第19話「グッバイ・フレンド」(1984年8月21日)
例によって、哲也と男谷がジョーズで会っている。

男谷「恭子さんが今何をしているか、お前に伝える必要はないだろう、ただ、何も言わないでこれに笙の曲を吹き込んでくれないか」
哲也「それが恭子さんの為になるのか?」
男谷「彼女は俺の力で守り抜くつもりだが、今の恭子さんには心の支えがいるんでな」
ヨシ坊、
「この人たち他に行くところないんだろうか?」と言うような顔で見ている。
男谷は、せめて恭子さんを励まそうと、哲也の笙の音色をラジカセに録音して彼女に聞かせようと考えているのだ。哲也、ちょうど今日、少年院の授業で笙を使うつもりなので、その時に録音しておこうと、快く承諾する。
再び少年院。
畑の向こう、少年院の建物からかなり離れた場所に、農具などを入れてある物置があり、クソ暑いと言うのに、モナリザたち白百合組の幹部たちが、その狭い部屋に集まって何事かよからぬことの相談をしていた。
と言うより、モナリザが、哲也のその笙を盗めと部下に命じているのだ。
モナリザは、その笙「朱雀」が、師匠の葉山から貰った大切な品だと言うことを知っていた。
それを使って、笙子の仮退院も阻もうと言う陰険な計略であった。
さすがに、そんな貴重品を院内で盗むと言うのはリスクが大きいと、部下たちは尻込みする。

モナリザはそれを見越してちゃんと報酬を用意していた。
それは、紙に包んだ数本の吸い差しのタバコだった。
部下「わーっ、タンベ!」
みんなスモーカーらしく、歓声を上げて覗き込む部下たち。おっさんみたいだな……。

こちらは音楽室。
八千代、バンと机を叩いて、「何ぃ、席を変われだとぉ?」と麻里をねめつける。
八千代「ベーッ、だ!」 目一杯可愛い舌を突き出す八千代がたまらん……。
八千代「お断り」
麻里「哲也さんの笙を近くで聞きたいんだよ」
八千代「てめーが東京流星会にいた頃の恨みを水に流せるかよ」
八千代、笙子たちの仲間ではあるのだが、部屋が違うので麻里とはそれほど仲が良くない。
麻里もすぐ切れて、たちまち取っ組み合いの喧嘩を始める二人。

が、笙子が止めに入り、麻里に口添えすると、
「弱いなぁ、姉貴には、勝手にしな!」と、あっさり折れる。
麻里、得意そうに鼻を鳴らすと、最前列の席につく。
一方、哲也、朱雀を手に持ちながら廊下を歩いていたが、

白昼堂々、白百合組のカッコをしたモナリザの部下に朱雀を毟り取られてしまう。
懸命に追いかけるが、部下たちは朱雀をどんどん放り投げてパスして、あっという間に哲也を撒いてしまう。
哲也もすぐそれがモナリザの仕業だと悟る。また、一部始終を見ていた善子が笙子へ伝えに来る。
とにかく、哲也、教室へ入ってくる。
麻里「あれ、先生、笙は?」
哲也「あ、いや、暑さのせいかな、持ってくるのを忘れてしまいました」
麻里「え~っ、そりゃないよ~」
麻里は今日こそ笙を思う存分聞けると期待していたので、思わず不満の声を上げる。

笙子(変だわ、哲也さんはモナリザが犯人だと知らない筈がない。どうして事実を言わないのかしら?)
笙子、斜め後ろのモナリザの顔を盗み見るが、モナリザはその名の通り、謎めいた微笑を浮かべているだけ。
哲也が、今日の授業は自習だと告げると、

数人の生徒たちが教壇横のレコードプレーヤーに殺到し、競うように自分の好きなレコードをかけようとするのだった。
無論、例によって、ここで流れるのはチェッカーズ。
八千代がさと子たちが音楽にあわせて無邪気に体を揺らせているのを尻目に、哲也はモナリザの席に行き、無言で語りかけるようにモナリザを見詰める。
哲也「長沢君、ちょっと……」

哲也、彼女を講堂へ連れて行き、いきなりその横っ面を引っ叩く。
で、例によって、その様子を笙子が入り口から覗いているのだった。こればっかり。

哲也「みんなの前で君の名前を出さなかったのは、僕の最後の情けだ。すぐに返したまへ!」
モナリザ「何が最後の情けだよ、お前は笙子の為を思って黙ってただけじゃないか。お前の大切な笙があたしに奪われたと知れば、笙子は必ず取り返そうとする。そして笙子があたしと戦えば、折角の仮退院のチャンスが消える……」
モナリザは笙子の顔を見ると、さっさと立ち去る。

モナリザを追いかけて笙を取り戻そうとする笙子を哲也が引き止める。
哲也「あいつの罠に嵌まるだけです! 忘れたんですか、仮退院の日がもうすぐだってことを?」
笙子「でも、あの笙は、哲也さんが
唇から血が出るほど稽古に使われたかけがえのない……」
哲也「いや、そこまではやってないけど……」(註・嘘です)
モナリザほどじゃないが、笙子もなかなか鋭い言語感覚の持ち主なのである。他に「目から血が出るほど苦労する」とか言う台詞もあったね。

笙子「どんなことがあっても(取り返します)」
哲也「バカッ!」 血気にはやる笙子を、哲也が声を荒げて止める。
なんか、哲也、18話で朝男とバトルしてから、キャラ変わってない?
哲也「君は僕が悔しくないとでも思ってるんですか。いっそ警察に訴えようかと思ったくらいです。でもそうしなかったのは、もう妹でもないあいつの為じゃないんだ。君をつまらないゴタゴタに巻き込みたくなかったんです。僕が耐えているのに、どうして君が耐えられないんですかっ」

哲也が、そこまで自分のことを思ってくれていたのかと、ぼろぼろと感動の涙を流す笙子。

笙子「哲也さん、すみませんでした」
哲也「いいですか、笙子さん、笙など物に過ぎない。たかが僕の笙ひとつのために無茶はしないと約束してください!」
笙子、力強く頷く。
……が、言うまでもないことだが、このドラマにおける「約束」とは、破られるために存在しているのだ。
モナリザは、またあの小屋に集まって、部下が首尾よく奪った「朱雀」を満足げにためつすがめつしていた。
部下たちは、早速報酬のタバコを味わおうとするが、マッチもライターもないので往生する。

モナリザ「安心しな、代わりに素晴らしい道具があるから。……これはカリウムさ、こないだ理科の実験の時、苦労して手に入れたんだ」
部下「へー、こんなもので火が付くの」
モナリザ「危ない! カリウムは凄く敏感なんだ、水や空気に触れると発火するから、石油の中に保管してあったんだよ」
雑な持ち方をする部下に、モナリザが慌てて注意する。

論より証拠、モナリザは慎重な手付きで長い箸でカリウムをひとつぶ掴むと、バケツの中に置く。そして箸の先でちょっと突付くと、たちまちボンッと爆発するに発火する。
燃える箸の先にタバコを吸い付けて美味そうに吸う部下たち。
カリウムは、あくまでこんな用途の為にモナリザが盗んだものだが、これが後に大きな悲劇の原因となってしまう。

裁縫の授業中、笙子が裁縫箱を開けると、いつの間にか手紙が入っていた。
それは、もナリザからのタイマンの申込状だった。
ほんと、タイマンが好きやねえ。

笙子の隣に座っていた麻里、二度見をしつつ、その文面を読んでしまう。

笙子はその指定された時間を待たず、すぐモナリザに会いに行く。
笙子「タイマンを受けるとはまだ言っちゃいないよ」
モナリザ「なにぃ、また逃げるってのかい?」
笙子「あんたに思い出して欲しいだけさ、哲也さんに聞いたことがあるんだ、あんたたちが仲の良い兄弟だった頃のこと……」
笙子に言われて、モナリザはすぐに回想モードに突入する。
庭に置かれた椅子に座り、笙を吹いている哲也。

まだ自分のややこしい出生の秘密を知る前のおさげがみのモナリザが、哲也にお茶を運んで来て、ついでに笙「朱雀」を嬉しそうに磨いている。
モナリザも、昔は「朱雀」を哲也と同じくらい大事にしていたのだ。

笙子、情に訴えてモナリザに「朱雀」を返してくれるよう嘆願し、果ては土下座までして見せるが、モナリザはその体を蹴り上げ、顔に靴を押し付けてぐりぐりする。
しかし、笙子も、そんなこと言われたからってモナリザが「はい、分かりました。返します」とでも応じると本気で思っていたのだろうか?

善子「いい加減にしなっ!」
そこへ突如現れたのが、藍色の頭巾を巻いた麻里たち笙子組の面々であった。
エリカ「なんだ、てめえら」
麻里「白百合組を散らす、野嵐組!」
部下「いつそんなのが出来たんだよ?」
八千代「たった今さ!
ドタマかち割って掘り返してやろうかい?」
八千代らしい強烈なタンカ。
モナリザ「バカを相手に怪我をしてもつまらない、笙子、来なかったら哲也の笙は叩き壊してやる」
自分たちもよくバカな格好をしてるモナリザ、笙子に念を押して大人しく引き下がる。
トキ子「この際、タイマン受けちゃいなよ」
ミドリ「無責任なこと言わないでよ、笙子の仮退院がパーになっちゃうんだから」
弥生「だーけーどー、哲也さんの笙はどうなんのよー」
笙子、がやがやと話し合う仲間たちから離れ、ひとり、「哲也との約束を守ってタイマンを避けるべきか」「タイマンを受けて笙を取り戻すべきか」思い悩んでいた。

ここで、ほぼ同時に麻里と八千代が何か閃いた顔になって、笙子のところに飛んでくる。
麻里「いいこと思いついたよ、笙を捜せばいいじゃないか……モナリザはどっかに隠してるに違いないよ」

八千代「ちょっとー、そいつはあたいが先に考え付いたんだ、あんたあたいの頭の中覗いて知恵を盗みやがったな!」
麻里「冗談は顔だけにしな、てめえの貧弱な脳ミソに湧くのは知恵どころか、ボウフラぐらいのもんじゃねーかよ!」
八千代「こんにゃろーっ、くたばれ、てめえなんか死んじまえ!」 さすがに八千代も頭に来て、すぐ後に現実のものとなる暴言を浴びせる。
で、大きなスコップを振り回して喧嘩を始める元気な二人だった。
その3へ続く。