第12話「明かされた風魔一族の宿命」(1987年1月29日)
前回と同じく、ミヨズが護摩壇を焚きながら、六道衆に助力を求めているシーンからスタート。

夜叉女「ふふふふ、六道衆、カゲロウ一族、頭・夜叉女!」
ミヨズ「かたじけのうござる」
夜叉女「三日のうちに必ずや娘の命、絶ってご覧に入れましょう、ははははははっ」
ミヨズの背後に立って高笑いを上げる夜叉女さん。
「女優霊」みたいでちょっと怖いです。
夜叉女を演じる桑田和美さんは、後に「花のあすか組!」でも、似たようなキャラクターで似たようなことやられてました。

朝の風間家。
仏壇の父親の遺影に手を合わせる結花、いつになくしんみりと父親に語りかけている。
結花「父さん、唯や由真や私は、本当にあんな恐ろしい人たちと戦わなくてはならない運命なの? 私、なんだか自信がなくなってきた……怖いんです」
結花には、前回戦った土鬼たちが土塊となって死んだことがとりわけショッキングだったようで、率直に弱音を吐いていた。
その辺は由真や唯も同様で、朝から暗い顔をして考え込んでいた。

唯「あの男、似ちょった……」
布団の上に体育座りをして思い詰めた様子の唯。
唯は、それ以外にも「般若の正体は依田先生なのではないのか?」「雛人形=ヴァジュラ?」と言う、捨て置けない疑念を抱え込んでおり、その黙想は由真が起こしに来るまで続くのだった。
もっとも、その後はいつものように由真と喧嘩したり、慌しく学校へ行く支度をしたり、いつもの風間家の朝の風景が繰り広げられたのであったが……。

学校に着く頃にはすっかりいつもの調子を取り戻した唯、校門の前で出迎えたヒデにカバンを預け、ゴロウの用意したパンとパック牛乳で優雅な朝食タイム。

が、唯が校舎に近付いた時、頭上からバケツで水をぶっかけた者がいる。
唯「なんすっとか?」

無論、そんなことをするのは依田以外にいない。
依田「だから言ったでしょう、僕は番長グループなどと言う存在は認めないって……毎朝毎朝徒党を組んで、全くもって目障りです」
唯「じゃかいって、これはないじゃろう?」
依田「それだけ人をまとめる力がありながら、無為に日々を過ごすなんてもってのほかです」

唯「なんのこっちゃ?」
依田「今にそのエネルギーを向けなければならない大変なことに出会うでしょう。力を貯えておくんですね」
意味ありげな依田の言葉に、結花と由真も首を傾げる。
怒った唯がすぐ依田のいるベランダまで駆け上がるが、既に依田の姿はなく、いつの間にか校庭に降りて向こうへ歩き去る姿が見えるのだった。
依田が授業をしていると、セーラー服姿の夜叉女がグラウンドを突っ切って校舎に近付いてくる。
ただし、転校生として実際に教室に入ったりはせず、

外で唯と擦れ違うと、自分からその正体をあらわにする。
夜叉女「ほほほっ、額に浮き出るその梵字、うつくしゅうございます」
唯「しやからしかーっ、お前なにもんじゃ?」
夜叉女「六道衆のカゲロウ一族の頭・夜叉女と申します」
夜叉女、右手を差し上げてつむじ風を起こしつつ、落葉の形をした手裏剣を飛ばしてくる。
背後から般若の投げた陣羽織が壁になって、唯を守る。
夜叉女は「三日のうちに必ずお命頂戴仕ります」と告げて、さっさと退却する。
唯は出てきた般若に「放課後、八幡神社で待っちょる」と一方的に待ち合わせ場所を指定する。
放課後、唯は姉二人と八幡神社で般若が来るのを待っていたが、現れた般若に、いきなりヨーヨーを投げ、その面を割る。面の下から出て来たのは、勿論、依田先生の顔であった。

由真「うっそぉ……」
結花「依田先生?」
唯「やっぱりそうかぁ」
全然気付いていなかった結花と由真は目を丸くして驚く。

般若「私の正体を見抜くとは、見事だ、唯、よくぞそこまで成長してくれた……お前の父・小太郎が生きていてくれたら、どんなに喜んだことか……」
唯「しゃからしかぁっ!」 般若の感慨を唯の一喝が吹き飛ばす。

唯「あんたの口から聞きたいのはそんなげなことじゃなか、あんたの目的はなんなんじゃ? もしかしてわちや姉ちゃんたちを利用しとるじゃなかかぁ?」
結花「父さんが影と戦ってたとか言ってたけど、それだって本当かどうか判らないわ」
由真「私たちは影と戦う宿命だなんて言ってたけど、それだってどうだか……」
結花「そうね、もし本当なら顔を隠す必要なんてないものね」
由真「こっちは
平凡な女子高生やろうと思ってたんだ、てめえが勝手に操ろうってんなら、許しゃしないぜ!」
唯「どうじゃ、どうなんじゃ?」
唯のみならず、結花と由真もこれまでの般若の秘密主義的やり方に対する不満をまとめてぶちまけ、ここで一戦交えることも辞さない構えを取る。

般若「平凡な女子高生か……(笑いを堪えている)……出来ればそうしてやりたかった。お前たちが背負っている影星の宿命、知る時が来たようだ」
般若はそう言ってさっさと歩き出す。

散々歩かされた挙句、三人が辿り着いたのはゴツゴツした岩山であった。
登山道の入り口には注連縄の結界が張られていて、般若が呪文を唱えて注連縄を掴んで上げ、唯たちを通す。
山頂には、行者のような衣装をまとった老人が祭壇を築いて何事か祈念していた。

海覚上人「おお、来たか、待っておったぞ、娘たちよ」

由真「どうして私たちが来ること知ってんだろう?」(註1)
結花「さあ」
唯「気味悪か坊さんじゃあ」
(註1……振り向いて、見たまんまを口にしたような気がするのだが)
般若は、不穏な空気を感じ、一礼してその場を離れる。
老人、いきなり「カーッツ!」と気合を発する。
すると、普段は見えない唯の額の梵字が浮かび上がる。

海覚上人「ほう、これは見事じゃ……そちたちの梵字は?」
結花は袖をまくって左腕の、由真はスカートを引っ張って右足の梵字を見せる。
海覚上人を演じるのは紹介の必要もない名優・加藤嘉さん。
しかし、どうも、この作品が最後のドラマ出演になってしまったようだ(1988年3月1日に逝去)。
少なくとも、最晩年の出演であることは間違いない。
海覚上人「宿命の子らよ、お前たちに伝えなければならぬことがある」

衣服の乱れを直して謹聴する姿勢を取る三人。
さすがに加藤さん、由真のフトモモに心を乱されることはなかっただろう……。
まぁ、そもそも、めちゃくちゃ寒くてそれどころじゃなかったと思うが。
(真冬に、お年寄りを、こんなところに連れてくるんじゃない!)
同じ頃、夜叉女たちカゲロウ一族も登山道の入り口まで達していたが、結界に気付いて歩を止める。

夜叉女「スズメ! 結界破りの法を行う、そなた犠牲となってくれますね」
スズメ「……」
黙って頷くスズメちゃん、なかなか可愛いのです。
が、注連縄を両手で掴んで、結界のパワーを一身に受けるや、一瞬で絶命してしまう哀れなキャラなのでした。
結界を抜けて進みかけた彼らの前に般若が立ちはだかる。

夜叉女「おのれは、風魔鬼組・般若!」
般若「影に魂を売りし哀れなものども、ここを通す訳にはいかん!」

彼らが戦っている間、海覚上人が影や唯たちの宿命について淡々と語って聞かせていた。
「あらゆるものは相生相克に従い、太極から生まれ、全ては二元に支配されるのじゃ。それは陰と陽、すなわち天があれば地があり、男があれば女がある、そして光があれば影が……全ては陰陽対立する二元からなり、さらにその陰陽は、木・火・土・・金・水の五元素から成る。これを陰陽五行と言う。五行には相生、相克の二つの働きがあり、これが天体や宇宙を正しく作用させるのだ。だが、ここにその正しき道にそぐわぬ二つの道がある、反相反克の道だ!」

ここで、三人が宙に浮かび、その背後に巨大な影がうごめくイメージシーンになる。
「悪と呼ばれた忍びどもは全て転輪聖王(てんりんしょうよう)に魂を売り渡し、反相反克の道に生きようとしたものじゃった。彼らは世を乱し、戦士(?)を起こし、世界を邪悪の相に塗り替え、やがて全てを破滅に導こうとする。が、万物には二元あり、悪があればまた善も……転輪聖王に立ち向かい、世を救った者がおったそうな。その者は転輪聖王と戦う為に想像を絶する恐ろしい試練を乗り越えたと聞く。人として幸せを捨て、孤独と責任、永遠の苦しみを背負い、それに打ち勝ったればこそ転輪聖王に勝てたという。その者とは体に梵字を抱きし、風魔の者……」
結花「じゃあ私たちの先祖が」
由真「その、転輪聖王ってのと戦ったのか?」
海覚上人「影星現れる時、体に梵字を抱きし風魔は転輪聖王と戦う……それがお前たちの宿命、さいわい、転輪聖王はまだ出現しておらぬが、その時は近いじゃろう」
加藤さん、渾身の長台詞であった。
その中に出てくる転輪聖王は、簡単に言うとラスボスであり、RPGで悪者たちが呼び覚まそうとする邪神のような存在である。
実際の転輪聖王と言うのは、インド仏教などに出てくる理想的な王のことで、別に世界に破滅をもたらすような存在じゃないらしいけどね。でも、テンリンショウヨウと言う響きが、得体が知れない、いかにも何か勿体つけた感じで、ネーミング自体は良いと思う。

が、直後、海覚上人は夜叉女が投げた木の葉手裏剣に胸を刺されてしまう。
唯は、夜叉女の居場所を見付け出し、ヨーヨーを叩き込んで倒す。
もっとも、夜叉女はその場に倒れただけで、その生死は不明である。
再び唯の額に浮かび上がった梵字を、瀕死の海覚上人が指差す。
結花「お坊さん!」
海覚上人「オンタダギャット、トバンバヤ、ソワカ……」
海覚上人は、真言密教のような言葉を途切れ途切れにつぶやくと、結花の胸の中で息を引き取る。

般若も、無言で手を合わせ、海覚上人の死を悼む。
結局、海覚上人と言う人がどんな人物なのか、般若とはどういう関係なのか、さっぱり分からないままなのだった。

その後、「ウルトラセブン」のガッツ星人のように向かい合って話しているミヨズとオトヒ。
オトヒ「六道衆、土鬼、夜叉女まで倒されましたか」
ミヨズ「あの娘達もなかなかのものです」

翔「人形が、人形が泣いておる……
悲しい、のう」
女雛の欠けた雛壇に近寄り、つぶやく翔。
太字の部分だけ、しわがれた老婆のような声に変わるのが不気味である。
勿論、雛飾りの空白の場所には、唯の持つあの女雛が座ることになっているのだ。

ラスト、美しい夕陽を見詰めている4人。
般若「お前たちが風魔の子に生まれていなければ……平凡な女子高生として生きられたかも知れん。しかし、既に影たちはこの世の中を飲み込み始めているのだ。お前たちは戦う宿命から逃れることは出来んのだ」
結花「父さんが殺されたのも私たちが乗り越えなくちゃいけない試練なのかも知れない」
由真「くっそー、人のこと巻き込みやがって……親父が戦ってたんだ、立派に跡を継いで見せようじゃないか」
唯「そうじゃ、転輪聖王がどんげなもんじゃいうて、わちらの宿命がどんげなもんじゃいうて、
そんげなもんは知らん!」
般若(え、ええっ?) 大声で今までの展開を台無しにするような台詞を放つ唯に、般若も思わず焦る。
が、続けて、
「じゃけんど、わちは人から魂を奪い、勝手に操ったり殺したりする奴らを許す訳に行かん。姉ちゃんたちもじゃろう? どんげなことがあってもわちは戦う!」 と言う無難な決意表明でまとめたので、般若おじさんもホッと胸を撫で下ろすのであった。