第20話「ネバー・ドロップ」(1984年8月28日)
笙子や朝男、そしてモナリザもそれなりに新しい世界へ向かいつつある頃、我らが不幸大好き恭子さんひとり、自分が殺したと思い込んでいる子供の外道両親への償いの為、相変わらず「七色テープ」と言うぼったくりバーで働いていた。

と言っても、さすがにぼったくりバーだと噂が広まったのか、客足も遠のき、暇を持て余してガッコガッコ酒を呷っているだけであったが。
恭子さん、ドラマが始まってから今までほぼ何の成長もしていないキャラだが、少なくとも、着実にアルコールに強くなっていることは間違いない。

カウンターで売り上げを数えていた外道夫婦が溜息まじりにぼやいている。
母親「こんなはした金じゃどうにもならないね。ねえ、あんた、今日からコイツに客取らせたらどうなのさ」
父親「その方がてっとりばやいなぁ」
世にも恐ろしいことを言い出す二人。
さすがの恭子さんも身を汚すことだけは
事務所NGなので、体をわななかせて拒絶する。
恭子「それだけは許して下さい、他のことなら、どんなことでもします。客を取るなんて……そんなこと私にはできません!」
母親は、「子供を殺された私の苦しみに比べたら……」と、使い古したマジックワードを持ち出して、恭子さんをいぢめる。

母親「私は毎晩、子供の夢を見てうなされてるんだ。ちっくしょう~、一緒恨んでやる!」
あることないこと織り交ぜて恭子さんを罵倒しながら、亭主に覚醒剤の注射を打って貰う外道女房。
しかも、奥のブースにはまだ客(酒井)もいると言うのに。
さすがにそんな奴おらへんやろ 父親は、続けて恭子さんの華奢な腕を掴み、「あんたもこれを打って客を取りなよ」と悪魔のように笑いかける。
母親「はっははははっ」
恭子「や、やめて下さい!」
母親「いいじゃない、この女も覚醒剤の虜にしてやりなよ」
店の前に立っていた男谷、騒ぎを聞きつけて店に飛び込んでくる。
それにしても、弁護士の役なのに、弁護士としての仕事を全くしないキャラクターと言うのも珍しいよね。
男谷、父親につかみかかるが、逆にぶん殴られる。

床に突っ伏した男谷、
「許さん! 許さんぞ!」と、桃太郎侍のような形相で反撃に出る。
本気を出した男谷は、柔道の心得があるらしく、父親を豪快に投げ飛ばす。
ドラマが始まって以来、初めて男谷が何かの役に立った記念すべきシーンである。

男谷「恭子さん、やめて下さい、あなたは十分に償ったじゃありませんか」
恭子「男谷さん、私のことはほっといて下さい」
男谷「あなたは、こんな泥沼で生きる人間じゃない筈だ」
恭子「泥沼で良いんです、私が泥沼で生きることで、この方たちの心が少しでも収まるなら私はそれでもいいんです! どうせ、何もかもなくした女なんですから……」
「泥沼で生きるんですぅ!」とか言いながら、売春だけは絶対にどうしてもやろうとしない恭子さんであった。
しかし、男谷、目の前で彼らが覚醒剤使ってるところを見てるんだから、とっとと警察に通報すべきだろう。なんで、しないのだ? (答え・監督に怒られるから)

とにかく、恭子さんを連れて行こうとする男谷(何度目だ)だったが、母親が恭子さんにむしゃぶりついて離そうとしない。
なんか、男谷が二人の女に取り合いされているようにも見える。
男谷「やめたまへ、君たちは恭子さんの弱みにつけこんで甘い汁を吸おうとしているだけだ」
母親「子供を返せ、私の子供を返せ!」
男谷「いい加減にしないかっ」
男谷、母親を突き飛ばす。
このまま男谷が強引に恭子さんを連れ出していたら、この件についてはこれで済んでいたかもしれないのだが、大映ドラマの脚本家はそれほど甘くはないのだった。

奥でひとりで飲んでいた男がつと立ち上がり、二人の前に立つ。
内ポケットから札束を取り出し、父親に放り投げてから、
酒井「黒岩さん(お、そんな名前だったのか)、今日から恭子さんは私が預りますよ。いいですね」
黒岩「そりゃ酒井さんがそう仰るなら……」
母親「冗談じゃないよ、その女は私のモンなんだ、誰にも渡すもんか」
酒井「やめて下さいよ奥さん、この人はね、あなたたちのような世界に生きる人じゃないんです」
酒井に睨まれて、母親は黙り込む。
実は、彼らは酒井から覚醒剤を買っているので、最終的に、酒井には逆らえないのだ。
酒井は恭子さんに彼の会社で働いて欲しいと申し出る。
男谷「あなたは、どなたですか」
酒井「私はロイヤル貿易の酒井と言うものです」
酒井は名刺を出して男谷に渡す。
酒井「男谷さんは弁護士だそうですね」
男谷「え、ええ、そうです」
酒井「私はアクセサリー類を主として扱ってるんですが、外国との取引には色々面倒なことが多くて困ってるんですよ、今度法律のことで色々相談させて下さい。……恭子さん、私はここでずっとあなたを見てきました。
あなたはこんなところで生きる人じゃない。私はあなたの力になりたいんです。さ、行きましょう」

ほぼ初対面の、素性も分からない人間に言われて、普通の人間なら躊躇するところだが、男谷に対してはイヤに頑なだった恭子さんは、唯々諾々と酒井に付いて行こうとするのである。
恭子さん、なんだかんだ言ってお世辞に弱いのかも。「あなたはこんなところで生きる人じゃない」と言う台詞が決め手になったのかもしれない。
そーいや、男谷って、恭子さんを好きな割に女の子を喜ばせるようなことは言わないタイプだからね。
男谷「ちょっと待って下さい」
突然現れた男に、横から大切な人を持っていかれそうになって、男谷も泡を食う。
恭子「男谷さん、私のことは忘れて下さい」
恭子さんはそれだけ言って、酒井と一緒に店を出て行く。
……さすがに(大映ドラマとしても)不自然だよなぁ。それに、こんなぼったくりバーの常連客ということは、この酒井という男も、黒岩たちと五十歩百歩だと分かりそうなもんだけどね。
あるいは、だからこそ、恭子さんは付いていく気になったのかもしれない。この男についていけばもっともっと不幸になれると、彼女の持つ「不幸センサー」がビンビンに反応していたと言うことは考えられる。

恭子さんを乗せた酒井の車を虚しく見送った男谷、
(恭子さんは哲也を待ってるんだ。もう哲也以外に恭子さんを救える人間はいない……
俺ではダメだ!)
いかにも脇役らしい、分をわきまえたことを考えていた。
勿論、この後、恭子さんは更なる不幸のドツボにはまり込んで、それが終盤のクライマックスの火種となるのだ。個人的にはこの一連のエピソードはあまり好きではなく、要らなかったと思うけどね。

さて、愛育では、演芸会と言うイベントを控えて、各自が出し物の稽古に励んでいた。
八千代と善子は、大磯に剣技を習っていた。
八千代「大磯先生ってむっつりしてる割にはカッコイイこと知ってるじゃん」
大磯「こら、先生をからかうな」
しかし、八千代と善子はクラスも別なのに、二人だけでやると言うのも変なんだけどね。
一方、遂に笙子の仮退院の日が決まる。その演芸会の翌日だった。

園長「みんなには演芸会の終わった夜に伝えるつもりだ」

予期していたことだが、さすがに感極まって咄嗟には言葉が出ない笙子。
別に、「少年院編」が終わっても、視聴率を維持できるかしら? と、スタッフ目線で不安がっている訳ではない。ちなみに、スタッフもその辺は心得ていて、ちゃんと「恭子さん不幸のフルコース編」が用意されているので心配は要らない。
笙子はそのまま部屋を飛び出し、追いかけてきた哲也に「私、私、怖い」と抱き付くのだった。

笙子「哲也さん、私本当に退院しても良いの? 麻里は死んだわ、葉子さんは少年刑務所へ行ったわ、それなのに、私だけ……」
哲也「笙子さん、麻里さんは君の心の中に生きてるよ。葉子とは新しい出会いがある筈だ」
自分だけ外の世界へ出ることに、後ろめたさに似た感情を抱いて戸惑いを隠せない笙子だったが、哲也の
全く心のこもっていない言葉に、明るく前を向いて歩き出す決心をするのだった。

さて、ロイヤル貿易のオフィスのあるビルの前に立ち、恭子さんのいる窓を見上げている男谷弁護士。
さてはコイツ、働く気ねえな。 いかがわしい商売ではあるが、ちゃんと会社を経営している酒井の方が時折えらく見えてしまう。

恭子さんは恭子さんで、オフィスにいても働く気がないようで、ブラインド越しに外(男谷)を見ていた。
酒井「僕の会社はこんなに小さいけど、いつか一流企業にしてやろうと思ってるんですよ。その為にはどうしても恭子さんの協力が必要なんですよ」
恭子「私なんてそんな力は……」
酒井は、腐っても(註・腐ってないです)上流階級の令嬢である恭子さんの人脈を利用し、富裕層の顧客を獲得したいのだとあけすけに希望を述べる。
酒井「お願いできますね」
恭子「ええ、それくらいのことでしたら」
まだ酒井の本性には全く気付いていない恭子、あっさり応諾する。
酒井「僕はあなたを大切にします。あなたの為なら、和美(母親の名前)や黒岩たちにやったお金なんかちっとも惜しくない。あんな奴らのことは忘れなさい。慰謝料は慰謝料で払えばいいんだ。私があなたを守ってあげます。ここで存分に働いてください」
恭子「はい……」
歯の浮くような酒井の台詞を真に受けて頷く恭子さん。

そんな彼らのやりとりを他の社員たちが見て、ニヤニヤ笑っていることには全く気付かない……。

男谷(恭子さん、その男は危険だ。その男を信用しないで下さい!)
さて、早くも演芸会の日が訪れる。

エリカたち元白百合組は、聖歌隊のような衣装で、「ちっちゃな頃からワルガキで~」と、当時の少女たちから絶大な支持を得ていたチェッカーズの曲を合唱する。

それまでバリバリのコワモテだった白百合組、特にエリカなどがこんな格好でこんな歌を歌っている姿は、かなりハイグレードな羞恥プレーに見えなくもない。
そう言えば、昔、ドリフの番組でこんなのやってたなぁ。
ちなみに、彼らの持っている歌詞のパンフレットの表紙には「白百合コーラス部」と刷ってある。
白百合組は、何とコーラス部に生まれ変わったらしいのだ。

続いて、紋付袴にたすきがけの八千代と善子が、剣舞を披露する。
できればもっと色んな芸を見たかったが、それほど時間を取るわけにも行かず、

3組の「どじょうすくい」(安来節)がラストの演目となる。
ほっぺたを真っ赤に塗った笙子がめちゃくちゃ可愛いのである。
ただ、とても残念なことに、笙子以外のメンバーの姿を大きく映してくれないのである。
弥生の「どじょうすくい」なんて、悶絶するほど可愛いに決まってるじゃないか!
無論、会場には教官たちの姿もあった。
(その割に父兄の姿が全然ないのは手落ちだけど)
ロハでこんなものが見られてご満悦の哲也さん。 しかし、上には上がいる。
タダで見れる上に、お金(給料)まで貰えるのが園長なのであった! 無心に踊る笙子であったが、やがてその胸中には、少年院に来てからこれまでの様々な出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
……
ところで、走馬灯って何?
その4へ続く。