第17話「仕掛けられた死の罠 唯のアブナイ休日」(1987年3月5日)
ららぽーとの前で、制服姿の高校生がチンピラにカツをあげられそうになっていた。
そこへ颯爽と現れた唯、簡単にチンピラたちを撃退し、高校生に感謝される。
ギャラリーも唯に拍手を送って賞賛する。
高校生「名前をお聞かせ願えないでしょうか」
唯「清流学園1年B組風間唯」
それくらいならまだ良かったが、

ヨーヨーの代紋を披露して、「またの名を三代目スケバン刑事、麻宮サキ!」とまで明かしてしまう。
秘密捜査官である筈のスケバン刑事としては、番組そのもののコンセプトを破壊しかねない言語道断の行為であった。まぁ、3を「スケバン刑事」シリーズと呼ぶこと自体、原作や過去2作の冒涜のような気がするが。

が、その様子は「小癋見の大介」と言う般若の部下によって写真に撮られていた。
大介「風間唯は忍びの戦いに自信をつけております。しかし、自信と思い上がりは紙一重、大怪我をせぬうちになにか手を打たねば……」
般若「困った奴だ、少し手綱を締めねばならん」
般若……依田先生は、図書館の忍者ルームに三姉妹を呼び寄せる。
依田「戦うものの心理と言うのは奇妙な物で、はじめ戦いを恐れていたものも次第にその中に溺れていく、ま、戦いの魔力とでも申しましょうか」
結花「私たちの中に戦いに溺れているものがいるってこと……」
依田「ひとことで言えば、自信過剰、思い上がり!」
依田先生、そう言いながら唯の顔を見る。

唯「何かと思ったらそげんこつか、なら心配いらん。わちゃ思慮深いほうじゃから思い上がりはなか、日々反省の良い子じゃ」
が、唯は全く自覚がないようで、明るい笑顔できっぱり断言する。

依田、両手をギチギチと握り合わせながら、「ご理解頂いていればよろしいんです!」と、怒鳴りつけたいのをなんとか堪える。
鈍感な唯は、依田先生の気持ちなどまるで気付かない。

依田「では本題に移りましょう。時は春、幸い影もしばし姿を潜めています。こういう時に骨休みをしたらいかがかと思いました」
唯「うん、そうじゃそうじゃ」
依田「私から皆さんにツアーをプレゼントさせていただきます!」
唯「やったーっ! ……ところでツアーってなんね?」
結花「団体旅行のことよ」
三姉妹は旅行と聞いてにわかに盛り上がり、依田の「反省の時間を……」などと言う言葉は、右から左へ素通りさせる。
……が、

由真「依田の奴、ふざけやがって」
結花「ハワイかグァムってことはないって思ってたけどねー」
由真「何が悲しゅうて、東京でおっかさん、な訳?」
それはツアーと言っても、小田急バスで行く、都内の観光名所めぐりの日帰りツアーであった。
唯はともかく、東京育ちの姉たちにとっては面白くも何ともない。
唯、ひとりだけ遅れてやってくるが、その際、ひとりの若者とぶつかる。
宮崎弁丸出しのその若者は田之上大介と言い、唯たちと同じツアー客であった。
ただし、唯は柄の悪い姉たちのことは「赤の他人じゃ」と、大介に嘘をつく。

大介「こう見えても、若き牧場主じゃ」
唯「すごかー」
大介「でも、良かった、実は、東京にはナウい嫁さんば、探しにきたんじゃー! 後ろん席のスケバンみたいなおなごばっかりやったら、どげんしゅうちょう思っとったけど……唯さんみたいな可愛い人もおるんやね」
唯「恥ずかしかー」
純朴そうな大介に真っ正面から誉められ、顔を赤らめる唯。
由真と結花は、他の客が中高年ばかりで残念そうであったが、久しぶりのバス旅行をそれなりに楽しんでいる。
バスは、定番中の定番、東京タワーへ。
大展望台の土産物屋で「反省」と書かれた絵馬を買い求めたりする唯であったが、突然、何処からか苦無が飛んでくる。唯、咄嗟にポシェットでそれを受ける。

唯「この中に影が……」
唯がそのことを姉たちに話していると、大介が来て、祖母から頼まれていた神社のお守りを買いたいので、ツアーから外れて一緒に神社に行ってくれないかと唯に頼んでくる。
結花「断るのよ、唯」
唯「じゃけん、気の毒じゃもん」
結花「影を甘く見ちゃいけないわ」
唯「わちがついとれば大丈夫」
結花「もう依田先生の言ったことを忘れたの? そう言うのを思い上がりって言うのよ」
唯「……」
結花に厳しく諭された唯であったが、結局、大介の為にこっそりツアーから離れてしまう。

バスガイド「それでは出発致します」
結花「待って、まだ乗ってない人がいるわ」
バスガイド「はぁ? 満席でございますが」

由真「何処に目ぇつけてんだよ」
立ち上がる二人だったが、いつの間にか唯と大介が座る筈の前の席が埋まっていた。
由真「てめーら、影か?」
中腰のまま、リリアンと折鶴を構える二人。
バスガイド「他のお客様のご迷惑になります。お静かに……」
言いながら、バスガイドは吹き矢の筒を二人に向け、金粉のような物を吹きつけてくる。
結花「何を!」
バスガイド「春香の術と申します。お休みくださいませ」
バスガイドがにっこり微笑むのと同時に、結花と由真はドサッと座席に倒れ込んで眠りに落ちる。
そう、このバスツアーそのものが、忍びの罠だったのだ。
ちなみにこのバスガイドさん、なかなか色っぽい。演じるのは草場優子さん。
姉たちがそんな目にあっているとも知らず、唯は大介とすっかりデート気分で、大介が是非行きたいと言う氷川神社にやってきていた。
道々、唯は自分が「父親は一流商社の社員で、お嬢様」と、可愛らしい嘘をつく。

神社には、「真の狛犬」と言う、嘘をついたものが手を入れると手を噛み切れられると言う言い伝えのある狛犬があった。
東京にびっくりするほど疎い管理人、思わずほんとにそんなものがあるのかと思ってしまったが、これはドラマ内の架空の狛犬らしい。言うまでもなく、「ローマの休日」(註1)に出てくる「真実の口」のパロディなのだ。そう言えば、神社に来る前に二人はアイスを食べていたが、それも「ローマの休日」のジェラートを意識しての演出だったと思われる。
と言うより、今回のエピソード自体、「ローマの休日」を下敷きにしてるんだろう。
(註1……勿論、管理人は見たことがない)
大介「やってみーや」
唯「……」

純真な唯、そんな伝説を真に受けて、目をつぶって恐る恐る狛犬の口に手を入れる。
無論、何事も起こる筈がない。

唯「へへーっ」
自慢げに、その手を大介に見せる。

続いて、大介が手を差し入れると、今度は手が抜けなくなって慌てふためく。
と言っても、スタッフもさすがに「ローマの休日」そのまんまのシーンにするのは恥ずかしかったのか、大介のいたずらではなく、袖が引っ掛かったと言うことになっている。
その時、唯は異様な香りを感じる。さっきの「春香の術」の金粉が周囲を舞っているのだ。
唯は、袖が引っ掛かって動けない大介を残し、石段を降りて人気のない雑木林に移動する。
唯「出てこんね、わちを倒すのが目的なんじゃろう」
唯の呼びかけに応じ、数人の忍びが何処からともなく湧いて出て、唯に襲い掛かる。

唯、「春香の術」にかかりそうになるが、すかさずブローチのピンで自分の手を刺し、その痛みで術を破る。
この辺は、いかにも百戦錬磨の忍びと言う感じで頼もしい。
唯が術を破ったのを見て、忍びたちはすぐ退散する。
だが、唯が大介のところへ戻ると、「春賀の術」にやられたのか、大介が狛犬のまでぶっ倒れていた。
大介「み、水……」
唯「水? 分かった」

唯、公園の手洗い場の水を手で汲んで運ぼうとするが、途中でこぼれてしまう。

仕方なく、水を口に含んで、

さすがに口移しと言うことはせず、仰向けになった大介の顔の上で口から水をぽたぽた落とすと言う、「これって何のフェチビデオですか?」と言いたくなるような仕儀に及ぶ。
この辺も、「ローマの休日」に元ネタがあるのかなぁ?
やがて、唯の介抱が効いたのか、大介は目を覚まし上半身を起こす。

唯「どっかおかしいとこはないと?」
大介「ああ、ちょっと頭が痛かけど……大丈夫」
唯「良かった、わち、どねしようかと思って」
大介が無事なのを見て、思わず涙ぐむ唯。

と、大介はすかさずライター型の隠しカメラで唯の顔を写す。
唯「あっ、タバコはまだ無理じゃ」
しかし、大介のことを信用しきっている唯は、盗み撮りされていることに全く気付かない。
……シャッター音、してるんですけどね。
ちなみにこのライターに仕込んだカメラと言うのも、「ローマの休日」に出てくるアイテムだそうです。

二人の距離はますます縮まり、遂に大介は「俺の嫁さんにならんね?」と大胆なことを切り出す。
大介「今すぐちゅう話じゃなか、唯さんがずっと大人になってからの話じゃ」
唯「そんなげな先のことはわからんし」
大介「ほんじゃあ、真面目にじっくり考えてくれんね。おいはいつまでもまっとるけん」
唯「やっぱりダメじゃ」
大介「今すぐじゃなか、希望をもっとってよかやろ」
唯「うちなんかダメじゃ、他にもっと良い人がおるじゃろう」
大介「俺はそんなに嫌われたんか?」
唯「そんなんじゃないけど……」
どうにも首を縦に振らないが、かと言って強く拒絶する訳でもない、煮え切らない態度の唯。
と、再び忍びたちが現れ、大介の足首をロープに引っ掛け逆さに吊り上げる。
唯、お嬢様モードから本来のスケバン刑事モードにスイッチする。

唯「わちはお嬢様なんかじゃない、あんたなんかの手に負える女じゃないぞ!」
叫びながら、忍びと激しく戦う。
このタイミングで大西結花の歌う「シャドウハンター」が流れ出す。
(シャドウ!)ゆらめく影が~♪
(シャドウ!)闇をかすめる~♪ この曲もなかなか良い曲だよね。
愛は決してあきらめない~♪
瞳 傷ついても~♪ 管理人、この辺のシーンが割と好きである(知るか)。
それでは実際に聞いていただきましょう。大西結花さんで、「シャドウハンター」です。パチパチパチ。
唯、忍びたちを追い払い、大介を助け出す。
大介、未練ありありの様子であったが、唯はそれを振り切って走り出す。

んで、傷心の唯の前に現れたのが依田先生……般若であった。
唯「わちはいつの間にか思い上がっちょったのかもしれん。今日の一日でようっと分かったわい」
依田「有意義な一日だったようですね」
依田、そう言ってことさらに見せ付けるように、ライターでタバコに火をつける。
それは、紛れもなく、大介が持っていたのと同じ物であった。
依田「高性能のキャメラにもなるんですがね」
依田、内ポケットから、今日大介が隠し撮りした数枚の写真を取り出して唯に見せる。
現像早っ! 依田「君は影の存在を知りながら同情から結花や由真と別行動を取り、一旦は敵を追い払いながら、全てを自分ひとりで解決しようとした。思い上がりから、細かい配慮が欠けていたようですね」
唯「こりゃ一体どういうことなんじゃ?」

そこへ、結花たちも姿を見せる。
結花「全ては般若の計略ってわけ、唯の思い上がりを自覚させる為のね」
由真「あのバスガイドにはほんとひどい目に遭ったよ」
唯「じゃ、忍者も」
依田「全て私の部下です」
唯「まさか、大介さんも?」
依田「小癋見の大介、探索専門の部下です」
そう、最初に般若に報告していた能面の男こそ、朴訥な青年・大介だったのだ。
唯「……ひどか、ひど過ぎる! わちはもうなんもなんも信じられん」
結花「お黙んなさい!」
唯「結花姉ちゃん……」
結花「私も最初はひどいと思ったわよ、
でもつらいのは騙す方もおんなじ、そこまでさせたのは自覚が足りなかった自分の責任でしょう?」
依田「彼もつらかったんです、大介から預かった写真……確かにお渡ししましたよ」
日本人って、
「ボールをぶつけられたバッターも痛いが、ぶつけたピッチャーの方がもっと痛い」的なコト言うの好きだね。
依田先生、写真を渡すとさっさと立ち去る。
唯、拗ねて写真を見ようとしなかったが、結花に「メッセージよ、読みなさい」と言われ、渋々目を落とす。

と、その写真の裏にこんな言葉が……

別に悪気があってされたことでもないので、唯はたちまちご機嫌になるのでした。

いつもの調子を取り戻し、歩道橋の上ではしゃぐ三姉妹。
依田「ま、いいでしょう、青春なんだから」