第7話「美しいものが勝つ!~銭形雷VS黒いバラ」(2006年2月12日)
冒頭、いつものように雷が警視庁のがらんとした刑事部屋(会議室にしか見えんが)にいて、机の上を人差し指でトントン叩いている。

と、机の下から、羽根突きの罰ゲームのように墨で悪戯書きをされた岡野がひょいと顔を出す。
ああ、あの凛々しかった哲也さんが、こんな変わり果てた姿になるとは……

「不良少女とよばれて」第15話より、凛々しかった頃の哲也さん。

岡野「分かったぁ、『岡野さんは優秀だ』」
雷「ブッブーッ、答えは『東大卒なのにノンキャリア』でした! 岡野さん、ほんとにモールス信号検定2級持ってるんですか?」
雷は岡野の顔にさらに墨を塗りながら、尋ねる。
岡野「持ってますよぉ、ほら、世界モールス信号協会検定2級、ね、だから、ワンモアチャンス!」
暇で暇でしょうがない二人は、ふとしたことからモールス信号の話題になり、モールス信号当てゲームをしているらしい。
その時、雷のケータイに、港区赤坂山中の一軒家で男性の刺殺体が発見されたと言う緊急入電があった為、二人はゲームをやめて現場へ向かう。

雷がえっちらおっちら自転車のペダルを踏んで山奥にある現場の一軒家に到着した時には、既に車で先着していた岡野の指示によって容疑者が警官に連行されていくところだった。
岡野「銭形君、君が前時代的乗り物でゆっくりなさってる間に、事件は解決しましたよ」
雷「あの人が?」
岡野「そう、遺体の第一発見者にしてビデオジャーナリストの吉田光太郎だ」
雷「現行犯と言うことですか」
岡野「殺害直後の目撃証言が出た」
その目撃者とは、被害者宅の目と鼻の先にある家に住んでいる昆虫学者・黒井ばら(♀)なる人物だった。
雷は目撃者の話を聞く前に、殺害現場を見せて貰う。
遺体は凶器のナイフが胸に刺さったままの状態で、左手の人差し指を伸ばして、ドアの方を指し示すような形で床にうつ伏せに倒れていた。そしてナイフの柄から、吉田の指紋が検出されたという。

雷「それにしてもここは中華風のインテリアが多いですね」
岡野「被害者の神崎良平さんは以前、中華料理店を経営していたんだ」
雷「最近は何を?」
岡野「うん、このあたりの物件を買ってね、不動産経営で生計を立てていたらしいんだが……目撃者の黒井さんの家も、神崎さんの所有物らしいんだ」
雷は今度はその目撃者の家に行こうとするが、ふと、現場のドアの内側のノブに釣り糸が絡まっているのに気付く。

雷「釣り糸……?」
それに合わせて、「三味線の勇次」が三味線の糸を飛ばす時のキューッと言うような効果音が鳴るのが、「ケータイ刑事」らしいこだわりである。
とにかく、二人は黒井ばらの住むログハウスへお邪魔する。

黒井「お待たせしました、黒井ばらです」
雷「どうも……」
そこは妙に薄暗い家で、いかにも妖しげな雰囲気が立ち込めており、女主人・黒井ばらも、けったいな格好をした、どこからどう見ても
おっさんなのだが、二人ともそういうことには一切注意を払わない。
それにしても、このインパクトのあるキャラクター、何かのパロディなのではないかと思うのだが、恥ずかしながら管理人にはさっぱり分からない。
黒井は、雷の顔を見るなり……と言っても薄暗くてろくに相手の顔も見えないのだが、「はっ、コン、コンコン!」と驚いたように奇声を発する。
雷「どうかしましたか」
黒井「あ、いえ、あまりにお美しい刑事さんだから……」
雷「ええっ、そんなことないですよ! やだな」
お世辞に弱い雷はくすぐったそうな笑みを浮かべつつ、黒井の肩をポンと叩く。黒井は「危ないーっ!」と叫びながら画面外へ吹っ飛ばされる。

黒井「お世辞じゃありません、私、美しさに対する審美眼は人一倍なんです! 美とはすなわち、この世の奇跡なんです」
雷「美が奇跡?」
黒井「でも、奇跡の時は永続しない……だから私は昆虫や動物たちの一番美しい姿をとどょめて(註1)おくためにこうして標本作りをするのです!」
木箱に入った美しい蝶の標本を手に、熱弁を振るう黒井。
(註1……噛んだ)
それにしても、黒井の家の内部、どうしてこんな暗い照明にしてるのだろうか? 単に撮影上の都合か、今回は後に猟奇的な事件が発覚して、サイコサスペンス風のオチになるので、それに合わせているのか。
どっちにしても、キャプしにくいったらありゃしない。
岡野「マダム、吉田さんのことをもう一度お聞かせ願えませんか?」
黒井「こりゃまた失礼、あの吉田とか言う男、私に何か取材したかったらしく、何日も前から電話をしてきていたんです。そして一方的に今日の一時を指定して……私はマスコミと名の付く連中は大嫌いなんです」
黒井は、押し掛けてきた吉田を追い払ったが、その直後、神崎家から悲鳴が上がった為、急いで神崎家に踏み込むと、そこに神崎の死体にナイフを突き立てている吉田の姿を見たと言うのだ。
雷「吉田さんは一体何の取材で、あなたのところに来たんですか」
黒井「それが、全く思い当たる節がないのです」

二人は一旦警視庁に戻る。
岡野は頭から吉田が犯人だと決め付け、さっさと事件を片付けたがっていたが、雷はいかにも納得いかないと言うように、頬杖を付いて考え込んでいる。
雷「もし黒井さんが嘘をついていたら?」
岡野「黒井さんが犯人だと? 動機は何ですか」
雷「吉田さんだって動機はありませんよ、もしかしたら吉田さんは単に死んでいる神崎さんを発見しただけかも知れないんです」
そこへ、鑑識の柴田が吉田が取材しながら撮影していたビデオテープを持ってやってくる。
二人はそこにあるビデオで、何が映っているか見てみることにする。

吉田「すいません、黒井さんでいらっしゃいますか?」
神崎「……」
吉田「あ、ありがとうございます」
吉田はまず、隣の神崎家に近付き、窓越しに神崎に訊いていた。
神崎は、無言で体を動かして左手で黒井の家を指差す。
吉田は言われたその家を訪問するが、出て来た黒井は「黒井さんの家はあっちだ」と言い、強引に吉田を追い払ってしまう。
その際、二人が揉み合ったせいで、吉田はビデオカメラを落としてしまった為、映像はそこで途切れていて、その後、実際に何が起きたのかは憶測の域を出ない。
話の流れとして、吉田が神崎をそんな短時間で刺し殺すような状況にはなり得ないと思うのだが、岡野は逆にますます吉田犯人説に傾く。
岡野「神崎さんの立ってる姿がバッチリ、ビデオに映ってますよ。死んでる人間は立てませんからね」
雷「死んでいる人間は立てない……」
雷は、柴田に、神崎の遺体を解剖する際、UACなる防腐剤が検出されるかも知れないので注意して欲しいと頼む。それは、雷が黒井の家で目にした、標本を作る時などに使われる特殊な薬品であった。
今回は、いつもとちょっと構成が違い、CMの前に、早くも雷が真犯人を割り出し、糾弾するシーンとなる。
無論、他に登場人物はいないので、雷が「神崎さんを殺したのはあなたです」と決まり文句を向けた相手は、黒井ばらであった。
黒井「何を根拠にそんな恐ろしい言葉が可愛いらしい刑事さんのお口から飛び出すのかしら」
雷「吉田さんのビデオに映っていた神崎さんはあの時既に死んでいた。つまり死体が立っていたんです。すべては吉田さんに罪を着せる為に仕込まれた巧妙な罠だったんです」
岡野「そんなこと可能なのかぁ?」
雷「いわゆる弁慶の立ち往生、死後硬直の中でも、死亡の直後に起こる強硬性死体硬直を起こせれば人は立ったまま死ぬことが出来るのです」
黒井「次から次へと恐ろしい言葉が飛び出すお口だこと」
雷「あなたは神崎さんに何らかの理由で殺意を持った。そして吉田さんが取材に来る時間を見計らって神崎さんを殺したんです!」
雷は、黒井がUACを注射器で神崎の延髄にぶすりと突き刺して殺し、

その遺体を、左手を伸ばして何かを指し示しているような形にしてから回転テーブルの上に乗せ、吉田が来た時にテーブルを回転させて、あたかも神崎が生きていて、黒井の家を指差したように偽装したのだと推理する。
しかし、今回の事件、吉田がまず最初に神崎家を訪ねてくれたから黒井のトリックも成立しているのだが、どうして黒井には前もって吉田がそんな行動を取ると言うことが分かったのだろう?
また、黒井は神崎の死体の乗ったテーブルを動かした後、急いで吉田に見えないように自宅に戻らなくてはいけないのだが、そのルートについても言及がされていない。
その辺が、今回のトリックの欠点である。
黒井「1000歩譲ってあなたの推理が正しいとしましょう、刑事さん、でも神崎さんの死因は刺殺なんです。ビデオに映っていた神崎さんの胸にナイフは刺さっていたのかしら?」
黒井はトリックを暴かれても余裕綽々で、雷の重大な見落としをさらりと指摘する。

雷「そ、それは……吉田さんのビデオで、あなたは彼を執拗に神崎さんの家に行かせようとしていました」
黒井「はっはっはっはっ、私のマスコミ嫌いはあなたが一番よく御存知の筈よ」
雷「それだけではない筈です、きっと何か仕掛けがある筈です……」
黒井「筈で、逮捕できるのなら、警察は要らないわね」
雷「……」
迂闊にも神崎の死因のことをすっかり忘れていた雷、犯人の目の前でケータイ刑事らしからぬ醜態を晒してしまう。かつてない屈辱に、ぎゅっと唇を噛む。
岡野「そうだよ、銭形君、今日は帰りましょう」
岡野、雷の腕を引っ張るようにして黒井家から退散する。
岡野「名誉毀損で訴えられたらどうするんだ。残念ながらね、今回ばかりは君の推理も的外れ」
雷「ちょっと待って下さい、あと、一押しなんです!」
岡野「じゃ、私は先に帰るから、君はバスで戻ってらっしゃい」
岡野が立ち去った直後、雷のケータイに柴田からの着信が入る。
柴田「出ました、神崎の体内からUAC!」
雷「やっぱり……よどむ、悪の天気」
UACと、刺殺トリックとの関連はないのだが、何故かCM後には、雷がそのトリックを見破って、黒井自身の体を借りてそれを再現してみせる。
謎を解く鍵は、雷が見た神崎家で見た釣り糸だった。黒井は、死体とドアノブを釣り糸で結んでおいて、吉田が神崎家のドアを開けると同時に死体が引っ張られて倒れ、床に置いてあったナイフが神崎の胸に突き刺さり、それが致命傷となったのだ。
つまり、黒井が神崎にUACを注射した時点では神崎はまだ仮死状態だったのだ……。
仮死状態なのに死後硬直? ま、いいか。
「ケータイ刑事」シリーズを楽しむ際には、「突っ込んだら負け」と言うモットーを傍らに置いて鑑賞すべきなのである。
普段なら、ここで雷がお仕置きを発動させて犯人の自白→逮捕→事件解決となるのだが、さっきも言ったように今回はいつもと構成が異なり、雷がお仕置きをしようとケータイをかざした瞬間、黒井が素早く睡眠スプレーのようなものを雷の顔に吹き付け、雷を眠らせてしまう。
黒井は雷の体を抱えて、何処かへ連れて行く……。

一足先に警視庁に戻った岡野は、吉田が追いかけていた事件が「赤坂山中連続美女失踪事件」だったと、柴田から聞かされる。
岡野「富士見署にいた頃、マツが追ってたなぁ。確か未解決のままだぞ」
柴田「そうです、そして、この4人の若い美女が赤坂山中で……」
岡野「赤坂山中?」
柴田「吉田容疑者はこの4人にある共通点があることを見付けてるんですよ」
岡野「それが黒井だと?」
柴田は、吉田の取材ノートを岡野に見せ、被害者が黒井の大学の教え子であったり、行きつけの喫茶店の店員であったり、4人が4人とも、何らかの形で黒井と接点を持っていたことを説明する。

岡野「黒井が誘拐したのか?」
柴田「吉田はそれ以上のことを予測しています。みんな、剥製にされてるんじゃないかって……」
岡野「……!」
その瞬間、岡野は、黒井が雷と会った時、雷のことをしきりに「美しい」と賛美していたことを思い出し、愕然とする。
この辺は、なんか本格的なサイコサスペンスの山場っぽくて盛り上がるのだが、他方で、一介のビデオジャーナリストに過ぎない吉田がそこまで事件の真相に迫っていたというのに、なんで本職の刑事たちは全く黒井の存在に気付いていなかったのだろうという疑問が湧く。

一方、雷はほどなく目を覚ますが、

手足を縛られ、口にはバンダナを巻かれ、薄暗い地下室のようなところに監禁されていることを知る。

黒井「さすが名門、銭形家のお嬢さん、見事な推理だったわ。誉めて差し上げましょう」
そばには、殺人鬼の本性を剥き出しにした黒井が不気味な笑みを湛えて立っていた。
しかも、部屋の中にはいくつもの若い女性の剥製らしきものが立っているではないか。

黒井「可愛らしい刑事さん、この子たちは幸せよ、こうして一生、奇跡のような美しい姿でいられるんですもの……あなたも仲間に入れてあげるから」
黒井、想像以上にイカれた女で、目を付けた美しい女性を次々と殺してはそのまま姿の剥製にして自分の美のコレクションに加えていたのだ。

無論、それらは生身の女優さんが頑張って静止しているだけなのだが、それぞれケータイ刑事関連のグッズを持たされているのが、この陰惨なムードをちょっとだけ緩和している(ような気がする)。
雷「……!」
雷、自分も彼女たちの仲間入りをさせられるのかと、思わず声にならない悲鳴を上げる。
黒井、躊躇なく雷にもUACを注射しようと迫り、雷はなんとか逃れようと不自由な体でもがく。
雷にとって、最も恐怖に満ちた瞬間であり、最大のピンチであった。
だがその時、上の方から岡野の雷を呼ぶ声や、ドアを叩く音が聞こえてくる。
岡野と柴田が、なかなか帰ってこない雷を心配して駆けつけて来たのだ。
黒井は最初は無視を決め込んでいたが、あまりにしつこい物音に我慢できず、仕方なく1階に上がり、二人を家の中に通す。

岡野は、地下室から聞こえてくる一定の間隔で聞こえてくる音に耳を澄まし、「謎は解けたよ、ワトソン君!」と、それが雷が出しているモールス信号だと気付く。
地下室への扉が発見されると、黒井はさっさと逃げ出す。岡野は柴田に彼女を追いかけさせると、自分は地下室へ降りる。

岡野「ああ、やっぱり剥製に……」
同じポーズを取り続けている女優さんたち、
疲れたのか、このシーンではかなり目立つほど、ぐらぐら体が揺れている。

雷「銭形君っ、くっはっ、済まない、こんな姿になって……」
岡野、雷と間違えて、同じ制服を来た女子高生の剥製に縋りついて嘆く。お約束ですね。
でも、この制服の女の子はなかなか可愛い。暗いところでしか見れないのが残念だ。
その後は、事細かに説明する必要はあるまい。岡野に助けられた雷は、山道を逃げ回っていた黒井にお仕置きをして捕まえる。

岡野「この女は連続誘拐殺人事件の犯人でもあったんだ」
雷「黒井さん、その事実を神崎さんに知られたのが、殺害の動機ですか」
黒井「どこまでも小賢しい刑事さんねぇ。美しいものを美しいまま、永遠のものとする、そう言う美学が理解できない、愚かな民が多過ぎるのよ、この世は」
雷「自らの美学が人の命を奪う……その恐ろしさを理解しないことの方かよっぽど愚かではないですか?」 ラスト、東京へ引き揚げながら、「岡野さんは命の恩人です」と心から感謝する雷。
もっとも、今回も岡野はモールス信号を聞き間違えていて、実際は「早く助けて」と言う内容だったのだが。
それにしても、色々と突っ込みどころはあるが、これほど猟奇的な事件は「ケータイ刑事」シリーズでも随一だろう。脚本を、ホラー作品の監督で知られる豊島圭介氏が担当しているせいだろうが、あの剥製の陳列は、BSだからこそ可能な表現だったろうなぁ。