第31話「あぶない!嘘つき毒きのこ」(1973年11月2日)
住宅地のど真ん中に、突如、巨大なキノコが生えてくる。
見た目にも、毒々しい色彩と形状で、いかにも毒キノコっぽい。

家の中から見たキノコの様子。
いつもながらミニチュアセットの細かさには脱帽です。
ZATが直ちに出撃し、様々な方法でキノコを排除しようとするが、どれも効果はない。

やむを得ず、早くも光太郎がタロウに変身し、手の先から炎を出して、キノコを燃やしてしまう。
だが、その一部が燃え残り、道路工事でアスファルトの下に埋もれてしまったことに誰も気付かなかった。
さて、それから後、健一のクラスでテストの答案がひとりずつ返されている。

健一の隣の席の武田大介少年に対し、80点の答案を渡しながら、怖い顔をして、
教師「この点はどういうことかな? 君は理科が苦手でいつも30点だ……」
何しろ今回の脚本は大原清秀さんなので、てっきり、
教師「カンニングしたんじゃないだろうな?」
大介「そんなっ(中略)大人なんて大嫌いさっ!」
みたいな展開になるのかと思いきや、先生はニコッと笑って「今度は随分勉強したんだろう? 良くやったな」と他意なくお褒めの言葉を下さるのだった。あらあら。
だが、大介少年が母親にそのテストを見せようと弾む足取りで団地に帰ってくると、
「今日はパートが残業で遅くなります。冷蔵庫のもやしとレバーを炒めて食べてください 母より」と言う、極めて具体的な手紙が残されていた。
大介少年、すっかり気を腐らし、団地の公園に行くと、テストを紙飛行機にして飛ばしてしまう。

それをちょうどパトロール中だった光太郎と南原が拾い、大介少年に届けに来る。
光太郎、大介少年が健一の友人だと知っていたのだ。
光太郎「これ、君んだろう、どうして捨てたりしたんだよ? こんなところで何をしてるんだ」
南原「もう帰った方がいいよ。父さんや母さんが心配してるぜ」
大介「うちには誰もいないよ、お父さんは仕事で遅いし、お母さんはパートだし」
光太郎「そうかぁ、君は鍵っ子だったなぁ……だけど大介君、君のお母さんだって暮らしが苦しいから働いてるんだろう? 君も寂しいかも知れないが、その辺を分かってあげなくちゃ」
光太郎、穏やかに諭すが、大介によると……、

母親「パートをやめろったってそうはいかないわよ、あなたのタクシーの運転手の稼ぎだけであのステレオが買えたかしら、電子レンジだって、この指輪だって……」
父親「人並みに暮らせれば見栄を張らなくてもいいじゃないか」
母親「そうはいかないわよ、お隣の田口さんだって石堂さんだってしょっちゅう一流のレストランでお食事をなさるってお話よ……優雅な暮らしもエンジョイしなくちゃ、私は良いけど、大介がかわいそうよ、ね、大介?」
大介「……」
つまり、母親は贅沢な暮らしがしたい……と言うより、ご近所に対する見栄で、それほど必要もないパートに出ているらしいのだ。
ちなみに、お隣の名前として出てくる田口、石堂は、それぞれ同じくタロウの脚本家である、田口成光氏、石堂淑朗氏から取られているのは言うまでもない。

大介「僕、一流レストランで食事するより、うちでお母さんと一緒に御飯食べる方がずっといいんだ」
光太郎「そうだったのか、そうだよな、誰もいないうちでひとりで待つなんてつまんないよな」
大介「ここにいてもつまんないけど」
光太郎「……」

健気な少年を慰めようと、光太郎は奮発して、ZATが開発中の「植物トランシーバー」なるアイテムを大介に貸して上げる。
それは、植物と会話ができるというハイテクメカであった。
光太郎「これがあれば、ひとりでいたって寂しくはないさ」
大介「ありがとう!」
大介はすぐにそれを持って、実際に植物とコミニュケートしようと歩道へ出る。

大介「ケヤキさん、こんにちは」
ケヤキ「やー、こんにちは」
大介「わー、気分はどう?」
ケヤキ「いや、東京は空気が汚くて参っちゃうよ、ごほっごほっ」
大介「ふーん、気の毒だね」
大きく枝を広げるケヤキと会話する大介。
が、そのハイテクメカのチューニングをいじっているうちに、偶然にもアスファルト道路の下に閉じ込められていたあのお化けキノコの生き残りと波長が合う。
キノコ「水をくれ……ワシはキノコだ」
大介「キノコ? 何処にいるの?」
キノコ「お前の足元じゃ……干からびて死にそうなのだ、水をくれ」
大介が、近くから水を持ってきてアスファルトに垂らすと、水が沁み込んで、たちまちキノコが固い路面を叩き割って地上へ顔を出す。
キノコ「ふう、助かった。お礼にワシを食べてよいぞ」
大介「だって君は毒キノコじゃないの?」
キノコ「とんでもない、ワシは人畜無害、しかも味は抜群だぞ~」
お化けキノコはしきりに大介に勧めるが、いかにも毒々しい形状・色なので、大介は「いいよ」と遠慮する。
それに、助けてあげたキノコを自分が食べるというのもおかしな話だしね。

と、ちょうどそこへ知り合いのワルガキたちがやってくる。
少年A「おう、大介、なにやってんだよ」
大介「別にぃ」
少年B「おう、キノコじゃねえか」
ひとりがキノコに気付いてそれを拾い、胸ポケットにしまう。
A「頼みがあるんだけどよお、俺たちレコード鑑賞してえんだけど、てぇきとうな場所がねえんだよな。お前んとこのステレオ、貸せよ!」
当時は、レコードプレーヤーも高価だから、誰でも持っている訳ではなかったのだろう。
……と言うか、
プレーヤーもないのにレコード買ってんじゃねえ! ちなみにこの右端の少年を演じているのは、清水昭博さん。「ゆうひが丘の総理大臣」などの学園ドラマの常連で、現在も活躍されている。
大介「でもぉ」
B「いいじゃねえかよ、どうせお前ンところ誰もいねえんだろー」
A「やなら、ぶっ飛ばすぞコノヤロー!」
中学生には逆らえない大介、結局彼らに家を占領されてしまう。

人の家に上がり込んで、人のステレオで、この年発売されたキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」をガンガン鳴らしつつ、踊り狂っている三バカ。
大介「あーあー、父さんか母さんがいてくれたらなぁ」
溜息をついてから、ふと時計を見ると8時半。
……しかし、彼らと会ったのが3時半とすると、5時間もぶっ続けて踊ってることになるが?
大介「約束の時間だよ、もう帰ってよ!」
勇気を振り絞って訴えるが、素っ気なく突き飛ばされる。
しかも、そこで植物トランシーバーを落として、それを三バカに取り上げられてしまう。

大介「返してよー、それ、僕のじゃないんだ」
B「俺たちの言うことを聞いたら、返してやってもいいぜ」
大介「なんでもするからさ!」
B「ほー、じゃあ、これ食べてみな」
少年Bは、胸ポケットに差していたあのお化けキノコを大介の顔の前に突き出す。
B「こいつを食ったら俺たちはすぐにでも帰ってやるぜ」
大介「……」
A「どうした? なんでもするっつったくせに、度っ胸ねえなぁーっ!」
大介、どうしても彼らに帰って貰いたいので、思い切ってそのキノコにかぶりつく。
基本ヘタレの三バカは、まさかほんとに食べるとは思わなかったので「毒だったらどうする」「い、今のは冗談だよー」と逆におたつく。
大介「どうだ、さあ、帰れ! うう……」
が、案の定、そんなものを食べた大介の体はたちまち変異を起こし、

なんと、巨大なキノコを頭に被ったようなキノコ人間になってしまう!
三バカはそれを見ると、慌てふためいて飛び出して行く。
大介「ぼ、僕はどうしたんだ」
キノコ「お前は、今日からキノコの奴隷なのだ。さぁ、水のたっぷりあるところへワシを連れて行け」
このお化けキノコ、やたら水を欲しがるが、キノコってそんなに水を必要とする生物でしたっけ?
大介はキノコに操られるまま団地を出て、いずこともなく姿を消す。
光太郎と南原、大介の行方を探していたが、たまたまあのトランシーバーを持っている三バカを見掛ける。

光太郎「君たち、それを何処で手に入れたんだ」
A「何処だって関係ないでしょーっ」
光太郎「それは僕が大介君に貸して上げたんだ……」
光太郎の言葉に、三人は後ろめたそうに俯く。
光太郎「大介君はどうしたんだ? 何かあったんだな?」

光太郎「言いたまえ!」
A「言うよー、大介の奴、変なキノコ食べてさー、キノコになっちゃったんだー」
光太郎「キノコに? そんなバカなっ」
B「ほんとですわー、俺たちそんなもの食べるなって止めたのに……」
A「これ、ちょっと借りただけなんです」
三バカは、トランシーバーを光太郎に渡すと、すたこらさっさと逃げて行く。
徹頭徹尾人間のクズっぽい行動が素敵だが、彼らが特に因果応報的な目に遭わないのはちょっと残念かも。
光太郎、そのトランシーバーを使って大介と連絡を取ろうとする。
すぐに大介の波長を拾うことに成功するが、大介は「暗くて水の音がします」としか自分の居場所が分からない。
後編に続く。