り換えた訳ではないのだった。

 だが、子供の気持ちと言うのは移ろいやすいもの。

 その後、拓也がトイレに行っている間、冴子は外で待っていたが、ふと、リコーダーを忘れたことに気付き、教室にとって返すと、雄二がその笛をチュパチュパしていた……じゃなくて、

 
 建物の一番高いところから、その様子をじっと見下ろしている怪しげな男がいた。

 そう、この男こそ、一連の事件の真犯人なのである。

 一方、拓也がトイレから出ようとすると、急に照明が明滅を始め、さらに、地震でも起きたように建物が揺れ始める。

 廊下に出ると、冴子の姿がなく、例の女子トイレの戸が開いていた。

 拓也、てっきり冴子がまたあの「花子トイレ」に入っているのかと、「水野! 水野!」と大声で叫ぶが、当然ながら何の応答もなく、トイレの戸もひとりでに閉まってしまう。

 結局、この現象は何だったのか良く分からないのだが、この学校の守護神的存在である「トイレの花子さん」が、殺人鬼の接近を知って警告した、と言うことなのだろうか。

 もっとも、その結果、急いで階段を降りようとした拓也が着地の際に右足を捻り、捻挫すると言う事件が起きる。

 
 ほどなく、冴子が降りてくるが、

 拓也「来るな、来るな!」

 やはり、拓也の心にも、あの噂を信じる気持ちがあったのか、つい冴子に向かって叫んでしまう。

 口が利けず、抗弁も出来ない冴子、寂しそうにその場を走り去る。

 拓也は捻挫の為、しばらく学校を休むことになる。

 
 翌日、屋上にのぼり、金網を掴んで校舎を見下ろしている冴子。

 もう自分の居場所が、この学校にはないように感じられているのだろう。

 掃除の時間、なつみが床をモップで拭きながら、ふと、中庭を挟んだ向かい側の6年生の校舎を見ると、

 
 冴子が、いかにも力のない動きで、窓から身を乗り出すようにしてガラスを拭いているのが見えた。

 
 なつみ「……」

 何か予感がしたのか、冴子の姿を執拗に目で追うなつみ。

 そのうち、冴子が手にした雑巾を落とすが、冴子は焦るでもなく、ぼんやりと宙を眺めていたが、やがて、その上半身がゆっくりと傾いてくのが見え……

 なつみ「はっ!」

 ある恐ろしい考えが、なつみの頭を掠める。

 次の瞬間、なつみは何もかも放り出して、冴子のところに向かって駆け出していた。

 
 廊下で掃除をしている子供たちの間を野うさぎのように機敏にすり抜け、冴子のクラスの前まで辿り着いたなつみの目に、

 
 今まさに、そこから飛び降りようとしている(ように見える)冴子の後ろ姿が飛び込んでいる。

 冴子の体がすぅーっと空に吸い込まれていくような錯覚に、なつみは何を考える余裕もなく、教室を一直線に横切り、

 
 必死にその手を冴子に向けて伸ばす。

 
 その腕をしっかりと掴むと、

 なつみ「だめっ!」

 
 冴子「……」

 冴子も、発作的に飛び降りようと考えていたのか、なつみの出現にもそれほど驚いた素振りは見せず、ちらっと窓の外を見てから、なつみを見下ろし、相手にはっきり見えるように、「ありがとう」と口を動かす。

 それを見て、安堵の浮かべるなつみ。

 一度切れかけた冴子との絆が、改めて強く結ばれた瞬間だった。

 以前のレビューでも紹介した、管理人がこの作品の中で一番好きなシーンである。

 放課後、百合子先生と冴子は、なつみと一緒に拓也の見舞いに行くことになる。

 
 途中、ヒロシの実家のケーキ屋に立ち寄るが、

 父親「あ、なつみちゃん、百合子先生まで」
 百合子「ご無沙汰してます」
 父親「どちらかお出掛けですか」
 百合子「ええ」
 なつみ「お兄ちゃん、足挫いちゃってみんなでお見舞いに来てくれるの」
 父親「そりゃ大変だ。よし、今日はね、店(うち)のケーキ全部持ってっていいよ」
 ヒロシ「そんなに食べられる訳ないだろう」
 父親「気持ちを言ってるんだろう、気持ちを」
 ヒロシ「奥でケーキ作ってろよ」
 父親「お……」
 母親「またなつみちゃんに好かれようとしちゃって」
 父親「お前まで……はははははっ」

 そこの夫婦を、竹中直人さんと、若くして亡くなられた深浦加奈子さんが演じているのだった。

 ま、竹中さんは、殺人鬼役の緋田さんとは親しい間柄(?)だから、その縁での特別出演なのかなぁ。

 坂本家の茶の間で、雄二と差し向かいで話している百合子先生。

 
 百合子「声も出なくなったのに、ちゃんと学校に来るんだから、なんていうか、見上げたものだなぁって」
 雄二「ご両親はなんて?」
 百合子「親よりしっかりしているから、自分たちは説得できないって」
 雄二「強い子ですね」
 百合子「だから子供たちの中でも際立っちゃうんです……あ、私、また相談してばっかり」
 雄二「いやぁ」

 
 百合子「だけど、こんな風に父兄の人とお話し……」
 雄二「もし良かったら……いや、力になれることがあったら、何でも言って下さい!」
 百合子「ありがとう」

 食い気味に、突然そんなことを言い出す雄二に、百合子は救われたような表情で、礼を言うのだった。

 この映画、基本的に子供向けだと思うのだが、こういう風にちゃんと大人の世界のドラマも(ややお上品過ぎるけど)きっちり描いているところに好感が持てるのである。

 同時に、二人がほのかな恋愛感情を抱いていても、雄二と百合子先生が結婚する……と言うようなところにまで話を持っていかない節度が、ストーリーにリアリティーを与えていると思うのである。

 一方、拓也の部屋では、気まずい沈黙が続いていた。

 やがてちょっとしたことから拓也がなつみの顔を引っ叩くと言う展開になり、なつみは、冴子に抱きついてしくしく泣き出してしまう。

 
 雄二「何やってんだ?」

 すぐ雄二と百合子先生がやってくるが、拓也は冴子に向かって、

 拓也「悪いなんて思ってないくせに謝るなよ! 嘘つき、ほんとは喋れるんだろう?」

 
 雄二「……」

 雄二、無言で拓也の頬を叩く。

 普段は優しいけれど、叱るべき時はきっちり叱る、実に頼もしいお父さんなのである。

 その後、店の配達用のワゴンで、冴子と百合子を送っている雄二。

 
 雄二「冴子ちゃん、ごめんね、あいつには良く言っとくから……許してやってくれるかな?」

 
 冴子「……」

 そう言われて、冴子も頷いて見せるのだった。

 
 一方、ますます冴子への迫害をエスカレートさせようとしている加奈子たち。

 加奈子「水野冴子の正体を暴いてやるわ」

 
 だが、彼らが路傍の石のように気にも留めずに通り過ぎた、目立たないスーツ姿の男性こそ、他ならぬ連続殺人鬼であることに、加奈子たちは露ほども気付かないのだった。

 ここで漸くはっきり顔が出てくる殺人鬼を演じるのは、最近(註・これを書いたのは2019年5月です)やっと個性派俳優としてブレイクした緋田康人さん。

 しかし、こういう真面目(?)な役を演じている緋田さんを見ると、以前、竹中さんと一緒に出てたお笑い番組で、ティモシー・ダルトンの007のモノマネをやったり、

 
 「ケータイ刑事」シリーズなどで、アホみたいな役を嬉々として演じていた人とは、とても同一人物は思えないのだった。

 さて、翌日の放課後、加奈子の事前の通達に従って生徒たちが教室に残り、冴子を改めて糾弾する。

 いや、糾弾と言うような生易しいものではなく、冴子が「トイレの花子さん」だと言う妄想にとりつかれたアホどもは、冴子をあのトイレの個室に一晩じゅう監禁すると言う、ただのイジメを行うと言い出す。

 女子「あなたはお家に帰ることになったの」
 女子「お家に帰りなさいよ、花子さん」
 女子「みんなで決めたのよ」
 男子「多数決だから、民主主義なんだぜ」

 子供たちの残酷さ、ならびに、集団ヒステリーの怖さと醜悪さを巧みに描き出したシーンである。

 とりわけ、生齧りの知識を振り回して自分たちの行為を正当化しようとする賢しらぶったガキは、顔面に蹴りを入れたくなるほどムカつくぜ。

 
 加奈子「児童会長、良いですね?」
 拓也「……」
 加奈子「それとも、棄権しますか」
 男子「黙ってる場合は、賛成したと言うことになります」

 拓也、しばらく黙り込んでいたが、

 
 拓也「賛成する」

 やがてきっぱりと答える。

 なんと言うクソ野郎であろう。

 
 その冷たい言葉に、冴子が世にも悲しそうな目をしたのも当然であった。

 そんなことが行われているとは知らないなつみ、

 
 メエスケの墓に花を供えて拝んでいると、またしても由紀たちが寄ってきて、

 由紀「ねえねえ、あの花子さんがこれからどうなるか、こっくりさんに聞いてみようって今みんなで話してんだけどさぁ……今日は彼と一緒じゃないの? 加藤君みたいなダサい子のどこがいいのよぉ?」

 いつものようになつみを笑い者にしようとする由紀たちだったが、いつもと違い、なつみは毅然と立ち上がって振り向くと、

 
 なつみ「あんたみたいなウスラバカに、何が分かるのよ!」

 今までの鬱憤を込めて、強烈な一撃を放つ。

 
 由紀「……」

 予想外の反撃に、咄嗟に何の反応も出来ずに固まる由紀であった。

 なつみが、冴子との関わりを通じて、人間として成長したことを示す、実に爽やかな一幕である。

 その後、冴子は例のトイレの個室に閉じ込められる。

 ドアのノブにモップを縛り付けて、つっかえ棒にすると言う、念の入ったやり方だった。

 なつみ、昨日、冴子と一緒に帰ろうと約束したとかで、その後も中庭に残って冴子が出てくるのを待っていたが、当然、一向にあらわれない。

 拓也と加奈子が一緒に帰ろうとしているのを見て、冴子のことを尋ねるが、拓也たちは素知らぬ顔で、

 拓也「なんでお前が探してんだよ」
 なつみ「お兄ちゃんには関係ないでしょ」
 拓也「また喧嘩売ってんのか?」
 なつみ「私、心に刻んだから!」
 拓也「……?」
 なつみ「もし、冴子さんが転校していなくなっても、私、冴子姉ちゃんのこと、心に刻んだから」
 拓也「お前は騙されてるんだよ。ガキだから分かんないんだよっ」

 最後まで冴子を信じようとするなつみの侠気と比べて、あっさり冴子を見捨ててしまった拓也の、いかにちっちゃいことか。

 なつみは暗くなるまで冴子を待ってから一旦学校を出るが、路地裏から再び学校の中に忍び込む。

 開いていた窓から校舎の中に入るが、その前に現れたのが、あの殺人鬼であった。

 必死で逃げ惑うなつみは、下駄箱のところで拓也と会う。なんだかんだで、拓也も心配になって様子を見に来たのだ。

 
 拓也「お前、何やってんだ?」
 なつみ「お兄ちゃん、大変よ、犯人よ、今学校に犯人がいるの! メエスケを殺したのも、絶対あいつよ」
 拓也「本当か?」
 なつみ「だって鎌持ってたもん」
 拓也「外にチャリがあるから、それで父さん呼んで来い」

 その後、殺人鬼はどうやってか冴子が閉じ込められている個室を嗅ぎ付け、鎌を無造作にふるって、つっかえ棒のモップの柄や、ドアの鍵を次々と壊していく。

 
 冴子「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ」

 まさに逃げ場のない極限状態だが、助けを求めて叫ぶことも出来ず、荒い息をついて恐れおののくことしか出来ない冴子。

 いよいよ殺人鬼が入ってくる……と観念するが、不意にその気配が消え、トイレの照明がつく。

 
 ドアの隙間からおそるおそる外を覗こうとすると、

 
 向こうの方からドアが開き、そこに頼もしい拓也の姿があった。

 拓也「水野、だいじょぶか?」
 冴子「……」
 拓也「水野」

 冴子の無事な姿を見てホッとする拓也だったが、再び、照明が不安定になり、建物がガタガタ揺れると言う、怪奇現象が起こる。

 これも、「トイレの花子さん」が、二人に警告をしていると言うことなのだろうか?

 さらに、女の子のすすり泣くような声まで聞こえてくるが、その声は不思議なことに、遠くにいた加奈子たちの元にも届くのだった。

 あるいは、それは、今まで殺人鬼に殺された女の子たちの霊であったかも知れない。

 
 そんな中、不意に拓也の後ろの個室から殺人鬼が出てきて、鎌でその首を掻き落とそうとする。

 その時、冴子の口から「きゃあああーっ!」と、事件以来、初めての叫びが迸る。

 目の前で拓也のピンチを見て、閉ざされていた心の蓋が遂に弾け飛んだのだろう。

 その声で拓也は殺人鬼に気付き、かろうじて鎌を避ける。

 この後、拓也と冴子が手に手をとって、殺人鬼から学校中を逃げ回ったり、なつみから知らせを聞いて駆けつけた雄二が殺人鬼と戦ったり、「トイレの花子さん」に導かれるようにして子供たちが学校に集まってきたり、終盤のクライマックスシーンになるのだが、特にどうでもいいのでカット。

 ともあれ、拓也も必死で冴子を守ろうと殺人鬼と戦うが、さすがに大人には勝てず殺されそうになるが、そこへ、中庭や校舎の中から無数のライトが浴びせられ、殺人鬼をたじろがせる。

 それは、「トイレの花子さん」に呼び寄せられた子供たちが、それぞれライトを持って殺人鬼に向けているのだった。

 最後は、狼狽して逃げようとした殺人鬼を雄二が思いっきりぶん殴って事件解決となる。

 正直、この、最後に子供たちが集まってきて、みんなで殺人鬼を追い詰めると言うくだりは、なかった方が良かったかなぁと。

 そうすることで、なし崩し的に加奈子たちのやったことが免罪されているような感じがするんだよね。

 もっとも、正気に返った加奈子たちは、掌を返すように冴子の周りに集まって、ちゃんと謝罪し、その身を気遣うのだった。

 優しい女の子である冴子は、それに対し、「うふ、謝って済めば警察は要らないのよ」などと応じたりはせず、笑顔ですべてを水に流すのだった。

 「トイレの花子さん」だけに!(うるせえ)

 
 なお、終盤、加奈子たちがトイレに勢揃いするカットがあるのだが、この、右から二人目の女の子が、栗山千明さんなのである。

 ラスト、明るい朝の登校風景。

 拓也となつみも以前より仲の良い兄妹となっていた。

 
 朝礼前、拓也は冴子を教室に連れて行き、あのお守りのキーホルダーを、今度は冴子にプレゼントするのだった。

 冴子「大切にする。ありがとう」

 飛び切りの笑顔で、それを受け取る冴子。

 で、これで終わりにしとけばいいのに、この後、拓也と冴子がキスをするという、小学生にあるまじき行為に出るのだった。ムキーッ!(小学生に嫉妬するなよ……)

 ただ、実際、このキスシーンがちょっと唐突に感じられるのも事実なので、ない方が良かったかな、と。

 以上、書き出すまでは相当の覚悟が必要だったが、始めてみればそれほど時間をかけずに書き上げることが出来て、ホッとしている管理人であった。ま、終盤はほとんど飛ばしたけどね。

 さて、総括すると、ホラー映画としてはあまり怖くない作品だが、冒頭で書いたように、子供たちの不安定な心の動きを的確なシナリオと演出で丹念に描いている点を高く評価したいと思う。

 キャストに有名俳優を起用しつつ、あまりでしゃばらせることなく、あくまで子供たちを主役として描いているところも、好感が持てる。

 読者の皆さんにも是非見ていただきたい秀作なのだが、あいにくとDVD化されていないので、ちょっと困難が伴うかもしれない。
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コメント

DVDがないのが意外

この映画は児童向けとしてはそこそこ有名でした。前田愛さん他有名どころの子役もたくさん出ていました。

この作品に限らず90年代の作品はアニメや特撮も含めてVHSは出たけどDVDが出なくて鑑賞が困難になってしまったものが多いです。
浜丘真矢さんは、成人後は美少女子役の例に漏れず殺され役が多かったですね。前田愛さんとはテレビドラマでもレギュラーで共演しています。おとなしめのイメージが強いのでこの映画での役はすこし異質ですね。

Re: DVDがないのが意外

> この作品に限らず90年代の作品はアニメや特撮も含めてVHSは出たけどDVDが出なくて鑑賞が困難になってしまったものが多いです。

自分はVHSを買ってDVDに落としました。

自分の知る限り「トイレの花子さん」を題材にした映画で面白いと言えるのはこの作品だけですね。

残念…。

ああ…DVD化されてないんですね…読んでる途中で、なかなか面白そうだなぁと思ったのですが…残念。でも、こんな個人的に未見の物とか記憶の底に沈んでる様な作品のレビューは有難いです。

小学校が舞台の?

 この作品を見た事があるけど。一言で言うなら怪談ではないな。小学校が舞台になったサスペンス・AVですな。冒頭からロリ・ドスケベ好きの賢い大人向けの筋書きやんか。裏刑事で女教師ばかりを食い物にしてきた豊悦も出てるしね。
 主役の愛ちゃんが何で男みたいな姿をしているか?管理人殿はわかるかい?豊悦に犯されたからですよ。それが原因でトラウマになったに違いない。その後自分の周辺で自分と同じくらいの女の子が次々と犯される事件が頻発して

愛:犯人は親父か?
調査を進める愛ちゃんだが、凶悪犯は冴子に目を付け犯しまくるのだった。

Re: 残念…。

長い記事をお読みいただき、ありがとうございます。

こんな良作がDVD化されてないのは実に勿体無いと思います。

Re: 小学校が舞台の?

相変わらず好きですね。

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zura1980

Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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