第27話「赤い夕陽のシベリアで」 作画監督 田中英二・水村十司
そう言えば、そろそろ劇場版アニメが公開されるんですねえ。
公開されるまでにはレビューを完結させたいと思っていたのですが……。
さて、久しぶりのタマプロ作画担当回と言うことで、思う存分画像を貼って行きたい所存であるが、ストーリー進行は相変わらず亀の歩みのように遅々として捗らず、原作には無いどうでもいいシーンがてんこ盛りなのであります。
前回のあらすじが必要以上に丁寧に語られた後、

紅緒「少尉……!」
出征以来初めて送られてきた忍からの手紙を牛五郎から受け取るや、まるでラブレターででもあるかのように熱烈なキスを繰り返す紅緒。
もうこの最初の一枚から、作画の良さが如実に伝わってくる。

牛五郎「参った!」
紅緒「あらぁ、あららー、急に牛五郎がハンサムに見えてきた!」

恋する紅緒の目には、牛五郎の無骨な顔のパーツが徐々に忍のそれと入れ替わり、遂には忍そっくりの顔に見えてくるのだった。

紅緒「人間の気持ちって不思議ねえ」
牛五郎「親分は特別なんで……」

紅緒「少尉からの手紙、キャッホーッ! 少尉ぃっ!」
嬉しさのあまり、居ても立ってもいられなくなったように部屋を飛び出し、いつものように階段の手すりを滑り台のように滑り降り、廊下を飛び跳ねる紅緒の姿に続いて、サブタイトルが表示される。
で、さっさと封を開いて手紙を読めば良いのに、伯爵夫妻を皮切りに、屋敷の人々が次々と紅緒のところへ押し掛けては、手紙の内容を教えてくれと頼み込むシーンが延々と続くのであった。
伯爵夫妻から逃れた後は如月。

紅緒(こういう手紙はひとりきりで読みたいものだ!)
如月「紅緒様、紅緒様、若様からお手紙でございますか?」

紅緒「いっかん、醜いものを見ながらではムードが壊れる!」
如月「あ? ウーッ!」
紅緒「あっ、あら」
つい口を滑らせてしまい、如月に野獣のような唸り声を立てて睨まれた紅緒、慌てて自室に駆け込む。
ソファに腰を下ろし、ハサミで封を切ろうとするが、今度は背後の窓から外壁に梯子を立てて登ってきた伯爵が顔を出し、「さあ、早く開けい!」とせっつくので、またまたムードを壊され、部屋を出て行く。
続いて、布団部屋に入るが、中では伯爵夫人が待ち構えていて、そこもダメ、和室に行くと床下から如月がゴキブリと一緒に出て来てダメ、屋敷の外へ出ても、今度はメイドたちに追い掛け回される始末。

紅緒「どーなってんの、私の手紙なのに……これじゃ落ち着いて読めやしないわ」
メイドやその他大勢のキャラに追われて、敷地内を全力疾走している紅緒。
それならばと、忍が九州へ発つ直前に語り合った思い出の場所……と言っても、庭木の高い枝の上だが……へ避難し、忍との思い出に浸っていると、手紙を取り落とし、それを忍の愛犬、天丸・地丸がくわえて駆け回ると言う展開。
原作にも、手紙を持った紅緒が、伯爵や如月たちにまとわり付かれると言う、似たようなくだりは出てくるのだが、ページにして1ページにも満たないあっさりしたもので、アニメはその僅か1ページを、
スーパーのヤクルト詰め放題のコーナーに用意されたビニール袋を極限まで押し広げる主婦のごとく、これでもかこれでもかと言わんばかりにギリギリまで膨らませているのである。
メイドたちまでは許せても、さすがにワンコまで動員しての時間稼ぎには、いくら作画が良いからと言っても、管理人、堪忍袋の緒が切れそうになった。

でも、やっぱり、タマプロの……水村氏および西城氏の描く紅緒は良い。
考えてみれば、この紅緒の顔こそ、管理人が今こうやってブログやHPで色んな作品を紹介しているそもそものきっかけなのだから、管理人にとっては宝物のような存在なのである。
で、紅緒、原作同様、最終的にトイレと言う究極のプライベート空間へ落ち着く。

やっと封を切り、手紙を読み始める紅緒。
懐かしい忍の書いた文字を見た途端、紅緒の双眸から涙が溢れ出て来る。
しかし、その背後の小窓から、ちゃっかり牛五郎と蘭子が覗き込んでいるのだった……。
忍の声「僕は元気ですのでご安心下さい。ここシベリアに到着してからもう2週間になりますが、僕らの部隊は前線から遠く離れた後方で、のんびりとしています」

忍の声「この手紙を書きながらふと目を上げると、窓の外には広々とした草原が広がっています。僕は現在、ヨーロッパ大陸のホンのきざはしにいるのですが、シベリアの広大な広がりを感じさせるに十分です。この雄大な景色を紅緒さんに見せてあげたい」
忍の声に合わせて、兵舎の一室で手紙をしたためている忍の姿が映し出される。

忍の声「元気な紅緒さんのことだから、きっといきいきとこの大地を飛び回ることでしょうね」
シベリアの草原で、ロシアの民族衣装を着てコサックダンスを踊っている紅緒のイメージ。
封筒には、白い可憐な花が一輪、同封されていた。

紅緒「可愛い花ー」
忍の声「荒れ地に咲く花です。土地の人はマリンカと呼びます。シベリアの短い夏に、大地を覆い尽くして咲く花です。ふと紅緒さんを思い出して入れておきました」
紅緒「マリンカ、野いちご……」
この「マリンカ」が、ストーリーの後半において重要な役を果たすのはご存知のとおり。
追伸で忍は、この戦争は元々日本には関係が無いので、案外早く帰れるかもしれないと、後々の展開を考えると、罪作りな希望を持たせる言葉を添えていた。
紅緒(良かった、無事で良かった。最前線の部隊でなくて……)
紅緒、トイレの中で飛び上がって喜びを爆発させるのだった。自分の部屋に戻ってからもベッドの上でぽんぽん跳ねて、湧き上がる喜びを抑え切れない紅緒。また、忍がウオツカをお土産に持って帰ると二伸で書いていたことを思い出し、舌なめずりせんばかりになるが、

紅緒「ウオッカ! ……うん? わっ、いけない、私は禁酒したんだっけ!」
紅緒、ふと「禁酒」と書かれた紙が壁に貼ってあるのに気付き、少しがっかりする。
いいなぁ、この紅緒のとぼけた顔。
そこへ、如月が伯爵夫妻はじめ、みんなが手紙の内容を聞きたがっていると知らせに来る。
紅緒が正面階段の上まで来ると、広間には屋敷の人たちが漏れなく集結して、首を長くして待っていた。
ま、それは良いのだが、
犬まで上がり込んでんじゃねえ! 伯爵たちは忍が後方勤務であることを知って躍り上がって喜ぶが、続いて「自分のことはなんと書いてある?」と、口々に紅緒に問い掛ける。

紅緒、自分のことしか書いてあるとは言えず、
紅緒「おじいさまは、相変わらず頑固ですか? おじいさまは頑固に見えても本当はとても寂しがりやですから労わって上げてください」
伯爵「おほほ、そうか、そんなことを言っておるのか……」
即興で、いかにも忍が書きそうなことを言ってやり、みんなを満足させてやるのだった。
これは原作にはないシーンだが、紅緒の優しさと賢さが良く出ているシーンとなっている。

紅緒、早速返事を書こうと机に向かうが、なかなか良い書き出しが思い浮かばず、何枚も便箋を反故にする。
紅緒「なんて書こうかなぁ……愛しの少尉様、あら、あらあら、私、ほんとうはこの家をめちゃめちゃにするつもりで来たんだわ。うふふふ、それなのに……」
あれこれ考えているうちに、この屋敷に来てからの様々な出来事を幸せそうに回想する紅緒。
ここで、過去のフィルムを使った回想シーン、ありていに言えば時間稼ぎのシーンとなる。
で、そのうち紅緒は机に座ったまま眠ってしまい、便箋によだれの跡を付け、それをそのまま「よだれの跡です」と、書き添えてシベリアの忍に送るのだった。
さすがに、恋する乙女がそんなばっちい手紙を出すとは思えないが、これはアニメオリジナルのエピソードであり、原作では、結局どんな文面が綴られたのか、不明である。

忍「あはははっ、相変わらず紅緒さんらしい。東京を出て以来、こんなに楽しく笑えたのは初めてだ」
その手紙を愉快そうに読んでいる忍の姿を映しつつ、舞台はそのシベリアの駐屯地に移る。

小林「けっ、婚約者からの手紙だってよ」
兵士A「気障なことやってくれるでないの、少尉さんは」
小林「しっかし、気にくわねえ野郎だぜ、あの長髪小隊長」
兵士A「ドンパチ実戦もねえ癖に、いきなり小隊長だって言うから笑わせるぜ」
小林(そう言うお前は苗字がないけどな)(註・言ってません)
しかし、その部下たちはいかにも柄が悪そうな連中ばかりで、忍に対する反感を隠そうともしない。

兵士B「まったく、あんな坊やに指揮を取られたんじゃ、いざとなったら、俺たちゃあ全滅だぜ」
小林二等兵を二又一成さん、兵士Bを塩沢兼人さん、

鬼島「仕方がねえさ、俺たちははみ出し者、ならず者部隊だからな」
そして、木の幹に体を預け、昼間から一升瓶を呷っている鬼島軍曹を、安原義人さんが演じている。
このアニメ、作画はとかく安定を欠くのだが、声優陣はとても豪華なのであった。
ま、それを言うなら、昔のアニメはみんな豪華になっちゃうんだけどね。

小林「おいおい、良いのかい、鬼島軍曹殿、真っ昼間からよ」
鬼島「良いってことよ、それより一丁からかってやろうぜ、インテリ小隊長さんをよ」
一部では、忍よりも人気の高い鬼島軍曹の初登場シーンであったが、タマプロの作画で幸いであった。
先のことになるが、アニメは鬼島が日本に帰る前に打ち切りになってしまったので、活躍の場面はあまりない。当然、後の伴侶となる環とも顔を合わさないままである。

佐々木「おー、印念中佐でありますか。え、伊集院少尉でありますか? おりますよ。ご心配ありません。奴には部隊中の嫌われ者ばかり集めたならず者小隊をあてがってあります。ぬはははっ」
一方、兵舎の司令室では、佐々木司令官が印念からの電話を受けて不敵な笑いを浮かべていた。
これも原作にはない設定だが、アニメでは、佐々木にも印念の息がかかっており、忍がそんな部隊を任されたのも印念の差し金によるものだったことになっている。
しかし、それなら最初から忍を前線に送り込むように仕向けると思うんだけどね。
ちなみに佐々木の声は、牛五郎と同じ、マスオさんである。

忍「整列! 整列! 並べと言ってるんだ。聞こえないのか?」
で、早速鬼島たちのいぢわるが始まる。
鬼島「おい、貴様、何か聞こえたか」
小林「いーや、なんにも」
兵士B「そういやなんか蚊が飛んできたような……」
忍の号令を無視して、大笑いする鬼島たち。
忍「なるほど、耳で聞かずに体で聞きたいと言う訳か」
忍、つかつかと鬼島に近付くと、その一升瓶を取り上げ、自ら飲み干してから地面に叩きつける。
これは原作にもあるシーンだが、なんで忍まで飲まなきゃいけないのか、良く分からないのである……。

鬼島「ヒュウーッ! おもしれえ、やる気だな、正面切って」
忍「強いものにしか従えないというのなら」

鬼島「ほほう、多少は骨があるらしい。東京育ちのなまっちょろい将校だと思ったが……」
男であれ女であれ、美形の画像を貼るのは楽しいのである。
実は管理人もどちらかと言うと、忍より鬼島のほうが好きだったりして……。
二人は取っ組み合いの喧嘩を始め、やがて他の兵士たちも加わって乱闘に発展する。
と、騒ぎを聞きつけてすぐ佐々木司令官が飛んでくる。

佐々木「何をしとるんだ、貴様ら! 伊集院少尉、三歩前へ」
忍「はい」
佐々木「ようし、歯を食いしばれ、たるんどるぞ貴様ぁ!」
佐々木、忍を前に立たせるといきなりその端正な顔を平手打ちする。

佐々木「何の為に、戦地に来とるのか?」
一発ではなく、二度、三度と罵りながら往復ビンタを繰り返す佐々木司令官。
ナレ「日本陸軍の伝統として鉄拳制裁は日常茶飯事であった。だが将校が部下の前で殴られることは絶対になかった。部下の前で殴られた隊長は、隊長としての立場が踏みにじられてしまうのだ」
ここで、原作にはない親切な解説が入る。

佐々木「ワケを言え、ワケを! 前線で戦ってる友軍に対して恥ずかしいと思わんのか」
鬼島「ケッ、面白くもねえ、仲裁か。言いつけろよ、少尉さん。どうせこちとら、営倉暮らしには慣れっこだ」

佐々木「少尉、争いの元は何だ?」
忍「それは……」
鬼島「良いよ、言い付けろよ」
口を開きかけた忍であったが、なんとここで今回は話が終わってしまい、わざわざ一週間引っ張るような場面でないと思うのだが、28話へ続くのであった。

ラスト、忍がなかなか喋らないものだから、最後の止め絵では、さっきまで明るかったのに、いつの間にか駐屯地が夕暮れに染まっていると言うありえない現象まで発生するのだった。
(C)大和和紀・講談社・日本アニメーション