第22話「ストップ・ザ・デビル」(1984年9月11日)
OP後、葉山家の稽古場。

弟子の舞を見ていた葉山は、「待ちなさい!」と鋭い声を放つ。
葉山「君は実際以上に自分を立派に見せようとしている。見栄を張れば品格が落ちる。下手でも未熟でも良い、立派に見せようとする前にまず、己の心に正直であることだ。それが舞の鉄則だ」 ちょうどお茶を運んでいた笙子、その指導の言葉をそばで聞いて、しっかりと心に刻み付ける。
葉山も、あえて笙子に教える為にそのタイミングで指導したのかも知れない。
その後、玄関先で暴走族のような騒音が聞こえ、笙子が見に行くが、それは笙子を呼び出して哲也に会わせる為に玉子が友達に頼んでわざと出させていた音だった。
前回とまるで変わらぬ様子の笙子を見た哲也の第一声は
「笙子さん、少し痩せましたね」だった。
哲也、不自然なまでにモテるのは、案外こういうところに原因があるのかも知れない。

哲也と笙子は近くの公園に行き、久しぶりにじっくり語り合う。後ろで子供たちと遊んでいるおタマが可愛い。おタマ、いっそのこと保母さんになったら良いのにね。
笙子「つらいのは、何年辛抱しても舞楽を教えていただける望みがないことです。「笙の会」に戻って、哲也さんに習った方が……」
哲也「
いや、僕の指導だとどうしても君に甘くなってしまう。粘って先生を動かすんです。舞楽をきちんと身に付けるまで、どんなつらいことがあっても葉山家にとどまる、そう僕に約束してください」
笙子「はい、すみませんでした。弱音を吐いたりして……」
哲也、何気なく、言外に「葉山程度の指導なら自分にも出来る」と匂わせてるんだよね。
普通なら「僕なんかより葉山先生から習った方が良い」と謙遜するところだが、さすが哲也である。
その時、滑り台の上がったおタマが「あれ、男谷先生じゃない?」と声を上げる。
見れば、近くの歩道を、男谷がふらふらと酔っ払ったような足取りで歩いている。

そのまま車道へ出て、車に轢かれるところだったが、哲也が間一髪助ける。

哲也「男谷! どうしたんだ?」
男谷「恭子さんが……覚醒剤を!」

男谷「信じられんかも知れんが、本当だ。恭子さんは酒井に無理矢理忌まわしい薬の味を覚えさせられたに違いないんだ!」
この、いかにもサインペンで書いたような不精ひげ、何度見ても笑ってしまう……。
笙子によれば、その酒井が今日、葉山家に恭子さんを連れて挨拶に来ると言う。
男谷は、それを聞くと、葉山夫妻に何もかも打ち明けてやると息巻くが、あまりにショックが大きいので話してはダメだと哲也が止める。
哲也「先生を信じるんだ!」
と、彼らの様子をいぢわるオババが見掛け、早速多賀子に御注進に及ぶ。
多賀子は出入り差し止めになっている哲也と会うとはもってのほかだと帰ってきた笙子に言い、二度と哲也と会ってはあきまへんえと、釘を刺す。
やがて、酒井が恭子さんを連れて葉山家にやってくる。
結婚の申し込みなどではなく、単に会社の上司として挨拶に来たのである。

酒井「本日お伺いしたのは、私の真実の姿を知って頂きたいからです。私は今でこそ社長ですが、8年、少年刑務所で過ごした男です。私も生まれた時から不良だった訳では……私の父は貿易会社を営んでおりましたが、私が7つの時、他人の借金の保証人になったばかりに自殺しました。それからです、うちがビンボーのどん底に叩き込まれたのは……悪いことは大抵しました。しかしある時、気付いたんです、これではいけない、私は父の志を継いで、貿易会社を興すべきではないのか、と……」
酒井、神妙な顔と口調で、時折、感極まったように言葉を詰まらせつつ、赤裸々に自分の半生を語る。
酒井、自分が少年刑務所にいたことは知られているので、それを隠さずにあえて自ら暴露した上で、今はすっかり更生してまともな社会人やってますよとアピールする作戦に出たのだ。

お茶を運んできた笙子はその場の様子を見て、
(芸術家肌の先生はこの男の巧みな口車に騙されていらっしゃる……)

果たして、セレブだが所詮は世間知らずの葉山夫妻は、酒井の上辺だけの口説にコロッと騙されてしまう。
葉山「いやー、よく素直に打ち明けてくださいました。立派であるより正直であれ、あなたは私の信条にピッタリの方だ」
酒井「ありがとうございます。少年院出の娘さんを拘りもなく雇っておられる先生なら私のこともご理解頂けると思っていました」
酒井、その場にいた笙子までダシにして葉山を持ち上げる。
多賀子「じゃ、恭子は毎日楽しく働いてるんですね?」

母親のさりげない質問に、恭子さん、ハッとした顔になり、言い淀む。

が、すかさず酒井が「余計なことは言うなよ?」とギロリングした為、

無理に明るい笑顔を作って「ええ、社長さんはとても優しくして下さいますし……」と空々しく肯定する。
この瞬間の酒井の顔を見れば、その本性は一目瞭然だったと思うが、葉山夫妻は全く気付かない。

その後、笙子は機を掴んで恭子さんを別室へ連れて行き、覚醒剤はやめるよう、説得する。
恭子「私も何度もやめようとしました。でも、でも……」
笙子「恭子さんは意志の強い方です、やめようと思えばやめられない訳が……このままでは一生酒井の飼い殺しに!」
そこへ、葉山夫妻の相手をしていた酒井が入ってくる。

酒井「お節介はやめにしな」
笙子「さっきの身の上話はデタラメね」
酒井「ああ、俺のオヤジはまだピンピンしてるよ。こつこつ働くだけがとりえの小役人さ。
どうせ人間60でポンコツ、70でコーコツ、80でガイコツだ。それなら若いうちにパッと悪の華を咲かせた方がマシさ」
笙子&恭子(うまいこと言うわね……)
しかし、酒井は、男谷が酒井の詳しい経歴について葉山夫妻に事前に知らせていると言う可能性を考えなかったのだろうか? 実際は、少年刑務所に8年いたということしか教えてなかったので、まんまと騙すことが出来たのだが。
酒井「自分で自分が怖いくらいの悪党にならない限り、この世はのしあがれん、悪竜会の頃のお前も、ひたすら自分を怖い物にしようとしていた筈だ。どうだ、俺の片腕にならないか?」
酒井は、笙子のことも良く知っており、あろうことか、自分の仲間にならないかと誘いをかける。

それに対する笙子の答えは……
ビンタ一発! 多賀子の呼ぶ声がしたので、酒井は恭子を促して部屋を出て行く。
恭子(笙子に)「男谷さんに伝えてください、
私のことは諦めて下さい、と……」
いちいち引っ掛かって悪いけど、なんかこの言い草も上から目線だよなぁ。「私とあなたでは身分が違いましてよ!」みたいな……。この場合は慎ましく
「私のことは忘れて下さい」が妥当だろう。
で、いつの間にか、モナリザの出所する日になる。
当然、親子三人で出迎えに行くべきところだったが、哲也は「ぶっ壊れ気味の男谷から(面白くて)目が離せない」と言うことで、夫婦だけで行くことになる。

だが、久樹夫妻が刑務所に着いた時には、既にモナリザはおアキを身許引受人として出所した後だった。
路泰「私たちにはこれを読んでくれと……」
信子「行き先が書いてあるんですよ」
信子、いそいそと手紙の封を破るが、

中から出てきた紙には、「怨」の一文字。
いかにもモナリザらしい、その場の空気を微妙な感じにさせる置き手紙であった。
ま、「死ね!」とかよりはマシか。
路泰「葉子はまだ私たちを許しては……」
そのモナリザは、おアキと一緒に港をぶらぶら歩いていた。
せわしく「これから何する?」と聞くおアキだったが、モナリザは芝生の上に寝転がり、のんびりと空を見上げる。

モナリザ「独房から出てくると、空ってこんなに大きかったのかって思うよ……」

おアキ「これからどうするか決めてよー、復讐するんだったら復讐する、旅に出るんだったら旅に出る……私はねえ、あんたの行くところなら何処だって付いて行こうと……」
どちらも高そうな服を着ているのは、出所してすぐ、(おアキの金で)新しい服を買ったのだろう。
考えたらモナリザ、出所してもこんな忠実な友達が待ってくれてるわ、この後、朝男が仕事まで世話してくれるわで、苦労しているようで実はあまり苦労したことのないキャラなんだよね。
人殺しをしたと言う過去を勲章のように見せびらかしていたが、少なくとも中学生までは温かい家庭で何不自由なく暮らしてきた訳で、孤児で親戚中をたらいまわしにされていた五月などの方がよっぽど不幸でつらい目に遭って来たと思うよ。
閑話休題、

そんな彼らの前に、「ただの刑務所ボケさぁ」と颯爽と現れたのが、何故か朝男なのだった。
……いくら大映ドラマと言っても、この偶然はないだろう。
朝男、モナリザとはほとんど接点はなかったのだから、わざわざモナリザの出所日を調べて待っていたとも思えないし。

朝男「笙子が少年院を出た時には盛大な迎えがあったぜ、元白百合組組長さんの出迎えがヘドロ臭い潮風と決して美貌とは言えない女一匹だけじゃあ、侘し過ぎらぁ」
おアキ「なっ、私は美貌だよ!」
「私は美貌だ」と言う日本語、どう考えてもおかしい。
……しかし、なんで朝男は白百合組のこととか知ってるの?
今までそんなシーンあったっけ?
朝男「出所は、言ってみりゃあ、出船だ。昨日に別れを告げて明日へてめえを叩き出すには出船の儀式がいるぜ」

朝男、数個の紙テープを取り出すと、それを海へ向かって思いっきり放り投げる。
……ま、風に押し戻されて全部モナリザとおアキの顔に引っ掛かるんだけどね。
それにしても、いかにも朝男らしい幼稚っぽいダンディズムで煮しめたような行動である。
あ、でも、それを用意していたと言うのは、やはりモナリザの出所日を知っていたと言うことか? だけど、それをどうやって知ったのだろうかと言う疑問は依然として残る。
朝男「さ、あんたもやってみな」
朝男、紙テープをモナリザの手に握らせるが、モナリザはすげなくテープを捨てる。
朝男「元気を出す元気もないのかー」 お願いだからちゃんとした日本語使ってぇぇぇぇっ!
朝男「だがな、シャバは刑務所ほど楽じゃねえぞ。誰もメシを食わしちゃくれねえからなぁ。仕事が欲しけりゃ俺の後についてきな」 朝男、そう言ってモナリザの投げ捨てたテープを拾って、それをモナリザの手首に巻きつける。
刑務所どころか少年院にすら入ったことがなく、パパのお金で不良ゴッコをしてきて、現在はパパのお金を元手に事業をしている割に、カッコイイ台詞を放つ朝男であった。

朝男、テープを持ってそのまま歩き出す。
おアキ「あいつのクサさには目が眩むよ……」
おアキ、テープを切ろうとするが、モナリザはそれを止め、朝男についていくことにするのだった。
その3へ続く。