第26話「女らしく!お酒をやめて」 作画監督 永木たつひろ
前回のラストで、ついに忍が転属先の小倉へ出立していった。紅緒は、忍が無事帰ってきたら、今度こそ忍の愛を受け入れようと固く決意するのであったが……。

ちらほらと広大な庭に落ち葉が散り始めて、秋の気配が感じられるようになった伊集院家の屋敷。
自室の窓からぼんやり外を眺めている紅緒。
なんか、早くもこの段階で嫌な予感がするのだが、

案の定、今回の作画は「ハズレ」であった。ま、永木たつひろ氏だからね。
つーか、この家、傾いてない? 紅緒(そうだ、少尉が戻るまでにうーんと女らしくなっとかなくっちゃ!)
紅緒、そんな殊勝な心がけをして、別人のようにおとなしく振舞い、今更のように花嫁修業に精を出す。

その一環として、如月の指導の下、茶の湯の稽古をしているシーンなのだが、この茶釜、いくらなんでも光沢があり過ぎないか? なんかプラスティックみたいな質感である。

柄杓で湯を注ぐのも、茶器と言うより、大雪の日に迷い込んできた木枯し紋次郎にふるまう白湯を入れる木製の茶碗みたいで……って、分かりにくいか。

紅緒、足の痺れを我慢して茶を掻き混ぜていたが、とうとう我慢できなくなって飛ぶように身を投げ出す。

如月「付け焼刃は長続きせんものだ……」
続いて、華道の修業。ちなみに原作ではお花は専門の先生がいるが、アニメではどちらも如月が教えている。
紅緒(でも、やっぱりちゃあんと、意思表示すべきだったんだわ)

紅緒(何故か何にも言えなくて、なんとなく……)
忍が出発する時、どうして自分の素直な思いを告げられなかったかと、今頃になって悔やむ紅緒であった。
横を向くと、アゴが急激に発達する紅緒であった。
結局、お茶もお花も長続きせず、屋敷を出てぶらぶらと町を歩く。

牛五郎「ねえ、親分、何処行くんです? ねえ、何とか言って下さいよ」
紅緒「……」
堀川にかかる橋の上で、退屈そうに水の流れを見詰める紅緒。
その後、賑やかな表通りに出ると、ちょうど新聞の売り子が「号外! 号外!」と叫びながら走っているのにぶつかる。

紅緒「あら、珍しい。一部頂戴」
売り子「ヘイ、一部5銭」
紅緒「生意気言うんじゃないよ! 人が滅入り気味だってのに、お国の一大事をネタに儲けようとしよってからに!」
紅緒、無茶苦茶なことを言って新聞代を踏み倒す。で、売り子に泣きつかれた牛五郎が代わりに払ってやる。
しかし、なんで紅緒は紙面を見ないうちに、それが「お国の一大事」だと知ったのだろう?
もっとも、この台詞は原作に出てくるのをほぼそのまま写したものである。

紅緒「あっ!」
見出しを見た途端、紅緒の顔色が一変する。

牛五郎「親分、小倉第十二師団って、少尉のところじゃ……」
紅緒「8月13日、もう上陸しちゃったんだわ! シベリア、少尉がシベリアへ……」
そう、それは紅緒が一番恐れていた、忍の所属する師団がシベリアに派遣されたと言うニュースであった。
ナレ「大正7年8月、ロシア革命の内乱を鎮圧する為に、日本を始めとして世界各国から出兵、その後、4年にわたる長い干渉戦争の幕開けとなった」
ちなみに、シベリア出兵に参加したのは、日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、イタリア、中国の7ヶ国だが、兵力は日本が最も多く、連合軍全体の約8割を占め、アメリカがそれに次いだ。
紅緒の脳裏に、出立前の忍の言葉や、隊列を組んで進軍する忍の姿、そして戦死した忍が異郷の地に葬られる不吉なイメージがよぎる。
紅緒(まったくもう、どうしたらいいのかしら? 少尉、私のせいで九州に行かされて、それからこともあろうにシベリアの戦場に……)
屋敷に戻り、ベッドに仰向けになって、遠い地の忍のことを案じずにはいられない紅緒。
居ても立ってもいられず、パジャマの上に毛布をかぶって、部屋の中をせかせかと歩き回っていたが、

紅緒(ああ、心配だわ……印念中佐はきっとこのことを知ってたんだわ。小倉の部隊がシベリアへ行かされることを……それを知ってて少尉を)
ふと、元凶と言うべき印念中佐のことを思い出し、最初からこうなることを承知の上で、忍を小倉へ飛ばしたのではないかと思い当たる。
それはさておき、横を向くと、急激にアゴが発達する紅緒であった。

紅緒「なんちゅう卑怯な男! そうだ、泣いてなんかいるばやいではない!」
急にギャグ顔になって印念中佐に対する積もり積もった怒りを爆発させると、その足で屋敷を出て、再び陸軍第一師団屯所へ向かう。
前回の騒動で既に陸軍からも恐れられている紅緒は、門番など眼中になく、

勝手に建物の中に入ると、執務室のドアを蹴り飛ばして、大河内中将に面談を強要する。

紅緒「居留守を使おうったって、駄目!」
大河内「アヤヤ、そう言う訳じゃ……」
紅緒「印念中佐に会わせて下さい!」
大河内「印念中佐はおらん」
紅緒「いなきゃ、呼んで!」
大河内「それが駄目なんじゃ」
紅緒「どうしてよ?」
大河内「印念中佐は満州へ転属となった」
紅緒「満州へ?」
印念中佐は忍の件以外にも悪い噂が立ち、左遷のような形で満州(中国東北部)へ転属してしまったと言う。

紅緒「アヤヤ、オヨヨ、じゃないでしょう! そんなことで帝国陸軍と言えますか!」
アヤヤ、オヨヨと、意味不明の奇声を発し、とかく要領を得ない大河内に対し、紅緒がギャグ顔になって怒鳴りつける。
今回、シリアス顔はいまいちな紅緒だが、このギャグ顔だけは妙にちゃんと描けている。
その後、互いに「アヤヤ、オヨヨ」と言い合い、最後は大河内がぶっ倒れるという不毛なシーンが続く。
いかにもアニメ版の時間稼ぎ的なシーンだが、これは原作にもある。

紅緒「ふっひっひっひっ、面白くないのだ!」
酒乱童子「あああああああー、何するですか、ひどいこと、ひどいこと、あんた僕に何か恨みでもあるですか、鬼、悪魔!」
紅緒「恨み? おお、あるある、酒に関するものはみな憎い! なぁーにさ、こんな顔してる癖に」
怒りをぶつけようとしていた相手がいなかったので、紅緒は肩透かしを食って帰ってくるが、腹いせに、マスコットキャラ的な酒乱童子の徳利を一方的に叩き割り、いじめるのだった。
で、この酒乱童子の声を、印念中佐と同じ肝付さんが演じていると言うのが面白い。
紅緒、実家のばあやの幻に言われて、忍の無事を祈って、「酒断ち」、つまり禁酒を誓う。

と、そこへ、今回はあまり出番がない蘭子が来て、日本軍の善戦を祝う提灯行列をやっているから見に行かないかと誘う。
紅緒「なに、提灯行列? 興味ないわそんなもん」
蘭子「へーっ、珍しい」

蘭子(どうしちゃったんだろ、紅緒さん、いつもなら、関係なくとも真っ先に提灯を奪い取って……)
蘭子、いや、蘭丸、普段の紅緒の姿を思い浮かべる。
で、このデフォルメされた紅緒のアニメーションが、これまた妙に良く描けているのだ。
この提灯行列のくだり、原作にもあるのだが、アニメとはタイミングが違い、号外を見た直後に出てくる。
たぶん、善戦を祝う提灯行列が行われるには、いくらなんでも時機が早すぎるとアニメのスタッフが判断して、少し後ろにずらしたのだろう。
あるいは、アニメではこの後、戦勝を祝って伯爵たちに酒を飲もうと誘われるが、「酒断ち」をしているのでそれを断ると言うシーンになるので、それにつなげる為のアレンジだったのかも知れない。
紅緒、伯爵夫人から代わりにお寿司を勧められて、喜んで口に運ぼうとするが、それが鹿児島名物の酒寿司だと知り、結局それも辞退する。
そこでやめときゃいいのに、さらに伯爵夫人がケーキを勧め、

それがまたサブァランと言う洋酒入りのケーキだと分かり……(以下同文)、さらにウィスキーボンボンを勧められて……(以下同文)、と言う風に、同じことが繰り返されるのがいかにもくどい。

紅緒「まるで駄目……さようなら」
出るもの出るもの全てに酒が含まれていて、何も口に出来ないまま、紅緒は悄然と伯爵夫妻の前から下がる。

伯爵「なんじゃあいつ」
夫人「紅緒さんがご馳走を見過ごすなんて天変地異でも起こらねばいいですねえ」
紅緒が「酒断ち」をしているとは知らない二人は、顔を見合わせて不思議がる。
ちなみにこの、伯爵夫妻からあれこれ勧められるシーンは原作にはない。
それから幾日か経ったある日、牛五郎が一通の手紙を持って紅緒の部屋にやってくる。そう、愛しい忍からの手紙だった。

で、忍からの手紙を手に、たちまち目がハートマークになる紅緒の姿を映しつつ、27話へ続くのであった。
なお、その手紙の表書きには小石川区音羽町と、かなり具体的な屋敷のアドレスが書いてあるのが見える。
原作にはそんなことは書いてないのだが、音羽町には講談社の本社があるから、そこから来てるのだろうか。
(C)大和和紀・講談社・日本アニメーション