第8話「愛すればこそ」(1984年11月24日)
前回から、あっと言う6ヶ月が経過している。つまり、もう秋なのである。
だから、高校の水泳の授業で加代がスクール水着になったり、中学の水泳の授業で清美がスクール水着になったり、滝沢一家が海水浴に行って節子さんがトップレスになったり、
そんな楽しい季節イベントは、
一切なし! まぁ、実際に撮影しているのは秋だから、どうしてもそれ以外の季節はスルーされがちになる。

代わりに、我々は美しくない男子ラグビー部員たちの暑苦しいトレーニング風景を見せられる訳である。

県大会も近付いていたある雨の日、滝沢がコピー機に向かって同人誌を刷っていると……、いや、何かのプリントをコピーしていると、甘利先生たちが「今日は雨練習があるんでしょう」と、率先して仕事を代わってくれる。
この半年間で、野田先生も江藤先生も滝沢を、ラグビー部を積極的に応援してくれるようになったらしい。
滝沢「すいません、いつも皆さんに雑務を押し付けることになってしまって……」
ところが、意気込んで滝沢が部室に行くと、マネージャーの加代がいるだけで、部員の姿がない。
いつも鬱陶しいほどポジティブな滝沢は、「体育館だよ、準備運動してるんだよ!」と、体育館へ行ってみるが、他の運動部員たちが練習しているだけで、やはりラグビー部員は見当たらない。

滝沢(テニス部の女子たちをじっくりと鑑賞してから)「いないな」
加代「ほんと、何処へ?」
イソップ「先生、みんな帰っちゃったみたいなんです」
滝沢「帰ったぁ?」
ひとりで光男たちを探し回っていたイソップがやってきて、報告する。
滝沢は自転車に乗ってずぶ濡れになりながら街を走り回って、ようやくゲーセンで遊んでいた玉川たちを発見する。
玉川は、練習前に光男が「ポンポンが痛いからお休みします」と、明らかに仮病でサボったことが引き金になって、ひとりふたりと帰り始め、結果的には全員帰ってしまったのだと、光男元凶説を唱える。

滝沢「それでお前たちは他の奴が楽をするのになんで自分たちだけが苦しい練習しなきゃいけないか、損だって気になった。そういうことだな? それにしても一言くらい俺に……あと一週間で県大会だぞ。こんなことでいいのかっ」
滝沢が声を荒げるが、玉川たちの反応は一様に鈍い。
一方、今回の騒動の原因菌である光男は、

光男「ただいま!」
夕子「光男、何処行ってたの?」
光男「映画! 面白かった、サイコー!」
と、部活をサボったと言う後ろめたさのかけらも感じられない満面の笑顔で帰宅する。
何の映画を見ていたのか不明だが、どうせ
「ベスト・キッド」とか、そんなのだろう。
しつこいようだが、なんでこんな男に圭子が……(以下略)

が、店には既に滝沢がいて、光男の帰りを待っていたのだった。
光男「腹減っちゃった、晩飯なに……」
滝沢「やっぱり仮病だったんだな、あんなに練習熱心だったのにどうしたんだ?」
光男、素直に謝るかと思いきや、

光男「俺だけ責めないでくださいよ。そりゃ今日は俺がたまたま休んだのがきっかけだったかもしれないけど、一昨日は田村が練習休むし、昨日は高杉とマルモが休むし! これじゃ俺だってやる気なくなりますよ!」
と、逆ギレする始末。
しつこいようだが、なんでこんな男に圭子が……(以下略)
滝沢「お前人のせいにすんのか?」
光男「だってチームの力は県下じゃCクラスの下でしょう。練習試合は負け続けだし、どうせ県大会だって糧っこねえし……そう考えたら急に嫌になって、みんなだって同じですよ」
滝沢「雨練習しても始まらない、そう思ったんだな。しかしな、森田、練習はまずその怠け心に勝つ為にやるんだ」
光男「分かってます! 明日は出ますよ、練習!」
ほとんど喧嘩腰にそう言い放つと、光男はさっさと自室へ引き篭もる。
滝沢「光男君、どうしたんでしょうね。やっぱり圭子さんと離れ離れになってると張り合いがないんでしょうかね」
下田「それもあるんでしょうけど、要は負け犬なんですよ」
滝沢の問いかけに、青少年の心理に詳しい下田は、彼らが「おちこぼれ」や「家がビンボー」などの為、やる前から負けると思い込む癖が染み付いているのだろうと推測する。
「おちこぼれ」は、とにかく、「家がビンボー」はあまり関係ないと思うんですが……。
でも、光男って得だよね。単に不貞腐れてるだけなのに、圭子との関係のせいではないかと、逆に滝沢に気遣われるんだからね。
じゃあ、そもそも彼女すらいない他の部員たちの立場は? ねえ、立場はぁぁぁっ? ……
失礼しました。つい、私情が混じってしまいました。
光男は、叱りに行った夕子(和田アキ子)を相手に暴れまわってプチッと潰される(註・されません)。
とにかく、光男はかなり精神状態が不安定になっているようであった。
CM後、グラウンドで練習している部員たちとそれを指導している滝沢。
校長と内田がちょっと様子を見に来る。

内田「やー、仕事で近くまで来たもんだからねえ。どうかね、今度の県大会、どの辺まで行けそうかね?」
滝沢「……」
内田「なにせ、元オールジャパンの君が監督だ、一回戦二回戦は問題ない……県代表も夢じゃないよ」
滝沢「はぁ……とにかくベストを尽くします」
色々と世話になっている内田の楽観的な予想に、困ったような顔で言葉すくなに応じる滝沢。

内田が先に帰った後、「あんな期待してる内田さんに一回戦も勝てるかどうかなんて言えませんよ」と、校長に小声で本音を打ち明ける。

校長「しかし勝敗は時の運だ、日頃の力を発揮すればそれでいいさ。みんな一生懸命やっとるじゃないか」
滝沢「そう見えますか、素人の校長先生にはそう見えるかもしれません、でもよおくご覧になってください。
あいつらは人間じゃないんです。人間に化けた地底人なんですぅっ!」
校長「……」
滝沢、ラグビーのし過ぎでいつの間にか頭がバカになっていたのだった。合掌。
……え、いいから話を進めろ? わかりました。
滝沢「本気でやってるのは4、5人だけですよ。あとは大きな声出してるだけです。ああやって交替で息抜きしてるんです」

グラウンドの端っこには、例によって大木が、いかにも「かまってほしいのぉ」と言う空気を振りまきながら、寝っ転がっていた。
その鷹のように鋭い目は、部員たちの大半が手を抜いていることを見抜いていた(たぶん)。
練習の後、滝沢がダメモトで部員たちにもう一度説教を垂れる。

滝沢「俺が今までお前たちがミスをして怒ったことがあるか? それはミスをしようとしてミスする奴はいないからだ。しかしなぁ、練習でどうすればミスが直せるか、お前らにはそれを工夫する気が全然ない! 俺はそれが悲しいんだ、だから怒ってるんだ!」
玉川「ラグビーは俺たちにとっては遊びなんです。それをそうガミガミ言われたって……」
滝沢「お前たちの仕事は勉強だ、ラグビーは遊び、それでいい。しかしなぁ、よく考えてみろ、トランプでも将棋でも他のどんな遊びでも良い、一生懸命やらなきゃ楽しくないだろう? 試合を目の前にしてこんなことを言うのは俺も情けないんだが、お前たちいったい誰のためにラグビーやってんだ? 俺の為か、学校の為か、誰に強制された訳でもない。自分の為にやってんだろう? だったらもっと真剣に練習しようじゃないか!」
滝沢は必死に訴えるが、真面目に聞いているのはイソップくらいで、大半の部員たちはわざとらしく欠伸をしたり鼻毛を抜いたりチャンピオンを読んだり、いかにもだらけきった雰囲気であった。
滝沢「バキヤロウ!」 滝沢の怒声が、空しく部室の壁に跳ね返る……。
さて、県大会のトーナメントの抽選会が開かれる。

川浜の一回戦の相手は、強豪・相模第一高校、通称・相模一高に決まる。
勝又「滝沢君、よろしく頼むよ」
滝沢「勝又さん、胸をお借りします」
早速、向こうの監督の勝又が、爽やかに握手を求める。
勝又を演じるのは倉田功さん、そう「快傑ズバット」のナチスジャガーですね(知るか)。
参考までに……

ヤンチャしてた頃の勝又監督(「快傑ズバット」第17話より)

その後、まだ中学生の清美と明子が、大木の姿を探しながらイチョウ並木の下を歩いている。
明子「何処行っちゃったのかな」
清美「いつだって私たちから逃げるんだから!」
この、清美の「だから」の発音は、無理に表記しようとすれば「どぁあから」と言う感じになる、山本理沙さん独特の台詞回しとなっております。

その大木、彼らの存在を知りながら、オープンカフェのテーブルで、背中を向けてビールをガンガン飲んでいらっしゃいました。
制服でビールを注文する方もする方だが、出す方も出す方である。
ちなみに店の有線なのか、アリスの「冬の稲妻」がBGMとして流れている。

明子「ね、ね、ね、ね、あそこの奴ら、相模一高の奴らじゃない?」
清美「ほんとだー」
それにしても山本理沙さん、出演者の中では別次元の可愛さだね。
で、その連中のテーブルにも、ビール瓶が並んでいる。制服でビールを注文する方も……(以下略)
彼らが、対戦相手に決まった川浜の悪口をがなり立てているのを聞いて、

明子「ちょっとちょっとちょっと」
清美「私たち、川浜がコケにされるとむかつくんだよね!」
いきなり彼らに喧嘩を売っちゃうのである。
不良の癖に、清美の持ってるビニールバッグの柄が可愛過ぎ……。

明子「川浜にはね、あたいらの大好きな大木さんって言う
キメッキメの先輩が行ってんだよ」
大木(キメッキメって呼ばれてたのか、俺……)
相模一高の(不良)生徒たちは、自分たちの学校が勝つと言って譲らない。

向こう見ずな清美は、「よし賭けた、もし川浜が負けたらあたいの、この指くれてやるよ」と、とんでもないことを言い出す。
明子「あたいもだよ、受けて立とうじゃねえか」
清美「あとで泣き入れんなよ!」
自分たちから言い出しといて「受けて立とう」はないだろうと思うんですが……。

相模一高の生徒たちがいなくなってから、やっと大木が二人の前に顔を出す。
大木「お前ら知ってんだろうな、相模一高と川浜じゃ、横綱とふんどしかつぎ、月とすっぽんだ」
清美「だから賭けたんだよ! 大木先輩言ったじゃない、川浜には滝沢先生って言うすっごい先生がついてるって……」 この清美の、小学生のように幼い喋り方がめっちゃ可愛いのですよ、奥さん。
清美「なら横綱のお月さんだろっ!」
大木「バカヤロウ、川浜のほうがふんどしのすっぽんだぁ。いくら滝沢でもどうしようもねえんだよ」
明子「えっ、ふんどしと……」
清美「すっぽん?」 茫然として、今賭けたばかりの自分の小指を見詰める二人であった。
二人の行為は無謀極まりないものだったが、結果的にこれが大木のラグビー部入りを促す要因になった訳で、それがひいては川浜のラグビー部の劇的強化につながったのだから、怪我の功名と言うべき勇み足と言えるだろう。
その2へ続く。