ラストです。
一同をロビーに集めた波越は、自信たっぷりに語り出す。

波越「では、これから、私が事件の真相を解明して、真犯人を検挙します。まずこの犯人は陽子さんを憎んでいた」

忍「まさか、私が犯人だと言うんですか?」
波越「まあまあまあ、そう慌てないで……その男は陽子さんと結婚するつもりでいた」
波越は色めき立つ忍をなだめると、そう言って野崎のほうを見る。
野崎「僕だと言うのか」
波越「そう、野崎三郎、君がこの連続殺人の主犯だ」
野崎「バカな、何を証拠に……」
波越「証拠はある」

波越「このハンカチだ。この頭文字のS.Nは、野崎三郎のイニシャル、つまり、君のハンカチだろう」
野崎「どうしてそれが?」
波越「君は忍さんを離婚させるために一役買って出た、ところが済んでしまうと陽子さんは君と結婚する意志がないと言った。そこで君が絞め殺したんだ」
例によって波越警部の推理は杜撰で、現場に落ちていたハンカチの持ち主イコール犯人だと決め付ける。この辺は、留吉と言うネーム入りのノミが犯行に使われたから、大工の留吉が犯人に違いないと考える、時代劇に出てくるへっぽこ同心or岡っ引きに通じるものがあり、「冤罪量産マシーン」の名に恥じない単純な発想と言えるだろう。
野崎「ヘボ刑事の妄想だ。僕にはアリバイがある」
波越「そのアリバイは作りもんだ。河野前夫人は共犯だ。口裏を合わせているに過ぎない」
波越の暴走は止まらず、アリバイを申し立てる野崎に対し、忍がその共犯だと言い出す。
忍「私は離婚させられたのよ、何がどうなろうと私には何の得にもならない」
忍がもっともな反論をするが、波越は動じず、
波越「文代君の調べたところによると、離婚届は東京に届いていない。上村さん、あんたが握り潰した」
上村「……」
波越「つまり、あんたも共犯者だ。河野陽水が亡くなって手元にある離婚届を破いてしまえば、離婚は成立しないわけだ。そして陽子さんを殺せば遺産はすべて忍さん、あんたのもんだ」
上村「馬鹿馬鹿しい」
波越「上村さん、あんた、河野夫人と前から関係があるでしょ」
上村「……」
離婚届のことや、忍と上村の関係など、明智顔負けの鋭さでズバズバ指摘していく波越警部。
ま、それらの事実が事件とは
何の関係もないのが玉に瑕であったが。
波越は強引に三人をしょっ引こうとするが、そこへさっきの医者がやってきて、
医者「あの、ちょっとお待ちください。ただいま、陽水先生が奇跡的に意識を取り戻されました。そして酸素ボンベのバルブを締めた人の顔を見たと仰っています。今、ここへ来てその人を教えたいと申しておられますが」

ゆかり「でも、だいじょうぶなんですか、重病人ここへお連れして?」
医者「ええ、私の家族じゃないんで……」 じゃなくて、
医者「ええ、私が付き添ってますから」
と言うわけで、やがて車椅子に座った陽水が、医者と看護婦に付き添われてロビーにやってくる。

で、その顔色と言うのが、とてもさっきまで危篤状態だったとは思えない血色なのが、明らかにダウトなのだった。
そもそも、いくら危篤状態を脱したからって、医者が車椅子に乗せて運んでくる時点でありえないことだし、犯人を見たのなら、医者の口から伝えて貰えば済む話なんだけどね。

河野「私は見たんだ、バルブを閉めたのは女だったよ」
開口一番、河野はそう言うと、
河野「加賀君、悪いことは出来ないねえ。私は20年前の復讐を受けたんだよ」
加賀「20年前?」
ここで、突然、その20年前の事件が回想される。
河野の声「霧ヶ岳は吹雪だった。道を失った二人は何時間も迷った挙句、やっと山小屋に辿り着いた」

吹雪の中を、ふらふらになりながら山小屋に辿り着いた若き日の河野と加賀を、山小屋の管理人の妻が甲斐甲斐しく介抱する。
河野の声「私を酒を飲んで漸く元気になった。だが君は疲労困憊のため、ぐっすり眠っていた」
ここで河野は、信じられない行動に出る。
すやすや眠っていた管理人の妻に、いきなり襲い掛かったのである!

妻「ああ、何するんですか、やめてください!」
……
さすがにそんな奴おらへんやろ? 自分たちを助けてくれた恩義に悖るとか以前に、雪山で遭難しかけたばかりの人間に、そんな元気があるとは到底思えないからである。
しかも、その隣には小学低学年くらいの彼女の娘が眠っていて、

娘「やめて、お母ちゃんいじめんのやめて!」
騒ぎに気付いて起き上がり、泣きながら訴えているというのに、

河野は委細構わず、行為を最後までやり遂げてしまうのだった。
ま、河野が強姦の常習犯だったとかならまだ分かるんだけど……
とにかく、このシーンは納得できないことだらけである。
自分の浅ましい所業を語った後、

河野「恥ずかしい行為だった。それから20年、私の酸素ボンベのバルブを締め、それを野崎の仕業と見せかけるためにイニシャル入りのハンカチを落としたのは……」

河野「その時の女の子、あんた……あんただ!」
河野目線で、遂に真犯人が指摘される。
無論、それはモデルのゆかりであった。
波越「ゆかり君、河野さんの言ったことは本当かね? 釈明したまえ」
と、三造がいきなり割って入って、波越の体を突き飛ばすと、

三造「違う、この子じゃない!」
河野「古田三造! 君はあの時の山小屋の主だ。私はこの二、三日、霧ヶ岳の一帯を歩き回って、そのことを調べた……」
河野の言葉に、妙な顔をして振り向く三造。

三造「この二、三日ぃ?」
河野「……」

他の人たちも、謎めいた微笑を浮かべている河野の顔に一斉に視線を向ける。

ゆかり「お父さん、この人、陽水じゃない!」
と、ゆかりが弾かれたように立ち上がると、二重の意味で意外な叫び声を上げる。

三造「ええっ?」
波越「お父さん?」
このタイミングで、河野の声が別人の声に変わる。
河野「とうとう本音を吐いたね。そう三造とゆかりは親子だ!」 三造「あんた、あんた、誰だ?」
三造の問いに答えるように、河野が悠々と車椅子から立ち上がる。
まず、付け髭を剥がし、白髪のカツラを外す。

ここで一旦、河野を後ろから捉えたカメラに切り替わるのだが、ここでは既に天知茂先生に入れ替わっている。

もう一度、正面からのショットになると、再び高橋さんになっており、頭が、黒々とした地毛(のカツラ)になっている。
なんか笑える……

そして、おもむろにゴムのマスクに手を掛け、剥いで行く河野。
もう画像を貼るのも飽き飽きの、ベリベリべりのお時間がやって参りました。

マスクの下から出てきたのは、明智の端正な顔だった。
そう、言うまでもなく、奇跡的に甦った河野は、死んだと思われていた明智の変装だったのだ!

文代「せんせぇーい!」
波越「明智くーん!」
たちまち喜色満面となる文代たち。

で、その後ろを、用済みとなった医者と看護婦が素早くはけていくのが、なんとなく可笑しい。
それを見送りながら、
波越「なんだ、医者もグルかよーっ」
今回は波越たち以外の第三者が知っていたという、珍しいケースであった。
明智は何事もなかったように話を続ける。

明智「河野画伯がゆかりさんのお母さんを犯したのを、加賀さん、あなたご存知ですね? だから河野画伯はあなたの面倒を見ていた。いや、あなたが河野画伯を脅迫していたとも言える」
加賀「……」
明智によると、その後、ゆかりの母親は白樺湖に身を投げて自殺してしまったらしい。
山小屋の管理人である三造、つまりホテルの地下室の管理人、古田三造はその夫だった。彼は遭難した河野と加賀を捜して小屋を留守にしていたのだが、こともあろうに、その河野によって妻が汚され、自殺に追い込まれたと知って、憤激する。
ただ、明智がどうやってその秘められた事実を突き止めたのか、具体的な描写がないのは物足りない。「冬の霧ヶ岳」が切り裂かれたと言う事件についても、言及されないままだし。
ま、あれは、陽水への恨みを込めて、三造かゆかりのどちらかがやったことなのだろうが。

明智「三造は娘と共に河野陽水に復讐を誓った。それから20年が過ぎた。ゆかりはモデルになって陽水に近付き、彼女の誘いで陽水一家が湖畔に来たのをチャンスに20年来の復讐を遂げようとした」
最初の陽子殺しは、ゆかりが陽子を地下室に行くよう仕向け、待ち構えていた三造が絞め殺したのだ。
うーん、しかし、河野本人はともかく、罪のない娘をいきなり殺すかなぁ?
乱歩作品にちょくちょく出てくる、復讐の一念に凝り固まった狂気の殺人鬼ならともかく。
その直後、ホテルの支配人が様子を見に来たので、三造は慌てて死体を隠し、自分の部屋で熟睡しているふりをしていたのだ。
明智「犯人はマキに見られているとも知らずに、陽子さんを全裸にして水槽に投げ込んだ。
最愛の娘が見せ物になるだけで、心臓の悪い陽水はショック死するだろうという予測があったからだ」
と、明智は言うのだが、肝心の仇をショック死させる為に、その娘を殺してしまうと言うのは、めちゃくちゃな発想ではないか。だったら、殺さなくても裸にして衆人環視の中に置くとか、もっと穏便な方法が取れただろう。

ちなみに、三造が陽子の死体を水槽に投げ入れる際、吹き替えの女性の尻の割れ目が一瞬映るのだが、これが、今回唯一のお宝ショットであった。
その後、マキに脅迫された三造が、ドクロの仮面を被ってマキを絞め殺したのだ。
ま、別にドクロの仮面被る必要ないんだけどね。
明智は続いて、ゆかりがドクロ仮面に襲われたときのトリックを解説する。
まず、小林少年にテープを渡し、地下室へ行ってそれを再生し、広間のモニターに映すよう頼む。
明智「私が、事件の謎を解く鍵は二つありました。ひとつは、水槽の泡の柱です。犯人は自分たちのアリバイを巧妙に偽装しました。しかしこのトリックが酸素機の故障と言う偶然により、自ら馬脚を現わしたのです」

やがてモニターテレビに水槽のライブ映像が映し出される。
明智「良く見てください、この酸素の泡の柱は三本あります。ところがこの真ん中の泡の機械がよく故障するんです」

続いて、さっきのビデオ映像に切り替わるが、それはドクロ仮面にゆかりが襲われた際、明智たちが見ていた……と言うより、見させられていた映像だった。
明智「良く見てください、泡の柱は二本です。陽子殺しの後、真ん中の機械が故障して二本になりました。翌日、三造が直し、元の三本となったのです。この直後、私は水槽の前に飛び出しました。その時の泡の柱は3本! しかしこのテレビ画面には2本しかない。と言うことはこの画面は、泡の機械のひとつが故障中にあらかじめ撮影されたビデオテープである。このテープは管理人室のロッカーの中から見付かりました」
つまり、ゆかりがドクロ面に襲われる場面を三造と一緒に明智に見せることで、ゆかりも被害者であり、なおかつドクロ面≠三造と言うことを示したかったのだ。モニターは全て三造が操作しているのだから、ライブ映像と偽って録画テープを見せることも可能だったのだ。
ただ、当の水槽を管理している三造が、そのことに気付かなかったと言うのも変だし、証拠となるテープを残しておいたと言うのは、もっと変である。
それはともかく、明智の理路整然とした説明に、

ゆかりも三造も観念したように俯き、

上村「うーん、見事な推理だ!」
加賀「いやぁ、芸術だよ、これは!」
波越「さぁすがぁ」
ギャラリーからも、次々と絶賛の声が上がり、文代さんも思わず拍手するのだった。
明智さん、心の中でガッツポーズをしていたことだろう。

明智「さて、第二のヒントは管理人室にかかっていた霧ヶ岳の写真です。そして河野画伯が若い時、山登りが好きだったこと。それが20年前、突然山の絵をやめてしまったことなどを考え、今度の事件の発端はすべてあの山にあるのではないかと思ったんです。私はそれとなくそれをゆかりさんに話し、山に向かったのです」
明智の説明で、やはり明智はわざとゆかりに山に行くと告げて、犯人たちがどう出るか試していたことが分かる。
でも、その時点では、まだゆかりが犯人の一味だと断定できるデータは得られてない筈なんだけどね。
で、ゆかりから聞いた三造が、明智の先回りして岩を落としたのだ。明智は大きな岩の陰に身を隠して無事だったと言う。

三造「申し訳ない」
三造はその場にべったり膝を突いて詫びる。
ゆかり「お父さん……」
明智「私は事件が解決に向かった時、いつも自分の力のなさを痛感します。もう少し早く気が付いていたら、あなたの罪を少なくすることが出来たのに、と」
ゆかり「いいんです、これで……先生、あたし6つだったんです。6つの時に目の前であんなことが……こんな気持ち、先生に分かりますかぁ? 分かりませんよね。分かる筈ないんです!」 明智の言葉は奇麗事だと言わんばかりに、生の感情を剥き出しにして叫ぶゆかり。
結局、波越の推理は的外れだったことがわかるのだが、
波越「いやぁ、我々は目の前をうろつく欲の皮の突っ張った連中の為に、とんだ見当違いをするとこだったよ」 厚顔無恥の波越は、濡れ衣を着せようとしていた上村たちに詫びるどころか、むしろ「お前らのお陰で捜査が混乱した」とでも言いたげな口調でぼやくだけだった。
あと、「我々」じゃなくて、「私」の間違いでは?

その波越が二人を連行しようとすると、三造が隠し持っていた拳銃を取り出して、波越たちを遠ざける。……って、そんな便利なもんがあるんなら、さっさと河野を撃てば良かったのでは?
三造はゆかりのこめかみに銃口を押し付けると、

三造「明智先生、ゆかりと一緒に死にます!」
明智「三造さん、やめなさい、ゆかり君にはまだ将来がある! 君たちの復讐はもう終わったんだ。陽水は確かに命は助かった。だが、意識不明、つまり植物人間になってしまったんですよ!」
三造「もう遅い、遅過ぎるんだ」
三造、目をつぶって引き金を引こうとするが、小林少年が咄嗟に飛びついて銃を叩き落す。

だが、三造はそれを拾うと、直ちに自分の胸を撃つ。
……この銃口の向きでは、どう見ても当たってないよね。

ゆかり「お父さん!」
三造「明智さん、ゆかりを……頼みます」
明智(いや、お前、いま殺そうとしてただろ?) そう言って前のめりに倒れた三造の体に縋りつくゆかり。
ゆかり「お父さん、どうして、どうして自分だけ逝ってしまったのよー」
と、今度はゆかりがその銃を手にして、明智たちを牽制しながらホテルから逃げ出す。
だが、さすがにもう逃げ切れないと見て、真っ直ぐ湖に行き、「来ないでー」と叫びながら、真っ暗な湖水の中にじゃぶじゃぶ入っていく。
何しろ銃を持っているので、迂闊に近付くことも出来ない。

ゆかり「あたし帰るんです、母のところへ……母に抱かれてゆっくり眠りたいんです」

明智「私は今三造さんに頼まれた。そんなことはさせん、生まれ変わるんだ!」
ゆかり「先生っ、どう生まれ変わるんですかっ?」 明智の2時間サスペンスのクライマックスにおける紋切り型の説得に、開き直って反問するゆかり。
ゆかり「あたしは人殺しなんです。どう生まれ変わったって、人殺しの罪は消えません。罪が消えるのは自分の手で自分の命を絶った時だけなんです!」
ゆかりは背中を向け、更に湖の奥へ進む。

明智たちは尚も声を枯らして説得するが、ゆかりは遂に引き金を引く。

撃った瞬間、ゆかりの上半身がギョクンと痙攣するように飛び上がるのがリアルである。

文代「はっ」
今まで、幾度か犯人が自殺するのを見てきた文代さんも、こんなショッキングな死に方は初めてだったので、楳図かずおのマンガみたいな物凄い形相になる。
続いて、ゆかりの体が湖面に落ちる音が響く。
明智の声「ゆかりの姿が湖水に消えて、この事件は終わった。だが、この白樺湖の奥深い湖底の何処かで、ゆかりはいまだに魚たちと遊んでいる。そんな気がして、ならない」 こうして事件は悲劇的な結末を迎えて終わる。

ここで、まるで湖底でゆかりが踊っているかのように、水中ショーのイメージ映像が映し出され、EDとなる。
ちなみに、今度の事件で一番得をしたのは、忍だよね。
目障りなゆかりも陽子も死に、陽水は廃人同然だが、法的にはまだ陽水の妻なのだから、その財産を管理すると言う名目で、好き放題出来るようになった訳だし。
さて、この作品、原作とはほとんど……と言うか、全く別物のストーリーとなっていて、普通の2時間サスペンスとしてはそこそこ楽しめるが、猟奇性にしろ、トリックにしろ、小道具にしろ、美女シリーズとしての各要素は極めて稀薄で、作品全体の印象も弱い。
とりわけ、水着姿の女性は出てくるのに、おっぱいがひとつも出てこないというのは、まさに蛇の生殺しのようで甚だ物足りなかった。
その一方で、最後と言うことで、五十嵐さんたちの出番がいつになく多く、レギュラー4人のまったりした掛け合いが随所で楽しめるのが、ファンには嬉しいサービスであった。
- 関連記事
-
スポンサーサイト