第20話「美人姉妹の危険な就職」(1982年10月22日)
気が付いたらかなり休んでしまった「ハングマン」のお時間です。
今回、必要以上に長くなってしまったので、暇な時にのんびりとお読み下さい。
夜、大星物産と言う商社の一室で、副社長の西岡と、専務の池田が激しく口論していた。
と言うより、次期社長の座を狙っている池田が、邪魔な西岡に引退を迫っているのだ。
気分を害した西岡は、席を蹴立てて帰ろうとするが、池田とその腹心・千野は、二人がかりで西岡を引き止め、無理矢理、引退を承諾させようとする。
そうこうしているうちに、物の弾みで西岡は机の角で後頭部を強く打ち、あっけなく死んでしまう。
池田は救急車を呼ぼうともせず、代わりに田沢と言う社員を呼び出す。
何も知らずに急いで社にやってきた田沢、副社長の死体を見せられて愕然とする。

池田「君は来年、定年退職だったね」
田沢「はい」
池田「退職金もほとんど前借してしまったようだが、奥さんの病気、そんなに金がかかんのかい?」
田沢「はい」
池田「子会社に役員の椅子がひとつ空いてるんだが……再就職の当てはあるのかね」
池田と千野は、病身の妻を抱えて困窮している田沢を代わる代わる説得し、彼が副社長と揉み合っているうちに誤って殺してしまったと言うことにして、殺人の罪を肩代わりさせようとする。
「定年後の面倒は見る」「良い弁護士をつける」「執行猶予間違いなしだ」などと言う池田の言葉を信じ、田沢は副社長殺しの罪を被る。

だが、一審では、「懲役3年6ヶ月の実刑」と言う判決が無情に下り、田沢は話が違うと茫然自失、アゴが外れる。
田沢は控訴するが、その判決を待たずに飛び降り自殺を遂げてしまう……。

その田沢家で、49日のお経を上げているのはハングマンのオショウだった。田沢家は、オショウの檀家だったのだ。
オショウ「早いもんですなぁ、もう49日ですから。私も将棋の好敵手を亡くして寂しい」
保夫「オヤジは、嵌められたんだ……」
オショウ「どういうことです?」
保夫「こりゃ罠ですよ、池田が社長になる為の……」
長男の保夫は、今度の事件には必ず何か裏があり、それを暴いてやるんだと鼻息を荒くする。
オショウ、寺に戻るとすぐタミーに電話して、今夜、メンバーを全員集めてくれと頼む。
さて、例によって秋葉原の店の奥でひとりくすぶっているデジコン。

キーボードを叩いて、コンピューターにこんな質問をしている。
相当の重症ですね…… もっとも、デジコンは1982年の時点で早くも人工知能の開発に成功していたようで、コンピューターは「それはありえないことだ。ハングマンに女性は関係ない」と人間臭い返事をする。

デジコン「参ったな、長い付き合いじゃないか、もう少し色気出せ、色気」
ぼやきながら、ディスプレーの横を叩くデジコン。
まるで、
壊れかかった白黒テレビをチョップして直してしまう、のび太のママのような、アナログな反応であった。
そこへヨガが来て、今夜集合だと告げる。
マイトのところには、タミー自身が足を運んでいたが、その前に可愛いさとみちゃんと雑談。
さとみ「うちのマスターね、美人が通るとヒョッコヒョッコ付いてっちゃう癖があるんです。どんな御用ですか」
タミー「借金取り、うちの店のツケがだいぶ溜まってるんで」

さとみ「ああ、女癖だけじゃなくて金癖も悪いんだぁ……あっ、おかえんなさぁい」
マイト「誰が女癖が悪いんだ? 私の友達にデジコンって男がいるんだけど、彼と間違えてるんじゃないかと思うんだよ」
さとみちゃんが可愛い。管理人が言いたいのそれだけだ。

とにかくその夜、集まったメンバーにスライドを見せながら事件について説明しているオショウ。
オショウ「今から約1年前、この本社ビルの会議室で衝撃的殺人事件が起きた。殺されたのは副社長の西岡雄作……犯人は総務部次長の田沢一郎……田沢は犯行を認め、仕事上のミスを責められてカッとなって……控訴し、保釈された翌日の夜、ビルの屋上から身を投げて死んだ……」
表面的な事実を淡々と説明するオショウ。

一審判決の時の新聞記事もチラッと映るが、普通は見出しだけで、本文は全く関係ない記事が書かれてあることが多いのだが、ここではちゃんと事件に沿った内容が書かれている。

マイト「思い出したよ、その事件のことは……平凡なサラリーマンが何故副社長を殺したかって……」
オショウ「実はこの田沢ってのはうちの檀家でな、今日がちょうど49日の命日だからお経上げてきたんだ」
タミー「でも、なんで自殺なんかしたの?」
オショウ「いや、私は自殺したなんて思っちゃいませんよ。この男は実に将棋が好きでね、前にも何回か手合わせしたが、堅実で実に粘り強いと言うか、途中で諦めたりするようなタイプじゃなかった」
マイト「なるほど、将棋ねえ」
オショウ「それから、彼の棋風はとても優しい。相手を追い詰めたりいじめたりするのが苦手なタイプなんだ。三人の子供たちはオヤジに一度も怒鳴られたことがないそうだ」
将棋の棋風から、田沢の性格を分析すると言うのは面白い。無論、オショウは実際に田沢と会ったことがあるのだから、その観測も含めてのことだろうが。
デジコン「じゃあ、副社長殺しは」
オショウ「彼は絶対人を殺せるような男じゃないよ」
ヨガ「しかし、人間カッとなると……」
オショウ「カッとしないんだ、この男は」
証拠は何もないが、オショウは田沢の無実を信じ切っていた。
オショウは、田沢の家族について簡単に説明する。
・妻……病気で伊豆の療養所にいる
・長男・保夫……大星物産の社員だったが、事件直後に退職
・長女・明子……大星物産の社員と結婚する予定だったが、事件の為に白紙に
・次女・春子……看護学校に通っていた
現在、明子と春子は、新宿のバーで働いている。母親の治療費の為だ。
ゴッドからもゴーサインが出て、ハングマンは調査に乗り出す。
会社の近くに車を停め、今や社長になった池田と、同じく出世した千野たちの写真を撮っているマイトたち。
副社長の死で一番得をしたのが、池田たちだったからだ。

ついでに、社長秘書の石原恭子……おっ、竹井みどりさんですね。
そこへ、ちょうど、激しい勢いで保夫が社長に向かって突っ込んでくる。
保夫は警備員たちに阻まれ、ぶん殴られる。

恭子が思わず保夫に駆け寄る。二人は以前、結婚の約束をしていた間柄なのだ。
保夫「社長に伝えといてくれ、必ず真相を掴んで見せるとな」
その後、料亭でひそひそ話をする池田と千野。
そこへ柴崎と言う弁護士が来て、席に加わる。
池田たちは用意していた3000万のキャッシュを柴崎に渡す。
彼は、田沢の事件を担当した弁護士で、彼も一枚噛んでいるらしい。
で、彼らが呑んでいる間に、尾行していたヨガが池田の車に盗聴器を仕掛ける。

銀座のバーで、好色そうな客(梅津栄)の相手をしている明子と春子。
オショウ、白髪の紳士に変装し、さりげなくカウンターに座って様子を窺っている。
オショウ「コーヒー園叩き売って、30年ぶりにブラジルから帰って参りました」
ママ「まぁ、ブラジルの……」
明子が彼に付くが、あまりに姿が違うので、それがオショウだとは気付かない。

あの客は、すっかり春子が気に入ったようで、駐車場まで春子に送らせ、適当にあしらおうとする春子を強引に車の中に引き摺り込み、スケベなことをしようとハッスルする。

と、ブラジル帰りの紳士になりすましたオショウが颯爽と現れ、ステッキの握りを男の首に引っ掛け、車外へ引っ張り出す。
オショウ「みっともないから、よしなさい!」
男「なんだこのジジイ!」

オショウは余裕たっぷりに男をぶちのめす。騒ぎに気付いて明子も駆けつける。
車で帰ろうとする男を「飲酒運転はいかんぞ、歩いて帰れ!」と、追い払うオショウ。
オショウ「夜の盛り場は狼がおるからのう、気をつけて帰らんと」
明子「ありがとうございました」
春子「お世話になりました」
あまり長く顔を合わしているとさすがにばれるかもしれないので、オショウはすぐに二人の前から消える。
春子「姉さん、今の人、前にどっかで会ったような気がする」
明子「そんな筈ないわよ、30年ぶりにブラジルから戻ったばかりだそうよ」

さて、ハングマン、揃って池田の車の盗聴テープを聴いている。
千野の声「田沢の件は柴崎にやらせました。あの男が誰をどう使おうと私たちには関係ありませんよ」
マイト「おい、柴崎って誰だ?」
マイトの問いに、デジコンは首を横に振る。
が、その直後、
池田の声「田沢は死ぬ前に息子に何か喋ったかも知れん」
千野の声「いや、その心配はまずないと思います。
柴崎弁護士もああ言ってますし……」
まるで盗聴されているのが分かっているような、親切な悪人さんたちであった。
ハングマンたちは、柴崎と言うのが、田沢の弁護を担当した弁護士だとすぐ気付く。
マイト「ようし、オショウの説に従って仮説を立ててみよう。田沢は副社長を殺さなかった。じゃ、犯人は誰だ?」
オショウ「池田と千野さ」
マイト「と言うことは、田沢は二人の罪を被ったことになる。何故だ?」
ヨガ「金じゃないかな」
オショウ「だと思うよ」
デジコン「金と定年後の仕事を餌にされればなぁ……」
マイト「それだけじゃない。優秀な弁護士をつけてやるから、執行猶予になると言われたんだろう」
明敏なハングマン、早くも事件の真相をほぼ掴んでいた。

さて、ベッドに下着姿で横になっている石原恭子。

それまで情事を交わしていた男がムクッと体を起こし、それが池田だと分かる。
池田「恭子、どうしたんだ」
恭子「いいえ、別に」
そう、恭子はあろうことか、池田社長の愛人になっていたのだ。
こういう知的な美人が、このアブラぎった中年男にヒーヒー言わされていたかと思うとコーフンしますね。
……しませんか? 俺だけ?
と言っても、恭子は喜んで社長と寝ている感じではなかった。
池田がシャワー室に行った後、恭子は芯から清々したように吐息をつく。
そして用心しながら池田の手帳をめくっていく。
どうやら、彼女は、池田の秘密を探る為に、あえて彼に近付いているらしいのだ。

その中に、こんな走り書きがあった。
恭子「柴崎弁護士、3000万?」
分かりやすいっ! 勧善懲悪時代劇のような分かりやすさが「ハングマン」の魅力である。
ま、元々現代版「必殺仕事人」として作られたドラマだからね。
後編に続く。