翌日、人見はひとり工房に閉じ篭り、夢の実現のためにスポンサー候補に電話したり、パノラマ島のミニチュアの製作に励んだりしていたが、
さすがにこれはないんじゃない? 仮にもプロの工芸家なんだからなさぁ……
そこへ恐らく菰田家に一泊したのだろう、伊豆から英子が帰ってくるが、挨拶もそこそこに亭主の顔をまじまじと見直し、
英子「ああ、いやだ、いやだ、その顔……気味が悪いぐらい良く似てるわ」
人見「何言ってんだ、昨夜は何処行ってた?」

英子「カラスを届けに行ってたのよ、西伊豆の菰田源三郎って人が持ち主だったの。お礼もほら30万貰っちゃった」
人見「この浮気者が、男とみれば見境なく……」
英子「ほんとよー、ところがね、世にも不思議な話なの、その人があんたに生き写しなのよ。それにね、資産も何百億って大金持ち」
人見はまるっきり興味なさそうに妻の話を聞いていたが、
人見「お前、一体、何考えてるんだ?」
英子「あなた、パノラマ島を作りたいんでしょ? スポンサーが欲しいんでしょ?」
その夜、問題の薔薇密教と言う新興宗教の本部。

大野「常識を捨てなさい、道徳を忘れなさい、義理人情に縛られず、一切の戒律から己を解放なさい、馥郁たる薔薇の香りは自由気ままに空中に漂います。あなたも伸び伸びと心を空間に遊ばせなさい。心の解放こそ人間最高の幸せです」
たくさんの若い女性信者たちを前に、薔薇の香りの香を焚きながら、中身がありそうであまりない、薔薇密教の教えを説いている大野。
その挙措動作や言葉つきこそ厳しいが、信者が若い女性だけと言う時点で、大野が何を考えてこんな教団を立ち上げたのか、丸分かりであった。
管理人、これならおっぱいも見れるんじゃないかなあと期待を抱いたが、
すでに見えてるねーっ!!by小峠
これだけ脱ぎっぷりのいい新興宗教の信者さんも珍しい。
どうせなら、大野にその胸を思いっきり揉みしだいて欲しかったところだが、

さすがに他の信者の前でそんなことをするのは憚られたのか、大野はあくまで静かに彼らに心の解放を唱えるだけで手は出さず、信者にしても全員が脱ぐ訳じゃなく、忘我の状態で一心に祈っている数人の女性信者がおっぱいぽろりしているだけなので、いまひとつエロさに欠ける。
まあ、欠けるといっても、他のエロシーンに比べればの話で、現在の基準から見れば、これだけでもかなりの偉業である。
ちなみに大野、この場では何もしないが、裏では手当たり次第に女性信者に手を出していること、これはまず間違いのないところである。
英子だって、元々ここの熱心な信者として通ううちに大野と良い仲になったんだろうからね。
ただ、大野が教団のモチーフにもしている薔薇が、物語中盤以降、イメージとしてもテーマとしても全然使われなくなるのはちょっと片手落ちの感がする。
それはさておき、教えの途中、大野は来客に会うため席を外す。
英子と、英子に連れてこられた人見であった。

大野「今の世の中で純粋な理想郷を追い求めるというのは稀有な魂の持ち主である証拠です。パノラマ島の実現に是非協力させてください」
人見「失礼ですけど、あんたにどんな力があるってんですか?」
大野「とりあえずこの写真を見てください」
人見がずけずけと尋ねると、大野はあくまで穏やかな態度で一枚の写真を渡す。

人見「これは……」
英子「そう、あんたじゃないのよ」
大野「そう、10年ほど前の菰田源三郎ですよ」
菰田源三郎の写真を見て、さすがの人見も驚きを隠せずにいたが、
大野「もしも、あなたと菰田源三郎とが入れ替わることができたら」
人見「はあ?」
大野「その瞬間からあなたは東海第一の大富豪となるんだ。パノラマ島の夢を実現させることが出来るんですよ」
人見「入れ替わるったって、まさか殺すわけじゃないだろうね」
大野「殺すのがイヤなら監禁という手もある」
大野の奇想天外なアイディアを聞かされると呆れ果ててさっさと帰ろうとする。
ま、正直、二人が瓜二つだったからって、大野が一足飛びに入れ替わり作戦を思いつき、実行に移そうというのは、あまりに非現実的で不自然であろう。
大野は帰りかけた人見をソファに座らせると、得々とプランを説明する。
大野「あなたは菰田源三郎になった途端に記憶を喪失したことにすれば良い。周りの様子を見ながら徐々に記憶を回復していけば前の菰田と多少違ったところでみんなはショックのせいだと思うでしょう」
英子「完璧だわぁ」 どこがじゃ!! もっとも、原作でも人見は同じ方法でなんとか入れ替わりをやってのけるのだが、ドラマと原作ではいくつかの違いがあり、
・原作では同い年だが、ドラマでは菰田49歳、人見36歳で、一回り以上の差がある。
・原作では菰田には同居している肉親はおらず、結婚して間もない若い妻がいるだけだが、ドラマでは、妻は勿論、菰田自身の老母もいて、妹やその息子たちもちょくちょく会いに来る。
特に、菰田の生母がいると言うのは致命的で、いくら顔が同じでも、母親がそんな詐術にだまされる筈がなく、この後、実際に大野たちが試みた方法では、たとえ入れ替わりが成功したとしても彼らの悪事はたちまち露見し、いい物笑いの種になっていたことだろう。
むしろ、そのほうが彼らのためではあったのだが……
人見、一応彼らの話に耳を傾けてから、
人見「あんたの狙いは何処にあるんだ? 財産の分け前か」
大野「そんな大それたことは考えていない。あなたのパノラマ島に私の薔薇密教の殿堂を作ってくだされば、それで十分だ」
ここで人見、またしても妄想の世界に突入してパノラマ島の幻影を見るが、それすなわち、魅惑のおっぱい品評会の始まりを意味していた。
まずは、

女性「お父さん、お母さん、見てください!!」
女性「私も遂にテレビドラマに出演できました!!」 とでも言いたげに、台の上でおっぱいもお尻も丸出しにしてポーズを決める女の子。
まあ、女優さんもさすがに家族には伝えなかったと思うが、正月、家族が何も知らずにこのドラマを見てしまい、家族団欒がたちまち絶対零度の世界に閉ざされたということはありうる。
夜空打ち上げられる色鮮やかな打ち上げ花火に続いて、

おっぱいを、ででーんとばかりに掘り出した、脂の乗ったリアル人魚がWで登場と言う、これまた強烈なビジュアルをお正月の茶の間に放り込んでくる。

この、見てるほうが恐縮するくらいあけすけに露出された、ややだらしのないおっぱいは実にエロくて良いのだが、

まあ、やはりお正月に脱いでくれる人はそうたくさんはいないのか、こっちの人は、さっきの脱ぎ信者さんと同じ人なのが、ちょっと興醒めである。
人見、その場では返事をしなかったのか、次のシーンでは翌日の工房に飛ぶが、
英子「あんた、何書いてんの?」
人見「遺書だ。この俺を抹殺しない限り菰田源三郎にはなれんだろ」
結局、大野の甘言に乗ることを決意するのだった。
欲の力は偉大で、そう聞くなり、英子は愛してもいない亭主の首っ玉に齧り付いて喜びを爆発させる。

英子「あんた、とうとうやる気になったのね」
人見「生涯の夢だからな」
英子「私たち、大金持ちになれるんだわー」
人見「私たち? おい、お前、勘違いしちゃ困るぞ、この世から人見広介と言う人間はいなくなるんだ、お前未亡人になるんだよ」
英子「私を捨てるつもり?」
人見「馬鹿、菰田源三郎にはれっきとした妻がいるんだぞ」
英子「あら、追い出して私が後妻になるわよ」
英子、こともなげに言うと、今度は亭主の頬に何度もキスをするのだった。
で、あまりに乱暴だが、次のシーンでは早くも大野たちが菰田夫妻を襲撃することになる。
まあ、実際は、決行までに色々と下調べやら準備などで日数が経っているのだろうが、見ているほうからすると、あまりに性急な感じがするのは否めない。
なお、原作の人見は誰にも唆されず、自分ひとりでこの計画を思いつくのだが、ドラマの大野たちほど悪辣ではなく、自然死した菰田の遺体と入れ替わった上で、蘇生して墓から這い出たように見せかけるだけである。
さて、そんなぶっとんだ陰謀が企まれているとは夢にも知らず、菰田夫妻は運転手付きの車に乗り、海沿いの夜道を走っていた。

千代子「いい結婚式でしたわね」
菰田「うん、政略結婚だ、政治家の息子と財閥の娘……お互いにメリットがあるだろう」
千代子「私たちの結婚にはどんなメリットがあったんですか?」
菰田の言葉に、千代子が開き直ったように尋ねるが、
菰田「お前自身に財産としての価値があるからだ、そう、金に換算すれば10億、20億くらいかな」
典型的な俗物で、独裁者らしい菰田は、妻におべんちゃらを言うでもなく、あっさり本音を口にする。
菰田にしてみれば、それでも十分褒め言葉のつもりなのだが、千代子は人格を否定されたような気持ちになり、寂しそうに、
千代子「私は材木や土地と同じなんですね……」
菰田「なんだい、今日は妙に絡むんだね、うん?」
車がトンネルを抜けると、道路工事人に扮した人見が待ち伏せしていて、車を路肩に誘導すると、いきなりクロロフォルムのスプレーを三人に嗅がせ、眠らせる。
と、反対側から大野と英子の乗るバンが来て、急いで菰田の体をその中に運ぼうとするが、麻酔薬の効き目が弱かったらしく、途中で菰田の意識が回復して激しく抵抗し、運転手の橋本も目を覚まして主人を守ろうと掴みかかってきて、拉致どころではなくなる。
それどころか、逆に大野が菰田に首を絞められて落とされそうになるが、

苦し紛れに大野は手にしたドライバーで菰田の左目をぶすりと突き刺す。
……
こんなの、正月からやりますか、フツー?
て言うか、正月とか関係なしにアウトだろ、これ。
こうして大野たちの計画はものの見事に失敗し、三人はバンに乗って一目散に逃げ出すのだった。

菰田は自ら左目に突き刺さったドライバーを引き抜き、その目玉を食べたら夏侯惇になっちゃうので食べず、

菰田「目をやられたぁ……」
千代子(見りゃあ分かるよ!!) 黒い穴のようにぽっかり開いた左目を蠢かし、苦しそうに呻くのだった。
これまたえげつないビジュアルだが、ようく見ると、血糊の下にほんとの目蓋が見えているのがNGです。

その事件の後、明智探偵事務所に依頼人があらわれる。
菰田の実妹で、釘谷と言う男と結婚している釘谷房枝である。
演じるのは、その太陽のような美貌からとめどめもなく色気が零れ落ちている水野久美さん!!
ある意味、このドラマで一番エロいのは、この久美さんの佇まいかも知れない。
どうせなら久美さんにも(文字通り)一肌脱いで欲しかったところだが、さすがに無理か。
それにしても、一度で良いからこう言う美熟女をヒーヒー言わせて見たいなぁ……って、管理人の知り合いが言ってました。
あと、水野さんなら十分美女シリーズのヒロインも務まったであろうに、惜しいことだ。
当然、あの間抜けな襲撃事件のことに話が及ぶが、

明智「身代金目当ての誘拐未遂らしいですね」
房枝「違います、警察は何も分かっていないんです。あれは偽装ですよ」
明智「奥さん、あなた、犯人を知ってらっしゃるんですか?」
房枝「あの女に違いありません」
房枝は、裏で糸を引いているのは他ならぬ千代子夫人だと言い切る。
明智「すると、動機は憎悪? それとも財産?
あるいはゾウさん?」
房枝「両方です、あの夫婦には愛情なんてありません。どうか先生のお力で千代子の尻尾を押さえてください、一刻も早く菰田家から追放しないと兄は今度こそ殺されてしまいます」
後に、房枝の言葉が全く正しかったことが判明する。
房枝によると、菰田にはガーナ症候群と言う持病があって断種しており、今後も子供が生まれることはなく、もし菰田が死ねば遺産は千代子ひとりのものになると言うのだ。
明智は、だったら(千代子が)急いで菰田を殺す必要はないでしょうと反論すると、房枝は少し言いにくそうに、

房枝「実は実家の母の意向もありまして、私どもの次男を菰田家の養子にするって言う話が持ち上がっておりますの」
明智「ほお」
房枝「血の繋がってない養子を迎えることは千代子にとっては良い話ではありませんからねえ」
明智「なるほど」
明智、あまり気乗りしない様子であったが、結局、房枝の依頼を引き受けたらしい。
相手は見るからにお金持ちだし、明智自身が「事務所が赤字だ」とぼやいていたくらいだから、背に腹は替えられないないと言うことか。
一方、笑っちゃうほど見事に計画が失敗した大野たちズッコケ三人組は、薔薇密教の応接室に垂れ篭り、惨めな気分を噛み締めていた。
やたらめったら煙草を吹かしていた人見、二人が自分をじっと見詰めているのに気づいて、

人見「なにジロジロ見てんだよ、失敗したものはしょうがないじゃないか」
大野「一旦思い立ったことは最後まで貫く、それがあたしのやり方なんだ」 バリバリの悪党の癖に、言うことだけは妙にカッコイイ大野っち。
人見「警察に追われてるんだぞ、不可能だよ、第一、菰田源三郎は片目がなくなったんだ」
大野「お前も片目になればいいじゃないか」 反論する人見に対し、大野は世にも恐ろしい言葉を口にする。
ある意味、「美女シリーズ」の中で一番怖い台詞かもしれない。
人見「なんだと、それじゃ俺の片目を?」
英子「そう、潰すのよ」
人見「冗談じゃない、俺は帰る」
大野「待てよ、
目玉の一つくらいどうってことないだろう、壮大なパノラマ島の夢に比べたらほんの僅かな代償……」
人見「いやだ、俺は降りるよ」
さすがに人見が一抜けたとばかり帰ろうとするのを、大野がめちゃくちゃなことを言って説き伏せようとする。
まあ、何しろ地上波だしぃ、原作にはないストーリーだしぃ、お正月だしぃ、まさかそこまではやらないって思うでしょ?
とっころが、違うんだなぁ~っ!!by月ひかる
襲撃時に使ったスプレーで人見を眠らせると、薔薇密教の祭壇のような台の上に人見を寝かせて手足を縛り付け、それでも一応煮沸消毒したドライバーで、ほんとに人見の目玉をくり抜こうとしているのである!!
いくら莫大な財産のためとは言え、仲間の目玉を生きたまま抉り出すなんて猟奇的な状況は、日本のドラマ史上においても空前絶後であろう。
しかも、
ブシュッ!! 外科医のような冷徹な手つきで、大野が人見の目にドライバーを突き立てるところまで、逃げることなくきっちり描くという物凄さ。
まあ、さすがに眼球にドライバーがめり込むカットはないけどね。

人見「うっ」
意識を失っている人見の両足が痙攣したように突っ張るところなど、極めてリアルで見てるこっちまで目に痛みを感じるほどである。

さらに、眼窩からドライバーを引き抜くグロカットや、くり抜いた眼球を容器の上に落とすカットなど、至れり尽くせりの残酷トラウマ劇場。
この後、
大野「あ……」
英子「どうしたの?」
大野「右目と左目、間違えちゃった……」 英子「え?」
なんてオチが待ってたら、かなり笑えたんじゃないかと思う。
しかし、考えたら、菰田の左目を奪ったのも大野なので、大野は二人の人間の目を潰したことになる。バイオレンスや戦争映画ならともかく、2時間サスペンスでそんなえげつないことをしたキャラって、大野くらいのものだろうなぁ。
やがて人見は意識を回復するが、全身を焼かれるような傷の痛みに苦悶しつつ、狂ったように二人に対する怒りを爆発させる。

人見「この野郎、殺せ!!」
英子「パノラマ島を作るためじゃないの、我慢するのよ」
人見「おのれ、よくも人の目を……」
大野「痛むかね」
人見「当たり前だぁ!!」
大野「よしよし、痛み止めの注射をしてやるよ」
人見「くそぉ、ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる……」
大野、医学の心得があるのか、人見の腕に鎮静剤を注射すると、人見は呪いの言葉を吐き続けながら再び眠りに落ちる。
しかし、よくよく考えたら、襲撃を受けた菰田たちが警戒するのは理の当然で、もう強引な手段では入れ替わりは絶望的と思えるのに、大野たちがなおも人見の目まで潰して身代わりに立てようとするのは、いささか不自然な気がする。
菰田が突然死した後なら、まだ分かるんだけどね。
その菰田、当然ながら機嫌が悪く、あれ以来家に篭り切りであった。
と、そこへ妹の房枝が、見舞いがてら自分の息子たちを連れてやってくる。

菰田「太郎、勤めのほうはどうだ」
太郎「は、おかげさまで頑張っております」
菰田「うん、次郎、テニスのほうはやってるのか」
次郎「はい、高校選手権では準決勝まで進みました」
菰田「頑張りなさい」
二人は礼儀正しく伯父に挨拶し、菰田も親しく言葉を掛ける。
子供のいない菰田、二人の甥には小さい頃から目を掛けてやっていたのだろう。
で、この左の太郎こそ、この少し後に始まった「宇宙刑事ギャバン」の当山こと、加瀬慎一さんなのである。
つまり、叶さんと加藤さんは、「ギャバン」の前から一応共演していたわけである。
もっとも、このドラマではほんとにただのチョイ役で、台詞もほとんどない。

房枝「兄さん、次郎のこと頼みますね」
菰田「……」
房枝「あ、そうそう、あのね、兄さん、今日は珍しい人を連れて来たの」
菰田「珍しい人?」
房枝「応接間に待たせてあるから会ってくれない?」
菰田「誰なんだ?」
房枝「サイババよ」 菰田「そりゃ確かに珍しいが……」
じゃなくて、
房枝「日本一の名探偵・明智小五郎よ」
菰田「私は当分誰とも会いたくない」
強引に菰田と引き合わせようとする房枝だったが、菰田がどうしてもイヤだと言うので、やむなく千代子が代わりに面談し、事件の状況を明智に説明することになる。
明智の名前を聞いた途端、顔色が変わった千代子であったが、

千代子「菰田の家内でございます」
明智「はじめまして、明智です」
千代子「おひさしゅうございます、その節は色々と」
明智「は?」
千代子「私、畑中節子の妹、千代子でございます」
明智「え?」
千代子「お忘れになるのも無理はございません、あの頃はまだお下げ髪の高校生でしたから」
明智「はぁ、思い出しました、そうですか、菰田夫人と言うのはあなたでしたか」
それも道理、物凄い偶然だが、明智と千代子は前々からの知り合いだったのだ。
千代子「姉が亡くなったのはご存知ですね」
明智「はぁ」
千代子「死ぬ間際まで明智さんのことを思い続けておりました」
明智「……」
千代子の言葉に、なんともいえない顔で黙り込む明智であった。
結局、畑中節子と明智が具体的にどんな関係だったのか、劇中でははっきり説明されないままなのだが、仕事一筋の明智のことだから、事件を通じて知り合った間柄なのだろう。
ところで、後に明智は千代子の顔を「節子そっくり」だと評しているのだが、だったら、一目千代子を見た瞬間、気付きそうなもんだけどね。
二人がそんなしんみりしたムードに包まれている一方、居間では対照的に生臭い話が行われていた。
無論、次郎の養子縁組の件である。
ここへ来て、急に菰田がその話に消極的になったのを見て、房江は色を成して抗議する。

房枝「私はね、兄さんのためを思って言ってるのよ、次郎を早く養子に迎えたほうが安全だと思うの」
菰田「安全とはどういう意味だ」
房枝「兄さんね、千代子さんとはなるべく二人っきりにならないほうがいいわよ」
菰田「どうして」
房枝「あの人、何を考えてるか分からないから……今度の事件だってもしかすると」
母親「えっ? お前、千代子さんがやったと言うのか」
房枝「人を雇ったかもしれないわよ、お母さん」
菰田「帰ってくれ、これ以上変なことを言うと、承知せんぞ!!」
房枝、兄にも千代子黒幕説を吹き込もうとするが、菰田はたちまち機嫌を悪くする。
前述したように、何の証拠もなく、自分の実子に菰田家の跡を継がせたいという欲心から出た房枝の憶測と危惧であったが、彼女が殺された後になって、それが全て事実だったと分かるのが皮肉である。
その3へ続く。
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