第21話「基本手にアレな訳なんだけど~銭形零の悪夢」(2005年2月20日)
殺人事件はおろか、何の犯罪も起きない異色作。
と言うか、まともなストーリーのないアレなエピソードである。
脚本は才人・佐藤二朗さん(監督は別の人)。
シリーズと言うほどでもないが、似たような趣向の回が、この後の「雷」や「海」でも放送された。

二朗の声「本日のケータイ刑事銭形零は銭形零がずっと寝てます……本日は銭形零の悪夢をお見せします……零ちゃん張り切って寝て下さい……」
冒頭、ソファでうたた寝している零のあどけない姿に、二朗さんのナレーションが被さる。

零「ませり、悪の数字……謎は解けたよワトソン君」
零の声「あ、私の声だ、何してるんだろう?」
夢の中で、鏡に向かって決め台詞の発声練習をしている零と、それを神の視点で見ている零と言うややこしい状況なのである。
零の声「そこだけ練習しても意味ないのに……」
そこへいつもの警視庁からの入電。
ボイス「世田谷区成城でかなり痛い男が現れる気配、直ちに捜査を開始せよ……」

零「レレレ?」
二朗「ませり、悪の数字!」
ふと見れば、ベッドの上にセーラー服姿の二朗さんと言うおぞましい物体が乗っているではないか。

二朗「レレレ……私? あなた、私なの?」
零「違います」
二朗「そっくり、瓜二つ……って言うか同じ?」
零「私、そんな汚い顔してません」
二朗「銭形零は私ひとりいれば十分よ!」

二朗「ませり、悪の数字……」
零「はぁ?」
零の言うことなど一切お構いなしにオリジナルのポーズを決める二朗さん。
そう、つまり今回は最初から最後まで二朗さんのやりたい放題タイムとなっているのだ。

二朗「待って! うぇーっ! 謎は解けたよワトソン君!」
零「早っ、何を手掛かりに解いたんですか? それにそれは銭形家の専売特許ですよ」

二朗「謎は解けたわ、ワトソン君!」

零「そんな微妙に変えてもダメです」

二朗「謎は解けたの、ワトソン君?」

零「聞かないで」
以下、同様に、
二朗「謎解いてよぉワトソン君」
零「頼らないで」
などと、二朗さんの縦横無尽のポケと零の淡々としたツッコミが繰り返される。延々と。
その後も、本家・零の真似を続ける二朗さん。

ドサッとベッドに倒れると、
「投げたい!(管理人、このドラマ自体を投げたいのかと思った) あの、なんか、ゼロの形した輪っかみたいな赤い奴、私も投げた~い!」
体を揺らしてダダをこねる。
ここで一旦、現実の零の姿が映し出される。

零「やだぁ、あんなおっきい零なんてやだぁ……」
寝言をつぶやいて、また別の悪夢に落ちていく零。

今度は、五代が登場し、ガランとした部屋で、面接官の二朗さんと一対一で珍問答を繰り広げる。
それもいちいち全部書くのは面倒臭いので、ちょっとだけ。
二朗「まず、志望動機を仰って下さい」
五代「いえ、自分はまだ生きてます」
二朗「………………ハイッ、いきなり胸が張り裂けそうな答えですね! では、次にあなたの短所は?」
五代「ちょっとバカなところです」
二朗「では、長所は?」
五代「あまり悩まずに真っ直ぐに突き進むところです」
二朗「つまりどちらにしてもバカだと……どちらに転んでもバカだと……」
以下、実りのない会話が続く。延々と。

続いて、ベルサイユ宮殿のような豪邸で、向かい合って食事を取っている鑑識の柴田と弟の二朗の姿。
二朗「それはそうと三郎は元気だろうか」
柴田「あいつは青森だったな」
零の声「へーっ、まだ兄弟いたんだ?」
二朗「それはそうと五郎はどうしてる?」
柴田「あいつは埼玉勤務だな」
二朗「十二郎は?」
柴田「鹿児島」
二朗「27郎は?」
柴田「秋田」
零の声「何人兄弟いるの? 各都道府県にひとりいるの? って言うか、名前の付け方、安易過ぎ」
さらにエスカレートして、
43郎、128郎、367郎、2536郎、67434郎、296054郎、1237841郎……と、わざわざ正確に書き取るのも馬鹿馬鹿しいが、どんどん兄弟の数が無制限に増えて行く。
それに零が「さっきと数字違う」などと、いちいち突っ込みを入れて行く。
最終的には、
二朗「485億6341万3000ペキンティンピンティンティン……(途中で吹いている)……ウギギウギギー」
収拾がつかなくなって、現実世界へ再び戻る。

零「地球の人口超えてるじゃん……」
もう、ずーっと、零の寝顔映してるだけでも良かったと思うけどね。

続いて、成り上がったパイ売りの遠州理津っぽい二朗さんのところに、新入社員らしいOL風の零と、その上司らしき柴田が挨拶に訪れているシーンになる。
柴田「社長おはようございます、今年の新人でございます」
零「銭形零です」
遠州理津「どぅーぞ、どぅーぞ、お座り下さい……」

遠州理津「き、き、き、基本的にアレなんだけど、僕なんか若い人の目を見れば、その子のスキルの8割がた、どうしても分かってしまうんだけどね、この子は良いね、この子は伸びるよ……彼女は来る、かなり来ると思うよ。あのね、固定概念に縛られてはダメだぜってことなの、僕なんかいつもね、採用方法に関して人事の人間にこう言ってます、学校の成績のね……(溜めてから)
下の奴から取っていけよってね……その発想、逆転の発想、本末転倒の発想と言っても良い」
その後も、意味不明のことをまくし立てる二朗さん。

遠州理津「彼女は来る、かなり来るよね、あのね、
来るを通り越して、行くね!」
零「油売ってないでちゃんとパイ売ってくださいね、謎は解けたよ、ワトソン君!」
神妙に二朗さんの話を聞いていた零だったが、不意に夢から降りてしまい、カメラに向かって決め台詞を放つと、何処かへ行ってしまう。
まだ何の事件も起きていないが、ここで一旦CMです。
CM明け、会議室の机の上でまだ「投げたい投げたい」とダダをこねているセーラー服姿の二朗さん。

林「俺の願いも叶えてくんないすかね?」
唐突に現れた中年男性。

零「誰ですか?」
林「俺だよ、俺」
零「知りません」
林「俺、毎回出てるんだって……ううん、銭形零13才、警視総監を祖父に持ち……」
居住まいを正して、渋い声でOPのあの語りを始める男性。
そう、彼こそ1作目の「銭形愛」からOPのナレーションを担当している林和義さんなのだ。

二朗「きゃーっ、声の人だ、声の人だ」
林「声の人って言うなよ、二朗ちゃん!」

二朗(素になって)「ふふふ、二朗ちゃんって言うな!」
思わず林さんの顔を引っ叩く二朗さん。

二朗「ねえ、おじさんたちのこと正直言うと軽蔑してる?」
林「あのね、これでも一生懸命やってんだよ」
二朗「うん、どうすればさぁ、少しでも面白くなるかなぁってさ」
林「頼むから、嫌いになんないで」
二朗「こう見えてさぁ、おじさんたち割と
必死なんだ、生きる為に……」
ドラマのことを忘れて、女子中学生に本気で訴えるおじさんたち。
ここで強引に、やっと殺人事件が発生……と言うか、机に伏せている男性の死体が突然出現する。
男性は、血文字で884とダイイングメッセージを残していた。
二朗さん、自分が零でないことは認めたが、この事件を零より先に解いたら自分を銭形姉妹に加えて欲しいと言い出す。

二朗「おーっ、謎は解けたよ、ワトソン君! 犯人はあなたね、林さん、だって884、ハヤシ……ふーっ、難解なトリックだったわ」
零「あのー、このダイイングメッセージ、血で書かれてます。でもこの人、外傷が何処にもないんですけど……って言うか、息してるし……」
死体役の男性、やおら立ち上がるとさっさと画面外へ去ってしまう。
それでもまだ銭形姉妹に入れてくれと無茶な要求を続ける二朗さんに、遂に零のお仕置きが飛んでくる。
夢の中では、二朗さんが巨大な輪っかを嵌められているが、

零「そんなでっかい妹なんか要らないよ……」
現実世界でも、零は寝たまま輪っかを投げており、

それがたまたま顔を出した五代に見事命中していたのだった。
こうして、良く分からないままに、銭形零の悪夢は終わる。
以上、こういう話って、レビューにしてもその面白さがほとんど伝わらないな、と言うことに気付いたのは記事をほとんど書いた後の祭りでした。