第34話「復活?!地獄王子」(1988年6月5日)
いよいよこの34話から、BLACKの永遠の宿敵シャドームーン復活のエピソードが始まる。
それは同時に、今まで僕らのアイドルとして活躍してきた剣聖ビルゲニアの退場の物語でもある。
個人的にはビルゲニアには物語終盤まで健在であって欲しかった(本気)。
冒頭、小雨の降る中を傘も差さずに虚ろな顔つきで歩いている若い男性……それは他ならぬ秋月信彦、シャドームーンであった。
彼はすぐ警察に保護され、記憶喪失の身許不明者としてニュースにその顔が流れる。

杏子「はうっ! お兄ちゃん!」
店で皿を拭いていた杏子ちゃん、当然それを見てびっくり仰天する。
杏子「……ま、いいか」
しかし、杏子ちゃんは昔から面倒臭がり屋で有名だったので、「見なかったこと」にして皿を拭き続けるのだった。
―完―
……じゃなくて、杏子ちゃんはすぐさま店を飛び出し、タクシーを手招きして信彦が収容されたという病院へ急行する。

杏子「お兄ちゃん! 帰ってきたのね? お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
病院のベッドに腰掛けている兄の肩を揺さぶり、呼びかける杏子ちゃん。
だが、信彦はゆっくり振り返ると、邪悪な笑みを浮かべる。
信彦「ふっふっふっふっ、はっはっはっはっはっ……」
そして天知茂のように顔のマスクを剥がし、その正体を明らかにする。そう、それは信彦に化けたバラオムだったのだ。
めちゃくちゃ久しぶりに登場したと思ったのに、信彦役の堀内孝人さんの出番はこれだけ。
台詞すらろくに貰えないのが、なんかスタッフから恨みでも買ってるのかと勘繰ってしまいたくなる冷遇ぶりであった。
その後、色々あって、杏子ちゃんの行方を探す光太郎。

そしてコンテナヤードにて、杏子ちゃんを抱いて宙に浮かんでいるバラオムが、光太郎の前に現れる。
バラオム「この娘は確かに頂いた」
ちなみに杏子ちゃんの腰のところに、ワイヤーを通すフックのようなものが見える。

光太郎「杏子ちゃんを返せ! どういうつもりなんだ?」
ヒーローのサガとして、無駄とは分かっていてもとりあえず「~を返せ」と叫ばずにはいられない光太郎。それにしても、光太郎、特に「~を返せ」と言う台詞が多いような気がする。
他にも、
・「ゴルゴムの仕業だ!」
・「信彦、お前とは戦いたくないんだ!」
などが、良く聞かれる台詞ですね。
バラオム「彼女の命のエネルギーでシャドームーンを甦らせるのだ! 今度こそ彼女の命を奪ってでもシャドームーンを甦らせて見せる」
彼らは以前(17話)にも、杏子ちゃんを使ってシャドームーンの復活を企てたことがあるのだが、悪の組織としては掟破りの「同じ作戦を二度繰り返す」挙に出たのだ。それだけ彼らは必死なのだ。

さて、首尾よく杏子ちゃんの拉致に成功し、ご機嫌な三神官。
ダロム「これでようやくシャドームーンを甦らせることが出来る」
ビシュム「今度こそ誰にも邪魔はさせませんわ」

などとやってると、
ビル「皆さん、何を笑っておられるのですかな?」
三神官の邪魔をすることが生き甲斐のビルゲニアが、世間話でもするような温容で現れる。
ビル「その娘、シャドームーンの妹? まさかシャドームーンを甦らせようと?」
ダロム「今まで散々ライダーに梃子摺らされてきたが、シャドームーンさえ甦れば奴など問題ではない」

バラオム「シャドームーンが甦れば貴様はお払い箱だ、今のうちに尻尾を巻いて棺に帰るんだな」
ビルゲニアの宿敵(喧嘩相手)バラオムがここぞとばかりに憎まれ口を叩く。
ビル「なにっ」
ビル、剣に手を掛けて、この場でバラオムと一戦交えることも辞さない様子であったが、「やめろ。こんな奴に構ってる暇はない」とダロムに制される。
三人が高笑いを放ちながら去った後、ビルは「シャドームーンを倒して次期創世王の座をこの手に!」とその野望を口にする。
その途端、ビルの増上慢への天罰のように雷鳴が轟き、ビルの周囲で小さな爆発が起きる。
ビル「どういうおつもりですか、創世王様、もう用はないと仰るのですか?」
だが、そうではなかった。見れば、落雷によって、秘密の洞窟への入り口が開いており、ビルは創世王に導かれるように、その中へ入って行く。
洞窟の奥には、祭壇があり、そこには一振りの剣が安置されていた。

ビル「あれは創世王のみに与えられるサタンサーベル! そうか、創世王様は俺にあの剣を取れと、そして仮面ライダーを倒し、次期創世王になれと!」
ビルゲニアはそう確信し、激しい炎の障壁を渾身の力で乗り越えて、遂にサタンサーベルを掴む。

ビルゲニア、その生涯における絶頂の瞬間であったが、一旦ここでCMです。
CM後、杏子ちゃんの行方を探してバイクであちこち走り回っている光太郎。
だが、杏子ちゃんがゴルゴムの神殿に連れて行かれたことは明白なので、闇雲にガソリンを消費したところでどうなるものでもない。
その神殿では、17話と同じように、三神官によって杏子ちゃんとシャドームーンが透明なカプセルに入れられ、杏子ちゃんの生命エネルギーがシャドームーンに注入され始めていた。
が、開始早々、秘密の洞窟から帰還したビルが、誇らしげに彼らの前に立つ。

ビル「次期創世王はこの剣聖ビルゲニアと決まったぁっ!」
ダロム「その剣は?」
装飾の施されたその剣を見て、ダロムが顔色を変える。

ビル「見ろ、創世王のみに与えられるサタンサーベルはたった今、このビルゲニアのものとなった。俺こそ次期創世王だ。サタンクロス!」
ビルゲニア、愛剣のビルセイバーを抜いて、サタンサーベルと交差させる。
二つの剣から激しい電撃が放出され、三神官を痛めつける。
ビルゲニアは杏子ちゃんの体を掻っ攫い、そのまま去って行く。
三神官はすぐ追いかけようとするが、今度はそれを創世王が地を揺らして邪魔する。
ダロムたちに、創世王の意志が語りかける。
ダロム「なんですと、シャドームーンが甦らぬ時はビルゲニアを次期創世王に?」
また、創世王は三神官の命の源である「天・海・地」の石を使ってシャドームーンを復活させろとも。

その後、分裂気味の創世王の命令をどう解釈すべきなのか話し合う三神官。
バラオム「どういうつもりだ、創世王様は? 一方でビルゲニアにサタンサーベルを与え、一方でシャドームーンを甦らせろとは」
ダロム「恐らく両天秤にかけているのだ。シャドームーンとビルゲニアを競わせ、勝ち残った方を次期創世王にしようとしているに違いない」
本来、三神官としては別にどっちが創世王になろうと構わない筈だが、既にビルゲニアとは数々の遺恨(互いの作戦の邪魔をする、足を引っ張り合う、口喧嘩、冷蔵庫のプリンを勝手に食った、など)が生じている為、ダロムたちはどうしてもシャドームーンに創世王になって貰わないと困るのだ。

と言う訳で、彼らは自分たちの生命の石のエネルギーをシャドームーンに注ぎ込んでなんとしてでもシャドームーンを甦らせようとする。
一歩間違えれば、自分たちも死んでしまいかねない危険な賭けであった。
一方のビルは光太郎との決着を付けるべく、杏子ちゃんを連れて彼の前に立ちはだかる。

ビル「娘を返して欲しければ自分の腹を引き裂いてキングストーンを俺に渡せ!」
無敵のビルゲニアに唯一足りない物、それは協調性……ではなく、世紀王に与えられるキングストーンなのだった。ちなみに光太郎はブラックサン、信彦はシャドームーンと言うキングストーンをそれぞれ体内に埋め込まれている。後に復活したシャドームーンが、仮面ライダーBLACKのことをブラックサンと呼ぶのはそれに由来する。

十字架に縛った杏子ちゃんの足元に炎をめぐらせて、光太郎の焦りを誘うビルゲニア。

光太郎「貴様ぁ」
ビル「サタンクロス!」
剣を交差させて、太いビームを撃ち降ろすビル。

その爆発で吹き飛ばされる光太郎。
ビル「あの世に送る前に聞かせてやろう、次期創世王はこのビルゲニアに決まった」(註1)
光太郎「なにっ」
ビル「創世王様から頂いたこのサタンサーベールを使い、貴様もシャドームーンも倒し、この世にゴルゴムの帝国を築くのだ!」
(註1……ビルゲニア、あちこちで「次期創世王はこの私ですよ~」と言い触らすことで、それを既成事実化しようと画策しているらしい)

光太郎「変身!」
光太郎、なにはともあれ、変身する。
BLACKは、なによりもまず杏子ちゃん
(血の繋がりのない女子高生の妹)を救い出すのが先決だと、ロードセクターを囮にして、バトルホッパーで斜面を駆け上がって杏子ちゃんのところへ。

抱き合ったまま、杏子ちゃんと砂利の斜面を転がるBLACK。
さすがにこれはスタントである。アップになると、女優さんに代わるけどね。

BLACKは、杏子ちゃんを連れて逃げようとするが、海に面した断崖に追い詰められる。
一方的に攻められるBLACK、「杏子ちゃん逃げろ!」と言う叫びは、光太郎ボイスそのもので、さすがに杏子ちゃんもそろそろライダーの正体が光太郎だと気付いても良さそうな感じである(註2)。
ビル「どうした仮面ライダー、貴様の力はその程度か?」

BLACK(俺はこのままやられるのか? 挫けるな、ライダー、俺がいなくなったら誰がこの地球を守るんだ?)
自分を叱咤し、なんとかビルゲニアに打ち勝つパワーを得ようとするが、杏子ちゃんがそばにいてはまともに戦うこともままなららない。

ビル「仮面ライダーBLACK、キングストーンは頂いたぞ! 地獄へ落ちろ!」
ビルゲニアの剣が、BLACKの胸板を切り裂いて、二人はそのまま岩だらけの海へ転落する。
ビルゲニア、生涯でもっともカッコイイ瞬間であった。
BLACKと杏子ちゃんは生死不明、そしてシャドームーンが復活するのか、このままビルがゴルゴムの支配者となってしまうのか、予断を許さない緊迫した状況のまま、35話へ続くのだった。
(註2……次回35話で、杏子ちゃん、とっくの昔にBLACKの正体を知っていたことが判明する)