第22話「ストップ・ザ・デビル」(1984年9月11日)
男谷と哲也が、昼間から小さな飲み屋に来ている。

男谷、ヤケ酒を浴びながら、哲也に話している。
男谷、実は警察にも行ったらしいのだが、警察は「まだ内偵中」と言うことで、なかなか腰を上げようとしてくれなかったと言う。

男谷「そんなに待てるか! 恭子さんはボロボロにされてしまう。……じっとしてられなくてな、俺は最近の酒井の行状を洗ってみた」
男谷、封筒に入った書類を哲也に見せる。
酒井は覚醒剤のほかにも結婚詐欺、手形詐欺など、バラエティに富む犯罪行為に手を染めて告訴されたこともあるが、決定的な打撃は受けていないらしい。
男谷「ところが葉山さんはすっかり酒井を信用して俺の話には耳も傾けて下さらなかった。……生き証人と話をして見てくれ」
哲也「生き証人?」
男谷「あの人だ」
画面の端に映っていた髪の長い女性客が、その証人であった。
哲也「あのー、おばさん……」

女「あたし、24よ」
そう言って振り向いた顔は、若い女性のものではあったが、いかにも覚醒剤やってましたと言う風に黒ずんで荒んでいた。
女「覚醒剤にやられて、老けちゃってね。これでも3年前までは医者のお嬢さんだったのよ、電車の中で酒井に声かけられて、恋をしたのが運の尽きね。薬の味を覚えさせられて、何もかも巻き上げられて……」
それにしても、哲也の第一声「あのー、おばさん」はいくらなんでも失礼だろう。
そもそも、最初は髪に隠れて顔も見えないアングルだったのだから、年齢など分かる筈もない。
哲也、数年後の恭子さんがこんな姿になってしまうのではないかと怖くなり、
「男谷、なんとしても恭子さんを救おう」と雄々しく宣言するのであった。
……であったが、「恭子さんに合わせる顔がない」と、煮え切らない。
正直、そんなこと(婚約を破棄したこと)気にしてる場合じゃないと思うのだが、彼らは代わりに葉山夫妻に働きかけ、夫妻に説得して貰おうと画策するのであった。
再び葉山家。

庭の掃除をしていた笙子だったが、稽古場から聞こえてくる楽の音を聞くと、幼少から習い覚えた舞を我知らず舞ってしまうのであった。

しかし、この「なーんやそれー」と言う関西芸人のツッコミのようなポージング、我々は今まで何度見させられてきたことか。
笙子、1話からこればっかりやってて、何の進歩も見られないんだよね。
……まぁ、5ヶ月間ほど少年院での抗争に費やして、練習もろくにしていないのだから進歩がなくて当たり前だけど。

素人目に見てもダメな舞であったが、たまたま通り掛かった葉山は(大して稽古も見てない筈なのに……)と、前回からの上達ぶりに目を見張るのであった。
そこへ哲也と男谷が葉山に会いに来るが、葉山は顔を合わせようともせず門前払い。
夫妻の信頼の厚かった男谷まで、いつの間にか出入り禁止になってるのはお気の毒だ。
応対したいぢわるオババは、酒井に関する資料も受け取ってくれない。

男谷(猪木の顔真似しつつ)「どーっすりゃいいんだよ!」
哲也「笙子さんに頼もう」
哲也は家の外から笙子に呼びかける。笙子はいそいそと駆け出すが、途中で、「哲也と会ったらクビざます」と言う多賀子の言葉を思い出し、足が止まる。
仕方なく、二人は封筒を座敷に置いて、帰って行く。
それでも、葉山夫妻はその資料を読み、事の真偽をただすべく、多賀子が酒井に会いに行くことになる。

男谷がもてあまる暇を利用して作り上げた調査書類を突きつけられても、酒井は眉ひとつ動かさない。
酒井「そんなデマを信用なさるんですか?」
多賀子「あ、いいえ、そう言う訳では……」
酒井、書類は哲也が舞楽会を追放された恨みから、でっち上げたものだと強引に押し切ってしまう。
多賀子「そう、そうですわね。酒井さん、嫌な話はそれくらいにして、恭子をちょっとお借りしてもいいかしら」
恭子「お母様、何のこと?」
多賀子「いいえね、さっき見たらとても素敵なブラウスがあったのよ。同窓会に着て行くのにちょうどいいんじゃないかと思って……」
酒井「どうぞ、どうぞ、私は待ってます」
酒井、多賀子が自分を疑っていないと確信し、あえて恭子と二人きりにさせる。
てっきり、多賀子、母親の鋭い勘で恭子の本心を見抜き、わざと酒井を信用する素振りを見せ、酒井を安心させてから、恭子さんからじかに話を聞こうとしているのだろうか? と、管理人はこのシーンを見て穿った想像をしたのだが、ほんとに掛け値無く、言葉どおりの意味だったので思わずひっくり返ってしまった。

だが、天然の恭子さん、ついつい袖の短い服を試着してしまい、覚醒剤の注射跡を多賀子に見咎められる。
恭子さん、最初は適当に言い繕っていたが、バッグに入れていた「良い子の覚醒剤セット」まで見付けられてしまい(そんなもん持ち歩くなよ)、ジ・エンド。
まぁ、この発覚はむしろ恭子さんにとっては良かったのだろう。
恭子さん、今まで堪えてきた涙を一度に流して母親に縋りつく。

さすがの多賀子も、漸く酒井の本性を悟り、そのまま恭子を連れ帰ろうとする。
だが、それに気付いた酒井、週刊誌にこのことを売り込んでやろうかと、世間体を気にする多賀子の最も痛いところをつき、恭子さんを奪い返す。
その上、金まで脅し取られてしまったらしい。とほほ。

夫に一部始終を話した多賀子、即座に警察にTELしようとするが、葉山が止める。
葉山「やめなさい、やめんか」
多賀子「何故、何故ですの?」
葉山「考えても見なさい、娘が覚醒剤中毒と言うことが公になれば、私は総務府に辞表を提出しなければならん。そうなれば、葉山家が伝えてきた舞楽の伝統は終わりだ」
多賀子「でも、このままでは恭子が……」
葉山「あれのことは諦めなさい、何としても、葉山家を守らなければならんのだ!」
多賀子「お願いです、掛けさせてください!」
さすがに娘のことなので、唯々諾々と夫に従っていられない多賀子、電話を取ろうとするが、葉山に引っ叩かれる。……他の電話使えよ。
しかし、伝統を守ると言っても、一人娘の恭子さんを見捨てたら、結局葉山家は彼の代で終わることになるのでわ?

笙子「だいじょぶですか、奥様」
多賀子「笙子さん、あなたも不良だったのなら、覚醒剤の世界には詳しいでしょ」
笙子「私、それだけには手を出したことありません」
多賀子「そんなことないでしょー、その道の顔役の人でも知ってるのなら、その人に話して……」
ほとんど錯乱している多賀子、笙子を捕まえてこんなことを言い出す。
しかし、笙子は覚醒剤だけには手を出したことがなく、多賀子の期待には応えられないのだった。
その代わり、覚醒剤より体に悪いシンナー遊びの経験はあるんだけどね。
さて、そんな(どんな?)ある夜、橘女子大の同窓会(ただし、国文科だけなので、出席者はそれほど多くない)が、ホテルの一室で盛大に行なわれる。

恭子さんも、酒井と一緒に出席する。
すぐに、
「わてら恭子さんの引き立て役!」みたいな三人組が寄ってくる。

恭子「ヨッチン、しばらくぅ」
恭子さん、沈みがちであったがそれでも強いて笑顔を見せる。
酒井は、それが目的で来たので、参加している金持ちそうな人に片っ端から名刺を渡して挨拶する。

酒井「私、ロイヤル貿易の酒井です」
男「あ、私、ただのエキストラでございます」
酒井「……」
じゃなくて、
男「私、マルビシの○○と申します」
酒井「マルビシ銀行と言うと、○○さんのいらっしゃる……」
男「専務をご存知で?」
既に各方面のセレブに人脈を持つ酒井、こうやってどんどん交友関係を広げていくのだ。
一方、哲也とおタマのいる「笙の会」に、男谷が死にそうな感じで文字通り転がり込んでくる。

哲也「おい、どうしたんだ?」
男谷「哲也、恭子さんを救えるのはお前しかいない! 恭子さんを救えるのはお前の愛情しかないんだ!」
男谷、ひっくり返っていたが、ガバッと体を起こし、土下座せんばかりの勢いで懇願する。

男谷「笙子さんと別れてくれ、そうすれば……一生の頼みだーっ!」
哲也「男谷ぃ……」
真剣そのものの男谷には悪いが、管理人、このシーンにおける男谷のプリッとしたお尻の動きに目がいって、久しぶりに笑いの発作を起こしたことを、ここで告白しておく。すまん。

哲也「笙子さんだけは裏切れん……」
男谷「頼む、頼む、頼むよーっ!」
恥も外聞もなく哲也に縋り付く男谷であったが、哲也はどうしてもうんと言わない。
男谷「出来ないと言うのか? もう頼まん……」
男谷、物凄い目つきで哲也を睨み付けていたが、ふらふらと立ち上がる。

哲也、男谷を止めようとして、男谷が隠し持っていたナイフを発見する。
哲也「お前、これで……」
(ひとりで勝手に)追い詰められた男谷、酒井を殺しに行くつもりらしい。
当然、哲也は行かせまいとする。

二人が揉み合っているところを、おタマがモップの先っちょで
ゴン! と一撃。

男谷がふらっとのけぞったところに、

更にもう一撃!
そう、野生の男谷はしぶといので、二回殴らないと死なないんですね。

おタマ「悪いけど、こうでもしないと思い止まりそうにないもんね」
哲也、やむをえず、男谷の代わりに恭子さんを連れ戻しに出撃する。

笙子は笙子で、娘がピンチと言うのに舞楽の稽古に明け暮れる葉山に意見していた。
多賀子と一緒に恭子を迎えに行って欲しいと言うのだ。
葉山「言った筈だ、葉山家を守る為には覚醒剤の味など覚えた娘と関わる訳にはいかん。私は稽古がある……」

葉山の連れない返答に、たちまちスケバンの顔になる笙子。
BGMを流していたラジカセを勝手に止めてしまう。

葉山「何をするんだ?」
笙子「私、父のことを思い出したんです。父は私がここに勤めに上がっただけで心配してオロオロしています。でも、子供の為なら、なりふりなど構っていられない。それが親だと思うんです。先生も本当は恭子さんが可愛い筈です」
前半の、聖一郎の卑屈な姿が回想されて、それがこのシーンの伏線だったことが分かる。
笙子「立派であるより正直であれ、そういつも仰ってるお言葉を先生はご自分で裏切っておられます!」 さらに、葉山自身の言葉を持ち出して痛烈な言葉を浴びせる笙子。
それでも葉山は「何かを犠牲にしないとゲイの道は極められんのだぁっ!」と強弁する。
笙子、ますます厳しい面持ちになってスッと立ち上がる。

笙子「こんなところ辞めさせていただきます!」
葉山「なにぃ?」
笙子「実の娘さえ犠牲にする、舞楽ってそんなものなら、先生に習う気もなくなりました。恭子さんは私ひとりでもきっと……」
眉宇に悲愴な決心を滲ませ、笙子も出撃するのだった。
その4へ続く。