※この記事は2015年2月に公開した記事に画像を追加し、加筆訂正したものです。 今回紹介するのは、1985年3月9日放送のシリーズ第24弾
「妖しい傷あとの美女」である。
原作は、乱歩の戦前の力作「陰獣」である。これは、明智小五郎は登場しないが、作中に乱歩自身をモデルにしたような奇矯な探偵小説家が暗躍し、また、乱歩の有名作品をもじったタイトルがいくつも出てくるので有名な作品なのだ。
ストーリーは、昔の恋人に復讐されると恐れる美貌の人妻に相談された推理作家が、奇妙な殺人事件に巻き込まれ、ついでに人妻と良い感じになると言うもので、乱歩の作品としては珍しく、恋愛が重要なテーマとなっている。本格ミステリーとしても優れており、二転三転する真相の衝撃度は、乱歩作品中でも屈指のものである。
ちなみにこの原稿を貰ったのが、「新青年」編集長だった横溝正史で、正史は後に「パノラマ島奇譚と陰獣が出来る話」と言うエッセイの中で、乱歩と「陰獣」の原稿料についての、狸と狐の化かしあいのような駆け引きをリアルに描いている。とても面白いので機会があれば是非読んで頂きたい。
ドラマ版は、語り手の「私」を明智にスイッチした他は、ある程度、原作に忠実だ。原作は殺人事件は1件しか起きないので、多少、殺しを増やしているけど、大筋にはあまり影響はない。

アキラの声「殺しは華麗な方がいい、美しい女が美しい姿で殺される、それが殺人の美学と言うものだ。だからこそ俺は、水着姿の若い女を第一のいけにえとして、選ぶことにしたのだ。……そのホテルには室内プールがあって、宿泊客へのアトラクションに、アクアティックバレエを披露していた。プールサイドには、小山田商会社長、小山田六郎が、取引先の外国人バイヤー達を招いて、もてなしていた……」
冒頭、暗闇の中で、ワープロ専用機に向かって原稿を打っているアキラこと、中尾アキラ。後に分かるが、彼は大江春彦と言う新進のミステリー作家なのだ。原作では、春泥。

小説と符合するように、とあるホテルで外国人バイヤーたちと歓談している小山田を演じるのは、根上淳さん。

そして、毎度お馴染み、近藤玲子水中バレエ団によるアクアティックバレエ(要するにシンクロみたいなもの)の後、小山田の先妻の娘・陽子が、きらびやかな衣装をまとって登場。
自他共に認める親バカの小山田は、陽子のソロプレイをみんなに見せるのを自慢にしていた。
娘のソロプレイをみんなに見せる……
今、管理人が頭の中に描いている光景は、とてもここでは書けません。
それはともかく、一分以上息を止めたまま、水中で様々な演技を見せる陽子。
だが……
誰にも見えなかった!! そうなんだよなぁ、ワシらは水中カメラで見れるけど、プールサイドにいる人たちには水の中で動いている影しか見えなかったろうから、意味ないよなぁ。
娘の演技が終わったので盛んに拍手を送っていた小山田であったが、娘がなかなか浮上しないので段々不安になってくる。
アキラの声「小山田陽子の体は、それっきり浮かび上がっては来なかった……」 果たして、陽子は水の底で眠るように死んでいた。小説の内容そのままに……
アバンタイトルで早くも殺人が起きると言う、なかなかスリリングな導入部である。

なお、今回、脱ぎ女優役で、こういう人が出ているのだが、物凄い名前である。
どう見ても貴族の出だが、こう見えて、「愛のコリーダ」でナニをして、「日本で三番目の本番女優」と言う、凄いんだか凄くないんだか良く分からない称号を得た女優さんなのである。
OP後、いつも暇な波越警部がいつものように明智事務所にやってくる。
波越「明智君、いる?」
小林「病院です」
文代「年に一度の健康診断、本人は体のことなんか全く構わないんだから、こっちで病院の予約を取って強引に行かせたんです」
波越「そりゃいいことだ。人間どんなに丈夫そうに見えたって、どんな病気が潜んでいないとも限らないからねえ。現に今日もホテルのプールで若い女がアクアティックバレエの最中に変死したと言う通報があった。それ殺しだって駆けつけてみたところ、これがただの心臓麻痺だ。怖いねえ、体は大事にしなくっちゃ」
波越が実感を込めてしみじみとつぶやくが、数ヵ月後に天知先生がクモ膜下出血で亡くなることを思えば、なんとなく背筋が寒くなるような台詞である。
話を聞いていた文代が、興味津々と言う様子で身を乗り出し、

文代「ひょっとしたら、それは巧妙な殺人だったんじゃないんですか?」
波越「バカなこと言うなよ、綿密な検視の結果でも外傷はなかったし、異常な反応も検出されていないんだよ」
文代「プールの底の注水孔を調べてみましたか? 注水孔の金属部分に導線を接続し、スイッチの開閉によって電流が流れるようセットする。水中を流れた電流が心臓の筋肉に痙攣を引き起こす。しかも被害者は一分間も息を止めて演技を続けた直後で、心臓には大きな負担がかかっていた……だから電流のショックが倍化されて心臓麻痺と同じ症状を……」
文代は得意そうに滔々とまくしたてるが、波越は皆まで聞かず、
波越「よしてくれよ、そんなのはなー、推理作家が考えるような絵空事のミステリーだよ」
うんざりした顔で切り捨てる。
三代目文代を演じるのは、藤吉久美子さん。この24作目と最後の25作目だけの出演なのが残念だ。

文代「その通り!! 今読んでいたとこ、週刊ミステリーの新連載小説!!」
文代、我が意を得たりとばかりに、雑誌を広げて警部の目の前に掲げる。
老眼の波越は、それを思いっきり離して、
波越「うん? 大江春彦、あんまり聞かない名前だな」
文代「推理界の新星、衝撃のデビューですって」
波越は小説の冒頭の一節を音読するが、それは、さきほどアキラがワープロに打ち込んでいたのと全く同じ文章だった。
文代や小林少年は、その変死が小説のように巧妙に仕組まれた殺人ではないかと考えるが、警部は憤懣やるかたないという顔で否定する。
波越「君たちはまさかそんなものを真に受けているんじゃあるまいな」
小林「でも状況はピッタリじゃないですか。作り話にしては出来過ぎていますよ」
と、そこへ病院から電話があり、明智がまだ来てないと知らせてくる。
文代「逃げられたか……」

文代「よーし」
そっちがその気なら、こっちにも考えがあるとばかり、節煙と書かれていた色紙の上に「禁煙」と書かれた紙を貼る文代であった。

その明智さん、検査をサボって美術館で時間を潰していた。
ふと、視線を感じ、振り向くと、

明智「……」
リアルサザエさんみたいな髪型をした女性が立っていた。
女性はすぐ目をそらしてそそくさと立ち去る。
後に分かるが、彼女は小山田の後妻で静子と言う。演じるのは佳那晃子さん。

その後も、静子は暢気にコーヒーを飲んでいる明智さんの後ろに立つが、明智さんの視線に気付くと逃げてしまう。何かのっぴきならない用事があるらしいのだが、なかなか切り出せないと言う風情である。
明智も気になって、こちらから思い切って話しかけてみる。
明智「何か私に用があるのではありませんか?」
その際、明智は、静子の艶かしいうなじに、みみずばれのような傷跡があるのに気付く。
静子は名を名乗り、やはり明智に相談したいことがあるのだと打ち明け、バッグから小山田宛の封書を取り出して、明智に見せる。
それには、あの大江春彦のミステリー小説の切抜きが同封されていた。

明智「この小説どおりの事件が起こったと仰るんですね?」
静子「はい、プールで死んだ小山田陽子は私の義理の娘でございます。亡くなった前の奥様の……」
明智「なるほど、しかも実名そのままが登場人物の名前として使われてる」
静子によれば、その封書は本日午後、陽子の葬儀の準備の最中に速達で届いたもので、一読した小山田はたちの悪い悪戯だと決め付け、ゴミ箱にポイしてしまったが、静子は気になって明智に相談することにしたのだと言う。
しかし、封書が来て数時間もしないうちに明智のところに足を運ぶというのは、さすがに仕事が早過ぎるような気もするが……
それに、これから通夜だと言うのに、仮にも母親が家を空けていいものだろうか?
明智「消印は昨日の日付になってますね」
静子「小説どおりのことが起こるのを前以て知っていて、それを予告するように誰かが……」
明智「この大江春彦と言う作者に、お心当たりは?」
静子「いいえ」
小説には他に、静子が茶室で日課の茶を点てていると、茶碗から青酸ガスが発生し、危く死に掛けたと言うことが書かれてあった。実際、静子も同様の目に遭ったと言う。
明智「この小説によると、犯人は抹茶の中に青酸化合物を仕込んだことになっています」
静子「私を殺すために……そう書いてありますでしょう」
明智「そして同じ犯人が今度は陽子さんをプールで殺した……もしそれが事実だとしたらこれは恐るべき同時進行殺人です」
正体不明の殺人鬼に言い知れぬ恐怖と不安を感じ、思わず明智の腕に縋りつく静子に対し、
明智「わかりました、この事件は私が必ず解決して見せます」
静子「お願いできますか」
明智「勿論です、何もかも私にお任せ下さい!!」
相手が寄る辺なき風情の美女なので、いつになく力強く請合う明智さんであった。
一方、なんだかんだで文代たちの意見が気になったのか、波越警部、もう一度現場を調べにプールへ出向く。
プールの水を抜いて欲しいと頼むが、営業中と言うことで支配人に断られてしまう。

(なんだ、この画像は?)

(だから、なんだ、この画像は?)

やむなく、部下二人をプールに潜らせて調べることにするのだが、「パノラマ島」を除けば、肌もあらわなギャルたちがこれだけたくさん画面に映るのは異例のことで、本作の視聴率が、マイナーな題材にも拘らず24パーセントを記録したのは、案外その辺にも理由があるのかもしれない。
ともあれ、調査の結果、文代たちの睨んだとおり、小説に書いてあるのとそっくり同じ仕掛けが発見される。

波越「銅線のコードは注水管を通ってプール裏のマンホールに伸び、機械室へ……機械室にはスイッチが隠されていた。オンにすればプールに電流が流れる。ヒューズ代わりに太い銅線が嵌め込まれていた。プールでショートしても焼き切れないための細工だ」
事務所にて、警部の報告を聞きながら、例の小説を読み耽っている明智さん。
小林「やはり殺しだったんですね」

文代がいないので、「禁煙」の前で、堂々とタバコに火をつけると、
明智「プール近辺を聞き込んでみましたか?」
波越「その点はぬかりないさ」

明智「ちょっと」
波越「うん?」
と、その文代が「ただいまっ」と帰ってきたので、明智は慌てて吸いかけのタバコを波越警部の口に差す。

文代「本日発売、週刊ミステリー最新号……ああーっ、当事務所は禁煙になっています。見えないんですか」
文代、すぐに波越の口からタバコを取り上げる。
波越「いや、だって、知らないうちに口の中に……」
明智「ああ、同時進行小説の第二回が載ってるんですか」
明智、慌てて波越警部の体を突き飛ばし、話を反らす。
明智と波越は並んで小説に目を通す。せっかちな波越は、今度の殺人の被害者が由美子と言う女性だと知ると、最後まで読まずに「すぐ手配だ」と、事務所を飛び出して行く。
文代「慌てふためいて出てっちゃったけど、ほんとに分かってんのかしら?」
明智「今週号のクライマックスは由美子と言う女がマンションのバスルームでシャワーを浴びているところへ犯人が踏み込んで行って、ナイフで刺殺した、そう言う描写になってるな」
小説には、女性の身元についての手掛かりは書かれておらず、明智は二人の助手にその由美子なる女性が誰か、突き止めるよう指示する。
一方で明智は、週刊ミステリーの編集部をおとなう。

担当編集者の本田は、小説と同じ殺人事件が起きていると聞かされると、事態を憂慮するどころか、「こりゃえらいことになってきたぞ、おい印刷所に電話だ。来週号をフル操業で刷り増しだ」と、まるで金鉱でも掘り当てたようにはしゃいだ声を上げる始末だった。
この本田と言うのは、原作に出てくる編集者の名前から来ている。
明智、苦笑しながら、
明智「大江春彦と言う作者について、経歴などをお教え願いたいんです」
本田「いやー、それがね、私も良く分からんのですよ」
だが、本田は、大江とろくに会ったことがなく、何処に住んでいるのかも、大江春彦と言う名前が本名なのかどうかすら知らないと言う。
明智「しかし、作家として名前を載せているからには……」
本田「最初は短編を投稿してきたんです」
それが大江のデビュー作「屋根裏の遊戯」として掲載され、新人賞も取ったと言うことで、明知はその場でその作品を読ませて貰う。
無論、これは乱歩の名作「屋根裏の散歩者」のもじりである。原作「陰獣」にも、同様のタイトルが登場する。原作では、「覗き」(何者かが静子の日常生活を覗き見て、逐一、手紙で知らせてくる)が重要なテーマのひとつになっているのだが、ドラマではその辺はあまり深く踏み込まない。

本田「サドマゾ、いわゆるSMプレーです。縄で縛られ鞭打たれる女、これでもかと痛めつける男、そうやってお互いの性的快感を高めあう、アブノーマルな世界です。覗き趣味ってのは、誰もが心の底に持ってるもんですからね、ま、その辺がこの作品の受けた要素です」
本田は得々と解説するのだが、オリジナルの「屋根裏の散歩者」は、人生に倦み疲れた青年の性格描写と、非現実的な殺人方法がメインであり、サドマゾとか、そう言うエロい話ではない。
明智「打ち合わせや原稿の受け渡しなどはどうなさってるんですか?」
本田「ええ、奥さんと言う人から電話があると、私が指定された場所へ出向いていくんですよ。この間はビルの地下駐車場でした」
その時の様子が回想される。

本田は、大江の妻から原稿を受け取った後、後部座席に座っている大江春彦に声をかけようと近付くが、妻は「大江は極度の人嫌いなんです」と寄せ付けようとしない。
本田「極端な人嫌い、そう言う人だからこそ、猟奇ものの傑作が書けるんでしょうな。その挿絵も本人が描いたんですよ。なかなかミステリー向きの達者な絵でしょう」
明智「次の約束は?」
本田「明日にでも新しい原稿が入る筈です」
明智は、大江から連絡があったら是非自分も同席させて欲しいと頼み、本田も快諾する。
一方、優秀な二人の助手は、早くも次の被害者・由美子に該当しそうな人物を探し当てていた。小山田の秘書の後藤由美子である。
彼女が無断欠勤していると知った明智は、ただちに彼女の住む新宿のマンションへ向かう。だが、到着した時には既に警察が駆けつけていた。

由美子はあられもない姿態を晒しながら、シャワールームで冷たくなっていた。
由美子の死に方は、あの小説の状況とそっくり同じだった。
一応、小説の朗読にあわせて、彼女が殺されるところも回想されるが、ごくあっさりした殺され方で、「黒水仙」の泉じゅんの凄絶な死に方と比べると、気の抜けたビールのようである。
明智は、由美子の体を裏返して、背中にたくさんのムチの跡を見付ける。同時に、静子のうなじにも、同様の傷があったことを思い出す。
その後、優秀な助手たちが、事務所で事件について話している。
小林「先妻の子に後妻か、何かありそうだな。どっちも小山田家の財産を受け継ぐ資格を持っていたわけだし」
文代「でも財産狙いってことに絞ると、秘書の後藤由美子さんが殺されたのはどう言う風に解釈するの? 由美子さんは小山田氏の係累でもなんでもないんだから」
小林「とすると、犯人の目的は?」
文代「無差別殺人! 血に飢えた殺人鬼! てのはどうかしら」
文代がうっとりとした表情で物騒なことを口走っていると、明智さんが入ってくる。

文代「でも小説まで書いて殺人を予告して、その通りにやってのけるなんてあたり、よっぽど異常な人間だと思うんだけど」
明智「うん、それは言える」
文代の意見に思わず相槌を打つ明智さん。
文代「あ、先生、帰ってらしたんですか?」
明智「うん……だが、ただの変質者の犯行ではない。その裏には計算尽くされた緻密な筋書きが潜んでいるような気がしてならないんだ。近来、稀に見る恐るべき事件だ」
と、静子から電話があり、相談したいことがあるから来て欲しいと言う。
明智がひとりで屋敷を訪ねた時は、すっかり夜になって、外は強い風が吹いていた。時折、照明がふっと暗くなる。
静子は明智を自分たち夫婦の寝室へ案内すると、
静子「主人は関西へ出張中、うちのものには暇を出し、今夜は私ひとりで留守居を……この部屋には主人でも私でもない、もうひとり別の人間が潜んでるんです」
明智「別の人間が潜む? どういう意味ですか」
怪訝な顔の明智を部屋のある中央にいざない、

静子「何か聞こえませんか」
明智「風の音のほかには……」
静子「耳を澄ましてくださいまし」
明智が言われるとおり耳を澄ましていると、果たして、風の音に混じって秒針のような音が聞こえて来る。

時計の音は、天井から届いてくるようだった。静子によれば、天井裏を這うような人の気配も感じると言う。明智は反射的に、さきほど閲覧した「屋根裏の遊戯」のことを思い出す。
アキラの声「その洋館には納戸があって、片隅の天井板が軽く押し開けられるようになっている。そこから一歩屋根裏に入ると俺だけの暗い悦楽の世界が広がり始める」
明智はもしやと思って尋ねると、やはりこの屋敷にも納戸があるという。

静子「こちらです」
明智「……」
静子「あっ、そ、それは……小山田が……」
明智、ふと、ムチのようなものが帽子掛けに引っ掛けてあるのに気付いて手に取ると、静子が消え入りそうな声で、途切れ途切れに釈明する。
明智さんも大人なので、すぐその意味を察し、それ以上何も聞かずに小説と同じ方法で天井裏に上がる。

懐中電灯片手に、屋根裏の中を這い進む明智さん。
天井裏と言っても普通の部屋と同じくらいの高さがあるので探索は容易で、明智は、あっさり懐中時計と火のついたままの赤い蝋燭を見付ける。

しかし、自分の正体が一発でバレるようなものを、堂々と残していく奴がいるだろうか?

天井裏には、小説同様、隙間があり、そこから侵入者と同じように下を覗いてみる明智さん。

寝室に戻り、不安そうに佇んでいる静子夫人のうなじもはっきり見えた。
ムチで打たれたような傷跡も……
そんな静子を「覗き見」しているうちに、明智の脳裏に、大江春彦の「屋根裏の遊戯」の一節がオーバーラップする。
アキラの声「白い女の肌に蚯蚓腫れが走った。赤い生き物のようにそれは女の肌を這いずり続けた。男は容赦なくムチを振るった。その度に女は短い悲鳴を上げて、体を悶えさせる。俺は時の経つのを忘れて天井裏の節穴から、その営みを覗き続けた。俺を虜にした女、俺が全てを捧げようと密かに誓った女、そして俺を裏切り、踏みにじっていった女、その女が今、あの男のムチの奴隷となっている……」 
小説に影響されたのか、黒い下着姿の静子が小山田にムチで打たれて悶えているエッチなシーンをありありと想像してしまう、まだまだ若い明智さんだった。

実際、夫に打擲されながら、うっすらと悦楽の表情を浮かべてされるがままになっている静子の顔が、めっちゃエロいのである!!
明智、ここで夢想から現実に引き戻されると、天井裏から降りて静子に報告する。
明智「納戸部屋の掃き出し口の施錠が壊されていました。そこが外部からの侵入口でしょう。ついさっきまで天井裏に何者かが潜んでいたことは間違いありません。そいつは恐らく私の来訪に驚き、蝋燭を消すのを忘れ、この時計までその場に落として慌てふためいて逃げ去ったと考えられます。静子さん、あなたは本当に大江春彦と言う推理作家を知らないんですね」
静子「存じません」
明智「しかし大江春彦の方では、どうやらあなたを知っているらしい。いや、それどころか、異常なほどあなたに執心しているのではないかとさえ私には思えてならないんですが……」
静子はあくまで否定するが、やはり大江春彦について何か隠していることがあるらしい。
その2へ続く。
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