第23話「ロンリー・カンバック」(1984年9月18日)
の続きです。
夜の繁華街。

とある高級クラブで向かい合っているのは、酒井と朝男。
酒井「お互い過去のことを知ってる間柄だ、気取るのをやめて本音で話し合いませんか」
朝男「俺のほうもそう願いたいと思ってたところだ」
酒井「私は前からあんたたちと知り合いになりたいと思っていたが、どうだ、手を組まないか? 元東京流星会会長西村君、それに私が組めば何でも出来る」
朝男「手を組んでどうする?」
酒井「一流の人間になるんだよっっっ!」 朝男「はぁ……」(少し引いている)
要するに、朝男と一緒にもっとガンガン金を稼ぎたいと言う酒井だったが、無論、朝男のような人間がそんな申し出に応じる筈もなかった。

朝男「お前さんには死のニオイがする」
酒井「俺とは気が合わないって訳か?」
朝男「ああ、合わないな。酒井、これだけは言っとくよ。俺はお前がどんな男でも恐れやしない、だが、曽我笙子には手を出すな! お前が笙子に手を出したら、俺はカンバックすることになるぜ」
朝男の警告に、酒井も不敵な笑みで応じる。
「カンバック」と言うのは、更生した人間が再び不良になることである。

朝男、ストイックにそのまま席を立つが、ちょうど入れ違いにやってきたバニーの日焼け跡の残るおっぱいが大変気になる年頃でもあった。

(もう一回来よう)と力強く胸のうちで誓いながら店から出てきた朝男を待っていたのは、懐かしい、流星会時代の腹心・山崎であった。

朝男「鑑別所を出てすぐ悪いがなぁ、早速仕事をして貰うぜ、酒井のアジトを突き止めろ」
山崎「うが……」(註1)
山崎、朝男と同じく鑑別所に入っていたらしい。
でも、朝男より先に捕まった山崎が、朝男より遅れて出て来たと言うことは……やっぱり、長谷川哲夫パパが、裏で手を回したとしか考えられないんだけどね。
ちなみに面倒見の良い朝男のことだから、他にも不良時代の仲間で、朝男の各種事業の手助けをしている者が少なからずいただろうと思われる。
(註1……実際は何も喋っていない。山崎、何故か台詞がひとつも貰えないのが不憫なので、何か言わせてみました)
さて、翌日、男谷の運転する車で、酒井の会社へ向かう葉山夫妻の姿があった。
男谷、遂に、葉山家の運転手に成り下がったのかと胸倉掴んで問い詰めたいところだが、今回は特別な用事だから、しょうがない。
もっとも、葉山夫妻も(しかし、暇だな、コイツ……)と内心思っていたかも知れない。
その車を見送った笙子は、男谷と違って、舞楽・恋愛・仕事の他にも、哲也の母親から頼まれてモナリザたちと遭遇したところまで案内すると言う別口の用件を抱えて多忙だった。

笙子「私が葉子さんに助けられたのはこの辺りなんです……この付近にアキコさんと住んでるんじゃないでしょうか? こっちの方へ走って消えたんです」
三人はその付近を歩き回って、モナリザの姿を探す。

笙子が、花屋の店先に鮮やかな白いユリが出ているのを見て、(もしや……)と思う。
果たして、彼らが来るのを待っていたようなタイミングで、モナリザこと葉子こと長沢真琴ことマコちゃんが出てくるのだった。
哲也や信子も驚いたが、モナリザの方も、こんなに早く彼らが訪れようとは思っていなかったのでさすがに驚きを隠せない。
おアキ、すかさず笙子を手招きして、店の奥へ招じ入れる。家族だけで話をさせてやろうと言う配慮だろう。

おアキ「マコの心の傷が治るまでせめて私だけでもそばにいてあげようと思ってさ」
おアキの説明で、元々この店は朝男の高級麻雀荘になる予定だったが、朝男の計らいで二人が花屋として使わせて貰っていることが分かる。
ところで「高級麻雀荘」って何? 普通の麻雀荘とナニが違うの?
それにしても、いくら恩義がある相手だからって、既婚者で、ジョーズと言う店のオーナーであるおアキが、それらを全て放り出してモナリザにくっついていると言うのは、やはりどう考えても不自然である。モナリザがそれに疑問を感じずに受け入れていることも含めてね。
おアキは配達があるからと言って出て行く。笙子が店の前に行くと、モナリザが硬い顔で二人の前に立っていた。

哲也「元気そうじゃないか」
モナリザ「はい」
信子「(仮釈放の)朝は取るものもとりあえず飛んでったのよ」
モナリザ「分かっていました」
信子「だったらぁ、どうして私たちを待っててくれなかったの? お父様はショックで寝込んでしまったのよ」
モナリザ「お会いしたくなかったからです」
哲也「葉子!」
モナリザ「哲也兄さん、お父様、お母様にも私はもう二度と会わないと決めたんです」
モナリザ、無表情で淡々と述べる。

信子「葉子さん、あなたはまだ私たちを許してくれてはいないのね。私たちを憎んでいるのね?」
モナリザ「私はもうあなたたちを憎んでも恨んでもいません」
信子「だったらどうして?」

モナリザ「哲也兄さんは他人の悲しみの分かる女になってくれ、笙子は憎しみを光に溶かせと……でも、私はそんな立派な女にはなれない。だからせめて私が母の悲しみを秘めてこれからも長沢真琴として生きようっ、母の生きられなかった分を、私が長沢真琴として生きようって決めたんです」
信子(途中から聞いてなかった)「葉子さん、せめて一言私たちを許すと言って! あなたのその言葉を聞かない限り、私たちの心は晴れないの!」
信子は縋るように必死に訴えるが、あくまでモナリザはよそよそしく、「許すも許さないもないわ、私はあなたたちとは関係ない人間なんです……だからあなたたちも私を娘などとは思わないで下さい」と告げる。
信子「葉子、むごいこと言わないで! 関係ない人間だなんて言われるくらいなら、まだ憎んでると言われたほうがマシだわ!」 信子、やっと会えた娘にそんなことを言われ、思わず嗚咽を漏らす。
そう言えば、岩本多代さんと伊藤さん、「乳姉妹」でも、実の母娘の役やってるんだよね。

モナリザ「私のことは放って置いてください」
哲也「葉子、私たちが客として花を買いに来ることは許してくれるだろうね」
モナリザ「お客様ならどなたでも歓迎します」
しかし、このシーンの哲也の妹への態度、ちょっと物足りないなぁ。
「少年院激闘編」(ねえよ、そんなの)の終盤で見せた、モナリザにビンタしまくりのあの猛々しい哲也の姿をもう一度見たかった。
笙子は、つらそうな顔で彼らのやりとりを聴いていたが、他人の家庭のことなので何も言えないのだった。
その後、ロイヤル貿易で酒井の帰りを待っている葉山たちの姿を映してから、再び花屋。
ちなみにこの店、「マコト」と言う名前らしい。
言葉どおり、哲也たちはそこで紫色の花を買い求めるが、モナリザは「ありがとうございました」と、最後まで信子を客として扱う。
情けなくて、再び俯いて落涙する信子を見兼ねて、笙子が何か言おうとするが、
モナリザ「笙子、昨夜の礼なら要らないよ。笙子だと分かっていたら助けたりしなかった」
笙子「あ、ありがとう、助かりました」
機先を制されて、結局何も言えないのだった。
哲也「葉子、君は僕の妹だ、関係ない人間なんかじゃない。僕は君の心がかぐわしい花の香りで一杯になる日まで
毎日ここに花を買いに来るよ」
ニートならではの威風堂々とした宣言である。
しかし、関係ないとか言いながら、モナリザ、最初にはっきり
「哲也おにいたま」とか言ってるんだけどね。
モナリザ、それでもさりげなく「酒井には関わらない方が良い」と、哲也に忠告する。
と、その時、店の前に車が停まる。それになんと、その酒井と恭子さんが乗っていると言う、奇跡が起きる。

哲也「恭子さん、開けて下さい!」
哲也、車に駆け寄って恭子さんに呼びかけるが、逆らえば哲也や親を殺すと脅されている恭子さんは、哲也から目を背ける。

酒井は、ここに客として来たのだが、モナリザがやっていると知っていて、あえてここに来たらしい。
不良の世界では、モナリザのことも広く知れ渡っているのだろうか?
酒井「これを機会にお付き合い願いたいですね」
モナリザ「あの方はどうなさるの?」
酒井「結婚するんですが、あまり長くは持たんでしょう。なんせ覚醒剤中毒ですから」
モナリザ「悪党なのね?」
酒井「あんただからこんなことが言えるんだよ。あんたと私は同じニオイがする」
モナリザ「ふふ……」
モナリザも、白百合組時代を髣髴とさせるような邪悪な笑みで応じる。
それを、笙子が険しい目で見ている。
モナリザがこんな男に惹かれるとは到底思えないのだが……。

酒井、哲也には目をくれずに恭子さんのそばに戻ると、車を発進させる。
恭子さんは、窓越しに何かを訴えるような眼差しを向けるのが精一杯であった。
その3へ続く。