第22話「勝ってから泣け」(1985年3月9日)
の続きです。
その後、1年と2年だけによる県の新人戦が開催される。
今まで長いことラグビー部の活動を描きながら、新人戦の
しの字もなかったが……。
だが、大木の抜けた穴は大きく、また、平山もキャプテンとして統率力を発揮できず、大して強くないチームにあっさり負けてしまう。
全国制覇の野望の第一歩で挫折して落ち込む滝沢であったが、その滝沢を今度は永井が訪ねて来て、「臨時工でよければ……」と言う条件で、大木を採用してくれると言う。将来、正社員になれる可能性もあるし、ラグビーについても、試合には出れないが、練習に参加することは可能と言う、大木にとっても悪くない条件だった。

滝沢、新楽で、その条件を大木に伝え、本人の判断に委ねる。
……そう言う重大な話は、学校か家でしません?
なんで客の来ない中華料理店でせにゃならんのだ。
大木「お袋はどうなるんですか」
滝沢「問題はそこだ。東北製鉄のラグビー部は本社のある仙台だ。そうなると、お袋さんとは別々に暮らすことになる」
大木「お袋をおいてくことはできねえよ。お袋はこないだ退院したばっかりだ。ひとりにしとくなんてこと俺にはとても出来ねえよ」
大木はその他の条件については不満はなさそうだったが、病弱な母親をおいて仙台へは行けないと言う。
そんな話をしていると、節子さんに伴われて、その母親が入ってくる。

大木「母さん」
母親「仙台に行きなさい、私のことは心配要らないから」
大木「母さん、どうしてそのことを?」
母親「いいから、仙台に行きなさい。あんたラグビーがやりたいんでしょ? だったらこんなチャンスは」
大木「
やだ! 俺は仙台なんかにゃいかねえ」
母親「大助!」
急に駄々っ子のようなことを言う大木が可愛い……。

節子「お母さんのことはほんとに心配要らないのよ。病院の先生も無理さえしなければ大丈夫だって仰ってるし……あなたの留守中、私たちも出来るだけのお世話はするつもりだから」
優しく囁くように大木を説得する節子さん。

大木「奥さん……」
滝沢「節子、お前、この話、いつ知ったんだ?」
滝沢、(そこまで俺たちのことを……)と感動している大木をよそに、現実的な質問を放つ。

節子「……」
節子、少し決まり悪そうな笑みを浮かべ、俯く。
下田「はっはぁ、さては奥さん、この話に一丁噛んでましたね?」 滝沢「……」
ここで下田が空気を読まずに、滝沢の代わりに余計な口を挟む。
「お前は黙ってチャーハン作ってろ!」と怒鳴りつけたい衝動に駆られた滝沢&全国の心ある視聴者の怨念によって、次週、遂に下田が
めでたく不幸にも命を落とすことになったのである。
それにしても、なにが
「はっはぁ、さては奥さん」だっ!
滝沢「節子……」
節子「ごめんなさい。差し出がましいと思ったんだけど……」
みんなの視線を浴びて、節子が事情を打ち明ける。実は、あれからひとりで永井に会っていたのだ。
節子は、何とか大木を採用してくれないかと愚直に頭を下げて頼み込み、永井もその熱意に打たれて、

永井「分かりました、ご主人のことは諦めましょう。大木君のことは任せといてください。本社と連絡を取って、しかるべく、取り計らいますから……」
節子「ありがとうございます!」
まるで自分の子供のことのように満面の笑みで礼を言う節子であった。
だが……、
永井「ところで奥さん、何事も魚心あれば水心、と申しましてね……」
節子「は?」
永井「お分かりの筈でしょう。いや、最初からその覚悟で来られたんでしょう?」
節子「仰ってる意味がよく……」
永井「奥さん、お互い子供じゃないんだから、とぼけるのはよしましょうや、ね、奥さん、私は前からあなたのことを……」
節子「いやっ、やめてください、私、そんなつもりで……」
永井「大丈夫です。ご主人には内密にしておきますから……」
節子「いやっ、誰かーっ!」
永井「良いんですか、奥さん、大木君の就職が白紙になっても?」
節子「う、それは……」
永井「私は何もかも知ってるんですよ、あなたと大木君の関係を……なんだったらご主人にそのことをお話しして差し上げましょうか?」
節子「待って下さい、主人にだけはっ!」
……などと言う、東海テレビの昼ドラ的展開には絶対ならないので安心です!(長えよ)
しかし、現実問題として、奥さんが何の手土産も持たずに同じことを頼みに行って、あっさりOKされるって、何か裏があるんじゃないかと疑うのが普通ですけどね。
無論、ラグビー馬鹿の滝沢は、そんなことは露ほども疑わない(ま、実際、何もなかったんだけど)。

大木「奥さん……奥さんはそこまで俺のことを」
節子「だって、あなたは私の子供なんですもの」 えっ、ええ~~~!? 思わず絶叫してしまうようなことをさらっと口にする節子さん。
無論、それは大映ドラマ、なかんずく「赤いシリーズ」的な意味で言ってるのではなく、
節子「主人がいつも言ってるのよ、生徒(註1)たちはみんな俺の子だって。だったら私にとっても子供でしょ?」
と言う、クソしょうもない意味で言っているのだった。
(註1……ラグビー部員の間違い)

節子「あら、こんなこと言ったら、本当のお母様に叱られるかしら」
母親「奥様……」
善人の母親は、大木同様、節子にただただ感謝の眼差しを向けているが、冷静に考えたら、
「実の親を差し置いて何さらしとんじゃゴラァッ!」みたいなことにならないかなぁ?
冷静に考えなくても、教師の妻が生徒の就職の世話をするって、まずありえないよね。
下田「こうなったら、行くっきゃねえみてえだなぁ、え、みなさんがこれだけお前のことを心配して骨を折って下さったんだ。これでうんと言わなきゃ男じゃねえぜ」
大木「マスター」
下田「仙台に行きな、お袋さんのことは及ばずながら俺も力にならせて貰う」
ここでも、母親や滝沢を差し置いて下田がしゃしゃり出てくるのである。
なにが
「行くっきゃねえ」だっ!
大木「ほんとに行っても良いんだな?」
母親「……」
大木が念を押すと、母親は力強く頷いてみせる。

節子「大木君、頑張るのよ」
大木「……」
下田「どうした、なんとか言ったらどうなんだ?」
母親「大助」
下田たちが、節子へのお礼を促すが、感極まった大木は、大人たちの予想を超える行動に走る。
大木「ほく(奥)さぁーん!!」 そう、滝沢や、自分の母親が見ている前で、いきなり節子さんの体にしっかり抱きついてしまうのである!
そして、その華奢な背中を間断なく揉みながら、肩に縋り付いて号泣する。
当然、
滝沢も母親も下田もドン引き。 大木「俺、なんて言って良いかわかんねえけどよ……俺ぇ」
節子「良いのよ、大木君、分かってるわよ」
大木「ありがとう、ありがとうございました!」

節子「あらあら、大きな成りして、みっともないわよ」
大木「うう……」
さすがに高校3年生の男子が、恩師の美人妻にこんなことしないよね、普通。
まぁ、普通ではありえないことが起きるのを楽しむのが(大映)ドラマなのであるが……。
なお、その後、下田は
「それじゃ、前祝いに一杯」と、ダメ人間の名にふさわしい台詞を吐いて、節子さんから「ダメですよ、昼間からお酒なんて」と、たしなめられてます。
いや、節子さん、「昼間から」とかじゃなくて、今、仕事中なんですけど、一応……。
大木の就職問題が解決した後、

もう何回目かさっぱり分からなくなったが、とにかく滝沢にとって何回目かの卒業式のシーンとなる。
いい加減面倒臭いので、自分も、今が劇中で何年度になるのかも気にしないことにする。

大木と同じ学年には、入部当初は逸材とか言われながら、結局失言問題しかクローズアップされなかった星クンや、太っているだけが取り柄のマルモなどがいた。

滝沢の前に立ち、涙で潤んだ瞳でじっと滝沢を見詰める大木。

滝沢「頑張れよ!」
様々な苦難と歓喜を共にして、心の底までわかりあった二人には、それだけで十分なのだった。
管理人としても、あれこれ長ったらしい挨拶をされるのは書き写すのに疲れるのでありがたい。
ただ、因縁のある岩佐校長や、親衛隊だった清美たちとの別れくらい、多少は触れて欲しかったところだ。
早くも仙台に向かう新幹線の中で、スーツ姿の大木は、入学以来の3年間を振り返り、いくつもの出会いや別れをしみじみと噛み締めていた。
大木「やってやるぜ!」 回想シーンの後、目的語抜きでいきなり叫ぶ大木。
思わずこれから東北製鉄に殴り込みをかけに行くのかと心配するではないか。
そして新年度、つまり、劇中では最後の年度がいよいよ始まる。
だが、川浜ラグビー部の調子はなかなか上向かず、練習試合でも不甲斐無い試合を繰り返し、滝沢を常に苛立たせていた。

滝沢「さっきのザマは何だ?
平山、お前、馬鹿か? 考えてゲームを組み立てろと何度言ったら分かるんだ?」
平山「……」
滝沢「お前たちもお前たちだ。平山を助けるどころか、足を引っ張るような真似ばっかりしやがって! こんなザマじゃあ全国制覇はおろか、県大会にも勝てやしないぞ!」
試合後、選手たちをぼろクソに叱ってすっきりした滝沢が部室から出たところで、ちょうど学校に来ていた山城元校長と鉢合わせする。
それにしても、滝沢のこの激怒ぶり、なんか前にもそっくり同じシーンを見たような気がするのだが……。
そう、9話であまりに厳しく選手たちをしごいた為に、部員たちがボイコットを起こして危うく部そのものが壊滅寸前に追い込まれた事件だ。
あれは確か3年前のことだが、滝沢、指導者として全然進歩してないことが判明する。その都度反省はするのだが、すぐ忘れちゃうからねえ。
もっとも、現在の部員たちは滝沢の言うように総じて大人しく、反発する元気すらなかったが……。
その3へ続く。