「魔法少女ちゅうかなぱいぱい！」 第25話「五目殿下の結婚式」 前編

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　第25話「五目殿下の結婚式」（1989年7月2日）

　いつものようにあわただしい高山家の朝。

　三バカを学校に送り出してぱいぱいがホッとしていると、シンゴがトコトコと引き返してくる。

　
　シンゴ「ぱいぱいとこに来る変なおじさんたち」
　ぱいぱい「ヌルハチとタクラマカン？」
　シンゴ「3丁目でハンバーガー売ってた」
　ぱいぱい「ほんと？」

　シンゴはそれだけぱいぱいに伝えると、すぐ兄たちのを後を追って行く。

　ぱいぱい「そっかぁ、最近顔出さないと思ったら……そぉだっ！」

　ぱいぱい、何かが閃いたように指をパチンと鳴らして急いで家の中へ駆け込む。

　ついで、キャメラがハンバーガーショップ（ロッテリア）の自動ドアをくぐり、カウンターで働いている二人に寄って行き、

　
　ヌルハチ「いらっしゃませ……ぱいぱい様ぁ！」
　ぱいぱい「ふたりとも、元気だった？　はいっ、おべんと！」

　ぱいぱい、にっこり笑って弁当を差し出す。

　本来、彼らは敵同士なのだが、そんな相手に対しても愛情のこもった手作り弁当を差し入れてしまうところが、ぱいぱいの……そしてこの番組の持つ限りない優しさなのである。

　
　近くの公園で、早速その弁当をご馳走になっているふたり。

　ぱいぱい「おいしっ？」
　ヌルハチ「ええ、そりゃもう」
　タクラマカン「はいっ」

　と、急にヌルハチが何か思い出したように立ち上がり、「中華魔界通信」なる月刊誌を取り出してぱいぱいに見せる。

　ヌルハチに言われたページを開くと、ぱいぱいをお嫁さんにしようと画策している五目殿下が、惚れ薬を発明したと言う記事が掲載されていた。

　ぱいぱい（まさか、私と結婚する為に？）

　
　ふたりと別れたぱいぱい、五目殿下が惚れ薬を発明しているところを想像し、思わず身震いする。

　ぱいぱい「じょーっだんじゃないわ！　……でも、五目殿下ならやりかねないわ」

　ヌルハチとタクラマカンのふたりも、そもそも、五目殿下に命じられてぱいぱいを中華魔界に連れ戻しに来たのだ。最近は、任務より生活費を稼ぐことに追われているようだが。

　その後、ふとしたきっかけで改めて五目殿下にナルトのないラーメンにされてしまった恋人レイモンドのことを思い出し、公園の東屋で涙を流していたぱいぱいであったが、

　
　そこへ、「助けて下さい」と言いながら空を飛んで逃げているカレーライスと、それを追いかけている変なインド人が現れる。

　インド人「カレーライス、喰ってやる！」
　ぱいぱい「やめなさいっ！」

　たまりかねて、ぱいぱいがインド人を一喝する。

　
　ぱいぱい「嫌がってんじゃない。私だってお腹ペコペコなんだからぁ」

　このぱいぱいの口の形、最高です……。もう思い残すことはありません。

　さようなら。

　……あ、思わず帰ってしまいそうになった。

　言うことを聞かないインド人にぱいぱいはカッとなり、魔法のコンパクトの力でインド人を追い払う。

　
　カレー「あのう、ありがとうございました」
　ぱいぱい「いいえ、あなた、ただのカレーライスじゃなさそうね」

　それと会話してる時点で、それがただのカレーライスでないことは分かりきっていると思います。

　カレー「私はインド魔界でカレーライスにされたものです。私は美しいインド魔女と愛し合っていました。でもインド魔界の支配者である王様もインド魔女を愛してしまったのです」
　ぱいぱい「そう、それで王様はあなたが邪魔になってカレーライスにしたのね」
　カレー「どうして、それを？」
　ぱいぱい「実は私の恋人レイモンドもラーメンにされてしまったのです。初めまして、私、中華魔界の中華魔女、ぱいぱいです」
　カレー「私、インド魔界のマハラジャです」

　事情を聞いて、相手がレイモンドとそっくりの境遇にあることを知り、急に喋るカレーライスに親近感を抱くぱいぱいであった。

　
　ぱいぱい「ところで福神漬けは？」
　カレー「はい、逃げる途中、落としてしまいました」
　ぱいぱい「そう、ナルトを落として行ったレイモンドと同じね」
　カレー「レイモンドさんを愛してるんですね」
　ぱいぱい「ええ、凄く」
　カレー「レイモンドさんは幸せです。だって、離れていてもこんなに愛されてるんだから」
　ぱいぱい「マハラジャだって愛されているんでしょう？　いつかきっと二人は幸せになれるわよ」

　カレーライスにされたマハラジャを心から励ますぱいぱい。

　さっきの記事を見た直後、しかも自分のパターンとあまりにそっくりな状況……、普段のぱいぱいならもう少し警戒してしかるべきであったが……。

　自分で言うようにお腹がペコペコで、判断力・思考力が落ちていたのかも知れない。

　と、一旦追い払った筈のインド人が、再びぱいぱいの頭上から飛び掛かって来て、カレーライスの皿を奪い、ぱいぱいが止める暇もあらばこそ、ぱくぱくと何口か食べてしまう。

　ぱいぱい「なんてことすんの！　ひどい……ひどいわ！」

　ぱいぱいが凄むと再びインド人は飛び跳ねるようにして向こうへ走り去ってしまう。

　
　ぱいぱい「ごめんね、マハラジャ」
　カレーライス「インド魔女、会いたかったよ……」

　ぱいぱいが慌てて駆け寄るが、既にカレーライスことマハラジャは息も絶え絶えの状態。かつてのチャーハン（と言うキャラクター）がそうであったように、一口でも食べられてしまうと魔法生物はその命を失ってしまうのだ。

　意識朦朧としたマハラジャの目にはぱいぱいが愛しいインド魔女に見えるのか、せめて残ったカレーライスを食べて欲しいと切願する。

　ぱいぱいもその必死の願いに応え、あえてカレーライスを口にする。

　だが……、

　ぱいぱい「美味しいわ、マハラジャ」
　カレーライス「えっへっへっ、罠に掛かったな！　ぱいぱい！」

　その途端、カレーライスはそれまでとはうって変わった粗野な声と口調で叫ぶ。

　
　ぱいぱい「その声は……」

　カレーライスは小さな爆発を起こし、他ならぬ五目殿下の姿になる。

　五目殿下「私が変身していたカレーライスに、私が発明した惚れ薬が入っていたのよ！　もうすぐお前は私に恋をする！」

　そう、全ては五目殿下の策略だったのだ。

　ぱいぱい「いやっ、私にはレイモンドが……」
　五目殿下「ほれほれほれ、効いて来た、効いて来たぁ、へっへっ」

　ぱいぱいも、中華魔界の支配者・五目殿下謹製の惚れ薬の効力には勝てず、しばらく顔をしかめていたが、不意にハートマークを散りばめながら満面の笑みを浮かべて殿下を見る。

　
　ぱいぱい「五目殿下さまっ」
　五目殿下「よしよし……惚れ薬が効いている時間は1時間、すなわち2時ジャストまでにこの指輪をぱいぱいの指に納めれば……」

　こともあろうに、毛嫌いしていた五目殿下の胸に自分から身を委ねるぱいぱい……全国4000億の（多いか、さすがに）小沢なつきファンが歯軋りした瞬間である。

　五目殿下は即座に中華魔界に帰って結婚式を挙げようと言い、ぱいぱいも全面的に同意するが、「ねえ、愛する殿下、私、お世話になった高山家の人々にお別れの挨拶をしたいと思います！」と、ぱいぱいに甘ったるくおねだりされ、渋々ぱいぱいと一緒に高山家へ向かう。

　高山家では、既に学校から帰った三バカがぱいぱいの帰りを待っていたが、

　
　ぱいぱい「どうぞ……ご紹介します。私の婚約者の五目殿下です」
　三バカ「ええーっ！」

　
　ぱいぱい「実は、突然、五目殿下のことを愛してしまったの」
　三バカ「……」
　五目殿下「と言う訳で、ぱいぱいは今日から私と暮らすことになった、のっ？」
　ぱいぱい「ねっ」
　五目殿下「ぱいぱい、いこ」
　はいぱい「うんっ」
　五目殿下「バイバイ」

　二人は一方的に事情を説明すると、仲良く体を寄せ合ったまま家を出て行く。

　
　あまりのショックに、三バカは一言も発することもなく、文字通りその場に膝から崩れ落ちる。

　五目殿下は高山家から出てくると、急いで中華魔界へ戻ろうとするが、好事（？）魔多し、今度はババアがやってきて、声を掛ける。

　「ちゅうかなぱいぱい」における、「こんなのが親戚だったらイヤだなぁ」ランキングの1位と2位を占める両雄が顔を合わせるのは、これが初めてであった。

　
　ババア「誰よ、このツラの悪いのは？」
　五目殿下「ツラの悪いぃ？　自分の顔を鏡で見たことがあるのか！」

　初対面のババアにいきなり本当のことを言われて五目殿下は激怒し、絞り出すような声で言い返すが、

　
　ババア「あるわよ、私ね、いっつも見てるの、見るたびにこの美しさにうっとりするの……」

　しかし、ババアは全く動じることなく、画面を占領して世にもえげつない顔を作ってうっとりする。

　後年、このババアが、日本で知らない人がいないくらいのお茶の間の人気者になろうとは、この時、誰が予想し得ただろう？

　
　五目殿下「ババアには勝てん……のう？」
　ぱいぱい「うんっ」

　さすがの五目殿下も、ババアの厚顔ぶりには白旗を上げるしかなかった。

　
　ぱいぱい「おばさま、私たち、結婚します」
　ババア「結婚ーっ？　この仮装行列の出来損ないとぉ？」

　ババア、驚いてしげしげと五目殿下とぱいぱいを見比べる。

　ババア、恐ろしいほどのうぬぼれ屋であることは先程のやりとりで証明済みなので、別にぱいぱいに嫉妬など抱かなかったが、「ぱいぱいが結婚する」＝「高山家から出て行く」と言うことに気付き、ニヤニヤする。

　ババア「ぱいぱいはいなくなり、安心して名門高山家を復活させることができる。ウッシッシッシッ」

　ババアは一刻も早くぱいぱいを結婚させて追い出そうと、自分の手で結婚式を挙げてやると言い出し、ぱいぱいも喜んでお願いする。

　五目殿下「そんなぁ！」
　ババア「遠慮すんなよ！　そうと決まったら、ザーッと式場探してくらぁ！　待ってろよーっ」

　ババアと入れ違いに、行男が発掘旅行から帰ってきたと言ういでたちでやってくる。ぱいぱいと行男は手を繋いで楽しそうにステップを踏むのだった。

　後編に続く。