第9話「引越しする死体!?~幻の殺人事件」(2004年11月28日)

冒頭、BS-iの控え室のような刑事部屋で、何故か、零が木刀で素振りをしている。
そこへ高村が入ってきて、「遂に僕もゲットしたよ」とケータイ電話を誇らしげに見せ付ける。
零「えっ、今頃ケータイ電話? でも確か高村さん、ケータイ電話持ってましたよね?」
高村「この電話はタダのケータイ電話じゃない。このケータイ電話は刑事部長が自らお選びになった優秀な刑事にしか渡されない」
零「優秀な刑事?」
要するに、歴代ケータイ刑事が持っていたあのケータイ電話である。
だが、零は、そのケータイは間違えて高村に渡された可能性が高いと冷たく切って捨てる。
そこへ、いつもの「警視庁から入電中~」と事件発生の緊急連絡が入る。
今回は高村も持っているので、それが二重に聞こえる。
横浜市の山田なる男性が自宅で殺されたという漠然とした内容だった。

午後1時ジャスト、二人は山田邸へ到着するが、意外にもその山田と言う男性はピンピンしていた。
山田「何かの冗談ですか? 私、これから所用がありますので……」
二人は虚しく門前払いを食らう。
その直後、再び緊急連絡が入り、今度は港区赤坂の鈴木と言う女性が自宅で殺されたと言う似たような事件だった。
午後2時ジャスト、二人は女性のマンションを訪ねるが、果たして、今度も鈴木と言う女性は生きていた。
どうやら、二つとも偽りの通報だったらしい。

高村「これは僕に対する、いや警察に対する挑戦だ。ニセの通報を出した犯人、必ず捕まえてやる」
零「でも犯人はどうしてこんな意味のないことするんだろ」
高村「愉快犯だよ、彼にとっては何の意味もない」
などと話していると、本日三度目の入電発生。
今度も、鈴木と言う女性の家で殺人事件が起きたというものだった。二人とも、さすがにウンザリした顔になる。それでも二人は気を取り直し、手をつないでステップを踏みながら鈴木家へ向かうのだった。
三度目の正直、今度は確かに鈴木さんのマンションに他殺死体が転がっていた。
零「鈴木さん!」
思わず零が駆け寄るが、それは意外にも鈴木ではなくあの山田と言う男性の死体だった。
住人の鈴木さんの姿は見えない。

死体の写真をケータイで撮っている零。
高村「被害者は山田太郎、建設会社に勤めている……」
柴田「死因は刺殺、死亡推定時刻は正午12時」
高村「それはありえない、僕と銭形君は午後1時に被害者に会ってる」
零「私たちが話した山田さんは幽霊ってことになりますね」
ここで、今回4度目の入電。
今度は、山田邸で殺人事件が起きたというものだった。
二人がもう一度横浜まで出向くと、

果たして、今度は山田さんの家で鈴木さんが殺されているというややこしいことになっていた。
しかも、鑑識の柴田によれば、鈴木さんの死亡推定時刻は午後1時であり、またしても高村たちは「幽霊」と会ったことになってしまう。

零は、鈴木さんが裁判官だったことを知ると、PDAで検索し、道路拡張に伴う土地明け渡しの裁判に、鈴木さんと山田さんが関わっていることを突き止める。
二人は、土地の所有者である鬼瓦平蔵の自宅を訪ねる。

ちょうど鬼瓦は車で出先から戻ってきたところだった(伏線)。
鬼瓦を演じるのは岡本信人さん。
鬼瓦「彼らが道路拡張の為にこの土地を取り上げようとしていたことは御存知ですか」
零「あなたは裁判に負け、今週中にこの土地を出て行かなければならなかった」
鬼瓦「確かに……私も国からたくさんお金がいただけるんですから良い話でした。けれども、この土地を売ったら……私はお侍様の手によって彼らと同じように殺される!」
鬼瓦は謎めいた言葉を吐き、恐怖のあまり傘を手落とすのだった。

零「お侍様?」
二人は鬼瓦の家に上がらせて貰い、「お侍様」とやらについて聞かせて貰う。

鬼瓦「とある貧しいお侍様がこの土地に住んでいました。そのお侍様は副業として超高級楊枝を作っていました。けれどもその楊枝は全く売れませんでした。お金のなくなったお侍様はなんとこの土地で餓死してしまいました」
高村「武士は食わねど高楊枝ってほんとの話だったんだね」
零「それとは意味が違うと思いますけど……」
鬼瓦によると、7年前にも、この家に下宿していた二人の外国人が、今回の事件と似たような状況で殺されているらしい。
鬼瓦「警察は怨念に怯えて最初から捜査に及び腰でした。結局、未解決のままです……やはり今回の事件もお侍様の崇りだ。そうに違いない。いつか私も殺される……うわーっ」
鬼瓦、ひとりでブツブツ言っていたが、遂には狂ったように叫んで怯えるのだった。

警視庁に戻り、過去の調書をチェックする零。
零「事件は7年前に起きてますね。被害者はマチュ・ピチュさんにチチ・カカさん……ボリビアの石油会社に勤める会社員だったみたいです」
高村「ボリビアの石油会社の社員が何故、世田谷区に?」
零「あの場所に石油が埋蔵されてるって言う怪情報を聞きつけて極秘に掘ってたみたいです……きっとあの土地に何かがあるんですよ」
その夜、零は高村を誘って再び鬼瓦邸へ向かう。
床下に何があるのか実際に掘って確かめようと言うのだ。
だが、二人が鬼瓦の住まいに近付いた時、「助けてくれーっ」と鬼瓦の悲鳴が聞こえ、鬼瓦が自宅から転がり出てくる。腹部を刃物で斬られていた。
鬼瓦「お侍様に……斬られた」
次の瞬間、2階の部屋に明かりがつき、窓に刀を持った侍のような人物の影が大きく映る。
三人が急いで部屋に駆け込むが、部屋には誰もいなかった。
鬼瓦「このままではまた、誰かがお侍様の手によって殺される。……大地の神よ、怒りをお鎮め下されーっ」

畳にベタッと座り込んで大仰に喚く鬼瓦を、疑惑の目で見遣る零であった。
再び警視庁。
また零が木刀を振り回しながら部屋の中を往復している。
信じやすい高村は「オカルト系は僕らの専門外です」と早くも事件から手を引こうと資料を整理している。
零「お侍の亡霊なんていません。亡霊に切りつけられたというのは鬼瓦さんの狂言です」
高村「どうして断言できる?」
零「普通、人は、正面から刃物で斬りつけられた場合……」

言いながら、零、いきなりデスクの上に飛び上がり、木刀を鋭く振り下ろす。
高村は咄嗟に両手を前に出して防ごうとする。
零「……と、本能的に手で庇うんです」

零「鬼瓦さんは刀で斬りつけられたのに手で庇った傷、防御創がなかったんです」
高村の差し出した手を握りながら、ゆっくりと床に降りる零。
なんとなくドキッとするショットである。

零は、窓に映った人影についても、フィギュアとタイマー付きのプロジェクターを使って鬼瓦が作り出したものだと、実際にやって見せる。
零「でも、鈴木さんと山田さんがどうやって死んだのか、まだ謎は残っています……」
そこへいきなり謎のパイ売り、遠州理津(佐藤二朗)が現れる。
遠州「酸っぱいパインパイはいらんかい、あんたらうちのお得意さんを逮捕するつもりかい」
零「鬼瓦さんを御存知なんですか」
遠州「どえりゃー変わった人だけど、大事なお客さんだが……以前事業に失敗して奥さんの美代子さんに逃げられてからおかしなってまったなぁ……家を今の下宿に建て替えてその家賃収入で食いつないどるわ」
「下宿」って……どう見ても一軒家だったが。

零「それはいつ頃ですか」
遠州「14年前かねえ」
零「レレレ?」
遠州「あら、かわゆい」
高村「何か分かったの?」
零「あの土地の謎が解けましたよ!」

遠州「そうかね、お嬢ちゃんそれは良かったねー、じゃ、これ買って、頼むから、なんでもあるからね」
高村「今お腹一杯だからまた後にする……」
遠州「いっひっ、なんてこと……これ、全部徹夜で作ったのに!」
高村のつれない言葉に、素っ頓狂な叫び声を上げながらパイナップルの形をしたシールを剥がす遠州。
横で見ている零が、いや夏帆ちゃんが笑いを堪えているのがお分かり頂けるだろうか?

遠州「じゃあねえ、冷凍パインパイにしなさい、ね、これ長持ちするからね。何個買っても314円だよ」
めげずに、冷凍パインパイを取り出して零に手渡す遠州。
ここに来て、さすがの夏帆ちゃんも完全に笑ってしまう。高村の草刈さんも普通に笑っている。
佐藤二朗さんの完全勝利である(そう言う問題じゃない)。
それとはともかく、パイ売りがドライアイスで冷凍パイを保冷していることを知った零、殺人のトリックを見破る。

ひとりで新製品・パインパイ(らしきもの)を黙々と食べている鬼瓦。
お茶をすすってから、「……まずい」

そこへいきなり零が現れ、
「60×60×24×365×14は? さて、あなたが失った時間は何秒でしょう?」 鬼瓦が「6636で24で……」と虚ろな目で計算しているところをいつもの「お仕置」で懲らしめる。
零「山田さんと鈴木さんを殺したお侍の亡霊はあなたですね」
鬼瓦「ちょっと待って下さいよ、あんただって私と一緒に亡霊見たじゃないですか」
零は高村に説明したように、そのトリックを明かして見せる。
ライトの前に置いていたフィギュアは、あの騒ぎのどさくさ紛れに鬼瓦が素早く回収していたのだ。
続いて、鈴木さんと山田さんの不可解な殺人についても、明快に解き明かす零。
……と言っても、驚天動地のトリックが使われている訳ではなく、「ケータイ刑事」シリーズ恒例の「ドライアイスやカイロを使って温度を操作し、死亡推定時刻を誤魔化す」と言う、アレである。
零「あなたはドライアイスの敷き詰めたトランクに遺体を入れて運んだ。だから二人とも膝が曲がっていたんです。死後硬直によって」
つまり、
・午後1時 高村と零が山田さんに会う
→その直後、鬼瓦が山田さんを殺しトランクに入れる
・午後2時 高村と零が鈴木さんに会う
→その直後、鬼瓦が鈴木さんを殺しトランクに入れる
→代わりに、山田さんの死体を鈴木さんの家に遺棄
→最後に、鈴木さんの死体を山田さんの家に運ぶ
二人とも殺された後、ドライアイスで冷やされていたので死亡推定時刻が繰り上がったと言うことなのだ。
山田さん(午後1時殺害→死亡推定時刻は正午)
鈴木さん(午後2時殺害→死亡推定時刻は午後1時)
無論、ただ冷やしただけでは鑑識の目を誤魔化すのは無理だろうが、細かいことには目をつぶらないとこのシリーズは成り立たないのだ。
そしてあのニセの通報も、鬼瓦の仕業だった。
このややこしい細工によって、零と高村が既に死んでいた筈の被害者二人と会ったという、一見奇怪な状況が作り出されていた訳なのだ。
肝心の動機についてだが、14年前失踪した鬼瓦の妻・美代子は実は鬼瓦に殺されて家の地下に埋められていた。7年前の石油会社の社員を殺したのも、今回鈴木さんたちを殺したのも、その発覚を恐れてのことだったのだ。
辻褄は合ってるが、じゃあ7年前の石油が埋まっているという怪情報は誰が流したのだと言う謎が残る。

高村「捜査令状は取ってあります。掘り返せばはっきりしますよ」
鬼瓦「ごめんよ美代子……私の14年間は一体なんだったんでしょうか……こんなことならもっと早く自首すりゃ良かった!」
どうでもいいが、管理人、この二人のツーショットを見ると、

どうしても金田一映画「病院坂の首縊り家」(1979年)を思い出さずにはいられないのだった。
ラスト、床下から美代子と思われる女性の死体が発見され、零の推理を裏付ける。
そして勿論、高村に与えられた特別なケータイ電話も、単なる手違いによるものだったというオチがつくのだった。