第5話「最後の闘魂」(1984年11月3日)
滝沢が無抵抗で水原たちに殴られているところへ颯爽と現れた圭子。
乱世会の会長・藤堂は圭子のことを知っているらしく、その顔を見るなりそそくさと退散する。
それ以来、乱世会による滝沢やその家族へのちょっかいはパタリと止むが、同時に圭子もまた忽然と光男の前から姿を消してしまう。
彼女の正体について光男の義兄・下田は、「大物やくざの娘かもしれねえな」と鋭い指摘をする。
別の部屋でその言葉を聞いていた光男、がらりと戸を開けて出てきて、
光男「元気ですかーっ? 元気があれば何でも出来るっ!」 下田「……」
じゃなくて、
光男「信じないぞ、彼女がやくざの娘なんて俺は絶対信じないからな!」
と、吠えると姉を振り切って店を飛び出す。
数日後、川浜高校では、今回の水原たちの暴力行為に対する処分について職員会議が開かれていた。
大方の意見は「退学処分にすべき」というものだったが、凛然とそれに異議を唱えたのは意外にも当の被害者である滝沢だった。

滝沢「確かに彼らのとった行動は野蛮かつ卑劣極まりないものでした。しかしだからといって、彼らをこの学校から追い出していいものでしょうか。追い出せば厄介者がいなくなってすっきりするかも知れません。が、しかし、それでは本当の意味でも問題解決にはならないと思うんです」
滝沢は、今、水原たちを退学にすれば今度こそ本物のやくざになってしまいかねないと懸念する。

滝沢「ルール違反にペナルティが課せられるのは当然だと思います。でも退学処分は……彼らにとって死刑に等しい宣告です。もし退学になれば彼らは一生消えることのない心の傷を受けることになるんです。私の顔の傷などは二、三日もすれば治ります。でも彼らにとっては一生の問題なんです! いくら突っ張ってるとは言え、まだ年端も行かぬ彼らの人生を我々が簡単に左右してもいいものでしょうか?」
滝沢の懸命の訴えに、教師たちも黙りこくって考え込む。
校長「どうでしょうか、この問題はひとつ、校長である私に任せては貰えんでしょうか?」
で、最終的に校長の下した裁定は、退学でも停学でもなく、「二週間、あるいは一週間の謹慎」と言う穏当なものだった。しかも、時期的に冬休みと重なるので、ほとんど無罪放免に近い「判決」だった。
はやいもので、季節はもうクリスマス。
「不良少女」は時間の流れの遅いドラマであったが、こちらはとても速い。なにしろ数年間に及ぶラグビー部の軌跡を半年で描かないといけないのだから。

滝沢も、珍しく家族連れでデパートに買い物に訪れている。
節子「久しぶりね、揃って買い物に出るなんて」
マフラーを首にまわしたあと、長い髪をパッと跳ね上げる岡田奈々さんの仕草がたまりませんなぁ。

が、そんな彼らの前に水原たちがコワモテを並べて現れる。
滝沢「水原、何か用か?」
水原「俺たちの退学をとめてくれたのあんただってな、余計なことしやがって……そんなことで恩売ろうたってそうはいかねえんだよ」
滝沢「別に恩を売る気はない」
水原「そうか、じゃあ話ははええや、乱世会は手を引いても、俺は絶対ひきさがらねえからな。卒業までにもうひと暴れもふた暴れもしてやるから覚悟してなよ!」
水原たちはそう宣言して去って行く。
滝沢のマイホームパパの顔は再び厳しいものに変わるのだった。
OP後、何の前ふりもなく、川浜高校ラグビー部が劇中初めての公式戦を戦っているシーンとなる。
全国大会予選の一回戦であったが、まともなラグビー部のていを成していない川浜は惨敗を喫する。
滝沢は試合を見に行かず、ひとり職員室で仕事をしていた。

そこへ、スタンドで応援していた加代がやってくる。
このひび割れたままのガラス窓が、川浜高校の実情を雄弁に物語っている。
少々、わざとらしいが。

加代から敗戦を聞いても滝沢は眉毛ひとつ動かさない。
滝沢「勝てる筈がないさ、あんなチームが勝ったらラグビーはおしまいだよ」
加代「先生! 先生は自分の学校のチームが負けて悔しくないんですか? そりゃあ3年生たちが先生をのけものにしていることは知ってます、でも選手の中には下級生だって入ってたんです」
加代、冷淡とも思える滝沢の態度を詰る。
加代「しかも試合が終わった後、あのひとたち……」
滝沢「試合が終わった後で何があったんだ? 山崎!」
言い淀む加代だったが、仕方なくその目で見たことを話す。

そう、上級生たちによる、下級生たちへのいわれのない鉄拳制裁の嵐であった。
試合に負けた鬱憤を、下級生たちにぶつけているとしか思えない理不尽な暴力教室。
内田だけは、暴行に加わらずに座っていたが、

水原「どうした、お前も一緒になって焼きいれねえのかよ」
内田「いや、俺は」
水原「やれよ、やれっつってんだよ!」
水原に強要され、仕方なく下級生たちをぶん殴るのだった。
さて、尾本たちの公式戦はこれが最後で、普通なら引退するところだが、散々殴った後で、
尾本「来年3月の卒業まで、ラグビー部のキャプテンはあくまでもこの俺だ」
さらに、彼らが卒業した後も、滝沢を監督して迎え入れないことを誓う誓約書まで書かされたと言う。

水原、ナイフをつきつけ、選手ひとりひとりに血判を押させると言う、極道まがいのことをやらせる。

滝沢「あいつら、なんてことを! ……俺がいけないんだ。俺が余計なおせっかいしたばかりに」
加代「おせっかいじゃありません、先生はみんなにほんとのラグビーを教えてあげようと……」
滝沢「しかし、その結果がこれだ! 俺は川浜高校のラグビー部を永久にダメにしてしまったんだ」
加代「先生……」
滝沢「分かったよ、俺は今後一切、ラグビー部から手を引く!」
いつになく後ろ向きな発言を連発する滝沢。
加代は、滝沢が辞めるのなら自分もマネージャーを辞めると言い出す。

滝沢、加代の小さな手を握り締め、「君はマネージャーを続けてくれ、君は俺の心を分かってくれる数少ない生徒の一人だ。今君まで辞めてしまったらラグビー部は空中分解してしまうんだ」と、熱心に頼む。
密かに滝沢のことを想っている加代、切なそうな表情で上目遣いに滝沢を見遣るのだった。
で、次のシーンでは一気に正月元旦に飛んでいる。

滝沢、正月そうそう鬱屈した表情でテレビを見ていたが、ゆかりにしつこくせがまれて、仕方なく凧揚げに出掛ける。
団地の高くの芝生の上には、他にも大勢の子供たちが繰り出して凧揚げやバドミントンに興じている。
……しかし、最近の子供って凧揚げなんてしないんだろうなぁ。
ゆかりと遊ぶ滝沢の心はつい(このままでもいいじゃないか……何もしなければ何も起こらない平和な生活が送れる……)と、安逸に靡きそうになる。
ちょうどそこへ、以前滝沢がラグビー指導をしていた子供たちがわらわらと集まってくる。
しかも、
全員ユニフォーム姿。 元旦だと言うのに、さすがに不自然じゃないか?
滝沢は彼らに請われて、久しぶりに彼らにラグビー指導を行う。川浜のラグビー部と違い、純粋にラグビーに打ち込む少年たちのコーチをするのは滝沢にとってこの上ない喜びであった。
……が、滝沢はコーチに夢中になって、ひとりで遊んでくると彼のそばを離れたゆかりのことをすっかり忘れてしまっていた。
ふと、周囲を見渡すと、ゆかりの姿が見えない。
慌ててアパートに戻ってみると、ゆかりは既に帰宅していた。

滝沢「なんだ、帰ってたのか」
節子「帰ってたのか、じゃありませんよ、あなた、ラ
クビーと自分の子供とどっちが大事なんですか。この子、パパが遊んでくれないからって泣きながら帰ったきたんですよ。それもひとりで、車のいっぱい通る道を横切って……もしこの子に何かあったらどうするんですか」
滝沢「パパが悪かった。ごめんね、ゆかり」
謝って、ゆかりの肩を抱こうとするが、ゆかりは「パパなんか大嫌いっ」と叫んで別の部屋に閉じ篭もってしまう。
正月そうそう、家族から白い眼で見られて、滝沢の鬱屈はますます深くなるのだった。
さて、新学期。

引き続き、甘利先生たちと校門で朝の挨拶をしている滝沢の前に、謹慎の終わった水原たちが現れる。
水原「おかげさんで、無事、謹慎期間も終わりました。今後ともまた、よろしゅうお頼み申し上げます」
ふざけて、昔の渡世人のような挨拶をする水原。滝沢たちはニコリともしない。
水原「あーあー、学校はやっぱり楽しいな」
放課後、今度はもうひとりの「困ったちゃん」森田光男の為、わざわざ圭子の通っていた港南女学院へ彼女の消息を尋ねに行く滝沢。
さすがにそこまで面倒見の良い先生はいないだろう……。
しかし、既に圭子は2学期の終わりに大阪へ転校していた。
そして、圭子には戸籍上の父親がおらず、その母親がいわゆる「未婚の母」だと言うことが判明する。

滝沢「どうだ、もっと調べるか?」
光男「……」
光男はこれ以上彼女のことを詮索するのはやめると滝沢に告げる。
だがそれは、圭子のことを諦めると言うことではなく、「いつか何もかも打ち明ける」と言うかつての圭子の言葉を信じ、待つことにすると言う決心からであった。
滝沢「森田ぁ、それでいいんだよ! 彼女はきっと戻ってくる。先生もそう信じてるよ」
後編に続く。