第41話「母の願い 真冬の桜吹雪!」(1974年1月11日)
冒頭、ZATのモニターに、はるか彼方の宇宙空間で複数の惑星が同時に爆発する華麗な天体ショーが映し出されている。息を凝らしてそれに見入っている隊員たち。

森山「大熊座の小宇宙、M81です」
光太郎「すると、地球から約1000万光年の彼方か」
荒垣「宇宙に異変が起きた時は、どんな奴が紛れ込んでくるか分かったモンじゃない。しばらくは緊急警戒態勢を取る!」
映像を見終わった荒垣、隊員たちにきびきびと命令を下す。
なんとなく、森山隊員の髪が長くなってる気がするのだが?
しかし、「小宇宙」ってなんなんだろう?
それと、1000万光年離れた場所での異変が、無数にある惑星の中からわざわざ地球を選んで、しかもほとんど間を置かずに到達すると言うのは、まずありえないことのように思えた……のだが、案の定、それがソッコーで到達しちゃうのだから、うーんリンダ困っちゃうのである。
とにかく、M81系から飛び出したあるエネルギー体は、ZATの監視網をかいくぐり、とある病院の向かいにあるコンクリート壁の中に潜り込むのだった。

さて、翌日、たくさんの子供たちがその壁の前に立ち、思い思いにチョークで落書きをしていた。
子供「おい、それ、何の絵?」
正博「見りゃ分かるだろう、今年は寅年だから、虎だよ」
子供「嘘だろー、おい、みんな来て見ろよ、この絵が虎だってさー」
子供「えー、猫だろう、正博ちゃん」
正博「違うよー、虎だったらー」
今回の主役である正博少年は繰り返し言い張るが、子供たちはさんざんその絵を嘲笑すると「正博ちゃん、図画の成績1だもん、しょーがないよなー」などと言いながら向こうへ行ってしまう。

もっとも、その後、正博少年は自分の絵をしげしげと見直して、

正博「ほんとだー、猫にしか見えねえやー」
と、自分でそう認めてしまうと言うオチがつくのだった。
でも、虎に見えるか猫に見えるかは別にして、なかなか味わいのある絵ではある。
正博少年を演じるのは「ウルトラマンレオ」などにも出ている高橋仁さん。他にも70年代のドラマには色々出られていると思う。

正博「チェッ、俺ってどうして絵が下手なんだろうなー」
つまらなさそうにつぶやいて壁から一歩離れて他の子供たちの絵を眺めていた正博だったが、ふと、壁に奇妙な形をしたシミのような影があることに気付き、また子供たちを呼び集める。
正博「このシミ、なんだか怪獣の絵みたいじゃないか」
子供「怪獣? 見えないよー」

正博は、チョークでそのシミの輪郭をなぞり、目玉などを書き加え、他の子供たちを納得させようとする。
子供「うん、なんとなく見えてきた」
調子に乗った正博は、全体を青色で塗りたくって、完全な怪獣の姿に仕上げる。
無論、それは、昨夜、M81から飛来して壁の中に入り込んだ謎の生命体であった。

が、そこへ塀の家の住人である毛皮で重武装したおばさんが現れ、子供たちの前に仁王立ちする。

他の子供たちはパッと距離を取るが、逃げ遅れた正博はおばさんに捕まり、折檻される。
おばさん「ちゃんと落書きを消しますか?」
正博「や、やだよー、折角傑作が出来たのにー」
おばさんを演じるのは、後期ウルトラシリーズにちょいちょい出てくる五月晴子さん。
おばさん「さ、消しますか、どうだ、坊主」
正博はなんとかおばさんの手を逃れ、彼女のことを「怪獣マ(ナ?)マゲラス」などと罵りつつ、他の子供たちと一緒に走り去る。

正博「母ちゃん、僕、今、怪獣と戦ってきちゃったー! ほんとだぜ、僕が怪獣の絵を描いていたら、こんな顔した本物の怪獣、ママゲラスが現れたんだ!」
その正博、向かいの病院の一室に息を弾ませ、駆け込むと、ベッドに寝ている血色の悪い女性……母親である泉山夫人(北川恭子)に報告する。
母親「正博、あんまり悪戯しちゃダメよ……」
正博「分かってるよー。今日は上手く描けたんだけどなー」
正博、窓を開けて、さっき自分の描いた怪獣の絵を見下ろす。

正博「ねえ、母ちゃん、見てよー、僕の怪獣、ゴンゴロス」
母親「……」
正博、母親にも見せようとするが、いかにも元気のない母親は無言で首を小さく横に振るのみ。
正博「そうかー、やっぱり母ちゃんも怪獣よりタロウの方が好きかー」
母親「母ちゃんの好きなのはね……
現金! それと
若くてイキのいい男!」
正博「……」
じゃなくて、
母親「好きなのはね、お花……」
正博「花ぁ?」
母親「桃や、桜や、菜の花……来年はもう見られないかもしれないわね」
正博「母ちゃん、母ちゃん!」
そんな心細いことを言って静かに目を閉じる母親に、正博は思わず大声で呼びかける。
その後、しょんぼりと病院の玄関から出て来た正博。
母親の願いをかなえてやりたいが、今は冬……、街路の木々も寒々しく痩せた枝を並べて震えている。

正博、仕方なく友人たちと一緒に近くの花屋へ行くが、
正博「これ、いくら?」
店員「大サービスするわ、300円!」
正博「300円?」
正博はポケットの中に手を突っ込んで出すが、手の平には合計100円にも満たない硬貨があるだけだった。
ちなみにこの店員さん、なかなか肉感的なボディで色っぽいのだ。ミニスカだし。
正博「さいならー」
子供「正博ちゃん、どうしたのー?」
と、正博は急に何か思いついたように、その硬貨を友達のひとりに握らせて、赤いチョークをたくさん買って、さっきの塀のところまで来て欲しいと頼み、自分はみんなを引き連れ、先にその塀に向かって駆け出す。
当時は、たった80円でも、かなりの数のチョークが買えたんだろうね。

正博が考えたのは、本物の花の代わりにたくさんの桜の絵をあの壁一杯に描くことだった。
友人たちも手伝ってくれて、夕方には、近所の人や道行く人が見物に集まるほど立派な桜並木が出来上がった。
正博「この花盛りを見れば、きっと母ちゃんも元気を取り戻すぞ!」
と、再びさっきの毛皮おばさんが現れ、正博たちを叱り飛ばす。
そのおばさんも、桜の絵を見て「うーん、なかなか奇麗だわ」とつい感心してしまう。
もっとも、桜の木に追いやられるようにして端っこに描いてある怪獣の絵に目を止めると、「こっちはいやらしいわねえ」と、不愉快そうにその絵を蹴る。
すると、怪獣の目がピカッと光ったように見え、おばさんは一瞬ギョッとする。
おばさん「錯覚かしら……とにかく明日は子供たちを捕まえて消させなくちゃ!」

翌朝、そっと母親の病室へ入ってきた正博、まだ眠っている母親をベッドごと窓際に押し付ける。
正博「母ちゃん、ねえ、外を見てよ! ねえ、早くぅ」
母親「なに?」
正博、母親を揺り動かして強引にベッドの上に起き上がらせる。
昨日よりも病勢が進んでいることを表現したいのか、前のシーンより明らかに顔色が白くなっている母親。
しかし……、

さすがにこれは、
白く塗り過ぎなのでは? これじゃあ、病人メイクじゃなくて、死人メイクだよ。
もっとも、母親は窓越しに、壁一面の満開の「桜」を目の当たりにして、思わず嬉し涙を滲ませる。
無論、その絵そのものではなく、そんなことをしてくれる息子の思いやりと優しさに感動しているのだ。

一方、あのおばさんも朝から塀の前に立って、太い木の棒を持って正博たちがやってくるのを鼻息荒く待ち構えていたが、その時、背後の怪獣ゴンゴロスの目が妖しく光る。
異様な気配にハッとして振り向くが、絵には何の変化もない。
おばさん「気のせいかしら……」
気のせいではなかった。
おばさんが怪訝な顔でもう一度見遣ると、

俄かに絵が立体的になって、分厚いレリーフのように壁の表面に浮き上がってきたではないか。
しかも、心臓に当たる部分がどくどくと力強く脈打っている。
おばさん「うぉーっ、怪獣!」
おばさんがたまげて棒で絵を叩くが、その途端、絵は壁から抜け出して完全に実体化し、しかもあっという間に巨大化して、おばさんを木の上までふっ飛ばしてしまう。
後編に続く。