第12話「さらば裏刑事!涙の殉職」(1992年6月30日)
早くも最終回である。
自分で紹介しておきながらこんなことを言うのはアレだが、このドラマ、あんまり面白くない。
キャスティングや演出、哀愁を帯びたテーマ曲などは悪くないのだが、シナリオの粗雑さと淡白さ、悪を処刑する時のカタルシスのなさが、それらを帳消しにしている感じだ。
冒頭、とあるサラ金に強盗が入り、逃げる際にガードマンを殴って1億もの大金を奪うが、それはどう見ても岩城の仕業であった。

雅子「ご覧頂いたように、このところ規模の大きな強盗事件が続発しております。しかも犯人はほとんど身元が割れ、指名手配を受けているのにも拘らず、何故かひとりとして逮捕されておりません」
その事件を伝えるニュース番組を見せてから、「裏刑事」の後ろ盾と言うか、上部組織と言うか、要するにこのシステムの勧進元である「超法規委員会」のメンバーのハゲ頭を眺めながら、事件の概要を説明している雅子タン。

袴田「長谷君、続けてくれないか」
雅子が言葉を切ると、初めて見る初老の男性が、重々しい声で先を促す。
演じるのは、重鎮・根上淳さん。
長谷「はあ、ホシは一様に逮捕直前、掻き消すように行方を晦ましています。どうやらこうした凶悪犯の逃亡を幇助する組織が存在するらしいんです。ま、当局も色々手を尽くしているようですが、現実的にはこれ以上の捜査は不可能と思われます」
袴田「つまり、今後は裏刑事の領域と言うわけだな」
長谷「既に指示は出してあります」
袴田「わかった、この件に関しては従来どおり裏刑事扱いと言うことで、異存はありませんな?」
議長格の袴田が含みのある言い方で会のメンバーに同意を求めるのを聞いて、

長谷「この件に関して?」
聞き捨てならぬと言う顔で問い質す長谷。
高松英郎さんは、第1話以来の出演である。
袴田「まだ正式決定ではないが、当局からこのような組織に対して再考の要請が来ているのは事実だ。ま、気を悪くせんでくれたまえ。この件はもう少し状況を見てからと言うことにしよう」
長谷「……」
袴田の言葉を潮に、他のメンバーはぞろぞろと部屋を出て行く。
長谷は自分の席に座ったままで、秘書の雅子は険しい眼差しをオヤジたちに向ける。
その後、いつものように岩城が香織の診察室でイチャイチャしていると、いつもと変わらぬ様子の雅子が入ってくる。
雅子「お邪魔様……」
香織「では、また」
雅子が頭をぺこりと下げると、香織も心得て早々に退室する。

雅子「やっぱりお邪魔だったみたいですねえ」
岩城「どういう意味だよ?」
雅子「意味はありませーん」
岩城「俺がまともに女を愛せるような人間じゃないってことぐらい君だって分かってるだろ」
雅子「そうでした」
岩城は、持参した1億円入りのスポーツバッグを雅子に返す。
雅子「お見事でしたね、映画みたいでしたよ」
岩城「よせよ……あのガードマンは予定外だった。怪我しなかったのか」
雅子「たいしたことありません、お見舞いと保障もこちらで手配しましたからあなたたちは任務を続行してください。では……」
二人のやりとりで、冒頭の強盗がやはり岩城であり、岩城自身が、長谷の話していた凶悪犯の逃亡幇助組織を吊り出す為の囮になろうとしていることが分かる。
なお、岩城が「ガードマンは予定外だった」と言ってることから、そのサラ金会社とも事前に打ち合わせがしてあり、強盗は狂言として行われたのだろうか?
ともあれ、この、普段と変わらぬビジネスライクなやりとりが、雅子との最後の会話になろうとは、岩城は夢想だにしていなかった。
海の見える高台の公園で、ひとりの男がもうひとりの男に雑誌を渡す。
雑誌の間には、とある人物の写真が挟まっていた。
そう、他ならぬ雅子である。
男「わかりました……」
そんなある夜、運河沿いにバーや飲み屋が立ち並ぶ細い道を、紫色のスーツを着た三枝が歩いていたが、ふらりと小さなスナックの扉を開ける。
客は誰もおらず、若いママが暇そうにカウンターの向こうに腰掛けていた。

ママ「いらっしゃい、何になさいます?」
三枝「ミルク」
ママ「ミルク?」
三枝「そう、ミルク! 強制的に禁酒させられちまってさ」
ママ「お医者さまに?」
三枝「いやいや、法務省の職員さ」
ママ「?」
三枝「ひらたくいえば、刑務所の看守」
三枝、懐から人型に切り抜いた岩城の写真を取り出して、ママの鼻先に突き出す。

三枝「こんな男が来なかった?」
ママ「……いいえ」
怪訝な顔で写真を見るが、ママは笑顔で否定する。
どっかで見たことある顔だと思ったら、そう、「あぶない刑事」でお茶汲みの女の子を演じていた長谷部香苗さんであった。
三枝「おーかしいなぁ、あれだけの山踏んだんだ、必ず来る筈なんだがなぁ」
ママ「あの、どういうことでしょう」
三枝「まー、とぼけちゃって、ママったら、ムショ仲間に聞いたよ、この店に来れば特別仕様の海外ツアー世話してくれるってね」
ママ「お店、お間違えじゃありません?」
三枝「ご馳走さま」
ママはあくまで知らぬ存ぜぬであったが、三枝はそれ以上粘ることはせず、ミルクを飲み干して退散する。
これはドラマなので、三枝が出て行った途端、ママは分かりやすく何処かに電話をする。
彼女から連絡を受けたのだろう、二人のヤクザ風の男が三枝に絡んでくるが、

大津「なんだ、お前か、こんなところで何してんだ?」
三枝「これは、どうも、いや、久しぶりに横浜の夜、楽しんでるだけですよ」
南「嘘つけ、おら、またなんか企んでんだろう?」
三枝「なんにもしませんよ、ムショ暮らしは懲り懲りですから……おやすみなさい、どうも」
例によって例のごとく、待ち構えていた大津と南が刑事と偽って割って入り、三枝を穏便に帰らせる。
大津「何か被害はありませんでしたか、我々、城西署のもんです」
南「あの男はどうしよーっもない小悪党でね、ゆすり、恐喝、詐欺の常習犯なんですよ」
男「そうなんですか、私どもは道を尋ねていただけですから……失礼」
と、同時に、三枝が本当にムショ帰りの小悪党のように印象付けるのだった。
三枝が事務所に戻ってくると、小夜子がトランプ占いをしながら待っていた。
小夜子「どう、うまくいった?」
三枝「うんうん、今頃大津と南が奴らの素性を洗い出してるよ」
小夜子「じゃ、いよいよ私の出番ねっ」
三枝「気をつけてね」
小夜子「あら、心配してくれてるのぉ? 大丈夫、おじさまを騙すのなんて結構チョロいものよ~」
三枝「小夜ちゃん、それってカッコウ良過ぎないかぁ?」
小夜子「……」
小夜子の、まるでコンパにでも行くような軽いノリに対し、三枝が雑談口調ながら、珍しく意見めいた台詞を吐く。
その言葉の裏に聞き逃せない針のような引っ掛かりを感じて、小夜子も足を止める。

三枝「俺、ようく思うんだけどさぁ、お前さんの生き方ってのは、こう、なーんか嘘っぽいっていうか、ザラザラしてるって言うか、捨て鉢ぃって言うかさぁ……」
小夜子「別に捨て鉢じゃないわ!」
三枝「……」
小夜子「お休み」
今まで見せたことのないような真剣な口調で三枝の饒舌に栓をすると、さっさと出て行く。

同じ夜、雅子はひとりで夜道を歩いて帰宅していたが、背後から硬い靴音がまとわりついてくることに気付き、俄かに不安に駆られる。
その何者かは、雅子が止まれば止まり、歩き出せば歩き出し、明かに彼女を付け回しているようであった。
早足で歩いていた雅子は、我慢できずに全力で走り出すが、靴音はどこまでも追いかけてくる。
だが、振り向いた彼女の前にあらわれたのは夜間ジョギングをしている若い女性で、雅子に挨拶して通り過ぎてしまう。
気のせいかと胸を撫で下ろす雅子だったが、無論、それは、ホラー映画やスリラー映画のクリシェで、油断した次の瞬間、背後から襲いかかってきた男に首を絞められる。
雅子も一応警察関係者なので、護身術を身につけていたが、プロの殺し屋である男には通用せず、

雅子「あ……」
プロレスのスリーパーホールドのような技を掛けられた状態で、その白い足が地面を離れて徐々に持ち上げられていく……
翌日、取り巻きを引き連れ、白いリムジンで事務所から出ようとしていた、いかにもヤクザの組長風の児玉と言う男に、かりあげクンみたいな頭をした小夜子がいきなり話しかけてくる。
小夜子「あなた、竜神組の組長さんでしょ?」
児玉「お嬢ちゃん、何か勘違いしてないかな? 私はアルファーエンタープライゼズの社長だが……」
小夜子「今はでしょ? お願いです、私、大事な話があるんです」
相手が可愛い女の子と言うことで、児玉はリムジンに彼女を乗せてやり、道すがら話を聞いてやる。

児玉「銀座のサラ金強盗?」
小夜子「犯人は私の兄なんです。社長さんの力で何とか兄を助けて欲しいんです」
児玉「どういうことかね、それは?」
小夜子「社長さんに頼めば安全なところに匿ってくれるって……」
児玉「ふ、そりゃなんかの間違いだ」
小夜子「兄さんには前科があるし、今度捕まったら一生刑務所から出てこれないかもしれないんです。たった一人の兄なんです、何とか助けてください」
児玉「そう言われても私はねえ……」
あることないことまくしたてて、大津たちが調べたのだろう、逃亡幇助組織と思われる児玉に縋ろうとするが、児玉も用心して簡単には言質を取らせなかったが、
小夜子「お金なら必ず兄に出させます。それでも足りないんだったら、私、どんなことしてでも……」
児玉「どんなことをしてでも?」 消え入りそうな小夜子の言葉尻をとらえ、分かりやすく欲望にギラついた目を向ける児玉っち。
ほんっっっと、男ってなんでこうスケベばっかりなんでしょう!
しかし、仮にもヤクザの組長がそれくらいのことで目の色変えると言うのもなぁ……モテない中学生じゃあるまいし。
一方、岩城は長谷にどこかの埠頭に呼び出され、それぞれの車に乗ったまま密談を交わしていた。

長谷「何か別の力が動いてる。今度の件はなんか引っ掛かる。それと関連があるか分からんか、芦沢雅子が昨日から連絡が取れない。くれぐれも注意してかかってくれ」
岩城「……」
長谷は言いたいことを言うと、さっさと帰っていく。
車から降りた岩城は、腹立たしそうにドアを蹴って閉めるが、岩城にしてはいささか子供っぽい仕草に見える。
そもそもなんで腹を立てているのか、良く分からないのだが……

小夜子は、自分の体をエサにしてうまく児玉の懐に潜り込むことに成功する。
まさに「チョロい」仕事であった。
児玉の目の前で服を脱ぎ、久しぶりにバックヌードを披露してくれた小夜子であったが、これからと言うときに、児玉っちに電話が掛かってきて中断され、

結局、肝心なシーンは見れずじまいで終わる。
まあ、ドラマの流れとしては、その体で存分に児玉を楽しませてやったと見るのが自然だが、前回やった5話で、相手に身を任せると思わせて睡眠薬を盛っていたことからも分かるように、三枝たちに対しては誰とも寝る軽いオンナのように振る舞いながら、実は意外と身持ちが堅いのではないかと思える描写があるので、実際にこの後どうなったのかは不明である。

恐らく、同じ日と思われるが、香織の勤めている病院の前で車が急ブレーキを掛けると、ドアが開いてスーツ姿の若い女性をゴミでも捨てるように投げ出し、風のように走り去る。
投げ出された女性は、アスファルトの上に体を投げ出したまま、びくりとも動かない。

まさかと思ったが、そう、それは雅子の変わり果てた姿だった。
香織「雅子さん!」
たまたま病院から出てきた香織が気付いて駆け寄るが、雅子は既に事切れていた。
最終回とは言え、若い女性レギュラーが唐突に、それも拷問を受けた末の無残な死を迎えると言うのは、いくらフィクションとは言え悲しいものがある。
とりわけ、演じている戸川さんも早世されたことを思うと、胸が痛くなる。

病院の安置室に横たえられている雅子。
娘から知らせを聞いて駆けつけた長谷が白布を剥ぐって、忠実な秘書の死に顔を見る。
その雅子の鼻にしっかり綿まで詰められているリアルさにちょっと引く。
香織は雅子の顔を白布で覆いながら、

香織「死因は内臓破裂、何かを言わせようとして拷問されたとしか思えないわ」
長谷「彼女は特別な訓練を受けた。どんなひどい目に遭わされようと秘密は口にはしなかった筈だ」
香織「良くそんなことが言えるわね、部下がこんな惨たらしい死に方をしたって言うのに!」
長谷「……」
自分の娘と同じ年頃の女性の惨殺死体を前にして、平然としている父親に、声を荒げて軽蔑の眼差しを向ける香織。
生前、香織と雅子は互いの存在を邪魔に感じていたようだが、無論、心優しい香織は、雅子の死を心の底から悼んでいるのだ。
香織「雅子さんが殺されたのはお父様のせいよ。今に他の人たちだってこうなるんだわ!」
長谷「何を言うんだ、香織」
香織は、無言でポケットから皺くちゃの紙片を取り出して父親に差し出す。

長谷「……」
香織「彼女の口の中に押し込めてあった」
血で汚れた紙片には、「ウラデカ」の4文字が記されていた。
これもいまひとつ意味不明なのだが、これは犯人たちからの警告だったのだろうか?
しかし、そんな警告をすることに意味があるとも思えないが……
また、そもそも犯人(無論、児玉たち)が雅子から何を聞きだそうとしていたのかも、良く分からない。
普通に考えれば、裏刑事についての情報が欲しかったとなるのだが、彼らに雅子の拉致を命じたのは袴田なのだが、袴田なら、雅子の知っている裏刑事の情報は共有している筈だから、わざわざそんなことをする必要は全くない筈である。
それとも、児玉たちの黒幕である袴田が、裏刑事の捜査の手が自分にまで及ぶのを恐れて、捜査状況を雅子から聞き出そうとしたのだろうか?
その夜、霧笛の響く吹きさらしの公園のベンチで、再び会っている岩城と長谷。

岩城「今回に限ってどうしたんですか? 我々はあまり会わないほうが良いんじゃないですか」
長谷「緊急のことだ。質問はするな、黙って聞いてくれ。芦沢が殺された。委員会に内通者がいる。恐らく背後にとんでもない黒幕が潜んでいる、そいつが分かるまで、奴らの罠に掛かっていてくれ。以上だ」
岩城「……我々があんたの使い捨ての駒だってことはよく分かってる、しかし長谷さん!」
長谷「質問はするなといったはずだ。私は別方向から調査する」
雅子の死を知らされた岩城、込み上げる怒りを抑えながら何か言いかけるが、長谷にぴしゃりと封じられて押し黙る。
その気になれば、いつでも好きなときに岩城の心臓のペースメーカーを止めることができる長谷には、どうしても逆らうことが出来ないのである。
岩城は、急遽ラビリンスに仲間たちを集め、長谷からの情報を伝える。

大津「ほなら、敵の組織は、俺らが動いているのに気付いてるちゅうんですか?」
岩城「ああ、もし正体がばれたら、俺たちはその場で殺される……降りたければ降りても構わん」
無論、そう言われて「ハイそうですか」と引き下がるような大津たちではない。
岩城「小夜子さん、組長の児玉、俺に会いたいって言ってるんだな」
小夜子「まだ疑ってるみたいです」
大津「奴らきっと、裏を取るために岩城さんに接近してきますよ」
岩城「すまんがもう少し児玉のそばにいて、内通者の正体を探り出してくれ」
小夜子「はい」
しかし、内通者から児玉たちに情報が流れているのは岩城たちも承知しているだろうに、「まだ疑ってる」もへったくれもないような気がするのだが……?
現に長谷は「奴らの罠に掛かっていてくれ」と頼んでいるのだから、既に岩城たちの正体を知っている児玉たちを騙そうとするのは、なんか変じゃないか?
あるいは、袴田は、超法規委員の元締めではあるが、裏刑事の担当はあくまで長谷で、裏刑事たちの顔や名前、具体的な捜査内容までは知らないということなのか?
それもなんか不自然のような気もするなぁ。
それはさておき、すぐに出掛けようとする小夜子を三枝が呼び止め、見せたいものがあるといって自分の事務所へ連れて行く。

三枝が見せたのは、古い新聞記事のコピーであった。

三枝「この婦警さん、君だね?」
小夜子「違うわ」
三枝「ふっ、怖い顔すんなよ、お酒飲もうか?」
そこが事務所なのか、三枝のマンションなのか不明だが、ついで、ソファに向かい合って座って酒を飲んでいる二人の姿が映し出される。

小夜子「弱虫だったの、結局世間に勝てなかった弱い男……そんな男についていった私もバカ、大バカ」
三枝「ひとり死に損なっちまったんだなぁ……つらいよねえ。でも、生きてるんだからさぁ、なんて言うの、その、もうちょっと自分を大事にしたら?」
小夜子「悪徳弁護士の成れの果てが良く言うわ」
三枝「そう、良く言うよね、ほんとに……酔っ払ったかなぁ、俺なぁ」
小夜子「ふふふ」
三枝「乾杯!」
三枝と小夜子が、初めて心を通じ合わせた夜であった。
しんみりとして良いシーンなのだが、肝心の心中事件についての説明がほとんどされないのが歯痒い。
小夜子の口ぶりから、別に裏がある訳ではないようなので、小夜子の恋人が「企業との癒着」を追及されて、小夜子と心中しようとしたのは事実らしいが、それくらいのことで公安の刑事が自殺なんかするだろうか?
また、記事では小夜子もはっきり死んだと書いてあるのに、なんで今もピンピンしているのかも謎だが、彼女も岩城のように、表向きは死んだことにされ、裏刑事として新たな身分を得たと言うことなのだろうか。
うーん、でも、裏刑事プロジェクトは、そもそも岩城の「死」がきっかけの筈だったのだから、そのずっと前に小夜子が同じようなことを経験していると言うのは、いささか変である
ちなみにチラッと映る新聞記事だが、ちゃんと見出しどおりの記事がびっしり書き込まれていて、こういう細部のこだわりには感心させられた。
また、それによって小夜子の昔の名前が中井佳代で、当時20才だったことが分かる。
つまり、現在の小夜子は24才前後と言うことになるわけである。
一方、岩城は、敵との銃撃戦の最中に心臓のペースメーカーが止まり、動けなくなったところを敵に撃ち殺されると言う悪夢を見て魘されていた。
岩城が寝汗をびっしょり掻いて目を覚ますと、硬い靴音を響かせながら、何者かが廊下を歩いてこちらに向かってくる。
そんな夢を見た直後だけに、全身に緊張を漲らせて相手を待ち構える岩城だったが、

香織「はっ」
勝手に鍵を開けて入ってきたのは、意外にも香織であった。
しかし、いくら主治医だって、真夜中に、チャイムもなしに人ん家に入ってきたらあかんだろ。
こういうところなんだよね、管理人が「シナリオの粗雑さ」を感じるのは……
岩城「なんだ、君か、どうしたんだ、こんな時間に?」
香織「雅子さんが死んだわ」
岩城「君のオヤジさんから聞いた」
香織「怖い、今度はあなたが狙われるわ」
岩城「漸く俺の死に場所が見付かったようなもなんだ」

香織「いやよ、もしあなたが死んだら私……」
岩城「……」
かつては岩城に対してひたすら冷たく素っ気無かった香織が、恋人のように岩城の逞しい肩に縋りつく様子は実にツンデレで萌えるのだが、いささか唐突な感じがしないでもない。
ドラマは、暗闇の中で抱き合っている二人を映したままCMとなるが、この後、やっぱりベッドインしたのだろうか?
翌日、児玉の部下が岩城の泊まっているホテルの部屋の前にやってくると、中から男の声が聞こえてくる。

岩城「口止め料だぁ? 冗談言うなよ」
三枝「1000万でいいからまわしてくれよ」
岩城「ふざけるなっ!」
三枝「そうかい、じゃあ、俺のほうにも考えがあるぞ」
岩城「どうしようって言うんだ、まさかサツにタレ込む気じゃねえだろうな?」
三枝「何をしようと俺の勝手だろうが」
つまり、児玉の部下に、彼らも知っている小悪党の三枝が、岩城を脅して金をゆすりとろうとしている芝居を見せている訳なのである。
まあ、これも、児玉たちが岩城たちの正体を既に知っていたとしたら、これほど間抜けな「芝居」はないのだが……

ともあれ、捨て台詞を吐いて行こうとする三枝の腹に、岩城が深々とナイフを突き立てる。
三枝が迫真の演技を見せつつその場に倒れると、部下たちが銃を手に入ってくる。
岩城「なんだよ、あんたたち?」
男「静かにしろ」
岩城「おいおいおい、なんだよ、え、警察か?」
二人は岩城が銃を持ってないのを確かめると、無理矢理岩城を連れて行く。
殺された筈の三枝は、やおら起き上がると、

三枝「経費で落ちるかねえ、このシャツ気に入ってたんだけどなぁ」
そのナイフが、三枝の得意のマジックの小道具だったことは言うまでもない。
岩城は背中に銃を突き付けられたまま、事務所の児玉の前に引っ立てられる。

児玉「そうですか、殺しまでやったのなら、どうも私どもの見当違いのようですね」
岩城「なんのことだい」
児玉「いや、あなたがほんとうにサラ金に押し入ったかどうか不安だったんですよ。裏刑事ではないようですね」
岩城「なんだそりゃ? からかってんなら帰らせてもらいてえな」
うーん、と言うことは、やはり児玉っちは岩城が裏刑事であることを袴田から知らされてなかったのか、あるいは袴田自身も知らなかったのか?
まあ、それなら、雅子を拷問してまで聞き出そうとしたのは、岩城たちの情報だったと理解できるが……
児玉は、5000万で岩城のパスポートを用意してやると持ちかける。

岩城「へへっ、馬鹿言うなよ、パスポートの偽造で5000万……」
児玉「それだけじゃありません、ルートも確保します」
岩城「……分かった」
児玉「商談成立ですね。妹さんも喜びますよ」
しかし、児玉たちを完全に信用させるには、ちゃんと三枝が殺されたことがニュースで報じられないとダメだと思うのだが、そこまでの偽装工作をした様子は見えないのが、これまた物足りない。
その後、超法規委員会の会議室で、長谷と袴田が話している。

袴田「そうか、遂に犠牲者が出たか……」
長谷「かわいそうなことをしました。拷問を受けたようです」
長谷から雅子の死を知らされて、自分で命じておきながら、沈痛な表情で嘆息してみせる袴田。
袴田「敵の狙いは裏刑事と言うことか」
長谷「いえ、まだそうとは限らないでしょう。ただ、この件に関してどこからか情報が漏れているとしか思えません。委員会に内通者がいるものと思われます」
袴田「内通者?」
長谷の言葉に、弾かれたように振り向く袴田。
長谷「あくまで可能性です。捜査を続行します」
長谷が黒幕と睨んでいる袴田にわざわざそんなことを告げたのは、勿論、袴田を動揺させてアクションを起こさせるためである。
例の高台にある公園のベンチに、杖をついた老人が座っている。

児玉「どうもお待たせいたしまして……」
そこへ神妙な顔つきの児玉っちがやってきて、相手を待たせたことを謝罪する。
袴田「いや、私も今来たところだ」 それに対し、まるで彼女みたいな台詞で応じた老人は、言うまでもなく袴田御大であった。
児玉「お急ぎと言うことですが……」
袴田「……」
隣に腰掛けた児玉に、袴田は無言で封筒に入れた写真を渡す。
長谷の写真であった。
袴田「長谷貢、裏刑事を担当する男だが、いささか頑迷で迷惑をしておる。長い休暇をやろうと思っているんだ」
児玉「殺せと仰るのですね」

袴田「私は長い休暇と言っただけだ、やり方は君に任せる」
この後、
長谷「袴田さん、私、豪華クルーズ船で行く世界一周ペア旅行の懸賞に当たりましてね」
袴田「ええっ?」
長谷「いやぁ、応募した覚えはないのに、ラッキーだなぁ」
袴田「ははは、それはおめでとう……」
長谷「じゃあ、久しぶりに長い休暇を取って、娘と一緒に行って来ますんで、あとよろしく」
袴田「……」
袴田は、児玉っちが
まれに見るバカだったことを思い知らされて歯噛みするのだったが、嘘である。
嘘であるが、その後の会話を聞くと、
児玉「わかりました、いよいよ袴田先生も計画が大きく……」
袴田「名前を呼ぶなと言った筈だ」
児玉「迂闊でした。申し訳ございません」
児玉っちが、稀に見るバカだと言うことはあながち間違ってはいないようである。
こんな密談シーンで、相手の名前を割りと大きな声で口にする奴ぁいないっての。
あと、児玉が口に仕掛けた「計画」だが、これも結局なんだったのか、視聴者には示されないまま終わるのも、このドラマらしいトホホさである。

で、まあ、案の定、彼らの会話はすぐそばで聞き耳を立てていた小夜子にすべて聞かれてしまう。
ほぼ毎回のことだが、このように、悪人たちがあまりに歯応えがないというか、脇が甘い連中ばっかりなのも、このドラマのつまらなさに大いに貢献していると思う。
つーか、この程度の悪人も逮捕できんのか、表刑事は?
ただし、今回は最終回と言うことで、敵もそこまでアホではなく、

立ち去ろうとした小夜子は、児玉の部下の殺し屋・塚越に捕まってしまう。
その後、だだっぴろい倉庫で岩城が待っていると、児玉が部下を引き連れて到着するが、

児玉「もうお芝居はやめましょうよ、裏刑事さん」
児玉はカステラ一番、いや、開口一番、岩城の正体を言い当てて部下に銃を抜かせる。
……
あれ、やっぱり、児玉っちは最初から岩城が裏刑事だと知っていたんじゃないか!
じゃあ、それまでの無意味なお芝居は一体なんだったのか?
それとも、捕まった小夜子が口を割らされたのだろうか?
でも、雅子でさえ耐えたのだから、小夜子が簡単にゲロするとも思えないが……
ともあれ、岩城はヤケクソ気味に大笑いすると、手にしていた札束をばら撒いてみせる。
それらはすべてただの白い紙であった。
児玉「そんなことだろうと思ってましたよ。消えてもらいなさい」
だが、岩城もひとりで児玉たちを相手にするほど不用心ではなく、倉庫の中には既に大津たちが待機していた。
部下の持っていた銃を弾き飛ばすと、逆にそれを児玉たちに突きつける。

岩城「児玉、黒幕は誰だ?」
と、今度は岩城たちの背後で銃声が上がり、

塚越「動くな! 少しでも動いたら、この女の命はないぞ」
塚越が、雅子と同じように口にテープを貼られて縛られた小夜子を連れてあらわれ、またまた形勢逆転。
三枝「小夜ちゃん!」
児玉「お嬢さんがすべて教えてくれました」
……って、やっぱり小夜子が白状したんかいっ!
うーむ、納得行かないなぁ。
まあ、でも、これで、袴田が岩城たちのことを知らなかったことが明らかになったが、前述したように、今度は超法規委員会のトップと思われる袴田がそんな基本的なことを知らなかったと言う、別の矛盾が発生してしまう。

また、岩城が小夜子に対し、「だいじょうぶだよ」とでも言いたげにウィンクするのだが、これもいまひとつ意味のわからないウィンクであった。
あるいは(秘密をバラしたことを)「気にするな」とでも言いたかったのだろうか?

小夜子「……」
岩城たちへの申し訳なさか、敵の手に落ちた悔しさからか、小夜子の頬を一筋の涙が伝い落ちる。
なんだかんだで、この女優さん、奇麗なんだよね。
90年代の(今見ると)恥ずかしい髪型やメイクのせいで、その本来の美しさが損なわれているように見えるのが、雅子ともども惜しいと思うのだ。
で、残念ながら、児玉っちはやはり
「まれに見るバカ」だったようで、さっさと撃ち殺せば良いのに、
児玉「もうひとつ教えてもらいたいことがあるんですよ」
と、さらに岩城から情報を聞き出そうとする。
いや、どう考えても、もう他に聞くことないでしょう?
好きな野球チームでも聞こうと言うのだろうか?

そうやってモタモタしているうちに、小夜子が捨て身の反撃に出て、塚越から銃を奪おうとするが、さすがに無謀過ぎた。

倉庫の抜け落ちた窓を、ジャンボ機が通り過ぎていく映像に銃声を重ねることで、悲劇的な凶事の発生を示唆した、この演出センスはなかなか見事だ。
ハッとして振り向く岩城たちのアップに続いて、

塚越に撃たれた小夜子が、目を見開いたままその場に崩れ落ちる。
で、それをまたボーッと見ていた児玉たちに、野獣のように猛り狂った大津たちが襲い掛かるが、意気地なしの彼らは、スタコラサッサと逃げ出すのでした。
「まれに見るバカ」だけじゃなく、
「まれに見る腰抜け」だったか……
児玉たちは大津に任せ、三枝は慌てて小夜子に駆け寄り、抱き起こす。

三枝「小夜ちゃん! 小夜ちゃん! 痛い? ねえ、小夜ちゃん?」

小夜子「私、どうした? ……岩城さん、黒幕は袴田って名前……児玉がそう呼んでた」
岩城「袴田か。分かったよ」
小夜子はうつろな目で三枝を見上げ、独り言のようにつぶやくが、岩城の姿に気付くと、裏刑事としての最後の任務を果たす。

小夜子「ねえ、次は何をすれば良い?」
頑是無い子供のように、あどけない目で尋ねた後、三枝に視線を戻すと、いつものからかうような口調で、

小夜子「悪徳弁護士ぃ、彼みたいだよ」
三枝「分かったよ、何も言うな」
三枝、涙をすすりながら小夜子の頬に優しく手を添える。
小夜子「あったかい……」

そうつぶやくと、がくりと頭を傾け、小夜子は「裏刑事」としての、あまりに短い生涯を閉じる。
三枝は無言で小夜子の体を抱き締めていた。
正直、小林沙世子さんの演技は上手いとは言えないのだが、ここは素直に泣ける哀切のシーンとなっている。
少なくとも、5話のゲストの水野美紀さんのリモート死よりは心に沁みる死に様であった。
CM後、いつもの診察室で長谷と向かい合っている岩城。
長谷の足元には二つのアタッシェケースが置いてあった。
ひとつはいつも雅子が渡すことになっている銃を入れたケースであろう。

長谷「そうか、やはり袴田君だったか」
岩城「見当はついていらしたんですね?」
長谷「だが、そうであって欲しくないと願っていたが、残念だ」
岩城「指令を承りましょう」
長谷「その前に君に渡すものがある」
長谷はアタッシェケースのひとつを取って開くと、
長谷「ペースメーカーのリモコンだ。私の記憶している暗証番号で君の心臓を停止させることが出来る」
説明しながらメカのボタンを押していく。

岩城「……」
その電子音を、脂汗をだらだら流しながら聞いている岩城。
……
いや、岩城さん、さっきは香織に「漸く俺の死に場所が見付かったようなもなんだ」とか、ハードボイルドな台詞言ってませんでしたっけ?
それが急に命が惜しくなったように縮こまると言うのは、ちょっと幻滅だなぁ。
しかも、彼らが話している最中に香織がやってきて、部屋の外からその様子をしっかり見られていたので、なおさら恥ずかティーではありませんか。
もっとも、このタイミングで長谷が岩城を殺そうとするなどありえないのだが。

長谷「これは操作をひとつでも間違うと、機能をすべて失うように出来ている。つまり誰でもが押せるという訳ではないんだ。最後に指紋照合でセットされる」
岩城「もう私をコントロール気持ちがなくなったということですか?」
長谷「そのとおりだ、今日限り裏刑事の組織は解散する。今回の指令を受けるか否かは、君自身で決めてもらいたい」
ケースを渡された岩城は、

さすがに緊張した面持ちで、指紋認証パッドに、自分の人差し指を押し付ける。
当然エラーコードが出て、あっさりリモコンは機能を停止する。

肩で大きく息をつく岩城。
パタンとケースを閉めると、思いっきり床に叩きつける。
そしてやにわに長谷の胸倉を掴むと、
岩城「貴様ぁーっ、命を管理されて生きることがどういうことか、貴様に分かるかーっ?」 長谷(意外と気にしてたんだね……) いまだかつて見せたことのない生の感情を爆発させると、長谷の体を思いっきり投げ飛ばす。
まあ、確かにペースメーカーのことは最初に告げられているけど、長谷はそれっきり岩城の前にあらわれることはなく、その後も別にペースメーカーのことを持ち出されて脅されるようなシーンはほとんどなかったと思うので、正直、そこまで怒らなくてもいいのでわ? と言う気はする。

香織「……」
香織は自分の父親が暴力を振るわれるのを目の当たりにするが、主治医として、恋人として、岩城の気持ちは痛いほど分かるので、あえて止めようとはしなかった。
もっとも、熱しやすく冷めやすい岩城は、それで気が済んだのか、気息を整えながら、「ギャラをいただきましょうか」と、敬語に戻って指令を受ける意思を表明する。
長谷「やってくれるのか」
岩城「……」
岩城、長谷から小切手の入った封筒を受け取ると、もうひとつのケースを掴んで診察室を出て行く。
香織「やっぱり行くのね?」
岩城「……」
香織「なぜぇ? あなたはもう自由なのに……お願い、行かないで、私、もうこれ以上あなたを危ない目に遭わせたくないの」
廊下の角で待っていた香織が岩城を呼び止め、懸命に説得するが、
岩城「コントロールされていなくたって俺の心は裏刑事なんだよ。それに奴らをやらなきゃ、あんたのオヤジが殺されることになるんだ」
香織「……」
岩城「いや、世話になった君には……どっかでな、また君よりもうんと素敵な主治医を見付けることにするか……」
いつもの岩城らしい台詞を口にすると、香織の顔を愛しそうに撫でてから、去って行く。
ラビリンスに仲間を集めた岩城は、小夜子の分も含めた小切手をカウンターに並べる。
岩城「今回のターゲットはアルファーエンタープライゼス社長・児玉、殺し屋・塚越、それに超法規委員会メンバー・袴田だ」
三枝「これが最後の仕事か」
岩城「長いようで短かったな」
大津と南は立ち上がると、岩城に対して警察式の敬礼を施す。
岩城をそれを受けてから、居住まいを正して小夜子の席に向き直り、

岩城「殉職者に敬礼!」
改めて、小夜子へ哀悼の意を示すと、大津も南もそれにならう。
三枝は敬礼こそしなかったものの、三人が行った後、赤いバラを小切手の上に置き、三枝なりに彼女の霊に敬意をあらわすのだった。
で、ここから今回最大の見所となるべき筈の「お仕置き」タイムとなるのだが、例によってこれが雑と言うか、テキトーと言うか、中途半端と言うか、とにかく煮え切らないのだ。
まあ、それはほぼ毎回のことなんだけどね。
まず、大津と南が宅配便を装ってアルファーエンタープライゼスに乗り込み、下っ端の組員たちをボコボコにする。
今回は三枝が珍しく薔薇のついたダーツで実際に人を殺したり(註1)、「小夜子の弔い合戦だ」と言って大津たちに代わって組員を痛めつけたりしているが、これも、殺していい相手と殴るだけの相手との境界が曖昧なように感じられて、すっきりしない。
註1……額にダーツを刺されて階段から転げ落ちているのだが、実際に死んだのかどうかは不明である。
ともあれ、大津たちに露払いさせた後、真打ち登場となるのだが、その岩城、児玉の部屋に入るなり、ドアの横にいた塚越に銃を頭につきつけられるというドジを踏む。
岩城(トホホでやんす……) だが、塚越、さっさと引き金を引けば良いのに、アクション映画の黄金パターン……悪役は主人公を殺せる機会を得ても、絶対にすぐ殺さないと言う轍を律儀に踏んでくれたので、隙を衝いてその足を払い、逆に撃ち殺す。
その殺し方も、倒れている相手の胸に銃を近付けて撃つと言う、
「お前の方がよっぽど殺し屋じゃねーか!」と、突っ込みたくなること請け合いの、およそ主人公らしくないものだった。
なんか、これ、素人orヤクザ同士の殺し合いに見えて、そこはかとなく悲しくなるんだよね。
それでも塚越は一度は岩城を殺す機会を得たのだからまだマシだったが、ボスの児玉にいたっては、ビビッて窓からテラス(屋上?)に逃げて、物陰に隠れていたが、あっさり岩城に見付かり、
児玉「仲良く出来ないか?」 こともあろうに、
友達申請をして助かろうと言う、情けないにもほどがある行動に出る始末だった。
岩城は問答無用で射殺する。
今回はさらにもう一幕あり、自邸の離れのような部屋でひとり習字をしていた袴田の前に、岩城があらわれる。

袴田「君は裏刑事だね」
岩城「……」
袴田「私を殺して何になる? 世の中の仕組みが変わるわけでもあるまい」
それでもさすがラスボスだけあって、袴田は銃口を向けられても顔色ひとつ変えず、悠々、書いたばかりの作品に落款を押す。
落款を押すまで引き金を引かなかったのが、せめてもの岩城の情けであったろう。
カメラが、岩城には見えない場所に置いてあるピストルを映しつつ、

袴田「君、戸籍が欲しくないかね?」
岩城「……」
袴田の言葉にスッと銃を下げる岩城。
次の瞬間、室内に銃声が響いて白い光が弾け、障子にぐらりと倒れる岩城らしき人影が映り、視聴者をハッとさせるが、

勿論、こんな場合に主人公が殺されるなんてことはありえず、死んだのは袴田のほうであった。
これも、無抵抗の老人を撃ち殺してるみたいで、後味が悪く、カタルシスどころの話ではない。
とにかく、これで裏刑事最後の仕事は終わり、裏刑事も解散となってメンバーはそれぞれの道を歩むことになるが、まず、小夜子を失って傷心の三枝に追い討ちを掛けるようなショッキングが事態が起きる。
三枝「うそぉ……マリちゃん、まさか、君が?」
真の黒幕……な訳はなく、

大津「ぬっはっはっはっはっ」
マリコ「ええ、そうなんです」
大津「はいはいはい、ああ、もう、後にしなさい。あの、すいません、新幹線の時間がありますんで、三枝さん、また縁があったらどっかで……ほな、マリコ、行こうか」
マリコ「うん」
大津「ぐふふふふ」
なんと、視聴者にとっても信じ難い、いや、許し難いことに、いつの間にか秘書のマリコが大津と良い仲になっていて、まるで新婚夫婦のようにイチャイチャしながら(多分関西に)旅立ってしまうのだった。
でも、マリコは今まで大津と顔を合わせたこともなかったと思うのに、この突然のカップル成立は、いかにも取ってつけたようで感心しない。
それも、南ならまだしも、大津のような競馬実況中継以外に何のとりえもない男などと……

三枝「……」
ともあれ、これからはマリコだけを心の支えにしようとしていた三枝、思いっきり当てが外れて言葉もなく立ち尽くすのだった。

一方、南は、岩城の住んでいたマンションに来て、いつも岩城が出撃前にやっていたポーズを、ちょっとおどけた顔で真似して見せる。
何の説明もないが、南、岩城からこの部屋をプレゼントされたのだろうか?
そして、最後は勿論、岩城と香織の行く末はいかに? と言うことになるが、80年代の特撮やドラマによく出てくるレンガ造りの倉庫で香織が待っていると、

たぶん、初めての登場になると思うが、岩城が愛車のオープンカーでやってきて、軽い調子で香織に話し掛けるが、ここから画面がセピア色になり、台詞も字幕だけになると言う、無声映画のようなレトロな画面に切り替わる。
岩城が、お世辞にもイケてるとは言えない口説で香織を誘うと、香織は迷うことなく岩城の隣に座る。
どうでもいいけど、岩城は数ヶ月前に一度死んで、全く新しい人間として生まれ変わったのに、16年乗ってる愛車って、おかしくないか?

岩城は少し車を走らせた後、香織と向かい合って熱い口付けを交わす……と言いたいが、実際は、唇と唇が最接近したところで画面が止まり、生殺しのままEDとなる。
うーん、最後ぐらいきっちりキスして欲しかったなぁ。
ハートボイルドタッチのドラマのクロージングにしては、妙に甘ったるいと言うか、お気楽だが、今回は女性レギュラーが二人も殉職してるから、その埋め合わせの意味もあったのだろう。
まとめると、最終回らしくハードなストーリーではあったが、シナリオ自体は相変わらず雑で、的確なツッコミを入れるのもままならないほどの完成度の低さが目立ち、正直、レビューを書くのがこれだけしんどい作品は久しぶりであった。
以上、「裏刑事」の厳選レビューでした!!
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