第42話「幻の母は怪獣使い!」(1974年1月18日)
冒頭、ZAT本部に光太郎がパトロールから元気良く帰ってくるが、隊員たちはみんな一箇所に集まって何やらしきりと騒いでいて、光太郎を見ようともしない。

荒垣「あー、ご苦労さん! お、ご苦労!」
光太郎「なんですかぁ? ……あっ」

光太郎が輪の中を覗き込むと、そこにはカゴに入った一羽のオウムがいた。
光太郎「オウムじゃないですか」
森山「私が持ってきたのよ。この部屋は男臭くて潤いがないモンね!」
荒垣「なぁにぃがー」
光太郎「こちらZAT、本部応答せよ……」
南原「ダメ、ダメ、全然真似しないんだよ」
正月気分が抜けないのか、エキストラ女性隊員たちまで加わって、みんなでそのオウムに言葉を覚えさせようと仕事そっちのけで熱中していたらしい。
もしこれが(弱いくせに)体育会系のMACだったら、ダン隊長に全員、杖でしばき倒されているところだ。

と、不意に森山隊員が立ち上がって叫ぶ。
森山「いけない! エサ忘れちゃった!」 良いですねえ、このドジッ子ぶり……。
で、よっぽどZATは暇だったのか、

次のカットでは、早くもペットショップからオウムのエサを買い求めた森山隊員と光太郎が、若夫婦のように出てくるシーンとなる。
店から出たところで、光太郎は船員風の若者とぶつかるが、

奇遇にもそれは、光太郎の昔馴染みだった。
光太郎「島田じゃないか」
タツオ「先輩! どうも失礼しました」
光太郎「お前、いつ帰ってきたんだよ?」
タツオ「今日、港に着いたばかりです」
光太郎「そうか、陸は半年振りだろ。おやじさんもトモユキ君も首を長くして待っていたぜ」
タツオ「先輩、今度一緒に飲みましょうよ」
光太郎「そうだな!」
光太郎が森山隊員に紹介する間もなく、タツオはさっさと向こうへ行ってしまう。
森山「誰?」
光太郎「ああ、中学の時の後輩さ。遠洋航海のマグロ漁船に乗り込んでるんだ」
そのタツオが実家の公営アパートに帰ってくると、弟のトモユキは飛び跳ねるようにして喜んでくれたが、ロボット工学に関する書籍に没頭していた父親は、息子が帰ってきたと知ると慌てて本を片付けて、挨拶もそこそこに奥の部屋に引っ込んでしまう。

タツオ「へっ、おやじの奴、相変わらず無愛想だな」
トモユキ「でも、程度があるよー、何があったって、ニコリともしないんだもん」
タツオ「いいじゃないか、変わりモンなのさ」
弟が不満を鳴らすが、先輩の光太郎に似て明朗闊達なタツオはまるで気にする風も無い。
翌日の早朝、釣り支度をした島田がアパートから出掛けて行く。
ベランダから見下ろしていたトモユキが声をかけると、島田は昨日とは打って変わって明るい顔で応じる。
その変わりように、タツオとトモユキが思わず怪訝そうに顔を見合わせたほどだった。

ちょうどそこへ、光太郎がさおりさんを乗せて車でアパートにやってくる。
……うん、さすがに人の家を訪ねるには早過ぎる時間帯じゃないか?
光太郎「おはようございます」
島田「やあ、東さん、いつもタツオがお世話になってます」
光太郎「これから釣りですか」
島田「ええ、寒鮒をね。あ、そうそう、タツオが帰ってますよ」
光太郎「ええ、昨日道でばったり会いました」
島田「寄ってやってくれませんか、喜びますよ」
光太郎はハンドルをさおりさんに譲って、そのままタツオに会いに行くことにする。
さおり「おじさん、よかったらお乗りになりません?」
島田「いや、結構です」
さおりさんが朗らかに誘うが、何故か島田は急にまた無愛想になって、その申し出を断ってさっさと行ってしまう。

さおり「ねえ、光太郎さん、あたし、何か悪いこと言った?」
光太郎「島田のお父さんは何故か、車が大嫌いなんだよ」

タツオ「おやじも昔はああじゃなかったんですけどね、おふくろが死んでからすっかり人が変わっちまって」
光太郎「お母さんはいつ亡くなったんだっけ?」
タツオ「僕が小学校4年の時でした。あの日、僕とおふくろは花を買いに行ったんです」
タツオの台詞にあわせて、ちょっとした回想シーンとなる。

幼いタツオと、その若い母親とが連れ立ってる歩いていると、背後から居眠り運転のトラックが猛スピードで突っ込んできて……、

タツオ「母さん! 母さん!」
タツオは無傷だったが、タツオの母親は助からなかった。
……
こんな深刻なシーンだと言うのに、ついパンツが見えないかなぁとコマ送りをしてしまった管理人こそ、最低の人間だと言えよう(で、見えませんでした)。
タツオは、母親が亡くなった時そのままの状態に保存されている部屋を光太郎に見せる。
部屋の真ん中には、空の鳥かごが置いてあった。

光太郎「お母さんは鳥を飼ってたのか」
タツオ「ええ、オウムを可愛がってましてね。エレジアと言う名で、かわいそうに、母が亡くなった途端にエサを食べなくなって死にました。母の墓に一緒に埋めてやりましたよ」
光太郎は、鳥かごの下に隠すように積まれていたロボット工学の本を取り上げ、パラパラと開く。
光太郎「お父さん、変わった本を読んでるんだね」
タツオ「変だな、おやじがこんな本読むなんて」
言い忘れていたが、タツオ役は「ウルトラマンレオ」でもMACの白土隊員を演じていた松坂雅治さん。
島田は、釣り道具を抱えたまま、ススキの林の中にひっそりと佇んでいる廃屋のような建物に入って行く。
建物の地下には、秘密の研究所が作られていて、島田は階段を降りると、白衣に着替える。
カーテンで仕切られた向こうには、透明なチューブ状のケースがあり、

島田「聖子、お前が死んでから、今日でちょうど10年になる……あれからの私はどうしてももう一度お前に会いたくってねえ。見よう見まねで、ロボット工学を勉強した。勿論、子供たちには内緒でね。聖子、今のお前は私と結婚したあの日にそのままだよ」
既にそこには、死んだ妻そっくりに作られたアンドロイドがウェディングドレスをまとって立っていた。
そう、島田は「見よう見まね」でロボット工学を学び、僅か10年で妻そっくりのアンドロイドを作り上げてしまったのだ!
……うん、さすがにちょっと無理があるな。

島田「聖子、喜んでおくれ、私たちはまた会えるんだ。さあ生き返ってまた懐かしい笑顔を見せておくれ」
偏執的な島田は、結婚式の時と同じように赤いバラの花束まで持たせると、アンドロイドの起動スイッチを入れる。

だが、エネルギーを注がれても、アンドロイドはそのまま静かに佇んだまま微動だにしない。
島田「そんな筈は……聖子、聖子! お前は何故動かないんだ?」
取り乱す島田であったが、すぐ自分の技術が未熟なのだと考え、その日は一旦引き揚げることにする。
だが、島田が帰った後、島田が落とした涙が聖子のエンゲージリングに落ちたことで、聖子の胸は強く脈動を開始し始める。
なんだか良く分からないが、アンドロイド聖子は命を授かったのだ。

聖子が廃屋から出てきた時には、既に日が傾いてあたりは薄暗くなっていた。
しかし、夜中に廃墟からウェディングドレスを来た女性が出てくるって、なかなかホラーな状況だよね。

手にしたバラの馥郁たる香りを吸い込むと、聖子は「ねんねんころりよ~」と、子守唄を歌いながらススキの林の中を進んでいく。
なんとなく、「血を吸う眼」などの、東宝ゴシックホラーを思い起こさせる雰囲気である。

沈みゆく太陽の光が白く反射する川面をバックに、子守唄を歌いながら歩く花嫁姿の女性、と言うのも実に幻想的で美しい。

彼女が近くの道を歩いていると、パトカーが走ってきて、ヘッドライトでその背中を照らす。
警官「そこの女の人、危険です。どきなさい、どきなさい!」
警官「キチガイだな」
聖子がよけようとしないのを見て、いきなり失礼千万なNGワードを言い放つ警官。

だが、警官の言葉が聞こえた訳ではないだろうが、その途端、くるっと聖子が振り向いたかと思うと、

猛然とこちらに向かって走ってくる!
これは怪談としても、なかなか鳥肌モノのシチュエーションだよね。
アンドロイド聖子は、そのまま激突してパトカーをひっくり返して炎上させ、警官たちを死に至らしめる。
ちょうどそこへ、したたかに酔っ払ったタツオと、そのタツオを支えるように歩いている光太郎とが通りがかる。約束どおり、何処かで飲んでの帰りなのだろう。
光太郎「おい、事故だぞ」
タツオ「……母さん」

酔眼を細くして炎上する車両を見ていたタツオは、パトカーの向こうにウェディングドレスを着た、紛れもない若き日の母親の姿を認めて思わず声を上げる。
聖子「はははははははっ!」
だが、聖子は甲高い笑い声を放つと、踵を反して闇の中へ走り去ってしまう。
タツオ「今の人、亡くなった母さんにそっくりだったんです」
光太郎「ええ、そんな馬鹿な、目の錯覚じゃないのか」
光太郎はタツオの言葉を一笑に付す。まさか、あんなか弱い女性がパトカーをひっくり返したなどと思えなかったのは無理はないが、それ以前に、こんな場所にこんな時間、あんな格好で出歩いている女性の存在そのものに不審を抱かなかったのは、ZATの隊員としては迂闊だったろう。
後編に続く。