第26話「タイムトンネルの影武者たち」(1980年9月24日)
爽やかに晴れ渡る初秋の東京上空を、猛とエミがシルバーガルに乗ってパトロールしている。

後部座席のエミが、緊張感のかけらもなく、まるでパパの運転する車で家族旅行をしている小学生みたいなあどけない笑顔を浮かべているのが、猛烈に可愛いのである!
ま、本部との通信も操縦も、全部猛がやってくれるのだから、気分的には似たようなものだったろう。
実際、劇中でも「ピクニックでも行きたい気分だわ」と、澄み切った空を眺めて暢気につぶやくエミであった。

と、彼らの前方の空間に、なにやら黒くてわさわさした、得体の知れないものが飛散しているのが見えたかと思うと、それが消えた後の空間に、不規則な円形の形をした裂け目のようなものが発生する。
猛たちが茫然と見詰めているうちに、シルバーガルの周囲の空間が歪んできて、どんどんその裂け目に機体が吸い寄せられていく。
シルバーガルの視界映像をモニターしていた本部もすぐ異変に気付き、モニターの前にむさい野郎たちが押し寄せてくる。
ハラダ「キャップ、大変です」
タジマ「矢的、どうした、返事をしろ!」
猛「操縦桿が動かない!」
オオヤマ「矢的、落ち着くんだ」

猛「ダメです、穴の方へ吸い寄せられています!」
コントロールを失った機体は、くるくる回転しながら成す術もなく不思議な穴の中へ吸い込まれる。

オオヤマは二人に脱出を指示するが、もう手遅れで、すぐにシルバーガルとの通信も途絶えてしまう。
それにしても、猛とエミが抜けたUGMの面子って、華がないにも程があると言うほど地味だよね。
顔もそうだが、制服のデザインも垢抜けているとは言い難いし……。
とにかく、シルバーガルはソラリゼーション処理されたタイムトンネルの中を落ちて行き、最後は砂漠のような場所に不時着する。
だが、猛が気付いた時には、彼の体は、お堀(?)のそばの竹やぶに投げ出されていた。

猛「誰だっ」
猛が立ち上がると同時に、霧の中から鎧武者のようなシルエットが現れ、無言で刀を抜いて猛に突きつける。

もっとも、その武者を演じているのが
よりによって梅津栄さんだったので、サスペンスフルな場面の筈が、ちっともサスペンスになっていないのが遺憾であった。
源九郎「おのれ、悪霊めーっ!」
男は、問答無用で猛に斬りかかって来る。

猛がなんとかその攻撃をかわし、最後は白刃取りで抵抗していると、横合いからエミ隊員が大きなお尻を引っさげて登場。
エミ「矢的隊員!」
源九郎「……あっ、姫!」
意外なことに、男はエミの顔を見るなり、刀を手放してその場に平伏する。

源九郎「姫、姫ではござらぬか~、よくぞご無事で……」
エミ「……」
訳の分からないことを感極まった調子で話しかけてくる男に、エミは思わずあとずさる。
エミ「……矢的隊員、私たち、まさか、タイムスリップして別の世界に迷い込んだんじゃ?」
猛「どうも、そうらしい!」
異様なほど飲み込みの早い二人であった。
お約束だけど、こういう場合、「時代劇のセットに迷い込んだのでは?」「この男、頭がおかしいのでは?」などと、一旦は現実的な解釈をするのが普通だけどね。
源九郎「姫のお知り合いでござったか、そうとは知らず、この藤原源九郎、一生の不覚」
男は、エミのことを「姫」と思い込んでいるようで、エミと猛のやりとりを聞いて急に猛に対する態度を改めて謝罪する。
そこへ、竹やぶの中から近代的な武装をした敵がビームを撃ち込んで来る。敵はあっさり猛のビームで倒されるが、

そのマスクを剥ぐと、その下から爬虫類のような不気味な顔が現れる。
このネタバレも早過ぎる気もするが、ま、時間的な余裕がないからねえ。

さて、その世界には、見掛けは戦国時代の平城だが、内部には近未来的なメカが据えられ、SF的なキャラクターが住んでいる奇怪な城塞があった。
メビーズ「なにぃ、侵入者を取り逃がした? ばかものぉ! 草の根を分けても探し出せぇっ!」
さきほどの武装兵の失敗を聞いた首領格の男は、声を荒げて他の部下に、猛たちの捕獲を命じる。

ゴイゲ博士「向こう側から人間が飛び込んでくるとは、計算外でございましたな」
メビーズ「構わん、お前が開発したメタモルシステムがあれば、天下無敵だ」
トカゲのような皮膚の下から人間の顔が半分見えているユニークなデザインのメビーズを演じるのは、石山雄大さん。

ゴイゲ博士「恐れ入ります。可愛い奴だ」
怪獣「がおっ! がおっ!」
ゴイゲ博士「ふっふっふっふっ……」
怪獣「がおっ!」(火を吐く)
ゴイゲ博士「うわっち!」(顔を火傷する)
途中から嘘だが、その参謀的なキャラクター、ゴイゲ博士を幸田宗丸さんが演じている。
なかなか重厚な組み合わせだが、梅津さんと言い、ゲストキャラまで暑苦しいおっさんばっかり……。
これじゃあ視聴率は取れんわなぁ。
一方、源九郎の住む小屋に案内された二人は、休息を取りつつ、この世界についての基礎知識を教えて貰う。

猛「えっ、黄泉の国ですって」
源九郎「さよう、ここは黄泉の国でござる」
エミ「ねえ、黄泉の国って死者の世界じゃないの?」
猛「まさか、そんな……」
だが、源九郎の口からそんな言葉が飛び出したので、猛たちのみならず、視聴者まで頭が混乱してしまうことになる。
……と言うことは、ここは戦国時代じゃないの?

エミ「私が死んでる……はぁ~っ」

眩暈を感じたエミ、そうつぶやくと、猛の腕に縋りついてそのまま気を失ってしまう。
しかし、タイムスリップの副作用で疲れていたのかも知れないが、UGMの隊員が、それくらいのことで気絶するかね?
おまけに25話で、新米隊員のジュンにあんなえらそうに説教垂れていた直後の回にこんなの流したら、エミの威厳も説得力も、ガラガラと音を立てて崩壊してしまうではないか。

源九郎「これ、姫に気安く触るではない! むんっ」
猛「何するんですか!」
猛がエミの肩を掴んで揺さぶっていると、源九郎がいきなり二人の間に割り込んで、猛を突き飛ばす。
源九郎「姫、おいたわしい……」
猛「源九郎さん、彼女はお姫さまなんかじゃありませんよ」
源九郎「何を言うか、この方は間違いなく我らの姫じゃ! おぬし、もしや悪霊の回し者では?」
猛「分かりました、僕はもうもう何も言いません!」
再び猛に疑惑の目を向け、刀の柄に手をやるのを見て、猛はうんざりしたように宣言する。
その後、源九郎の口からこの世界が「悪霊」、アクゾーンに支配されることになった経緯が語られる。

源九郎「奴らが来るまで黄泉の国は平和な国であった。あれは御前試合の真っ最中じゃったなぁ」
御前試合の最中、城の上空に猛たちが吸い込まれたのと同じ穴が開いて、そこからアクゾーンの戦闘機が溢れ出てきて、家臣たちにビームを浴びせて一瞬で消してしまったと言うのだ。
殿様も、エミと瓜二つの舞姫もアクゾーンに捕まり、源九郎たち数人の武士はなんとか彼らの手を逃れて山中に潜伏し、アクゾーンを倒す機会を窺っていたのだ。
翌朝、やっと目を覚ましたエミは、その話を、猛の口から聞かされる。

エミ「そうだったの……」
猛「僕の見たところ、あのアクゾーンは異次元を征服しようとしているインベーダーだと思う。黄泉の国の人間は魂だけの存在、奴らはその魂を吸い取る、レザーガンを持ってるらしい」
エミ「じゃあ私たち、魂だけの存在になっちゃったのかしら?」
猛「うん、僕も自分が死んでるなんて絶対信じない。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだ。まずこの国を平和にすることが、僕たちの任務なんだ」
エミ「そうね!」
猛に言われて、エミもやっと笑顔を取り戻す。
しかし、黄泉の国に暮らしていると言うことは、あのアクゾーンの連中も、肉体を持たない精神だけの宇宙人なのだろうか?
とにかく、戦国時代のタイムスリップものに、こういうスピリチュアルな設定を持ち込んだのは脚本の失敗だったと思う。

エミ「あれ、源九郎さんは?」
猛「うん、君の無事を知らせに仲間のところへ行ったんだ」
エミ「あら、やだ、あの人まだ私がお姫様だと思ってるのかしら」
猛「そうなんだ、本当のお姫様を助け出すまで、君はお姫様のふりをしててくれないか。今はあの人を悲しませたくないんだ」
エミ「分かったわ。私だって、お姫様って呼ばれるの、まんざら悪くない気分だもん!」
エミ、既に脇息にもたれてお姫様的な姿勢になっていたが、猛の提案を快く引き受ける。
と、そこへ、源九郎に連れられて数人の武士が勢い良く飛び込んでくる。
彼らもエミを舞姫だと思い込み、土間に平伏しつつ、その無事を喜ぶ。

エミ「そなたたちもよくぞ無事で!」
武士たち「姫ーっ!」
すっかりお姫様になりきり、白い歯を見せて笑うエミがすこぶる可愛いのである!
さて、ストーリーはここからが面白くなる……と言いたいところだが、実際のところは、ここまでのお膳立てを整えるのに番組サイドが四苦八苦しているような印象で、その後は流れ作業的に話がパタパタ進んでしまう。
スルーした19話も同じだったが、舞台設定を描くまでに時間を使い過ぎているのだ。
今回と少し似たような設定のセブンの「第四惑星の悪夢」と比べると、とても同じ30分枠で作っているとは思えないほど、あっちはドラマが充実していた(EDがない分、セブンの方が少し長いとは思うが)。
要するに、19話も26話も、「無駄なシーンが多い」の一言に尽きるのではないか。
それはさておき、一行は、直ちにアクゾーンに奪われた城を取り戻す為に行動を開始する。

エミ「やりましょう、みんなで戦うのよ」
源九郎「姫、よくぞ申された、それでこそ我らも勇気100倍じゃ!」
猛「しかし、警戒が厳しそうですが……」
源九郎「そんなことは分かっておる、城への隠し道まで突破すればあとは勝手知ったる城の中じゃ」
そこへ、数人の武装兵が近付いてきて戦いになるが、猛と言う助っ人を得た武士たちは待ち伏せをしてあっさり彼らを倒す。
源九郎は、即座に城に向けて出発しようとするが、猛が慌てて止める。

猛「ちょっと待って下さい、そのまま乗り込むのは危険です。僕に考えがあります」
源九郎「考え? 武士でないおぬしの考えなど……」
エミ「源九郎、矢的殿は我らの味方です、きっと良い考えに違いありません」
源九郎「は……姫がそう申されるのなら、おぬしの考えとはなんじゃ?」
源九郎、エミに言われて不承不承、猛の意見とやらを聞いてみる。
猛「皆さん、裸になってください!」 意外にも、猛の口から飛び出たのは一瞬ドキッとしてしまうような台詞だった。

源九郎「なにっ、裸? はだ……」
驚いた源九郎、反射的にエミの方を振り向いて、歩く痴漢ホイホイと呼ばれている(呼ばれてへん、呼ばれてへん)豊満極まりないボディに目をやってしまう。
無論、これを見ていた全国の小学4年生以上の健康な男子が、一斉にエミの裸体を思い浮かべたのは言うまでもない。

源九郎「おぬしはわしらに恥を掻かす気か?」
エミ「源九郎、矢的殿の仰るようにしなさい!」
源九郎「は……姫がそう申されるなら」
源九郎、「じゃ、遠慮なく」と、エミの制服を剥がしにかかるのだった。
……嘘である。
猛の言った「裸になれ」とは、着物を脱いで今倒した武装兵のスーツを代わりに着て、武装兵に成り済まそうという作戦を意味していたのだ。紛らわしい!

だから、次のシーンで、既に武装兵に化けた猛たちが城に忍び込もうとしている場面になっているのを見て、エミの脱衣シーンを目を血走らせて待っていた、全国の小学4年生以上の健康な男子が、
「くそっ、話が違うじゃねえか、JAROに電話するぞ!」と、半狂乱で怒号したのも無理からぬ仕儀であった。
彼らは首尾よく隠し道の前まで辿り着き、住み慣れた城の内部に侵入を果たす。
で、あっさり、本物の姫の監禁されている牢獄を発見する。
で、姫を助け出そうとしているところを襲撃され、源九郎たちは全員ビームを受けてパッと消えてしまう。
猛とエミもビームを浴びるが、何の変化もない。簡単に敵を打ち倒してから、

エミ「どうして私たちだけ助かったの?」
猛「うん、僕たちは死んだんじゃないのかもしれない」
エミ「と言うことは」
猛「まだ帰れる望みはあるんだ」
自分たちはまだ生きているのではないかと考え、二人は希望に目を輝かせる。

舞姫「あなた方ですね、他の世界からこの国へ来られた救世主は?」
舞姫は立ち上がると、ニコニコしながら二人に語り掛ける。
猛「僕たちのことを知ってるんですか」
舞姫「祈ったのです。私はこの国が彼らに征服されてからずっと、救世主が来るのを祈り続けてきました。あなたがたこそ、この黄泉の国を救える人たちなのです」
若干、巫女的な超能力を持っているのか、舞姫はそのテレパシーか何かで、ウルトラマン80である猛を黄泉の国へ引き寄せたと言うことなのだろうか?
さっきも言ったけど、異世界モノと、タイムスリップモノとが混合しているが、このシナリオの欠点である。
差し当たり、普通のタイムスリップモノにしておいて何の不都合もなかったと思うが……。

その後、猛はまた一計を案じ、武装兵の格好で舞姫を連行して、メビーズたちの前にやってくる。
メビーズ「梃子摺らせてくれたな、もう、そちの味方はおらんぞ」
舞姫「そんなことはありません」
メビーズ「観念したらどうだ」
猛「観念するのはそっちの方だ」
猛とエミは、マスクを外して自分たちの正体を明かす。

メビーズ「貴様たち、向こうの世界の人間だな」
猛「それがどうした?」
メビーズ「ふっはっはっはっ、これを見よ」

ゴイゲ博士「いいか、これはわしが開発したメタモルシステム、今すぐこのボタンを押してお前たち人間世界にこのゲラを送り込み、皆殺しにしてやる」
猛「なにぃ、そんな小さな怪獣で地球を征服するつもりか」
ゴイゲ博士「ゲラを巨大化するこの装置を見ろ!」
続けて、猛たちの背後の窓が開き、レーザー砲のようなものが空中に向けて発射され、最初にシルバーガルを吸い込んだタイムトンネルの入り口を形成する様子が見えた。
猛「我々の世界への通路だな」
ゴイゲ博士「武器を捨てろ」
正直、「武器を捨てろ」と要求できる状況じゃないと思うのだが、何故か猛は素直に銃を捨ててしまう。
この辺も、なんかちぐはぐなんだよね。
ここで、いきなり舞姫がメタモルシステムに飛び付いて、がちゃがちゃと動かしたので、機械の調子がおかしくなってしまう。舞姫は、ビームを撃たれてすぐ消えてしまう。

で、猛たちそっちのけで、メタモルシステムの修復を急ぐメビーズとゴイゲ博士と言う、今回一番の爆笑シーンが訪れる。
もうこの一連のシーン、完全なコントになってる……。
最終的には、メタモルシステムの誤作動で、猛たちの世界に送り込まれる筈だったゲラは、巨大化して城のすぐ横に投射される。
その後、メビーズが猛たちを押し退けて窓から飛び降りてしまうのも、意味不明の行為であった。

また、猛がメビーズを追って行った後も、エミがいるというのに機械の操作に余念がないゴイゲ博士と言う、これまた爆笑シーンが繰り広げられる。
エミ「機械から離れなさい」
ゴイゲ博士「……」
銃を突きつけられて、漸くエミの存在に気付くおっちょこちょいのゴイゲ博士でありました。
しかも、エミに命じられて、舞姫たち黄泉の国の人たちを元通りの姿にすると言うトホホぶりを発揮。
彼らは元々精神だけの存在なので、あのビームによって何処かの空間に転送されて閉じ込められていたのだろう。

一方、猛は、窓から飛び降りながら80に変身し、ゲラに向かっていく。

おまけに肝心のゲラが弱っちくて、80の回し蹴りの練習台にさせられるほどであった。
これじゃあ、80のいない現世に送り込んでいたところで、UGMに倒されていただろう。
それにしても、ゲラと言い、ゴイゲ博士と言い、このネーミングはもう少しどうにかならないだろうか?
80はゲラを倒すと、宇宙船で逃げようとしたメビーズとゴイゲ博士を撃ち落とす。
だが、既にタイムホールが消えかかっていたので、80は舞姫や源九郎たちと別れの挨拶も交わす余裕もなく、エミを連れてその中へ飛び込むのだった。

舞姫「あの方こそ、救世主に違いありません!」
ラスト、二人は草むらに寝転んでいるところを、イトウたちに揺り起こされる。
目の前には墜落したシルバーガルの残骸が転がっていた。

イトウ「お前たちが助かったのは奇跡に近いぞ」
猛は自分たちの体験を話すが、まったく信じてくれない。しかも、自分たちが気を失っていたのが、僅か1時間程度だと聞かされる。
エミ「あの黄泉の国、あれは夢だったのかしら」
猛「……」
猛たちはシルバーガルで墜落した時に仮死状態となり、舞姫の力で黄泉の国にいざなわれ、メビーズたちを倒して再び現世に戻ってきたのだろうか?
でも、そう解釈すると、そもそも今回はタイムトラベルしてなかったことになり、サブタイトルに偽りあり、ということになりはしないか?
あるいは、これも「第四惑星の悪夢」のラストを意識しての曖昧な処理だったのかも知れないが、成功しているとは言いがたく、単にスッキリしない感じが視聴者の胸に残るだけの結果に終わっている。
ちなみにサブタイトルの影武者と言うのが、このオンエアの少し前に公開されたクロサワ映画「影武者」から来ているのは言うまでもない。