第15話「悪魔博士の実験室」(1980年7月9日)
ひとつ前の14話は、チーフと呼ばれるイトウ(大門正明)が初登場するエピソードなのだが、
特に面白くないのでスルーさせて貰った。
イトウはまぁ、「ウルトラマンタロウ」における荒垣副長のようなサブリーダーと言う位置付けである。
さて、冒頭、6ヶ月の宇宙巡航を終えて、UGMのスペースマミーが地球に帰還してくる。
その船にはUGMの広報班に所属するセラと言う小太りの男性も乗っていた。
セラも、この15話から登場する新キャラクターである。
つまり、学園編を彩った京子先生やファッション、ノンちゃんなどの奇麗どころを削る代わりに、
むさいおっさん二人が突っ込まれた訳である……。
当時のスタッフ(P)に言いたい。
君らはバカか? もっとも、ノンちゃんはほぼ同じ役で少し後に再登場することになるのだが。

UGMのスペースポートに着艦するスペースマミー。いつもながら、素晴らしい手作りの特撮である。
セラは真っ直ぐ司令室へ行き、帰還報告をするが、その手には妙なお土産がぶらさがっていた。四角いケースに入った、小さな宇宙生物である。

エミ「可愛いー」
セラ「ひどく弱ってるんです、何とか助けて欲しいんです」
イトウ「セラ、軽率だぞ、宇宙には危険な生物が一杯いるんだ」
ハラダ「怪獣の子だったらどうする気だ」
イトウ「すぐに宇宙に戻すんだな」
だが、心優しい猛は「巣から落ちた雀の子を見殺しにするような」ものだと、そのまま宇宙に放り出すのには反対する。
一目見てそのか弱い生き物に心を惹かれたエミも、「宇宙生物だって生き物です!」と、オオヤマのところへ行き、助けを求める。

エミ「キャップ、助けて下さい!」
オオヤマ「城野隊員のお父さんに、一度見て貰ったらどうかな?」
猛「城野博士は宇宙生物学の権威だから……」
ロマンスグレー・オオヤマは、エミの父親でもある城野博士にその生物の分析をお願いしてみたら……と、穏当な提案をする。

猛とエミ、セラは、早速その生物を連れて城野博士の勤める研究所へ向かう。
で、その城野博士を演じているのがウルトラシリーズにはなくてはならぬ、佐原健二さんなのである!
城野「うん、間違いない、これはミューだよ。だが心配は要らんよ、ミューはそれほど大きくならないし、大人しい生き物だ」
城野博士のお墨付きを貰って、エミたちはおおっぴらにミューを看病できるようになる。
だが、ちょうどその時部屋に入ってきた研究者が、ミューの姿を見るや、たちまち目を輝かせてケースを持ち上げる。

中川「これは、ミューですね。へっへっ、博士、これを私の例の実験に使わせて下さい」
エミ「実験?」
中川「ええ、ある薬品と電気的刺激によって宇宙生物を巨大化し、家畜化する実験なんです。もしこの実験が成功すれば、石油や原子力以上のエネルギーを我々人類はうることになるんですよ」
その研究者、中川博士を演じるのはスーパーギルーク! でお馴染みの山本昌平さん。
しかし、イイモンが佐原さんで、ワルモンが山本さんって、いくらなんでも分かり易過ぎるキャスティングだね。タイトルにある悪魔博士と言うのは、勿論、この中川博士を指しているのだが、ここは、実は禁断の実験(後述)を行ったのは中川でなく、城野、つまりエミの父親だったと言うどんでん返しがあったら、ストーリーに親子の葛藤と言う要素が加味されて、よりドラマとして深みが増していたことだろう。

中川「そうすれば、超高層ビルを建てるのに起重機も要らない、船や汽車の代わりに物を運ぶことだって出来るんですよ!」
うっとりとした目付きで、家畜化された怪獣がビルをおったてているビジョンを思い描く中川博士。
……しかし、物を運ぶ程度ならともかく、精密な作業が求められる高層ビルの建築は、怪獣にはちょっと無理なんじゃないかなぁ、と。餌やウンコの問題もあるし。
猛やエミは、ミューをそんな実験に供されるのには反対だったが、彼らが声をあげるまでもなく、上司の城野博士が中川の提案を、薬品による副作用などの問題があると、あっさり却下する。
中川もその場は「どうも失礼しました」と一礼して退室するが、いかにも諦めきれない様子だった。
さて、その後、三人は研究所の中庭の芝生に座り込んで、ミューに餌を食べさせようと努力していた。

セラ「どうしたんだよ、ほら、もっと口開けて」
エミ「駄目よ、そんな無理矢理に……震えてるわ、寒いのかしら」
エミの言葉を受けて、セラは近くを歩いていた所員からガスバーナーを借りてくる。
管理人は、このシーンを見て、
「エミ隊員の尻の下の芝生になりたい!」と思いました。

セラは何を思ったか、いきなりそのバーナーの火をミューの鼻先に放射する。
ミュー「ウギャーッ!」
セラ「あれ?」
こうしてミューは一瞬でバーベキューになり、セラはその後、エミ隊員に捻り潰されたそうです。
じゃなくて、
エミ「駄目、火を消して!」
猛「火が怖いんだな……」
いや、至近距離で炎を吹き付けられたら、大概の動物は怖がると思いますが……。
エミは怯えるミューを優しくケースから出すと、赤ちゃんでも抱くように、布でくるんで胸に抱くと、ゆっくりと芝生の上を歩き出す。

エミ「ふーんふふーふんふふーふふー、ふーんふふー……」
そして鼻歌で子守唄のようなリズムを刻みつつ、ミューの体を撫でてやる。
エミの甘く物悲しい歌声とゆりかごに揺られているような律動に包まれているうちに、ミューがすっかり落ち着きを取り戻す。

セラ「大人しくなったよー、びっくりしたなぁ!」
離れた所からその様子を見ていた男子たちも思わず歓声を上げる。
それに、何が嬉しいって、このシチュエーションなら、ミューのことを見ているふりをして、堂々とエミの胸を凝視することが出来るのである!

エミ「子供の頃、亡くなった母から良く聞いた歌なの」
猛「子供って、地球の動物の子も、宇宙の動物の子も、みんなおんなじなんだよね」
エミ「うん、ミューもきっとお母さんのことを思い出してるのね」
エミは甘えるような鳴き声を出すミューを抱いたまま、今度は「宇宙の中の~神秘の森で~♪」と、歌詞付きで歌い出す。
猛はミューの姿(と、その後ろに聳える巨乳)を見つつ、その姿に、故郷を離れてたったひとりで暮らしているウルトラマン80としての自分の境遇を重ね合わせていた。
だが、その夜、研究所に預けられていたミューを中川博士が無断で持ち出し、先程述べていた巨大化実験を行ってしまう。

特殊な薬品を飲まされ、電極から電流を流されたミューはたちまちのうちに人間大のサイズに巨大化する。
しかし、中川博士は「駄目だ、駄目だ、もっと大きくならなきゃ駄目だ!」と、ミューの顔をピシャピシャ叩いて叱咤する。
……いや、これだけでも十分、ノーベル賞モノの成果だと思うんですが。
中川博士はなおも薬品をミューに飲ませようとするが、ミューは窓を突き破って外へ逃げ出してしまう。
翌日、ミュー失踪の知らせを受けた猛たちが研究所周辺で捜索を行う。ただし、中川博士はミューが巨大化していることは明かしていなかった。

林の中をミューを探し回っているエミ隊員。
……それにしても、ほんと、惚れ惚れしますねえ(何が?)
国宝に指定したいくらいです(だから何が?)

ミューは、巨大化したものの、まだ性格は元のままだった。エミの姿に誘い出されるように茂みの中から出てくると、以前のようにエミに甘える仕草を見せる。
この時点で、猛は中川博士の仕業だと気付くべきだったが、ストーリーの都合上、巨大化した訳を城野博士に尋ねている。

城野「いくら大きくなってもミューは体長60センチがいいところだ。なんであんなに急に大きくなったのか」
猛「地球の風土とか、食べ物のせいでしょうか」
城野「いや、そんなことはありえない」
猛「……博士、まさかあの中川さんが実験を?」
遅蒔きながら中川のことに思い当たった猛は、その足で中川博士の研究室へ向かうが、時既に遅し、中川博士は再びミューの巨大化実験を行おうとしていた。
で、今度は中川博士の目論見どおり、ミューはいつも出てくる怪獣サイズにまで一気に巨大化する。

中川「なんだ、この俺が分からないのかーっ! 私はお前の生みの親なんだぞーっ! お前は間違ってる。巨大化しても犬のように大人しい筈なんだ!」
だが、今度は城野博士の恐れていた副作用の影響で、ミューは性格も凶暴なものに変わっていた。
逃げずにその場に残っていた中川博士の悲鳴のような叫び声も届かず、

中川「あ、ああーっ!」
プチ。 あわれ、中川博士はミューの足に踏み潰されてしまう。絵に描いたような因果応報であった。
とにかく、暴れまわるミューを退治すべく、UGMの各戦闘機が出撃し、弱点が火だと言うことで、ファイアーストリームなる武器を撃ちまくる。

しかし、エミは、発射ボタンを押そうとすると、小さかった頃のミューの面影がちらついて、どうしても攻撃できない。
エミ「出来ません、私には出来ません!」
イトウ「城野、攻撃しろ、奴はもう以前のミューじゃない。凶悪な怪獣なんだ」
結局、戦闘機を落とされた猛が80に変身し、ミューの前に立ちはだかる。

今回は、夜間での特撮シーンとなる。
ところどころに見える住宅の常夜灯とか、相変わらず仕事が細かい。

そのうち、ミューの攻撃を受けて不時着していたエミがガレキの中で目を覚まし、「待って、ウルトラマン80、お願い、ミューを殺さないで!」と、サクシウム光線でトドメを刺そうとしていた80に呼びかける。

エミは、恐れ気もなく、荒れ狂うミューの前に立ち、あの子守唄を頬を涙で濡らしながら歌う。

エミの歌声を聞いたミューは、かつてエミと一緒に過ごした幸福な記憶を蘇らせ、俄かに大人しくなって、その場にヤンキー座りで蹲ると、体を左右に揺らしながらなおもエミの歌に聞き入るのだった。
80は、特殊なビームを浴びせてミューを元の姿に戻す。
……そんなことが出来るのなら最初からやれっての。

エミも、ミューは宇宙に帰すべきだということを悟り、何も言わずに80の掌にミューを乗せる。
80は、ミュー優しく手の中に包み込むと、シュワッチと叫んで夜空へ飛び立つ。
結局、ミューがどうなったのかは分からないが、80がミューが平和に暮らしていけるような星か、あるいはウルトラの国の動物園のような施設へ連れて行ったものと思われる。

オオヤマ「宇宙に住んでいるのは我々だけじゃない。我々が宇宙の主人でもない。宇宙を我々の利益のままに動かそうとしてはいけない」
ラスト、司令室でオオヤマが締めの言葉を吐いている。
オオヤマ「今度のことは良い教訓だった」
セラ「ミューを連れてきたのは間違いだったんですね」
オオヤマ「宇宙は我々の想像を遥かに超えて広い、しかし、たったひとつ共通したものがある。
それは……愛ってもんだ」
真面目な顔して思わず吹き出しそうなことをのたまうロマンスグレー・オオヤマ。
オオヤマ「セラ、君がミューを連れてきたのは愛の為だったし(註・本当は興味本位)、一度怪獣になってしまったミューを助けることができたのも愛の力だ!」
と言う訳で、あまり捻りはないが、なかなか清々しい後味の佳作であった。