第23話「やさしい怪獣お父さん!」(1973年9月7日)
マイカーでドライブする家族のリアルな姿を描いた、いかにも石堂淑朗さんらしいストーリー。
「タロウ」では、ファミリードラマのように丹念に家族や夫婦の姿を描いて、怪獣が添え物のような扱いになっているエピソードが多く見受けられるが、これはその典型的な一本である。
冒頭、三島一家と健一、さおりを乗せた車が、箱根方面へ向かってハイウェイを走っている。
三島六郎少年は健一の友人で、その縁で二人も誘われたのだ。

後部座席で楽しそうに頷き合う白鳥姉弟。
だが、肝心の三島夫妻の雰囲気があまり楽しそうではない。

若者たちのジープにからかわれながら抜かれても、三島は制限速度を守って安全運転に徹している。妻の好子にはそれが物足りないらしい。
好子「バカにされてぱっかり……少しはスピード上げなさいよ」
三島「あ、危ない、そのスピードが事故を呼ぶ」
好子「じれったいわねえ、次のインターチェンジを出るのよ……ほらぁ、方向指示器を出さなきゃ」
三島「はいはい」
今回のドライブに限らず、普段から、お父さんは奥さんの尻に敷かれっぱなしらしい。
お父さん役は富田浩太郎さんで、お母さんは瞳麗子さん(獣神ライガーのテーマソングを歌っている弘妃由美さんのお母さん)。

サービスエリアで一休みするが、お母さんは、自分がトイレ行ってる間にダッシュでアイス買ってこいやーっ!! と夫をこき使う。
さおり「私が行きますわ」
好子「良いんですよ、うちの万年係長が行きますから」
さおりが気を利かせて自分が代わりに行こうとするが、お母さんはあくまで夫に買いにやらせる。
そんなことを言われても怒るでもなく、唯々諾々とアイスを買いに行く父親を見て、息子の六郎はいかにもブスッとした顔になる。
健一たちにも、六郎の気持ちがなんとなく分かるのだった。

六郎「僕、ほんとは来たくなかったんだ。お母さんがあれだろう、それなのにお父ちゃんがヘイコラばかりして……恥ずかしいんだ」
健一「でも、優しくて良いお父さんじゃないか」
さおり「そうよ、私たちにはお母さんもいないし、お父さんは遠い海の上なのよ、贅沢と言うとバチが当たるわよ」
だが、六郎は「普段いなくても強いお父さんの方が良い」と断言する。
ちなみに六郎役の梅津昭典さんは、「A」の後半でレギュラーを務めていた子役である。
その後、数人の若者たちが走ってこちらへ逃げてくる。
見れば、さっき彼らを追い抜いたジープの連中であった。

好子「どうなさったの」
若者「怪獣だ、怪獣に息を吹きかけられて車が溶けちまったんだ」

彼らはZATか警察に通報してくれるよう頼むが、好子はそれを信じようとせず、「こいつら嘘を言ってんのよ、私たちの車がオンボロであんたがノロマだから、笑いものにしようとしてるんだわ、ああ悔しい!!」と、夫をどやして強引に車を発進させる。
さおりと健一は不安そうに顔を見合う。
しばらくは、特に何の異変も起きず、順調なドライブが続くが、

やがて黒い竜巻のようなものが路上に出現し、彼らの車に襲いかかる。
竜巻は、特殊な液体が渦巻いているようで、その液体は車をあっという間に溶かしてしまう。
ただし、人間には害はないようで、逃げ遅れた三島夫妻もやがて無事な姿を見せる。
が、好子は車が消滅してしまったことに激しいショックを受けていた。

好子「まだ月賦が残ってるのにぃ」
三島「でも、みんな無事だったから良かったじゃないか」
三島がとりなすが、好子はいきなりその横っ面を引っ叩く。
三島「いてっ」
好子「あんたがいけないのよ、間抜けな運転してるから変なものに溶かされちゃったのよ!! ねえ、どうしてくれんのさーっ、バカバカーっ!!」
罵りながら、夫のシャツを掴んで揺さぶる好子。

そこまでされてもお父さんは、絶望的な表情でそれに耐えるのみ。
そんな両親のありさまに、六郎もひたすら暗い眼差しを向けるのだった。
他人のさおりと健一も「やれやれ」と言うような目を見交わす。
その後、通報を受けたZATが戦闘機で出動する。レーダーで、竜巻の地下20メートルに怪獣が潜んでいることが判明するが、その周辺には車を溶かされたドライバーたちがたむろしていて、攻撃が出来ない。
一旦近くに着地して、彼らを退避させようとするが、ここでも好子がしゃしゃり出て、それを邪魔する。

好子「今考え付いたんだけど、この怪獣は何かに利用できると思うの」
さおり「おばさま!!」
光太郎「危険です、早く避難して下さい」
好子「人間を溶かさずに車だけを溶かす……いろいろ使い道があるんじゃないかしら、ポンコツ車は処理に困って空き地に積まれてるけれど、それだって全然公害を出さずに片付けられるわ!! 地下にいる怪獣は車を溶かされた私たちのものよ!!」
転んでもタダでは起きない好子は、そんな突拍子もないことを言い出して、他のドライバーたちを扇動する。ドライバーたちも、暑さで頭がバカになっていたのか、元々バカだったのか、好子の扇動にあっさり乗せられ、ZATを追い払ってしまう。
六郎「父さん、母さんを止めてよ、父さんが弱いからいけないんだよ」
三島「……」
息子に言われても、相変わらず三島は妻に強い態度を見せようとしない。
ZATはやむをえず、周辺の道路を封鎖して、上空から監視を続ける。

北島「凄い奥さんだったな……あれじゃ怪獣の方が人間よりよっぽどマシってことになる。ふっふっ」
光太郎「あの子、六ちゃんって言ったかな、かわいそうだった……」

その後、好子たちの目の前で、

道路が突然陥没する。

そして地中から、蜃気楼怪獣ロードラが、メカニカルな体をのっそりと現わす。
上空を飛んでいたホエールとコンドルが様々な武器で猛撃を加えるが、ロードラには全く利かず、涼しい顔をしている。逆に、ノズルのような口から溶解液を吹き出して、ホエールとコンドルを車と同じように溶かしてしまう。
光太郎たちは全員パラシュートで脱出して無事だった。

そこへ森山いずみ隊員がウルフを運転してやってくる。
森山「苦戦ねえ、でも大丈夫、王水銃よ」
野郎たちと並ぶと一際小さく見える森山隊員が、小学生みたいでめっちゃ可愛いのだ。

南原「王水って?」
光太郎「塩酸と硝酸の混合液かい」
森山「そうよ、あいつを反対に溶かしちゃうのよ」
北島が自ら志願してその特殊な銃を構えて、ロードラに向かって行く。
王水は、ロードラに対して多少の効き目はあったが、(好子の妨害もあり)結局ロードラの溶解液を浴びて、銃もウルフもどろどろに溶かされて、あえなく作戦失敗。
南原「もうあかん、何にも武器がなくなってしまった」
荒垣「くそっ、ええい、退却だーっ」
ZATまで、すたこらさっさと逃げ出す事態となる。
好子「あの怪獣に大人しくするように話すわ」
三島「バカなことはよせ」
好子「話せば分かると思うのよ」
ある意味、物凄いバイタリティの持ち主である好子は、夫の手を振り切って怪獣に向かって行く。
無論、「話せば分かる」筈もなく、好子はロードラの口の下の体毛にぶら下がった状態になる。
六郎「お父さんが悪いんだ、お父さんが弱いからお母さんが勝手なことばかりするんだ……」
三島「ようし」
ここへ来て、遂に気弱なお父さんも奮起する。ロードラの足元の木にしがみつき、枝のしなりの反動を利用して、ロードラのノズル上の口の上に飛び上がることに成功する。

好子の手をつかんで引っ張り上げる頼もしいお父さん。
……
マニア(何の?)には辛抱たまらないアングルですね。

その後、光太郎も三島の真似をして口の上に飛び乗り、竹槍を振り回してロードラに立ち向かう。

結局最後は口から振り落とされるのだが、ここでやっと腕のバッヂが光って、逆さまのまま空中でタロウに変身する。

変身して、まずは空中を舞っていた三島夫妻を手の平に乗せて助ける。
これはトランポリンの上で跳ねている役者の映像と、タロウの手の平を合成しているのだろうが、相変わらずの神業的テクニックである(影が地面に映っちゃってるけど)
タロウのキックから放たれる赤いビームがロードラの両手と首を刎ね飛ばし、あっさり勝負あり!! と思いきや、一度切られた手と首が再び胴体につながって再生する。
ならばと、タロウ、必殺のストリウム光線の発射体勢に入るが、

ストリウム光線を放つと同時に、ロードラは青白いビームを出して、それを防ぐ。
ユーモラスな外観だが、なかなかの強敵であった。
タロウ、最後は自らの体を回転させて強力な竜巻を発生させ、その中にロードラの体を巻き込んで空中で粉々に砕き、やっと決着を付ける。

で、何故かその四散した体が、様々なミニカーとして降って来るというメルヘンチックな現象が起きる。
なんか、前にも似たようなオチがあったような……
六郎にとって嬉しいことに、今度の一件で自分の傲慢ぶりを反省した好子が、夫に対する態度をすっかり改める。
好子「あなた、ごめんなさい……私、生意気なことばかり言って……ほんとにごめんなさい、うう」
三島「良いんだったら、さあさあ」

光太郎「六ちゃんのお父さんは本当は勇気のある強い人なんだ。分かるだろう」
六郎「うん」
光太郎「本当に強い人は、普段はとても優しいんだよ」
六郎「うん」
光太郎「六郎君も大きくなったらお父さんのような優しい、しかも強い人間になるんだ!」
六郎「うん」
光太郎「さあ、行こうか」
六郎「うん」
光太郎「『うん』しか言えんのかーっ!!」 さおり「こ、光太郎さん、落ち着いて……」
言わなくても分かってると思いますが、途中から嘘です。
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