第22話「ケータイ刑事百回記念特別企画 ウマと呼ばれた男!~織田信長殺人事件(前編)」(2005年2月27日)
「ケータイ刑事」シリーズの記念すべき100回記念として作られた歴史ドラマの前編。
……と言っても、現代の零たちがタイムスリップして戦国時代に行くという設定なんだけどね。
冒頭、犯人を追いかけて夜の森の中を走っている五代だったが、「おわーっ」と声を上げて消えてしまう。
三日後、零は五代が無断欠勤を続けているのを訝しく思っていた。
その零のケータイに、柴田から連絡があり、零に見せたいものがあると言う。

それは、立派な甲冑と、汚れた革ジャンだった。
柴田「織田信長記念館の蔵から新しく発見された信長公の甲冑だよ」
零「織田信長って、あの戦国の?」
柴田「そう、そして隣が同時に発見された服……」

零「五代さんのじゃないですか!」
この零の口の形がちょっと歪んでて、可愛い。
柴田は、一緒に発見された五代の警察手帳も見せる。
柴田「科捜研が炭素同位体法で測定した結果、この服と手帳は400年前のものと判明した」
零「400年前?」

不可解極まる状況に、茫然とする零であったが、そのケータイに、赤坂の雑木林で五代の遺留品が発見されたとの知らせが入る。
零と柴田はとにかくその現場へ行ってみる。
そこには、銭湯に行くつもりだったのか、五代のネーム入りの洗面器やタオルなどが散乱していた。

零「柴田さん、あそこ!」
零、その近くに白い煙が渦巻いている怪しげな穴があるのに気付く。
穴に近寄り、しゃがんで中を覗き込む二人。
柴田「ワームホールかも知れない」
零「ワームホールってSF小説とかに出てくる?」
柴田「そう、別名、時空の穴、日食の起こる前後三日間、月の引力が地球の地軸に微妙な影響を与えて出来ると言う過去と未来をつなぐトンネルだよ」
零「これが……」

柴田「邪馬台国の卑弥呼、平安の陰陽師・安倍晴明、歴史に偉大な足跡を残した偉人たちの多くがこの時空の穴を超えてやって来た未来人だったという説がある……」
零の横顔が可愛いので貼りました。

零「じゃあ五代さんもこの穴に落ちて?」
柴田「400年前の戦国時代に行ってしまったのかも知れない」
零の振り仰いだ顔が可愛いので貼りました。
零「行きましょう、柴田さん、私たちも……ワームホールが消える前に五代さんを連れて帰らないと」
零は決然と言い、柴田と一緒に時空の穴へ飛び込むのだった。

で、こちらはその戦国時代。
自治体が観光の為に作ったような安っぽい城内で弓を引いてるのが、かの織田信長であった。
演じるのはシリーズの常連、半海一晃さん。

と言っても、実際に矢を射ている訳ではなく、そのふりをして、的のそばに立つ五代が持っている矢を突き立てると言う、インチキ弓術であった。いかにも「ケータイ刑事」らしい。

明智「さすがお館様、お見事でござる」
明智光秀を演じるのは山中聡さんで、彼もシリーズに何度もゲスト出演している。
もっとも、すぐ後に「桶狭間の戦い」が起きているので、この年は1560年の筈であり、実際に明智光秀が信長に仕えるのはもっと先の話である。

信長「余に掛かれば弓など百発百中、たまに外してみたいものよ」
ちなみに撮影当日、これでもかとばかりに大雪が降ったようで、多くのシーンで降雪が見られる。
「桶狭間の戦い」が起きたのは6月なんですけどね……。
どうやら五代は、僅かの間に信長に取り入り、「ウマ」と呼ばれるほど気に入られているようであった。

彼らが武将ゴッコに興じていると、今度は木下籐吉郎が慌ててやってくる。
木下「大変でございます、ただいま、今川義元3万の軍勢が尾張に向けて進撃中との知らせが入りました」
信長「なにぃ今川が」
木下「織田軍は多く見積もっても3000、攻められてはひとたまりもありません」
後の秀吉を演じるのは、これまた常連俳優のひとり、林和義さん。
その報告に接した信長は
「困ったなぁ」と、戦国大名にあるまじき一言を漏らすのだった。
日本の歴史ドラマ史上、最もヘタレの半海信長はさっさと逃げようと言い出すが、あらかじめ歴史イベントについて知っている五代は、逆に「奇襲をかければ必ず勝ちます」と、打って出ることを進言する。

明智「無茶なことを」
五代「ウマの言葉を信じて下され、必ずやお館様はこのいくさに勝利し、それを足掛かりに天下を取られるでしょう」
信長「余が天下を……よし、出陣じゃ、ウマ、馬を出せーっ!」

その頃、零たちも戦国時代にワープしていた。
柴田「このまま西へ進めば尾張に着く筈なんだけど」
零「でも、どうしてるんでしょうね、五代さん」
柴田「五代さんのことだから、もうちゃっかり信長の家臣になってたりして……」
彼らが歩いているところこそ、「桶狭間」なのだが、何故か今川の3万の軍勢は忽然と姿を消していた。
と、空に法螺貝の音が響き渡ったかと思うと、前方の丘から何者かがこちらに向かってくる。
先頭に立つのは、大将の信長であった。

柴田「あれは、織田の家紋……信長だよ!」
思わず口を開ける柴田。
が、彼らの眼前に現れたのは……、

五代たち「パッカパッカパッカ、ヒヒーン!」
五代、秀吉、光秀の作る騎馬にまたがった、ちっちゃな信長だった。
戦国時代のドラマは数あれど、運動会の騎馬戦の馬に乗って登場する信長と言うのは、これだけだろう。
「ケータイ刑事」シリーズを知らない人がこれを見て、どんな感想を抱くのかちょっと興味がある。
信長は、矢を放って二人を殺そうとするが、五代がとりなしてくれたので、二人は客人として信長に遇されることになる。

その後、こうなった経緯について語る五代。
あの夜、強盗犯を追いかけて穴に落ちた五代は、偶然会った秀吉と仲良しになって、信長に紹介して貰ったのだと言う。

五代「どうぜ現代に帰ったって巡査部長どまりだもん、こんな美味しい人生が待ってんだもん、ねえ、みすみす逃す手ないでしょ」
柴田「なんと言う短絡的な……」
五代、このまま信長に仕えて出世して、本気で歴史の教科書に載るような大物にのし上がろうと子供っぽい野心に燃えていた。
零「歴史が変わっちゃったら、400年後に私も、五代さんも柴田さんも生まれて来ないかもしれないんですよ」
柴田「僕たちだけじゃありません、恐らく、僕たちの時代に生きている日本人の大半が……」
繰り返し丁寧に説明されて、漸く五代も自分が恐ろしいことをしようとしていたことを悟り、アゴが外れる。
ちなみに今回は、茨城県の「あすなろの里」及び「ワープステーション江戸」と言う施設でロケが行われている模様。

零「だから私たちはこのまま何もなかったようにスッと400年後に戻らないといけないんです」
五代「どうしても?」
零「どうしてもです!」
零、あの穴へ向かって歩きながら、今川軍が何処へ行ってしまったのか、気にしていたが、

そんな彼らの前に、またしても有名な武将が現れたので、元の時代に戻るのは後回しになる。
徳川家康を演じるのは市川勇さん。
「ケータイ刑事」に出てくる俳優さんって、あまり有名じゃないけど実力のある人が多いよね。
佐藤二朗さん(後編に登場)は今ではすっかり売れっ子になってしまったが。
家康は、信長が今川軍を雲散霧消させたと聞いて、その祝いに馳せ参じたと言う。
まぁ、この時点では、家康は今川家の家臣なのだから、信長に会いに来るのは相当に変なのだが、こんなコントみたいな戦国ドラマに、そんなまっとうなツッコミを入れてもしょうがない。

信長「サル、三河殿の酒をみなに振る舞うてやれ」
秀吉「承知致しました……皆様、杯をお取り下さい」
給仕役の秀吉の差し出したかわらけを、各自が一枚ずつ取ると言う、おっそろしく貧乏臭い宴会が始まる。

だが、信長がつがれた酒に口をつけようとした時、光秀が「お待ち下さい」と止める。
光秀「まずはこの光秀が毒見を」
家康「聞き捨てならんな、わしが信長殿に差し上げ申した酒に毒が入っている申すのですか?」
光秀は構わず秀吉に酒をつがせると、自分でその酒を口に含む。
光秀「……まったりとしたこの芳醇な味わい、まさに三河の銘酒ケンイチ」
零「ケンイチ? 三河?」
光秀は家康を疑ったことを謝罪するが、家康も主を思う光秀の態度に感服する。
信長「見事な余興じゃな、光秀、これでみなも案ぜず酒が飲めると言う物じゃ、みなの者、無礼講じゃ、祝いの酒を酌み交わそうぞ」
秀吉、改めてひとりひとりに酒をついで回る。
零は未成年なので断るが、その目は早くもある不可解な点に気付いていた。

零「ませり、悪の数字……」

みなに酒が行き渡り、乾杯しようとした時、零が鋭く止める。
零「待って下さい、そのお酒には毒が入っているかも知れません」
五代「何を言ってるんだ、いま、毒見をしたばかりじゃないか」
零「いいえ、毒が入っているのは信長様のお酒だけ」
信長が、そばにあった金魚鉢に酒を入れると、確かに泳いでいたシャチホコがぷかりと浮かぶ。

信長「三河殿、そなた毒を?」
零「違います、毒を入れたのは元康さんではありません……毒を入れたのはあなたです、木下籐吉郎さん」
秀吉「何と言う戯言を……杯は各々が勝手に持って行ったではないか……わしにどうやったら信長様の酒にだけ毒を入れることが出来たと言うのだ?」
零「あなたは、信長様の杯にお酒を注ぐ時だけ、徳利の口を左にしました……」

「ケータイ刑事」では珍らしく、画面分割で、秀吉が酒を注いだ時のクローズアップが映し出される。
言われてみれば、確かに信長の時だけ、徳利の向きが逆になっている。
零「毒は、徳利の口の左側にだけ、塗っておいたんじゃありませんか?」
零の目配せを受けた柴田が徳利の口を調べると、ただちに猛毒ウラリが検出される。
秀吉「まさか小娘に見破られるとは……最早これまで」
秀吉は風を食らって遁走するが、その際、黒い財布のような物を落として行った。光秀だけがそれに気付いて、そっと拾い上げる。

その直後、秀吉の妻・ねねが現れ、「とと様が、うちのとと様が……」
ねねを演じるのは、これまたシリーズの看板女優と言うべき宝積有香さん。
ねねに案内された一同が見たものは、寺の床下の柱に縛り付けられている秀吉だった。
秀吉は、自分そっくりの風体の男に襲われたのだと釈明する。
光秀「じゃあ、信長様のお命を狙ったのも、そのニセサルでは?」

零は、五代と柴田に、秀吉のニセモノは、五代が追いかけていた強盗犯なのではないかと自分の推理を話す。
零「信長様を殺そうとしたのは南米産のウラリでした。この時代じゃあ手に入らないものです」
柴田「じゃ、その強盗犯が、歴史を変えようとして?」
その夜、光秀が思い詰めた表情で信長の寝所を訪れ、内密にあの財布のような物を見せる。それは五代の警察手帳だった。
光秀は、五代や零はニセサルの仲間であり、南蛮からの密使なのではないかと自分の考えを述べ、五代たちを全員始末すべきだと進言する。

翌朝、井戸で顔を洗っている三人。
五代「どうやって、この時代に紛れ込んだ強盗犯を探し出すっつんだ」
零「こんなことは考えられませんか、強盗犯は自分で天下を手に入れようとしてるんです、だったら、信長以外の武将のところへ行くとは思えません」
柴田「天下を取るなら、信長のそばにいるのが一番の近道だもんね」
零「ってことはですよ、既に信長様の家臣に成り済ましてたりして……昨日、籐吉郎さんに変装してたみたいに……」
零の言葉に、五代は即座に光秀が強盗犯に違いないと決め付ける。

と、そこへ、その光秀が足軽を率いて現れる。
光秀「ウマ殿、お館様がお呼びですが……ときは今、天が下知る五月かな……」
史実で、本能寺の変の前に詠んだとされる連歌を口にしてから、五代たちに槍を向ける光秀たち。
……と言う、緊迫の場面で後編に続く。

なお、今回、「柴田太郎の鑑識メモ」が、「柴田勝家の鑑識メモ」となっていて、ヤケクソに降る雪の中、川べりで刀を振り回している柴田が「拙者、柴田勝家でござる……」などと叫んでいる。
実は、金剛地さん、最初は柴田勝家の役を演じる筈だったのに、結局立ち消えになったらしいのだ。