第20話「運が良ければ別れも愉し」(1979年11月4日)
長らくお送りしてきた「俺天」レビュー(と言っていいのかどうか……)も、いよいよ最終回である。
冒頭、事務所のある茜台ハイツに、麻生の演説の声が響き渡っている。

麻生「諸君、我が麻生探偵事務所は開設以来今日まで、一致団結、その優秀なる頭脳と肉体を駆使して、社会正義、並びに我が事務所の利益追求の為に日夜努力して参りました。我々が解決した難事件は枚挙に暇ありません。しかしながらこれらの輝かしい業績にも関わらず、我が事務所の経営状態はいまや破産の危機に瀕している……遂にはアジサンドとアメリカンコーヒーのみにて耐え忍んで参りましたが……」
ダーツたちを前に、熱弁をふるっている麻生。どうやら、最終回にふさわしく、遂に事務所を畳むことになったらしい。
が、演説の途中、ジュンは「アジサンドが焦げちゃう」と台所へ引っ込み、ナビもダーツも仕事があるからとさっさと出て行ってしまう。

麻生「何たる不人情、何たる……」
そこへ救い主のようにユーコが笑顔で入ってくる。
麻生「ああ、ユーコ、寂しかった。何処へ行ってんだ?」
ユーコ「面接。ここもうすぐ潰れるんでしょう。だから次の就職決めておこうと思って」
ユーコの果てしなくシビアな言葉に麻生は「ひどい!」と叫んでアジサンドを放り投げる……と言う、番組始まって以来の惨めな状況で、OPへ。

麻生が駐車場へ降りると、麻生の愛車カマロが乱暴な運転で突っ込んでくる。タイヤを並べたクッションにぶつけて止まった車から出て来たのは、意外にも大家で管理人の原田だった。
原田「いやー、私もね、出資金の戻りプラス、うん万円でこんな車買えるとは思わなかったよー、はい、約束の代金」
麻生、原田から受け取った封筒の金を数える。
出資金と言うのは、事務所設立の際に、原田から一部資金を出して貰ったのだろう。事務所を引き払うにあたって、その出資金も返せず、仕方なくカマロを差し出すことにしたのだろう。
原田「いよいよ私もこれでオーナードライバー!」
麻生の肩に手を置いて、感極まったような声を上げる原田。
「オーナードライバー」って、なんというか、夢のある言葉ですね(そうか?)。
麻生「可愛がってね、お願いだかね」
原田「オフコース、ところでね、この車に用があるんだったらいつでも貸してあげるよ、レンタカー並みの……」
麻生「結構、結構、コケコッコー! セカンドカーがあります」

次のシーンでは、錆だらけで壊れかけた自転車をギコギコ漕いでいる麻生の姿が……。

麻生が向かった先は新妻署。南雲たちに事務所閉鎖を伝えると共に、一言挨拶に訪れたのだ。
最終回だけあって、珍しく新妻署のメンバーが勢揃い、と言いたいが、科研の館野がいないなぁ。良く考えたら、館野って、後半はほとんど出てない気がする。
宿敵ゴリラは、当然それを聞いて手放しで大笑い。
桂「神保、他人の不幸を笑うのはあまりいい趣味とは言えんぞ」
ゴリラ「何が不幸なもんですか。こんなめでたい話がありますか。赤飯炊いて祝いたいくらいですよ!」

だが、あまり調子に乗って馬鹿笑いしたせいで、アゴが外れて固まってしまうゴリラ。
なんだかんだいってゴリラは可愛い。
南雲「ところで、麻生、君はこれから……」
南雲が言いかけた時、金沢がひとりのみすぼらしい老婆を連れてやってくる。
金沢「実はね、私立探偵を紹介して欲しいって……」
ゴリラ「よせよせ、おばあちゃん、私立探偵なんてのはゼニふんだくるだけで、ろくなことはしねえぞ」
麻生「黙れゴリラ」
ゴリラ「なにぃっ?」
麻生「私、私立探偵の麻生雅人と言いますが……」
麻生、次のシーンでは、その老婆を自転車の荷台に乗せて事務所へ逆戻りしている。

事務所の台所で、言葉を交わす麻生とユーコ。
麻生「あのゴリラの悪口についついカッとなってしまった」
ユーコ「引き受けることにしたの?」
麻生「なりゆきじょう、やむを得ず」
ユーコ「いつも冷静なキャプテンにしては珍しいこと」
麻生「やっぱり、心が千千(ちぢ)に乱れておるんだねえ……」
麻生の良きパートナー・ユーコ、コーヒーしか出す物がなく、依頼人の口に合うかどうか心配する。

だが、老婆は見掛けによらず、気取った手付きでコーヒーカップを口に運ぶと、「出涸らしのアメリカンですね」と、専門家のような顔で正確な判断を下す。
カネ「でもやっぱりコーヒーはブラジルがようござんすね」
麻生「あ、ああ、あー、それじゃ、ご依頼の件を詳しく」
麻生は依頼内容を聞くと、ダーツたちメンバーに集合をかける。みんな気乗りしない様子だったが、ユーコに「これが最後の仕事だから協力して欲しい」と情を絡めて説得され、一応事務所に顔を揃える。

麻生は、台所で彼らに仕事の内容を説明する。
依頼人・倉持カネには金太郎と言う息子がいたが、10年前、銀子と言う女と駆け落ちをしてしまった。その後、金太郎と銀子の間に、桂馬と言う男の子が生まれた。
だが、金太郎は交通事故で亡くなり、現在、銀子は息子を抱えて大変苦労しているらしい。カネとしては、長い間の確執は忘れて、たったひとりの孫である桂馬少年を、銀子ともども引き取りたいと、二人の行方を捜して欲しいと言うことなのだ。
ダーツたちは、仕事の内容よりも、カネにちゃんと探偵料が払えるのか、その辺を気にしていた。
カネは「あなた(ユーコ)も含めて、これくらいでどうかしら」と、指を広げて見せる。
ユーコは「ひとり1万円も頂けるの?」と早合点して驚く。
だが、カネがジュンの電卓を叩いて最終的に弾き出したのは、5億円! つまりひとり1億円と言う破格の金額だった。
当然、ダーツたちは白けた顔になり、
ダーツ「あのね、おばあちゃん、野菜食べて長生きしたら。ね」
ジュン「暑いからおばあちゃん気をつけてね……」
と、さっさと帰ってしまう。

ユーコ「ねえ、みんな!」
麻生「口説くにはどーしても無理があるわなぁ」
カネも諦めて帰りかけるが、

麻生「やりますよ、一度引き受けると言った以上、桂馬君は必ず見付け出して見せます!」
麻生、男気のあるところを見せる。
麻生はその後、藤波弁護士のところを訪ね、カップ麺を啜りながら依頼のことを雑談的に話す。
藤波「おお、ひとり1億とは豪勢だなぁ」
麻生「我が事務所最後を飾るにはふさわしい大仕事です。(久美子に)あ、どうかな、手伝ってくれたら1000万くらいならお払いしますよ」
久美子「それよりもラーメン代200円早く下さい」
おりしも、藤波弁護士のところも引越しの荷造りでおおわらわだった。
藤波「いよいよ都落ちだ。民事専門に転向して大会社の顧問にでもなればやっていけるんだがなー」
麻生「私のせいですかね、金にならん事件ばかり押し付けたから……」
藤波「関係ないさ」
藤波は、あくまで刑事弁護士一本やりで行くと、初志貫徹して東京を離れて再出発すると言う。
麻生「藤さん」
藤波「世話になったな」
麻生「ご自愛下さい」
がっちり最後の握手を交わす二人。

久美子「先生、私やっぱりお供して……」
藤波「いや、いかん、君は東京にご両親がいるんだから」
久美子「関係ありません。私先生と一緒に……」
藤波「ダメだ。ダメだと言ったらダメだよ」
藤波にきっぱり同行を断られ、号泣する久美子。か、可愛いじゃねえか……。
そんな二人を見届けてから、麻生はセカンドカーにまたがって早速人探しを開始する。
つづく。