第7話「水の中に舞え!セーラー服の死闘」(1986年12月11日)
高架下にて、明らかに留年している数人の不良高校生たちが、ひとりの美しい女子高生に喧嘩を売っていた。

天上院滝子と言う、生まれながらに旅行会社に就職することを宿命付けられたような名前の女子高生を演じるのは、アイドルの中野みゆきさん。
そこに、唯たち三姉妹が通り掛かる。

高架下のちょっとした公園の遊具に腰掛けている滝子。

三姉妹が遠くから見ている中、滝子は不良たちをあっという間にぶちのめす。

唯「おんなひとりで、ごっつぅい、えらかー」
由真「見かけないツラだね」
強い女の子が大好きな唯、ためらわず滝子に近付いて話しかける。
唯「つよかー、わちゃ星流学園1年B組、出席番号9番、風間唯じゃ。たった今お姉さんのファンになったんじゃ。握手ばしちゃんない」
由真「ったく、あのプッツンもん」
結花「あれが唯のいいとこよ」

唯は握手を求めるが、滝子は「よしなさい、つまらないことに憧れるのは」と、唯からカバンを受け取ると、そのまま歩き去って行く。
ほどなく、その滝子が転校生として星流学園にやってくる。
しかも、由真のいる2年B組に。
滝子「天上院滝子です。よろしくお願いします」
挨拶をした後、由真に鋭い視線をよこす滝子。
情報通のクマによると、滝子は「はぐれスケバンのお滝」と呼ばれ、都内の不良たちからも恐れられている猛者らしい。
同じクラスの由真は「その腕、試してやる」と、中庭のベンチに座って本を読んでいる滝子にいきなりリリアンを投げ付ける。

滝子は読んでいた本を素早く閉じてリリアンを受け止めると、怪力で由真の手を掴んで無理矢理開かせ、その中にリリアンを戻す。
滝子「これは糸を編むもの、飛ばしたりしたら危ないわ」
さすがの由真も、タジタジであった。

唯、ますます滝子に惹かれたようで、下校中の滝子を待ち伏せする。
滝子「どうして私のこと付きまとうの?」
唯「あんたのことが好きなんじゃもん」
滝子「そんなこと言われるの、初めて」
唯「そんなことなかー、滝子さん、素敵じゃもん」
滝子「あなたのような普通の女の子が一番素敵なのよ」
唯「そうじゃ、わちら、友達になって……」
滝子「友達?」
唯「うん、友達じゃ」
滝子「なれたら良いわね……」
その夜、風間家の三姉妹の枕元に次々手裏剣のようなものが飛んで来て突き刺さる。
すわ、刺客か?
いいえ、違いました。
彼らの上司、般若おじさんでしたーっ! ……夜中に家の天上から逆さにぶら下がる上司って、
死ぬほどイヤだよね。
過去に同じような登場の仕方をしているのか、唯たちは何の驚きも示さない。

おまけにそんな変態的な登場をしたにも拘らず、用件は「礼亜のもとへ来い」だけ。
お願いだから電話してーっ!(睡眠を妨害された風間三姉妹の魂の叫び)

とにかく、翌日、三人は図書館にいる礼亜を尋ね、詳しい話を聞く。
礼亜は新聞の綴じ込みを見せる。
1年前、男子高校生と女子高生が乗っていたボートが高波で転覆し、男子の方だけ死んだと言う事故の記事なのだが、その奇跡的に助かった女子高生と言うのが、他でもない天上院滝子だったのだ。
礼亜「死んだ男子生徒は風魔の血を引くもの、ただで溺れる筈がないわ……天上院滝子は影の忍び……」
唯「事故じゃ、ただの事故じゃ!」
結花「あいつが、本当に忍びかどうか」
由真「あたしたちがそれを確かめればいいんだろ?」
礼亜「狙いは、あなたたちかも知れない……」
由真は乗り気になるが、唯は「何かの間違いじゃーっ」とその場から走り去る。

唯、こっそり滝子のあとをつけ、その自宅まで付いて行く。
滝子の家は、懐かしい駄菓子屋であった。

優しく子供たちの相手をしたり、店をやっている祖母の肩を揉んであげたり、他校の不良もびびるスケバンとは思えぬ滝子の一面を見て、唯はますます滝子が好きになる。
が……、

唯の気配が消えるや否や、祖母は急に厳しい顔つきになる。二人とも、唯が見ていることは先刻承知だったのだ。
祖母「とうとうお前の本当の戦いをする時が来たようじゃ……このババが手塩にかけて育ててきたお前が……」
滝子は、祖母(実は乳母)と二人で影の頭領・翔の前に平伏し、翔から直々の命令を受ける。
翔「彼らの中に、怒りが生じたその時、額に梵字が浮かび上がる者がいるという。風間小太郎の三姉妹の中にもしもそのような者がおったとしたら……我らにとってどのような災いを起こすかも知れん」
滝子(宿命の相手と戦う為に生を受けた私……)
滝子はまず同じクラスの由真に戦いを挑み、得意の水中に由真を引き摺り込んで倒す。
もっとも、由真の梵字は額には出ないので、その命を奪うことまではしなかった。
熱を出して寝込む由真を見て、唯は直接滝子に問い質す。

唯「わち、あんたんこと好きじゃった、ほんとんごつ好きじゃった。なのに……、あんた、影ね?」
滝子「さあ……でも、もしそうだったら?」
唯「許せんわい」
滝子「よしなさい、あなたは私の戦うべき相手じゃないわ。戦いの炎、燃えるような憎しみがあなたにはないもの」
唯「やっちゃる、ぶっ倒しちゃるーっ!」
唯、去ろうとする滝子にいきなり突進するが、滝子は体をかわすと、唯に当身を食らわせて失神させる。

滝子「良い子だね、あんた、友達になれれば良かった……」
滝子は唯の体を抱き締めるようにして優しく地面に横たえて、その場を離れる。
その後、唯、滝子の得意な水中戦を想定し、いつもの忍術コーナーで参考書を開いてお勉強。
で、とりあえず、プールで息継ぎなしで泳ぐ訓練をする。

抜群の運動能力を誇る浅香唯さんは、勿論ここでもバリバリ泳いでいる。
……と言う訳で、しばしの目の保養タイムになります。

水中で水をかきながら、(何の為にこんなことをしちょるんじゃろう……何の為に?)と、訓練の……と言うより、忍びとしての宿命そのものに疑問符を投げかける唯であった。
とりあえずプールから上がろうとした唯の頭をモップで上から押さえつけたものがいる。
例によって依田先生であった。

唯「誰じゃ、何すんじゃ」
依田「潜る訓練をしてるんじゃありませんか」

唯「知らん、人の勝手じゃろ」
言い捨てて再び泳ごうとする唯を、依田がすかさずモップで引き寄せる。

依田「でもね、風間さん、そんなことで潜水時間と言うものは伸びませんよ」
唯「先生に何が分かるんじゃ」
依田「分かりますよ、ひとつ教授してあげましょう。ハイパーベンチレーション、分かります? 速く大きな呼吸を繰り返し体内の炭酸ガスレベルを強制的に下げる、ま、その結果は潜水時間が長くなります。やり過ぎると失神しますがね」
だが、その特訓をする前に、唯は結花と滝子が決闘しようとしていると聞かされ、その場所へ走る。
ススキの草原で激しくぶつかる結花と滝子。
実力はほぼ互角だったが、結花の額にも梵字が浮かばないのを見て、滝子は意外そうな顔になる。
そこへ唯の声が聞こえてきたので、滝子は一時退却する。

唯「姉ちゃん……」
結花「あいつ、あたしの敵う相手じゃない」
滝子、駄菓子屋の家に帰ってくると、後片付けをしていた祖母としばし見詰め合う。
祖母「おかえり」
滝子「ただいま」
唯、ヨーヨーを手に店の前に立っていたが、やがて踵を返して行こうとする。
それを「待ちなさい」と滝子の声が止める。

滝子「破れてるわ、スカーフ」
唯「……」
滝子は自分のスカーフを外し、破れた唯のスカーフの代わりに巻いてくれる。
滝子「今夜、学園のプールで会いましょう」
唯「なんでわちらと戦うんじゃ? 本当はあんた、イイ人じゃなかか? なんでじゃ?」
滝子「知らない。私たちの仕える影星がそうさせるだけ。さよなら……」
唯、滝子に貰ったスカーフを触りながら、(なんでそんなもんに仕えんにゃならんのじゃ。自分の生きたいように生きればいいじゃろう)と、心の中で訴えるのだった。
その夜、唯はやむなくプールへ行き、スカーフを鉢巻のように巻いた滝子とプールサイドで戦う。

なんとか闘志をかきたてて応じる唯だったが、祖母の肩を揉んでいる滝子の姿がフラッシュバックし、どうしても戦う気が起きない。
唯「やめじゃっ!」
滝子の手を振り払い、さっさと帰ろうとする。
だが、滝子は、チェーンの付いた手錠を互いの手首にはめ、あくまでこの場で決着を付けようとする。

滝子「あんたも私と同じ、戦う宿命なのさっ」
唯「わちは、わちは……」
ほとんど無抵抗の唯の首を、チェーンで絞める滝子。
唯、ポケットからヨーヨーを取り出して強く握り締める。

唯、首を絞められながら滝子の顔を振り向く。
と、滝子の目からも涙がこぼれていた……。

唯、ふっきれたようにヨーヨーで滝子を打ち、
唯「戦っちゃる、わちと戦ってお前に何が残るか、わちは見ちゃる!」
ここでやっと、唯の額に梵字が浮かび上がり、滝子の倒すべき相手が唯だと言うことが分かる。
滝子、得意の水中戦に持ち込もうと唯と抱き合うようにしてプールに飛び込む。

やたら深いプールで、つかみ合う唯と滝子。
唯、特訓(いつしたんだ?)の成果か、滝子と水中で互角に戦う。
結局、滝子の方の息が先に続かなくなったのか、唯はヨーヨーをプールサイドの結花に投げ渡し、ぐったりした滝子の体を引っ張りながらプールから出ようとする。
だが、唯が先にプールサイドから上がると、滝子はすかさずチェーンを外し、再びプール中央に戻る。

滝子「来ないで、あたしのこと良い人だって言ってくれたの、あんたが初めてだった。さよなら……」
唯「なんでじゃ、これからは友達じゃなかかー?」
唯の叫びも虚しく、忍びの掟に従い、滝子は水中に潜ると自爆して命を絶つ。
唯「田舎で喧嘩しちょるときは楽しかった。じゃけん、なんで、なんで、今はこんげつらか思いせにゃならんのじゃ! わちゃ戦っちゃる、戦いをなくす為に、わちらを戦わせるごっつう悪かもんと戦っちゃる!」 悲しみを怒りに変えて、激しく闘志を燃やす唯であった。