第40話「パンダを返して!」 (1973年1月5日)
新年一発目の放送と言うことで、
若干ヤラセ臭いが、公園で、晴れ着姿の女の子が羽根突きをしている姿や、ダンたち男の子が駒回しをして遊んでいる姿が映し出される。
得意らしく、全勝優勝を飾ったダン、二回戦を行おうとするが、そこに知り合いのモトコと言う女の子が通り掛かり、これから薬局に薬を取りに行くところだと聞くと、仲間から抜けてさっさと彼女と一緒に行ってしまう。
ま、彼女と言っても、まだ幼稚園か、小学1年くらいの女の子で、それにダンがホイホイついていくのは、いささか不自然であるが……
そこは漢方薬局だが、そこの店主がパンダキチガイと言うので有名だった。
モトコと店に入り、店内に所狭しと並べてあるパンダのぬいぐるみや写真などを興味深そうに眺めているダン。
店主「はい、これで一週間分や、大切に飲んでな、早くお母さんが治るとええのにねえ」
モトコ「ありがとう」
店主「シェーシェー」
店主は中国人風の男だったが、1972年に日中国交正常化が成ったことから、当時は一種の中国ブーム(&パンダブーム)だったのだろう。
演じるのは、個性派俳優の横山あきお(当時は青空あきお)さん。
モトコは薬を受け取ってもその場から立ち去りがたい風情で、カウンターに置いてある大きなぬいぐるみに触りながら、
モトコ「このパンダちゃんの名前、なんて言うのかな」
店主「ああ、これミンミン言いまんねん……そや、モトコちゃんはな、いつも薬を買いに来てくれる感心な子やさかい、ほんならこれお年玉にあげまひょ」
モトコ「ええ、ほんとにー? 嬉しいなぁ……ありがとうおじさん」
モトコがすっかり気に入った様子なのを見て、太っ腹な店主はその場でモトコにプレゼントしてくれる。
二人が帰った後、黒いマントに黒い帽子に黒いブーツの、全身黒ずくめの小男が入ってくるのだが、
ちょっ、正月からその顔はヤバイですって!! と、叫びたくなるほど、強烈なビジュアルが目に飛び込んでくる。
演じるのはこれまた個性派俳優の大村千吉さん。
店主「いらっしゃいませ」
男「……」
店主がにこやかに応対するが、
男「ふにょふにょふにょ……」
男は店主に顔を突き出すように近づくと、口をぐにょぐにょ動かして、人間と言うより動物の鳴き声のような、得体の知れない言語を発する。
これまた、悪夢に出て来そうなトラウマ級のビジュアルである。
店主が思わずのけぞって固まっていると、
男「ふにょふにょふにょ……いよーっ!! よよよよよよっ!!」
男は、奇声を発しながらマントを翻してぐるりと体を回転させ、店にあったパンダグッズを一瞬で掻き消すと、そのまま店から出て行ってしまう。
店主「待てーっ!! パンダ泥棒ーっ!!」
しばし茫然としていた店主も、我に返って慌てて追いかける。
一方、連れ立って歩いていたダンとモトコの前にパンサーに乗った北斗が現れ、二人を家まで送ってやろうとするが、その横を黒マントの男が猛スピードで駆け抜けていき、ついで、店主がひーひー言いながらやってきて、
店主「泥棒ーっ!! 待てーっ!! ワイのパンダを盗まれたんや、あいつや、あいつを捕まえてきゃあ!!」
北斗「僕が追っかけます、ダン、君たちは降りろ」
TACの管轄ではないが、見て見ぬふりはできぬと、北斗は二人を降ろして車を出すが、モトコがパンダを車内に置き忘れてしまう。
モトコ「あーっ、私のパンダ」
ダン「心配しなくて良いよ、後でちゃんと持ってきてくれるよ」
続いて、閑静な住宅街を黒マントの怪人が走り抜けるという、いかさま、「少年探偵団」の1シーンのようなビジュアル。
この手の映像って、ゴキブリ系の怪人が登場するエピソードでしばしば出てくるよなぁ。
「サンバルカン」のゴキブリモンガーとか、「スカイライダー」のゴキブリジンとか。
北斗、パンサーで追跡しながら、その尋常ではない脚力に目を見張っていた。
北斗「なんて足の速い奴だ、60キロ以上出てる、奴は人間じゃない」
男はパンサーの接近を知ると、その場で跳躍して川を飛び越え、反対側の土手に着地する。
これまた、人間業とは思えない動きであった。
男「ひょひょひょひょ……」
そして、北斗を愚弄するように踊って見せると、再び走り出す。
北斗「ちくしょう、どうしても捕まえてやるぞ」
意地になった北斗、なおも追跡を続けて石油貯蔵施設の倉庫街までやってくる。
北斗「おかしいな、確かこっちへ来たんだが」
北斗、ちょうど掃除をしていた労務者風の老人を見付け、
北斗「おじさん、おじいさん」
男「あーっ?」
北斗「あのね、黒いマントの男がこっちに逃げて決ませんでしたか?」
男「ふにゃ……」
北斗「駄目だ、まるで聞こえやしない」
いくら話しかけても反応がないので、北斗はよほど耳が遠いのだと諦め、引き揚げる。
その男こそ、黒マントの男の変装だったのだが、はっきり顔を見ていない北斗には見抜けなかった。
さて、正月と言うことで、TAC本部にもお飾り餅や小さな門松が飾られていたが、
勤務中と言うことで、美川隊員の晴れ着姿は見れないのだった。
ちくしょう。
美川「はい、わかりました、一応伝えておきます」
その美川隊員、受けていた電話を切ると、
美川「隊長、東京のあちこちでパンダのぬいぐるみが盗まれてる事件が続発してるそうです」
今野「へーっ、パンダねえ」
美川「目撃者の話では、黒マントの男が現れると店中にある何匹ものパンダが消えてしまうそうなんです」
山中「また正月から不思議な事件が起こったもんだなぁ」
何しろ事件が事件なので、それを聞いた竜隊長もただの笑い話として片付けてしまう。
そこへ北斗が難しい顔で帰ってきたので、
竜「どうした、北斗、正月からご機嫌斜めだな」
北斗「パンダ泥棒逃がしちまったんですよ」
吉村「えっ」
今野「おいおい、お前パンダ泥棒に出会ったのか」
北斗、そのパンダ泥棒はタダモノではないと主張するが、隊員たちは取り合ってくれず、
美川「それじゃあ宇宙人がパンダを盗んだとでも言うのかしら?」
街が夕暮れに染まる頃、ダンとモトコは公園で北斗の帰りを待っていた。
モトコ「ねえ、いつまで待ってもあの人、ミンミンを持ってきてくれないじゃない」
ダン「無理だよ、今日は帰らないって言ってるじゃないか。明日の朝まで待てよ」
モトコ「私、心配だわ、おじさんの家にはもうパンダちゃんが一匹もいないのよ」
ダン「分かった、分かったよ、僕が責任もって君に返してやるよ」
元々おじさんのものだったのに、図々しくパンダの返還を要求するモトコに、ダンはなだめるように言って約束するのだった。
つーか、パンダが全部なくなって悲しんでるおじさんに返したれよ。
夜、ダンが寝ようとしていると、窓の外から奇妙な物音が聞こえてくる。
何事かと布団から出て外を見れば、公園の雑木林のようなところに生きた本物のパンダがいて、もぐもぐ何かを食べているところだった。
ダン「あっ、パンダだ!!」
ダン、自分の目を疑うが、それはどう見ても本物のパンダであった。
人間が入った着ぐるみのように見えなくもないが、本物のパンダに紛れもなかった。
ダン、急いで香代子を叩き起こすが、この手のシーンのお約束として、
香代子「うーん、何よ、せっかく良い気持ちで寝てたのにぃ、許さないわよ、何がパンダよ。寝惚けるのもいい加減にしてよ」
姉を引っ張ってもう一度窓際に立ったときには、既にパンダの姿は影も形もなくなっていた。
ダン「本当だってばさぁ、あそこでリンゴを食べていたんだ」
香代子「冗談じゃないわよ、日本にはねえ、上野動物園にランランちゃんとカンカン君がいるだけよ。まったくう」
快眠を妨害された香代子はブツブツ文句を言いながら寝床に戻るが、せっかくの香代子のパジャマ姿なのに、ろくに見せてくれないのは残念だ。
ちなみにこのパンダ、てっきりマントの男、スチール星人の連れて来たor作り出した超獣かと思ったのだが……
ダンは諦め切れず、パンダのいた場所に残っていた齧りかけのリンゴを拾ってきて、北斗に見せ、自分の見たのが夢でないことをアピールする。
ダン「北斗さん、これこれ、俺が昨夜見たのは」
北斗「これがねえ……だけど、本物のパンダがいるなんて信じられないなぁ」
自分は黒マントのことで山中たちに夢見てたんだろうと言われたくせに、ダンにも同じようなことを言う北斗であった。
ダン「北斗さんまでそんなことを言うのかい」
北斗「いや、しかしなぁ」
ダン「見なよ、ちゃんと歯形までついてんじゃんかー」
北斗、齧りかけのリンゴを手に取ってしげしげと眺めていたが、
北斗「この歯形を見てパンダのものなんてわかる人がいるのかな」
と、現実的な疑問を口にする。
ダン「いる、いるいる、薬屋のおじさんならきっとわかるよ」
北斗「薬屋か、パンダのぬいぐるみを盗まれたおじさんだな」
暇なのか、北斗はダンと一緒にあの薬局を訪ね、意見を聞くことにする。
店主は、中国風のお節料理で酒を飲んで酔っ払っていたが、虫眼鏡でリンゴを見るや急にシャキッとして、
店主「あんさん、こらぁ大変なもんでんな、本物のパンダが齧ったリンゴの芯や!!」
興奮に声をうわずらせて叫ぶ。
彼は、中国本土で本物のパンダを見たこともある筋金入りのパンダマニアなのだ。
ダン「やっぱりそうだ、俺が見たのは本当のパンダだったんだ」
北斗、野良パンダの存在を山中隊員に報告するが、本気にして貰えず、雷を落とされる。
そこへモトコが入ってきて、
モトコ「ダンちゃん、パンダ返してよ」
昨日までおじさんのものだったパンダの所有権を、まるで生まれる前から自分のものだったような態度で堂々と主張する。
ダン「あっ、いけねえ、忘れてた。北斗さん、昨日パンサーの中に置いたパンダ、返してあげてよ」
北斗「そう言えば乗っていた」
モトコ「ミンミンちゃんを返してよ、ミンミンちゃーん!!」
店主(あれ、もともとワイのなんだけどなぁ……) ここでそのことを指摘しないあたり、さすがに店主は大人である。
北斗は子供たちと一緒にミンミンを探しに行くが、いつの間にかなくなっていた。
黒マントの男は昨日盗んだ分では飽き足らず、街を徘徊しては、
店員「パンダがない!!」
店頭に並べてあったパンダグッズを根こそぎ奪ったりする。
昨日のうちにさっさと本星へ帰っておけば死なずに済んだのに……
欲は身を滅ぼすという、お手本のような星人であった。
北斗は、その黒マントを再び見掛ける。
北斗「昨日のパンダ泥棒だ」
ダン「薬屋のパンダを盗んだ奴だよ」
北斗「ああ、あいつのお陰でミンミンちゃんも分かんなくなったんだ」
北斗はパンサーで、昨日男を見失った倉庫街で待ち構えていると、果たして、黒マントの男がやってきて、スッと姿が見えなくなる。
北斗「ごめんください」
男「う、う、あ……」
北斗「おじいさん、ほんとは耳が聞こえるんですね」
男「えーっ? うー」
北斗「ごめんくださいといったら出て来たじゃありませんか」
北斗、ほとんど言いがかりのようなことを言って、老人を追及する。
いや、映像を見る限り、たまたまそこを通りがかったか、北斗たちの姿を見て出て来たようにしか見えんぞ。
北斗が、銃を抜いて空に向けてぶっ放すと、立ち去りかけていた老人が驚いて振り向く。
北斗は厳しい顔つきで老人に歩み寄り、
北斗「ほら、聞こえるじゃないか」
老人「いや、昨日は補聴器つけてなかったもんで……」 北斗「あ、そうなんスか……」
と言うのは嘘だが、この場面における北斗の態度がいささか問題なのは事実である。
老人はあっさり観念して目の前の倉庫の中に逃げ込み、
黒マント姿になって北斗の前にあらわれる。
……
いやぁ、ほんと、夢に出て来てうなされそうな不気味さである。
なんでこれをよりによって正月に放送しちゃうかなぁー。
北斗「やはり貴様が黒マントの男だったんだな」
CM後、
北斗に言いつけられたとおり、素直に倉庫の外で中の様子を窺っているダンとモトコの背後を、本物のパンダがよたよた歩いていくという奇跡が起きる。
ダン「あ、パンダだ」
ダンが気付いて追いかけるが、曲がり角のところまで来ると、忽然と姿が消えていた。
ダンが戻ってきて倉庫の中を覗くと、
いつの間にか、そこは盗まれたパンダグッズが山と積んであり、その中に、生きたパンダがモコモコ蠢いていた。
……
いや、これ、なんか変じゃないか?
ちょっと目を離した隙に、何でこんなことになるんだ?
ま、ダンの、
ダン「パンダ泥棒の隠れ家だ、早く北斗さんに知らせよう」
と言う台詞で、彼らが覗いているのが最初の倉庫でないことが分かるのだが、はっきり言って分かりにくい。
パンダを追いかけて行って、そこにこの倉庫があったのなら納得できたのだが……
ここでやっと、黒マントの男が正体をあらわす。
スチール星人「私はスチール星人」
北斗「スチール星人? どうしてお前がパンダを?」
スチール星人「人間があんなに夢中になっているパンダを、我々の星へ持って帰る」
そしてその口から、驚愕の動機が語られる。
……
そんなことのためにわざわざ遠い星から来るんじゃねえっ!! 北斗「そうはさせんぞ、パンダは子供たちみんなの宝物だ!! 俺が守る!!」
お前はお前で、パンダの一匹や二匹、国際親善だと思ってくれてやれよ。
実際、香代子が言っていたランランやカンカンだって、日本と中国の友好の証として贈呈されたんだから。
ともあれ、スチール星人は巨大化して倉庫を突き破り、北斗は瓦礫に埋もれて動けなくなる。
で、まあ、相変わらずミニチュアの作り込みが素晴らしく、
星人が踏み潰すスレート葺きの倉庫など、実景にしか見えないほどである。
そして星人が、ビームでオイルタンクを吹っ飛ばすド迫力ショット!!
と、そこにパンダがよたよたと歩いてきて、星人の暴れている方に近づいていく。
モトコ「パンダ、危ない、帰れ、帰れーっ!!」
ダン「危ないーっ!!」
それにしても、このパンダ、人が入ってる割には愛くるしい。
……
人が入ってる割に?
それはともかく、後ろからあのおじさんが追いかけてきて懸命にパンダに呼びかける。
店主「ほら、お前の好きな笹や、ささ、こっちへ来い」
店主「あ、そうか、リンゴのほうがええのか、リンゴなら、ほら、あるよ、ほら、ほら、ほら、おい」
店主はポケットからリンゴを取り出すと、嬉しそうに座り込んでいるパンダの鼻先に持って行く。
色々あって、北斗がAに変身し、
星人の背中に、豪快な飛び蹴りを食らわす。
……
冷静に考えたら、なんでスチール星人、巨大化して暴れてるんだ?
パンダが目的なら、なにはともあれパンダを確保してさっさと故郷の星へ帰るのが筋だろう。
ま、多分、何も考えてないんだろうなぁ。
Aにしても、相手は見るからにひょろっとしたモヤシ系の宇宙人なんだから、そんなムキになって倒そうとせず、二度とこんなことをしないように懲らしめて本国に送り返すくらいの雅量を見せて欲しかったところだ。
同じ年にオイルショックが起こるとも知らず、盛大に炎を吹き散らすスチール星人。
シャレの分からないAは、普段と同じく、本気のメタリウム光線を放ってスチール星人を粉々に破壊する。
ダン「やったーっ、ばんざーい!!」
考えたら、悪人とは言え、本国に帰れば妻も子もあるであろう、ひとつの尊い生命が失われたというのに、子供たちが躍り上がって喜ぶというのはどうなんだろう?
北斗「やっぱりこのパンダは中国の動物園からスチール星人が盗んで来たものだったんですね」
竜「うん」
ダン「やっぱり自分のうちのほうが住みやすいだろうね」
ラスト、きらびやかな檻に入れられたパンダが中国に送り返されるのを見送っている北斗たち。
……
いや、スチール星人、最初に中国行って本物のパンダ盗んで来たのなら、わざわざ日本に来てぬいぐるみを集める必要はなかっただろう。
モトコ「私のパンダちゃんはどうしたのかしら?」
再び、まるで前世から自分のものであったような口調で、昨日おじさんに貰ったぬいぐるみのことを気にするモトコに対し、
店主「やかましい、あれは元々ワイのじゃ!!」 モトコ「へぶっ!!」
遂に堪忍袋の緒を切ってその顔をぶん殴る店主であったが、嘘である。
北斗「それそれ、美川隊員」
美川「はい、あなたのパンダもスチール星人の倉庫の中にあったのよ」
にっこり笑ってミンミンを持つ美川隊員がめっちゃ可愛いのである!!
竜「あなたのも多分、倉庫の中にある筈ですよ」
店主「えーっ、ほんまかいな」
以上、でだしは実相寺監督作品みたいな雰囲気なのだが、終わってみれば、他愛のないファンタジーに過ぎなかったという、竜頭蛇尾のエピソードであった。
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