第16話「リリアン棒危うし!由真の一番長い日」(1987年2月26日)
「影」が一切登場しない上、主役である浅香唯もほとんど出てこないと言う異色作。
しかも、物語の滑り出しは、映画「ウエストサイドストーリー」をパクった、いや、その、オマージュ溢れるミュージカル調なのである。
……ま、例によって、「ウエストサイドストーリー」、見たことないんだけど。
(そして死ぬまで見ないだろう)

とにかく、それっぽい音楽(なんじゃそれは)のリズムにあわせて、ひとりの女子高生が指バッチン、いや、フィンガースナップをしている。そして、周りにいる仲間も一緒に指を鳴らし始める。

リーダー格のスケバン・太田涼子を演じるのは、太田涼子!
書き間違えではない。つまり、芸名と役名が同じなのだ。
少し肌が荒れているが、なかなか綺麗な涼子さんは、後に布瀬智子と改名し、「少女コマンドーいづみ」10話にもゲスト出演されている。

彼女だけならまだしも、その手下のもっさりした女子高生たちが加わると、どうにも絵にならないのが日本人の悲しいところである。

続いて、横並びで歩き出す。無論、延々と指バッチンをしながら、である。

最終的には、こんなことまでさせられて、割と気の毒な人たちであった。合掌。
正直、彼女たちにとって、生涯でも最大級に恥ずかしい時間だったのではないだろうか?
……しかも、

彼女たちに敵対する他校のスケバンたちも、同様に指バッチンしながら歩いてくるのである。
ぐわぁ~、もうやめてくれ~
恥ずかし過ぎて正視できないよぉ。
……と、ここでやっとミュージカルごっこが終わる。やれやれ、だぜ。
セーラー服のスケバンたちは涼子の姿を見て慌てて逃げ出すが、すぐに捕まってボコボコにされる。

涼子「結花と由真に言っときな、山下学園総番・太田涼子が今度は必ずあんたたちの縄張りを貰いに行くってね」
女生徒「ふぁい」
彼女たちは結花や由真の手下だったようだ。

一方、由真は本屋で偶然、旧知の誠と言う青年と再会していた。
誠「俺さぁ、アメリカの大学を卒業した後も、ずっと向こうで暮らそうと思ってね、親に相談する為に(アメリカから)帰ってきたんだ。昨日、やっと両親が許してくれて」
由真「じゃあ、もう日本には?」
誠「帰ってこないつもりだ。……結花さん、元気かな」
由真「姉貴、元気ですよ」
由真、明るく真正面から「姉貴に会って下さい」と頼むが、誠も爽やかに「会わない方がいいんだ」とやんわりと断る。
誠と結花は互いに好き合っていたようだが、過去のある出来事が原因でわだかまりが生じているらしい。

それでも、誠が明日の夜、アメリカへ発つと聞くと、由真は「明日の午後3時、駅で待ってて下さい。今度こそ姉を見送りに行かせますから」とお願いする。
が、誠の返事を貰う前に、手下のスケバンが、ゴロウたちが涼子たちにやられていると知らせに来る。
由真が駆けつけたときにはもう喧嘩は終わっていて、負けたゴロウたちが残っているだけだった。
由真は、涼子の残して行ったワープロで打ったような果たし状を読む。
大方の予想通り、そこには、
明日の午後3時に決闘しませうと、したためてあった。
そう、脚本家の陰謀である!
由真、行きたくないのは山々であったが、

ゴロウ「姉御たち、最近、忙しい忙しいってすぐどっか行っちまって、番長としての睨みが利かないし、涼子たちがのさばり始めたのだってずっと知らなかったでしょう?」
ありありと不信感を募らせて自分を見るゴロウたちを前にしては、「やってやるよ、涼子なんて私ひとりで十分さっ」とタンカを切らざるを得ないのだった。
同時に、「姉貴には絶対このこと喋るなよ」と、強く釘を差しておく。
そんなことは知らない結花は、家で、唯から「千葉に出張に行く」と聞かされていた。
そう、今回も、任務で他県に行くという設定で、浅香唯さんの多忙による不在が糊塗される訳である。

結花「それでどんな指令なの?」
唯「それは言えません」
結花「あんたひとりでだいじょうぶなのぉ」
唯「だいじょうぶ、だいじょうぶ、暗闇指令からの手紙をある人に渡すだけじゃもん……言ってしもうた」
思わず口を滑らせて、口に手を当てる唯が可愛いのである。
それにしても、暗闇指令って名前、久しぶりに聞いたな。
その夜、

机に向かって勉強している姉の横顔を見ながら、由真は昔のことを思い出す。
……にしても、この笑顔、とても裏番には見えんな。
回想シーンの様子では、誠と結花はまるっきり恋人同士のようであった。
由真、結花に誠と会ったことを打ち明けるが、結花は一言「そう」とつれない。

由真「それだけかよ」
結花「だって、私と誠さんとの件は一年前に終わってるのよ」
由真「一年前って、誠さんがアメリカに行く日に見送りに行けなかったってことだろ? あれは私のせいで……」
再び回想シーン。
その日、由真は渋る結花を無理に引っ張って空港へ行こうとしていたのだが、その途中、不良たちに襲われ、由真が不覚を取って怪我をしたせいで、結局見送りに行けなかったと言う事情があったのだ。
由真が、二人のことに責任を感じているのはその為らしい。
由真「誠さん、明日三時に駅前で待ってる筈だよ。ねえ、行きなよ、今度こそ、誠さん見送ってやってよ。もう会えないかも知れないんだから!」
結花「……」
翌日、由真は仲間を集め、結花に気付かれないよう2時半に学校を出発するのだと告げる。

が、こっそり学校を抜け出そうとしていたゴロウが、彼らの動きに注意していた依田先生にキャプチャーされてしまう。
依田「バツですねえ、授業中抜け出すのは……ちょっと話を聞かせて貰いましょうか」
由真たちは、ゴロウを待たずに指定の場所へ向かう。

涼子とのことは何も知らない結花、中庭でひたすら編み物をしていた。
依田「授業をサボって編み物ですかぁ、感心しませんねえ」
結花「三時までにこれを持ってかなきゃならないの、お願い、見逃して!」
依田「姉は編み物、妹は決闘、この姉妹、どうなってるんでしょうねえ」
さりげなく、由真と涼子との決闘のことを教える依田先生。
結花はその場所を聞くと、一瞬逡巡するが、編み物を放り出して走り出す。

午後三時、指定された場所、轟台ドルフィンプールなる施設であいまみえるセーラー服の星流学園とブレザーの山下学園のスケバンたち。
ここは、「スケバン刑事2」の、何話だったか忘れたか、そこでも出てくる施設だよね。
涼子「結花はどうした 逃げたのか?」
由真「てめえらなんざ、姉貴が来るほどのこともねえだろ」
早速、由真と涼子による頂上対決が開始される。

由真、得意のリリアンを飛ばすが、涼子は、ポケットに忍ばせておいた秘密兵器…
二丁ハサミでその糸を断ち切る。
由真「ハサミ?」

涼子「ふふっ、てめえを倒す為に半年かかって修業したのさ。リリアンの由真、この勝負、貰うよ!」
得意気にハサミを構える涼子さん。
リリアンVSハサミですか……、あんまり関わりたくない戦いですね。
両手に持ったハサミを振り回し、由真の服を切り刻む涼子。

由真、得意のポーズでリリアンを投げ、涼子の手首に糸を巻きつけるが、すぐにハサミで切られて効果なし。
涼子がトドメを刺そうと(殺したらアカンやろ)ハサミを振り上げたところで、お約束のように結花の折鶴が飛んできて、それを邪魔する。
リリアンと言い、折鶴と言い、ハサミと言い、アイテムだけ並べると女の子らしい取り合わせなんだけどね。
由真「頼むよ、誠さん見送りにいってやってよ、もう会えなくなるんだよ、ねえ行きなよ、お願いだから!」
結花「由真……」
由真、涙まで滲ませて、必死で姉に訴える。
涼子「おい、どっちが相手になるんだー、早いとこ決めろよー」
放っておかれた涼子さん、苛立たしそうに割って入る。
由真「うるせーっ、私が相手だって言ってんだろうがっ」

互いに武器を持って突進する由真と涼子。
が、由真はぶつかる直前にその頭上を飛び越え、飛び越えながら涼子の両手首に糸を巻きつける。
由真「貰った!」

涼子の手が後ろになった隙に、あらかじめ糸に通していたリングを滑らせ、ハサミの刃に嵌め込む。
なんだか良く分からないが、そうやって涼子のハサミを封じたのだ。

その後は、涼子の体をぐるぐる巻きにして一丁上がり。
涼子、あっさり敗北を認め、その場に膝をつく。
……縛られている美少女と言うビジュアル、なかなか良いですね。
時刻は3時40分。

もう間に合わないと思われたが、そこへピンク色のビートルと言う、頭のおかしい車で颯爽と現れたのが、依田先生であった。
結花「先生!」
今回は、影との戦いではないので結花たちも彼のことを般若、とは呼ばないのだ。

依田「僕、編み物、結構得意なんですよね。最後まで諦めないのが、青春」
心憎いことに、依田先生、結花の編み掛けの手袋を短時間のうちに完成させ、持ってきてくれたのだ。
由真「姉貴、行こ!」
二人は、すぐに駅に向かって走り出す。
……って、あれ、
車で乗せてってくれるんじゃないのぉーっ? 
と、とにかく、結花は、誠に手袋を渡すことは出来なかったが、走り出した電車の中の誠に、それを見せることは出来た。

誠もそれを見て口を動かし、感謝の気持ちを伝え、二人の関係は紙一重で繋がりを取り戻したのだった。
由真「姉貴のこと忘れんじゃねえぞ!」
電車に向かって叫ぶ由真。
ま、誠が忘れなくても、視聴者とスタッフの方が誠のことを忘れる可能性、大であったが。
ラスト、何があったかの、傷だらけの姿で唯が「出張」から帰ってくる。
唯「姉ちゃんたちはどんげやったと? なんかあった?」
結花「別に何にもなかったわよ」
唯「ふーん」
由真(小声で)「あーあー、疲れた一日だった」
その後、顔を見合わせているうちに「ふふふふふっ」とつい笑い出してしまう仲良し三姉妹でありました。