第23話「ロンリー・カンバック」(1984年9月18日)
の続きです。
酒井と恭子さんが会社に戻ると、待ち兼ねていた葉山がすぐに恭子さんを家に連れ帰ろうとする。

恭子「お父様、手をお離し下さい、私は家には帰りません」

葉山「バカッ、まだ分からんのか、私たちがどんなに心配して心を痛めているか。お前にはまだ分からんのか」
葉山、今までの苛立ちをまとめて恭子をビンタする。
更に手を上げる葉山の腕を、酒井が抑える。
酒井「お父様! 乱暴はおやめ下さいよ」
葉山「酒井君、娘は今日連れ戻す、君のような不埒な男には絶対渡さん! 君は恭子に何をした?」
酒井「覚醒剤のことを言ってるんですか?」 酒井、激昂する葉山を見ても顔色ひとつ変えないどころか、自分から進んで禁句を口にする。
酒井は「恭子さんは子供を死なせた心の傷を癒す為に覚醒剤に手を染めた、自分はそれを辞めさせようと努力している」と、図々しいにも程があるだろうと言うでまかせを並べる。
さらに、酒井が恭子さんと結婚するつもりだと聞かされた葉山、思わず「馬鹿なっ」と叫ぶ。
一度は酒井にコロッと騙された葉山であったが、さすがにもうその本性を見抜いており、なんとしてでも娘を連れて帰るのだと譲らない。
だが、肝心の恭子さんが酒井から離れようとしない。

多賀子「あなたはこの酒井に脅されて、結婚するって言ったんでしょ? ね、そうでしょ?」
恭子「お父様、お母様、私は酒井さんと結婚します」
男谷「恭子さん!」
葉山「私は許さん、許さんぞ!」

恭子さん、クルッと振り向くと、
「お父様のお許しなど必要ありません! 二言目には葉山家の家門、格式、そんなもの今の私にはどうでもいいのよ! そんなものの為に、私がどんなつらい思いをしたと思ってるの? 家門なんて泥に塗れればいいのよ! 勘当だと言うなら、いつでも私を勘当しなさいよ! 娘などいなくともあなたがたには家門があるからいいでしょう! 私だってあなた方と関係のない人間になったほうがどんなにか気が楽になるかわかりゃしないわ。私はもうあなた方とは関係のない人間なの!」 かつてないほど厳しい罵言を両親に浴びせるのだった。
あのお人形のようだった娘の口から発せられるとは到底思えない辛辣な言い草に、葉山も多賀子も、しばし茫然として、我が耳を疑う。
ちなみに恭子さんの台詞が、一部モナリザのそれと被っているのは、偶然ではなく、脚本家の仕業です。
無論、恭子さんは両親に害を及ぶのを恐れて心にもないことを言っているのだが、全く心にもない感情とも言えない気がする。何かといえば「葉山家の家門」を振りかざす父親に、恭子さんが娘心に反発を抱いていたとしても不思議ではないからだ。
で、叫んだ後、恭子さんは世にも悲しそうに顔を歪めさせる。

葉山夫妻もそれを見て、「娘は我々のことを気遣ってそんなことを言っているのだな、かわいそうに」と(視聴者が)取れそうな顔をするのだが、
葉山「分かった! 恭子、お前は今日限り勘当だ! お前が死のうが生きようが、今後一切関知しない!」 怒鳴りつけると、さっさと部屋から出て行ってしまうのだった。
ダメだこりゃ。
恭子さんはその直後、「お父様お母様!」とその場に泣き崩れる。
そして、あっという間に一ヶ月の月日が流れる。はやっ。
稽古場でひとり座って、「恭子……」と娘の名をつぶやく葉山。
装束を着た笙子がやってきて、「お願いします」と頭を下げる。

日課となっているのだろう、葉山による舞の指導が行われる。
一ヶ月に及ぶ稽古の甲斐あって、笙子の舞もかなり堂に入ったものになっていた(……と思って上げる優しさが視聴者には欲しい)。

が、踊りながら、葉山の双眸からは滂沱として涙が伝い落ちるのだった。

その脳裏には、笙子と同じく白い着物をまとった恭子さんと一緒に舞っている、かつての情景がありありと映し出されていた。
考えたら、恭子さんも幼少から舞を仕込まれていて、第1話の婚約披露パーティー(MC男谷)でも、ちゃんと立派な舞を披露してるんだよね。

それにしても、やっぱりこういう衣装は、いとうまい子さんより岡田奈々さんのほうが似合うよね。

葉山、遂に耐えられなくなって、その場にくずおれてしまう。

笙子「先生、先生は恭子さんを愛していらっしゃるのね」
葉山「娘を愛さぬ親などあるものか……娘の不幸を願う親などあるものか」
笙子「だったらどうして?」
葉山「私は舞楽を守らなければならんのだっ」
何とかの一つ覚えを繰り返す葉山。
葉山「見苦しいところを見せて済まなかった。笙子君、君は今すぐ『笙の会』に戻りなさい。これから先、哲也君と稽古に励めば、君は一人前の舞人になれる。私が君を葉山家に入れたのは、ただ憎かったから
だけではない、舞楽を愛する君の情熱と、その大いなる素質に私自身、大いに感ずる物があったからだ」
「だけではない」と言うことは、つまり、幾許かの憎らしさも混じっていたと言うことなんでしょうか?
葉山「君はよく精進した、進境も著しい。これからは哲也君と共に励みなさい」
笙子「先生……」
こうして笙子は、この23話における数分間の、ドラマ上では一ヶ月に及ぶ稽古を経て、立派な舞人として認められたのであった。
もっとも、葉山は最後に「正直言って、君の顔をこれ以上見るのは(娘のことを思い出してしまうので)つらいのだ」と本音を漏らしているので、ほんとはまだ未熟なのに笙子を卒業させたとも考えられる。
笙子「ありがとうございました」

で、次のシーンでは早くも私服に着替えて葉山家からルンルン気分で出てくる笙子の姿があった。
それを待っていたかのように、山崎の運転する車がその横に停まり、テカテカジェル頭の朝男が顔を出す。
朝男「笙子、乗れ、恭子さんの隠れ家に案内するぜ」
笙子「恭子さんの? 朝男がどうして」
朝男「俺はずーっと笙子を見守っていたよ、俺が見守ってなければ危なっかしくていけねえや……
恭子さんがアジトに向かったそうだ、そこから恭子さんを奪ってくる。放っておくと笙子が危険な目に遭うからな」
朝男、笙子と一緒に後部座席に乗り込むのだが、その際の台詞(太字部分)が少し気になる。
まず、「恭子さんがアジトに向かった」と言うが、何処からアジト(隠れ家)へ移動したのだろう?
そして「放っておくと~危険な目に遭う」と言うのも、いまいち意味が分からない。
(朝男が放っておくと)笙子がひとりで恭子さんを取り戻そうと無茶なことをするから危険だ、と言うことなのだろうか?
とにかく、恭子さんはあるマンションの一室に軟禁されていた。
一応、あの鬼母が監視についているのだが、恭子さんが逃げ出す気遣いはないと知っているのか、彼女を残して買い物へ出て行く。

恭子さん、ガスコンロを見詰めていたが、不意にその前に移動すると、コックをひねってガスを全開にする。
そう、切羽詰った恭子さん、自殺をするつもりなのだ。

で、マンションに到着した朝男と笙子がエレベーターから出てきたところで、鬼母とバッタンコ。

慌てて逃げようとする鬼母の顔に、朝男が布でくるんだ棒をゴン! と食らわして気分爽快。
二人は鬼母の手から鍵を奪って、恭子さんの部屋に急ぐ。

部屋に入ると、既にかなりのガスが放出されていた。
朝男、すぐにガスを切るが、

恭子さんが、朝男が切った端からまたコックを捻り、それをまた朝男が切る……と言う無限連鎖が出てくるのが、ちょっとツボである。

笙子「恭子さん(バシッ)いつまで甘えてるの? 死ぬほど哲也さんが好きなら私から奪ったらどうなの?」
笙子、敢えて厳しく恭子さんを叩いてなじり、恭子さんに生きる力を取り戻させようとするが、

恭子「哲也さんを殺さないで、私は哲也さんなんか好きじゃない……」
聞いてなかった。 恭子さん、度重なる恐怖とストレスに神経が参って、壊れかけのレディオ状態だった。
朝男「笙子、恭子さんは哲也さんを殺すと脅かされていたんだ」
笙子「ひどい!」
「哲也さんを殺さないで……かわりに男谷さんを……」(註・嘘である)などとウワゴトのように繰り返す恭子さんの姿を前に、笙子の怒りの血がふつふつと滾るのであった。
その4へ続く。