第29話「小さな殺人者 唯暁に死す!?」(1987年7月16日)
冒頭から、若く美しい女性が立体駐車場の上から転落死して、その死体にアキラと言うまだ小さい子供が取り縋ると言うショッキングなシーン。
と、母親の額に、唯とまったく同じ梵字が浮かび上がり、さらに、建物の陰で何者かが黒いヨーヨーを操っている音がする。
梵字を目に焼き付け、ヨーヨーのチェーンが風を切る音を鼓膜に叩き込まれたアキラは、不意に両手で頭を押さえて苦しみだす。

いまいち分かりにくいのだが、それは「五方加持の術」と言う、影の秘術なのだった。
翔「五方加持の術、のう」
忍び「忍びを抜けんとした草の母を利用し、その子に我が秘術を掛けましてございます」
アキラの姿をガラス越しに見ながら、翔、オトヒ、ミヨズ、そして今回の作戦を仕切る影の忍びが話している。初っ端からどういう状況か分かりにくい、いかにも我妻正義氏らしいシナリオである。
OPタイトル後、

結花「二、三日中には帰ってこれると思うけど、二人で喧嘩しないで仲良くやりなさいね」
唯「うん……でも結花姉ちゃん、わちが代わってやってもいいよ。風魔の里に影を抜け出した草の人ば連れて行くんじゃろ」
結花「だーめ、唯ばっかり学校休んでたら留年しちゃうでしょ」
結花が、唯が言ったような任務を帯び、しばらく学校を休んで風魔の里へ出立するのを二人の妹が見送っているのだ。
学校より任務のほうが好きな唯、そう申し出るがピシャッと姉に却下される。
由真「出席日数じゃなくて、頭のほうで留年させられちまうよ、こいつなら」
唯「なんてやー、そりゃ由真姉ちゃんのほうじゃろー」
結花「やめなさい! 喧嘩しないようにって言ったばかりでしょ。あんたたち、大人しくしてるのよ、良いわね?」
結花、言ったそばから始まる喧嘩を止めると、最後にもう一度念を押してひと睨みしてから出掛けて行く。

由真「あーあー、これからはお前のまずい料理食わなきゃなんねえのか」
唯「なんか、由真姉ちゃんなんか玉子焼きしか作れん癖してからにぃ、別に食べんでも良いよ」
二人は険悪なムードのまま、結花が出掛ける前に用意してくれた豪華な朝食の席に着く。

由真「うっせえなぁ」
唯「……テレビ欄しか読めんくせに」
由真、新聞を手にしてそれで唯との間に壁を作り、さらに唯の指摘にあてつけるように普段は読まない社会面を開くが、とある記事に目を留めるや、急に真剣な顔付きになる。
それは、他でもない、冒頭の転落死事件であった。それだけならどうと言うことはなかったが、「額に梵字のある……」と言う見過ごしに出来ない見出しが、由真の瞳を貫いたのだ。
唯「どうしたとー? はっはー、漢字が読めんちゃろ。わちが読んでやろうか」
由真「……」
由真、無言で新聞を畳むと、黙々と食事を続ける。

登校した由真は、早速依田先生こと般若にそのことを相談する。
由真「どういうことだよ、一体」
依田「分かっているのは、その女が影に追われていた草の一人だったということだ」
由真「どうして梵字なんか」
依田「由真、唯の身に何か起こるかも知れん、心しろ」
般若もそれ以上のことは分からず、とりあえず由真に忠告する。
放課後、唯が一人で帰宅すると、あのアキラが玄関前に腰掛けていた。
唯「あんた、誰ね? どんげかしたと? わちに何か用でもあると?」
アキラ「……」
アキラは唯の問い掛けには何も答えず、ひたすら縋るような眼差しを向けるのみ。

で、夕方には、唯がアキラを風呂に入らせ、夕食までご馳走してやろうとしている……と言う、およそ現実にはありそうもない展開になっていた。
由真「なんだよ、あのガキは?」
唯「わちにもよう分からんのじゃ」
由真「お前ねー、どこの誰ともわかんないもん家に入れんじゃねーよ」
唯「薄情やねえ、由真姉ちゃんは……」
と、アキラがバスタオルで髪を拭きながら浴室から出て来て、「ガキじゃないぜ、アキラだぜ」と、エラソーに訂正する。

唯「さ、食べよう、おなか空いちょるんじゃろ」
アキラ「うん」
由真「……」
アキラ、さも当然のように見ず知らずの人が自分の為に作ってくれたご飯の前に座る。

由真「てめえなぁ、飯のおかずにおはぎなんか作るんじゃねえよ」
唯「そりゃ、ハンバーグじゃ!」

由真「ハンバーグぅ? これが?」
箸を刺して唯特製のずんぐりしたハンバーグを持ち上げて、感に堪えたようにしげしげと見詰める由真。
「スケバン刑事3」でも、屈指の爆笑シーンである。
アキラ「美味しいよ、これ、唯姉ちゃん、料理上手だね」
唯「アキラ君は舌が肥えちょるわい」

唯、ほれ見ろとばかりに由真をひと睨みすると、自分も席についてハンバーグに箸をつける。
だが、それを口にした途端、我ながらあまりの不味さに顔をしかめてしまう唯だった。
アキラ、急に食べるのをやめて箸を置く。
唯「どうしたと?」
アキラ「ここに来れば、お母さんのおでこと同じ字書いた人がいるからって……」
唯「それでお母さんは?」
アキラ「死んじゃった」
唯「そうか……」
アキラ「草の仲間だった人が教えてくれたんだ。その人がいればきっと助けてくれるって……いないね」
唯「あるよ、わちの額に」
アキラ「……」
唯「でも、普通は出らんとよ」
アキラ「嘘つかなくても良いよ」
由真、いくら子供でもそうたやすく信用してべらべら喋るなと唯に注意するが、唯が聞き入れる筈もない。

その夜、唯はアキラを家に泊めてやり、自分の部屋に布団を並べて一緒に寝てやる。
寝物語に、アキラは母親と日本中を旅していたこと、転校ばかりで友達もいなかったこと、などを語る。
おそらく、アキラの母親は影を抜けようとしている草として、追っ手から逃れる為に常に居所を転々として、気の休まる暇もない生活を送っていたのだろう。
同じく幼少から普通の家庭の温かさを知らずに生きてきた唯、会って間もないアキラに深い愛着を覚える。

アキラもすっかり懐いて、いつも肌身離さず持っているロボットの玩具の中から真鍮製の聖母子像のようなメダルを取り出し、唯に預けるのだった。
だが、唯がそれを受け取った途端、窓ガラスを突き破って発炎筒が投げ込まれ、ついで影の忍びたちが侵入して襲い掛かってくる。
由真もすぐ起きてきて、二人で影たちを撃退する。
その最中、唯がヨーヨーを使うが、そのチェーンのしなる音を耳にした途端、アキラが別人のように険しい表情になり、あの玩具を構え、唯をじっと見詰めていることに、由真だけが気付いていた。

忍び「我が手のものが果てしなく追い詰め、その果てに風間唯が額に梵字を顕わし、怒りのヨーヨーを使いしとき、我が術は爆発する。そして風間唯は死に、すべては終わりましょう」
翔「最後まで気を抜いてならぬ、よいな」
自信たっぷりに自分の秘術の成就を予言する影の忍びであったが、過去に何度も部下の失敗を見ている翔は、浮かれることなく釘を差す。

クマ「なんですか、このガキ」
唯「弟じゃ」
ゴロウ「弟? そうなんすかー」
由真「私の弟じゃねえよ」
さて、翌朝、唯は由真の反対を押し切って、アキラと一緒に登校する。

なんだかんだで気のいいクマたちは、休み時間、校舎の中庭でアキラとサッカーをして遊んでやり、その様子を唯が屋上から見下ろしていると、依田が近付いてきて話し掛ける。
依田「唯、分かっていると思うが、忍びには子供の手だれもいる。母親の額になぜ梵字が書かれていたか、その謎が解けぬ今、あの子に心を許すのは危険だ」
唯「なんでも疑えばええっちゅうもんじゃないじゃろう!」
依田「じゃあ聞こう、影は何故母親を殺し、あの子だけ助けたのだ?」
唯「草の誰かがあの子を逃がしたんじゃ、わちがきっと助けてくれる、そう言って!」
依田「罠かも知れん」
唯「……」

唯「アキラは、お母さんを影に殺されちょるんじゃ。ゆうべだって、影はアキラの命ばねらっちょった。わちらが信じて助けてやらんで、誰が助けてやるんじゃ!」
依田「草としての宿命を背負ったものに、感傷は通じぬ」
唯「もういい、わちひとりでもアキラの命ば守っちゃる!」
あくまで忍びとしての思考を第一にする依田の言葉にうんざりしたように、唯は苛立たしそうに叫んでその場を立ち去る。
入れ替わりにやってきた由真が、昨夜、影たちが使った特殊な形をした手裏剣を依田に見せる。

CM後、アキラを連れて近くの公園へ行き、一緒に池を眺めている唯。

だが、柵の反対側に立っているカップルの目付きが、どうも気になる。
しかも、周りにいる人々全てが敵に見えてきて、

唯、ポケットの中でヨーヨーを握り締めてそこから離れようとするが、果たして、カップルをはじめ、屋台の兄ちゃんや、清掃員などが、一斉に本性を剥き出しにして襲い掛かってくる。

と、それとなくガードしていたのだろう、由真がすぐ応援に駆けつける。
由真「依田の奴、しぶいよ、アキラを風魔の里に連れてってやれってよ」
唯「般若が?」
由真「そのほうがアキラの安全のためにも良いって、ここは私に任せて早く行きな」
唯「分かった」
由真「駅で依田が待ってる」
唯「ありがとう、由真姉ちゃん」
普段は喧嘩ばかりでも、いざ危急の時には一致団結してことにあたり、根っこの部分で強い信頼関係で結ばれていることを示す二人だった。
だが、影たちを蹴散らしてから由真が駅に行くと、依田が苛々した様子で唯たちの来るのを待っていた。
依田「一緒じゃなかったのか?」
由真「一体、何処行っちまったんだよー」
依田「いかん、探せ、由真、女の梵字の謎が解けた」
そう鋭く叫ぶと、依田は先に立って歩き出す。

依田「あの組み手投げはモモソと呼ばれる影の配下が使う。その忍び、五方加持の術を使う」
由真「なんだよ、それ」
依田「人に激しいショックを与え、その深層心理の中に、形や音のキーワードを記憶させる。キーワードを再び目にし、耳にしたとき、無意識のうちに教え込まれたことをする。影はアキラに母の死と言う恐ろしいショックを与え、梵字を記憶させたのだ。そして恐らく、唯にしか出せない音も……」
由真「ヨーヨー!」
依田「そうだ、その二つが同時に唯に現れたとき、恐ろしいことが起こる。探せ、唯を!」
その唯は、公園を出た後もひっきりなしに刺客に襲撃され、とても駅に行く余裕などなく、アキラを守ってひたすら逃げ続けていた。
夜になり、唯は港に逃げ込んで休んでいたが、すぐに影に見付かって攻撃される。
その後、精根尽き果てた二人は、港の公園で動けなくなってしまう。

アキラ「もういいんだ、僕を置いて逃げて」
唯「最後まで諦めたらいかん、アキラ君のお母さんだって、きっとそう言った筈じゃ」
アキラ「でも、唯姉ちゃんまでお母さんみたいに死んじゃいやだ」
唯、健気なことを言うアキラの頭をしっかりと抱き寄せ、「わちは大丈夫じゃ」

唯「わちの怒りのヨーヨー、受けてみい!」
依田「待て、唯!」
唯、アキラを背中に負ぶったまま、ヨーヨーを構えるが、遠くから依田の声が飛んでくる。
由真も駆けつけ、唯の代わりに影たちと戦う。

依田「影の狙いは、唯に梵字を浮かび上がらせ、ヨーヨーを使わせることと見た! 何が起こるやも知れん、使ってはならん、よいな?」
唯「じゃけん……」
依田も、唯に強く命じてから、しなる杖を振り回して戦いに身を投じる。

アキラ「唯姉ちゃんの背中、お母さんみたいだ」
唯「お母さんを殺し、こんないたいけな子を利用するとは、影め、許さん!」
だが、ここで遂に唯が怒りを爆発させ、依田の命令に背いて必殺のヨーヨーを繰り出すと同時に、額に梵字を浮かび上がらせる。
目的は果たしたので、影たちは退却を始め、それを依田と由真が追いかける。

唯「終わった……」
だが、終わりではなかった。
ヨーヨーの風切り音を耳にしたアキラ、ついで唯の背中から降りて、真正面からその顔を見上げて、夜目にもはっきりと見える額の梵字を目にしてしまう。
二つの条件がそろった瞬間、アキラはあらかじめインプットされていた行動に出る。それは、いつもぶら下げていたロボットの玩具を唯に向けて……
依田「唯、鉄鉢だ!」

が、寸前で気付いた依田の叫びに、唯は急いで愛用の鉄鉢を額に装着する。

ほぼ同時に銃声が響き、玩具が火を吹いて、鉄鉢の布の部分を撃ち抜く。
依田「唯……」
由真「唯ーっ!」
そう、影はあの玩具の中に小型の銃を仕込んでおき、それを梵字に向かって撃つよう、アキラに術を掛けていたのだ。
唯、つらそうな、悲しそうな顔になってその場に膝を突く。
忍び「終わったな、風魔鬼組・般若、我が術の勝ちだ」
勝利を確信したモモソ(字が分からん)の忍びが姿を見せ、高らかに宣言するが、額を撃ち抜かれたはずの唯は再び立ち上がる。
唯「わちは死なん、まだ死ねん、こんげな怒りを覚えたことはなか……アキラのためにも、絶対にお前は許さん!」 忍び「ぐわっ」
唯の怒りが乗り移ったヨーヨーが何度も何度も卑劣な忍びの体に命中し、忍びは立ったまま気絶する。

なおもヨーヨーを叩き込もうとする唯の腕を、依田が掴む。
唯「放せ、放せーっ!」
依田「もういい」
忍びはそのまま階段を転がり落ちて動かなくなる。
アキラ「ごめんよ、唯姉ちゃん」
術が解けて正気に返ったアキラが、両膝を地面に突いたまま唯に謝る。

唯「いいんじゃよ、アキラのお母さんが守ってくれたんじゃ」
唯はしゃがんでアキラの目線に合わせると、鉄鉢を外して、その中に隠していたあのメダルを取り出して種明かしをする。
そう、アキラから貰ったメダルが、偶然にも弾を防ぎ、唯の命を救ったのだった。
ま、割と昔からよくあるパターンである。
こうしてかなりまだるっこしい方法で唯を抹殺しようとした影の目論見は破れ、孤児となったアキラは風魔の里へ送られることとなる。

少し寂しそうな顔で家に戻ってきた唯だったが、もう結花が帰っていると知って、急に明るい顔になって玄関に駆け込む。
ところが、結花は仏壇の前に座り、一枚の写真を深刻な顔で見詰めていた。
それは、公園で遊んでいる、若い母親と二人の幼い子供を映した、一見何の変哲もない写真だった。
結花「父さん、唯は……」

唯「ただいまー、結花姉ちゃん、帰っちょったと?」
結花「……」
由真「どうしたの?」
一体、その写真は? そして結花の意味ありげなつぶやきが何を意味するのか、ただならぬ展開を予感させる雰囲気のまま、30話へ続くのだった。
……以上、戦闘シーンが多く、ついでに全体的に湿っぽいストーリーで、正直、あんまり面白くなかった。
だいたい、唯を殺したいのなら、そんな七面倒くさいことをせずとも、アキラの荷物の中に時限爆弾でも仕掛けておいて、夕食を取っている時にでも起爆させれば済むことではなかったのか?
考えたら、第1話で家ごと父・小太郎を爆死させた影が、それ以降、同様の手口で風間三姉妹を殺そうとしないのも、変といえば変である。