第12話「美しい転校生」(1980年6月18日)
大変残念なことに、猛が中学教師とUGM隊員とを掛け持ちしていると言う、いわゆる学園編は早くもこの12話で終了してしまうのである。
よって、13話からはごく普通のウルトラシリーズ路線に戻ってしまい、これではこの番組を続ける意味そのものが消滅してしまうことになるのではないかと思う。
このまま1年間続けていれば、この後、どれだけ素晴らしいエピソードが生まれてきたことかと考えると、非常に勿体無い話である。
そう言えばうっかりしていたが、愛しの京子先生なんか、この前の10話が最後の出演だったんだよね。
まったく、返す返すも悔やまれる路線変更であった。
まぁ、過ぎたことをくよくよ嘆いていても仕方ないので、気を取り直して学園編の掉尾を飾るこの12話を紹介することにしよう。

冒頭、学校が終わって帰ろうとしていた博士、ふと、自分の下駄箱の中に手紙が置いてあることに気付く。
博士「……ヒロシくん、明日の休日、1時、青葉公園に来て頂けますか? 学校では言えないことをお話したいの。あなたのことがとても好きなMより……」
そう、それは紛れもなく博士宛のラブレターであった。
博士、思わず周囲を見回してから、いそいそと手紙をポケットにしまう。
だが、博士が去るとすぐ、近くに隠れていた4人の女子生徒がクスクス笑いながら姿を見せる。

ファッション「嬉しそう! でも、掛かるかしら、あの真面目な博士が」
マリ「引っ掛かるってぇ! アレだって男だもん。ねえ、賭けたって良いわよ、アイスクリーム!」
ファッション「じゃあ来ない方にアイスクリーム!」
そう、それはファッションたち無邪気な女の子たちによる残酷ないたずらだったのだ!
おまけに、純真な少年の心を賭けの対象にして喜んでいる悪魔のような連中であった。「許せん!」と言ってお面を被った高橋英樹が斬りかかって来るぞ。
なお、右から二番目の、ファッションよりも確実に奇麗な女の子はマリと言い、1話にも出ているようだ。
演じているのは秋元美智恵さん。
一方、その夜、未確認飛行物体が浅田山付近に落下したと言う情報がUGMに入ってくる。
その物体は浅田山の火口に落ちていたのだが、UGMは隕石だろうと軽く考えて捜索を打ち切る。

さて、翌日、約束の時間の少し前には、ファッションたちも青葉公園にやってきて、植え込みの陰にアンブッシュしていた。
ファッション「だけど、これちょっとやり過ぎじゃない、マリ?」
マリ「いいから、いいから、打ち合わせどおりやるの!」
ここに来て、ファッションがやましさを感じて躊躇する気色を見せるが、計画発案者らしいマリはあくまで実行すると宣言する。

マリ「私が合図したら一斉に博士に襲い掛かる。おどろくわよ~」
各自が持参したモンスターの被り物を手に、楽しそうに段取りを確認するマリ。
いやー、ほんと、可愛いよね。下手すると、今回のヒロイン、ミリーより可愛いかも。
ファッション「来なきゃアイスクリーム、いただきね!」
マリ「うふっ……あ、ファッションの負けみたいよ、ほらっ」
向こうを見ていたマリが、あるものを見付けて仲間に教える。

見れば、精一杯めかしこんだ博士が、少し緊張した足取りでこちらに向かってくるところだった。
……うん、さすがにベルトの位置、高過ぎませんか?
女の子「気取っちゃってー」
ファッション「ほんとー」
マリ「隠れて!」
マリは、他の三人を植え込みの後ろに隠れさせると、自分はマスクを後ろ手に持って、何気ない顔付きでそばの石像のところへ行き、それに背中を預ける。
彼らの計画では、博士がMと言うのがマリだと思って近付いて来たところを、怪物のマスクを被ったファッションたちが奇襲するということになっていたのだが、

マリの姿が博士の視界に入る前に、別の方角から全然見知らぬ女の子が出て来て、博士に声をかけたことで、結局彼女たちの計画は頓挫してしまうことになる。
ミリー「あのう、ちょっと済みませんけど」
神秘的な女の子、ミリー役はジュディ・モーリスと言う外国の方だが、声は加藤早紀子さん……えっ、今調べて初めて知ったけど、「恐竜戦隊コセイドン」のアルタシヤの声もやってたの? と言うことは、アルタシヤの声って全部吹き替えだったの?
うーむ、割とショックだ。
つまり、アルタシヤ役の村野奈々美さんの声を、自分は聞いたことがない……と言うことになるのか。

博士、左右を見渡して他に誰もいないことを確認してから、「うん?」と、自分の顔を指差す。

ミリー「この街でソフトクリーム売ってるとこ、知らない?」
博士(生唾を飲み込む)
ミリー「私、この街初めてなの、案内してくれない?」
博士「はぁ」
ミリー「あーっ、良かった! 私ミリーって言うの、よろしく」
うーむ、こうやって聞くと確かにアルタシヤの声だなぁ……ってキャプじゃ分からんか。
博士「えっ、ミリーさん? M、ミリー?」
ミリー「え、どうかしたの」
博士「ううん、行きましょう!」
博士は、ラブレターの差出人が、このミリーなのかと思い、仲良く腕を組んで歩き出す。

しかし、収まらないのは計画が潰れて馬鹿な目を見たファッションたちであった。

それはともかく、博士は頼まれたとおりアイスクリームショップに彼女を連れて行き、一緒にアイスクリームを舐める。

アイスを舐めるミリーの舌の動きを、
河原崎健三みたいな顔で凝視している博士。
中学生同士だから、このカットバックも春のそよ風のように爽やかだが、仮に博士が20くらい年を重ねていたら、完全な変態である。
博士(夢かなぁ……)
ファッション「あったまに来ちゃう」
マリ「やぁだぁ~」
ファッションたちも、店までついてきて、思いがけず他人のデートを見せ付けられる羽目になる。まさに自業自得である。
二人はその後も公園でブランコに乗ったり、手を繋いで街中を駆け回ったり、夢のような時間を過ごす。

だが、その夜、猛が自宅マンションで仕事をしていると、急に部屋が暗くなり、何処からか女の「ふふふふふ……」と言う嘲るような笑い声が響いてくる。
猛が身構えると、空間から赤いレーザービームが飛んできて猛を焼き殺そうとする。
猛は思い切って窓に突進して、窓ガラスを突き破って部屋から脱出する。
後の展開から考えて、猛を襲ったのはミリーだったと思われる。

で、翌朝、猛は何事もなかったように一人の転校生を連れて教室へ現れる。その転校生こそ、他ならぬミリーであったと言うのが、まさに学園ドラマの王道中の王道的な展開であった。
猛「今日からみんなの仲間になる転校生の青山ミリー君だ。お父さんはアメリカ人、お母さんは日本人、しばらくオランダに行ってたんだ」
ミリー「青山ミリーです。日本には一人でやってきました。どうぞよろしくお願いします」
ミリーは猛に言われて、マリの後ろの席に座る。
当然、ファッションたちは物凄い目付きでミリーを見詰めるが、ミリーはファッションたちのことは知らないので、まるで気にしない。

そして、振り向いた博士に向かって猫のように手を動かすのがめっちゃ可愛いのである!

放課後、帰宅中のミリーの前に、ファッションたち4人がお揃いのジャケット姿で立ち塞がる。
マリ「ちょっとあんた、来て」
ミリー「な、何するの?」
4人は無理矢理ミリーを人気のない場所へ連れて行く。

女の子「私たちのゲーム、邪魔する気ぃ?」
博士「君たち、ミリーに何をするんだ!」
4人は昨日の仕返しに、向こうは全然関知しないのにミリーにいちゃもんをつけようとするが、ちょうどそれを見ていた博士がすぐに飛んできて割って入る。
マリ「別にぃ、ね、博士、どう? これ似合うでしょう」
ファッション「マリんとこの店のちょっと借りたのよ」
女の子「誰かからかってみたくなんのよねー」
ファッションたち、別にグレようとしている訳じゃなくて、グレることに憧れを抱いて、ちょっと背伸びをしているのだろう。そう考えればなかなか可愛い。

博士「メダカは何を着たってメダカさ、金魚にはなれやしない」
マリ「じゃあ私たちがメダカだって言うの?」
博士「そう、とかくメダカは群れたがる。悲しい習性さ、行こう、金魚さん……どけよ!」
博士、いかにも優等生らしい台詞を放つと、なおも通せんぼしようとする4人を語気鋭く退けて、ミリーを連れてさっさと行ってしまう。
バカにされたファッションたちはちょっとやそっとでは腹の虫が収まらないと言った形相になる。
ああ、それにしても、このまま学園編が続いていればこのマリちゃんだってもっと活躍できただろうに……。
その後、猛が学校で、自分の自転車のタイヤに空気を入れていたら、タイヤがもりもり膨れ上がって遂には爆発するという怪事件が発生する。これも、猛を抹殺しようとするミリーの仕業だったのだろう。

そのミリー、近未来的な部屋の中の、カプセル型の座席に座って、上司らしき星人と話している。
分かりにくいが、これはそれを真上から見た図である。
ミリー「矢的猛の正体は予想したとおりのものです。やはり、ゴラの力が必要です」
声「現在、ゴラの状態はどうなってる?」

ミリー「ゴラに異常はありません。卵が孵るまであと75時間です」
声「50時間を切るとゴラの放射能は強くなり、UGMの奴らに勘付かれる恐れがある」
ミリー「分かっております」
ミリーの目の前のスクリーンには、赤く脈動する楕円形の卵の映像が映し出されていた。
これこそ、浅田山の火口に潜んで孵化を待っているゴラなる怪獣の卵なのだ。
つまり、ミリーは、「ウルトラセブン」の「盗まれたウルトラ・アイ」に出て来たマヤのようなキャラクターなのである。わざわざ中学生に扮しているのは、無論、教師をしている猛に近付く為であった。

ゴラの卵が孵化するまでの数十時間、ミリーは引き続き普通の中学生として生活していた。
休日、塾のテストを受けに出掛ける博士を、その母親が励ましながら送り出す。
12話だけの出演だと思うが、博士の母親を名優の草村礼子さんが演じている。
だが、博士は塾へ行くと見せ掛けて、カバンを自宅の塀の中に放って全然違う場所へひた走る。
実はミリーと、駅で会う約束をしていたのだ。
普段の博士からは想像も出来ない行動であった。

ミリー「お母さん、許してくれたの?」
博士「うん、まあね。で、何処行く?」

ミリー「浅田山なんかどうかしら?」
博士「えーっ、浅田山?」
意外な場所をリクエストするミリーであったが、その後、二人の様子は描かれない。ミリーが何の為にそんなところへ行ったのかは、後に猛の台詞で説明される。

一方、息子の「背信」を知った博士の母親が、押し掛けて来て、教頭や猛に抗議する。
母親「進学塾のテストに行くと嘘をついて女の子と浅田山に行くなんて……」
教頭「お母さんの心配はようく分かります。嘘をついて未成年の二人が遠出するなんて全くもってのほかです。はい、はい」
母親「とにかくそのミリーとか言う女の子に会わせて下さい」
だが、猛は母親の要求に対し、はっきりNOと答える。

母親「では先生は、その女の子のああいう行動をお認めになるということですね」
猛「認めてやりたいと思います」
母親「なんですって?」
猛「ヒロシ君にしても、僕はむしろ良くやったと思いますよ」
母親「からかってらっしゃるんですか?」
猛「教師や親に言われるままにひたすら受験勉強に打ち込んできた少年が、年頃になって親にも言えない秘密を持つことがあるんです。そんなとき、ちょっとした躓きで、今、世間を騒がしているような悲劇が生まれてくることがあるんです。家庭内暴力とか、非行とか……これはひとつには、子供の時代を子供らしく正常に育てない結果なんです。子供の成長と共に自然に芽生えるものを無理矢理摘んでしまった結果です。お母さん、ヒロシ君は少年らしく、男らしく成長してるんです。安心して下さい」 いつの間にか、教頭や保護者を前にしても臆せず堂々と自分の意見を言うようになった猛。

ミリー、本来の姿になって、例の通信室に座っている。
ミリー「この我々の地球侵略の計画を中止することは出来ないんでしょうか」
声「何があったのだ?」
ミリー「地球人を愛してしまったの」
声「この計画の中止はお前の死を意味する。忘れてはいないだろうな」
若干唐突な感じも受けるが、ミリーは土壇場になって作戦の中止を要請していた。
博士と過ごしているうちに、博士のことを本気で好きになってしまったのだろうか?
この辺は、最後まで地球人に心を開かなかったマヤの態度とは対照的である。
と、誰も知る筈のないその場所に、足音が近付いて来る。

緊張して身構えるミリーの前に現れたのは、ミリーの敵であり、担任でもある猛であった。
ただ、ここで、ナレーターが「決して発見される筈のないアジトであったが、猛は
超能力で突き止めたのだ!」と、威張って断言しているのは、さすがどうかと思う。
同じ猛が主人公の「仮面ライダー」でも、そこまでいい加減な説明はなかったと思うぞ。
ミリー「先生」
猛「俺は信じたくなかった。まさか君がそうであったとは。おかしなことになぁ、昨日俺は学校で君の事を精一杯庇い、弁護してきた。だが、君が浅田山に行った本当の目的はあの火口の中に潜む、君の仲間の放射能を消す為だった。ヒロシは人の目を誤魔化す為だけに連れてったんだ」
ミリー「違います。ヒロシを好きだから一緒に行ったんです! 嘘じゃありません!」

猛「じゃあそう言う気持ちをもっと大事に出来ないか? 今のまま、ヒロシの良い友達であり続けることは出来ないか?」
猛、なんと、侵略者の女の子に対してまで「教師」として説得を試みようとする。まさに「ウルトラマン先生」である。
ミリー「もう出来ません」
猛「何故だ?」
ミリー「今、我々の宇宙戦士、怪獣ゴラが浅田山の火口で卵の殻を破るのです。狙いは矢的猛ことウルトラマン80、あなたです! 我々のビブロス星が全宇宙を支配する為の第一歩、この地球を我々の基地にする為にあなたがどうしても邪魔なんです!」
猛の提案を拒絶するミリーであったが、今さっき上司に「この計画やめません?」って言ってなかったっけ?
ちょうどその時、遂に卵が割れてゴラが登場する。

ミリーはテレポートして地上へ出ると同時に、アジトを爆破する。
しかし、猛もすかさずテレポートしてミリーを追って来る。

ミリー「ゴラ、ウルトラマン80を倒せ!」
燃え盛る炎をまとったような造型のゴラ、例によって、デザインの割にネーミングがいまいちなのだった。
猛は、やむを得ず80に変身し、ゴラと戦う。
ゴラは、怪獣と言うより、別の惑星のウルトラマンと言った感じのフットワークの軽い戦士であった。

80のビームを、同じようなビームで相殺したり、かなり善戦するが、特にきっかけもないまま最後は80に倒される。

ミリー「ゴラ……」
倒れたゴラはミリーに向かって哀れっぽい鳴き声をひとつ上げて、動かなくなる。
この後、ミリーがどうなったかの説明は一切ない。
事件解決後、博士は港で、ミリーの吹き込んだ別れのメッセージテープを聴いている。
ミリーの声「ヒロシ君、とてもつらいのですが、あなたにさよならをしなければならなくなりました。ほんの短い時間でしたけど、ヒロシ君のお陰で私は楽しい一時を過ごすことが出来ました。私はヒロシ君のことは永遠に忘れません。
中学と言う素晴らしい時代をヒロシ君、思いっきり生きて下さい」

猛「良い奴だったけど、またオランダに帰ることになったんだ。またいつか日本に戻ってくるだろう。その時を楽しみに……博士、気を落とさずに今まで以上にしっかり生きるんだ」
博士「……」
そばには猛もいて、とめどなく涙を流している博士を温かく励ます。
ミリーの最後の言葉には、早過ぎる結末を迎えた学園編の締め括りとして、スタッフから子供たちへのメッセージも込められていたような気がする。
それにしても、ミリーは結局どうなったのだろう。猛に頼まれてテープにメッセージを吹き込んでいるくらいだから、別にマヤのように自殺した訳でも、上司に処刑された訳でもなさそうだ。
自由に想像すれば、猛が、10話に出て来たアルマにでも頼んで、ミリーに新たな生活の場を提供してやったとも考えられる。猛が博士に「いつかまた会える」と約束しているからには、少なくとも無事でいることは確かなのではないだろうか。
さて、このエピソード自体はなかなかの佳作であったが、学園編の最後なのに落語やスーパーの出番がほとんどなかったのがちょっと不憫であった。