第19話「つかの間の幸せ」 作画監督 田中英二・水村十司
前回、伊集院家を飛び出して居酒屋でヤケ酒を飲んでいた紅緒たちが、偶然居合わせた印念中佐たちと些細なことから派手な喧嘩をおっぱじめ、最後は忍や伊集院伯爵まで駆け付けると言う騒ぎになった……と言うシーンからスタート。
紅緒たちにさんざん馬鹿にされた印念中佐たちは歯軋りしながら退散して行く。

忍の直属上司である印念から、たっぷり恨みを買ったとも知らず、一時の勝利を喜ぶ紅緒。
今回は、再びタマプロの水村氏が作画監督を務めているので、アニメーションは急回復している。

ちなみにこちらが前回の紅緒。まるっきり別人である。
忍「では、我々も戻りましょう」
紅緒「ええ……お、おっと、あら、あら?」
笑顔で頷いて歩きかけた紅緒だったが、ここで急に酔いが回ってきて足元がふらつき始める。
紅緒「わらし、どうしたのかしらーっ、あららららら……」
知らず知らずタコ顔になって千鳥足で踊るように足踏みする紅緒を見て、

何故か、忍も同じようなタコ顔になり、調子を会わせるように手拍子を打つ。
この顔、てっきり原作から移しているのかと思って確認したが、見当たらなかった。だいたい、紅緒はともかく、忍は原作の中では滅多にギャグ顔にはならないキャラなんだけどね。

紅緒「わっ、地球が回る!」
遂には目が回って顔から床に突っ込みそうになるが、忍がその体を抱きとめ、広い背中におんぶする。

紅緒「だ、駄目です、こんなの恥ずかしいじゃないですか」
忍「夫が妻を背負うんです、何の恥ずかしいことがありましょう?」

紅緒「妻? 妻? 妻? やだやだ、おろせおろせ! おろせよーっ!」
今回の作画は基本的には上等なのだが、やや安定感に欠けている。
忍の背中で子供のように暴れて騒ぐ紅緒であったが、最後は反り返って柱に頭をぶつけ、無事、失神する。

こうして、澄んだ星空の下、紅緒たち5人が並んで帰っていくという原作の中でも印象的なシーンとなる。
紅緒(ずーっと昔、そっくりこれと同じことがあったみたい……がっしりした広い肩におんぶされて……あれは、お父様? いいえ、違うわ。お父様ではない。誰か、誰か知らない人。私がその逞しい人におぶさる運命だった。誰? 誰なの、その人?) 忍の背中に揺られながら、紅緒は満ち足りた、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
この印象的なモノローグであるが、実は原作にはないのである。
翌朝、小鳥のさえずりを目覚まし時計代わりに目覚めた紅緒は「ふぁーっくわぁーっ」と、大きな欠伸をしてから、ベッドから降り、窓のカーテンを開く。

紅緒「うわーっ、眩しいーっ」
うーん、やっぱり水村氏(や西城氏)の描く紅緒は最高だっ!
自分がこの作品に惹かれたのは、ストーリーの面白さやキャラクター(と声優)の魅力は勿論だが、このタマプロの優れたアニメーションによるところが大きかったのだと再認識されられた。
自分が10年前にブログを始めたのも、特にその部分を世に知らしめたいと言う思いが根底にあったのだ。
閑話休題、

如月「もうお目覚めでございますか、紅緒様」
紅緒「あ? って言うことは、なんだぁ、私、この家に帰ってきちゃったんだ!」
部屋にやってきた如月に言われ、紅緒は、自分がなし崩し的にまた伯爵家に「出戻り」してしまったことを知るのだった。
如月「またこれからよろしくお願いします」
紅緒「はぁ……あっ、いたたたたたた……なんだろう、頭が」
不意に、激しい頭痛を覚える紅緒であったが、柱にぶつけたところがコブになっているのだった。
あるいは、二日酔いの痛みも混ざっていたのかも知れないが。
紅緒「こんな大きなコブ、どうしたんだろう、いつの間に」
忍「え、覚えてないんですか?」
紅緒「あん?」
昨夜の記憶がすっぽり抜けている紅緒が、鏡を見ながら首を捻っていると、いつの間にかやってきた忍が後ろから声をかける。

紅緒「あ、しょっ、少尉!」
忍の顔を見た途端、たちまちこんなに顔になる紅緒が可愛いのである!
……しかし、どうでもいいことだが、
この屋敷、ちょっと傾いてない? 忍「ご機嫌いかがですか、昨日のこと、全く紅緒さんらしいなぁ」
紅緒「え……」
庭に出て、なんとか昨夜のことについて思い出そうとしている紅緒。

紅緒「牛五郎と蘭丸とちょっぴりお酒を飲んだことまではなんとか……」
忍「お酒をちょっぴり?」
突然、忍の身長が伸びているが、実はこれでも原作のひとコマよりは、控え目な表現なのである。
そのコマでは、だいたい忍の腰から下が、紅緒の身長と同じくらいになっていて、忍の足は枠を飛び出して、その下のコマを突き破っているほどなのだ。
忍は、紅緒が印念中佐たちとの乱闘を奇麗さっぱり忘れていると聞かされ、いつものクスクス笑いを漏らす。

その後もあれこれ話していた紅緒であったが、いつの間にか忍が真剣な目で自分を見ているのに気付き、ハッとして口をつぐむ。
忍(そうだ、今日こそ僕の心を紅緒さんに言ってしまおう)「紅緒さん、ずっとあなたに話そうと考えていたことがあるんです……僕は」
紅緒「は……あっ!」
今更という感じもするが、忍が紅緒に愛の告白をしようとした時、

紅緒が上空を編隊飛行しているゴキたちの群れを発見し、目を輝かせる。

紅緒「見て、見て、珍しいわぁ、ゴキブリが集団で飛んでる!」
忍「……」
紅緒「ねえ、珍しいでしょー。……あ、ところで、何のお話でしたっけ?」
忍「……」
タイミングを失った忍、微苦笑を浮かべつつ、首を横に振る。
忍「いずれその話はまた。こういう話はムードが大切ですからね……」
以前、原作で、牛五郎の着物の柄がゴキブリだった時はアニメでは金魚に描きかえられていたが、何故かここでは原作どおり、ゴキブリになっている。
おまけに1カット、ゴキブリのアップまであるのだ……。

紅緒「変な少尉、はっきり言えばいいのに……」
デフォルメが激しい紅緒の顔だが、これは原作の絵を忠実に再現したもの。
その後、忍は軍服に着替え、白馬にまたがって出勤する。
……しかし、どうでもいいことだが、
この屋敷、やっぱり、ちょっと傾いてない? ここで、昨夜の飲み屋の女将が再び登場し、紅緒たちの喧嘩沙汰で壊れた皿などの請求書を持って、陸軍第一師団で勤務している忍のところにやってくる。忍は請求書を受け取るものの、当番兵が間違って忍の作成した作戦計画書と一緒にその請求書を印念のところへ持って行ってしまう。
印念(長髪禁止の我が軍の規則を無視してからに……おまけに純生の日本人でもない癖に神聖なる帝国陸軍にいるのも我慢ならん……なんとかして仕返してやらねば気が済まん……なっ、なにっ、なんじゃこりゃ?)
書類をめくっていた印念、最後に請求書が出てきたので驚き、即座に忍が自分に支払わせるつもりなのだと曲解し、怒りを爆発させる。
この請求書のくだりも、原作にない。
と、同じ師団本部に詰めている花村少佐(紅緒の父)たちの会話が印念の耳に入ってくる。

士官「ほう、ロシア戦線」
花村「うん、我が軍もアメリカと共にシベリアに出兵することになるかもしれん」
ナレ「時は大正7年、日本はシベリア出兵を目前に控えていた……」
渋く落ち着いた花村少佐の声と、やや素っ頓狂なナレーションの声を同じ人がやっているとは到底思えない。
なお、「シベリア出兵」と言うのは、1918年、ロシア革命の混乱に際してアメリカや日本、イギリスなどの連合国がロシアに対して起こした干渉戦争である。
日本は参加国の中でも最大の兵(7万3000)を動員し、1922年まで駐留を続けていたが、数千人の戦死者を出して、ほとんどなんの得るところもなく撤退する羽目になった。
原作は、他にも「米騒動」や「関東大震災」など、歴史上の出来事を巧みにストーリーにリンクさせている。
印念「ロシア出兵か、こいつは利用できそうだぞ……」
第20話「相合傘のお二人は?」 作画監督 永木たつひろ
さて、続く20話は、悪い意味での安定画質を誇る永木氏の作画である。
冒頭から、

顔が歪んだ忍と紅緒がキスをするという奇怪なシーンが出てくる。
これは、伯爵家のメイドたちが嫉妬交じりに想像しているのである。
タイトルにある「相合傘」と言うのは、そのメイドたちが地面に書いた「少尉/紅緒」と言う相合傘を、後から来た蘭丸や牛五郎が書き直す……と言う、どうでもいいようなシーンに由来している。
原作には
まったくないシーンなのだが……。
その後、以前にも出てきたが、忍宛の大量のラブレターを蘭丸(蘭子)が届けに行くと言うシーンになる。

いつもはすべてそのままゴミ箱に捨てさせていた忍だったが、何故か今日はそのうちのひとつだけ取って、なにやら深刻な顔付きで目を通している。
手紙を読み終えた忍は、家の電話から誰かへ……無論、その手紙の送り主であろうが……電話を掛け、明日の3時に会う約束を交わしていた。
忍の様子を探っていた蘭丸は、慌てて紅緒のところへ飛んでいく。

蘭丸「一大事なの、少尉がラブレターの相手と電話でおデートの約束をしたんだから」
紅緒「あら、だって、少尉はラブレターは読まなかったんじゃないの?」
蘭丸「例外が登場したの、しっかりしてよー」

紅緒「それはなんでもない手紙で、相手は男の人かもしれないじゃない」
蘭丸「いいえ、絶対女性よ、私にはピンと来るの。女の直感って外れっこないんだから」
紅緒「女の直感ねえ……」
紅緒はあまり気にしていないようだったが、蘭丸は何か考えがあるらしく、張り切った様子で出て行く。

紅緒(少尉、相手は男の人よね? そうよ、男に決まってるわ)
蘭丸に煽られた形で、残った紅緒の胸にも抑えても抑え切れない不安が渦巻くのだった。
……
ところで、さっきから気になってたんだけど、
尖り過ぎてない? この後、女学校の先生から電話が掛かってきて「少しは学校に来ないと卒業できませんよ」と注意された紅緒が、徹夜で、溜まった宿題を片付けると言う色気のないシーンになるが、これも原作にはない。
今回は、いつにもまして水増し部分が多く、原作消化はたったの7ページ。
もっとも、翌朝、意気込んで学校に行こうとしたら日曜だったのでズッコケてしまう紅緒であった。
で、紅緒、「竹久夢二の新しい絵が出てるかもしれない」と、珍しく盛装してショッピングに出掛ける。

そして、忍の行方を突き止めようとした蘭丸や牛五郎の努力は何だったの? と思わず叫びたくなるが、偶然、忍が芸者の吉次と会っているのを目撃してしまうのである。

紅緒(ウソ、ウソ、少尉が私を裏切るなんて! 信じていたのに!)
紅緒、さすがにショックを受けて立ち尽くす。
で、その顔に影が出来る心理描写は珍しくもないのだが、

更に、左側からいかにも手で描いたと言う様な影が伸びて来て、紅緒の顔を覆い尽くし、

最後は画面全体が真っ暗になるという、斬新な映像表現が使われている。
紅緒は、二人にどう声をかけていいものか悩み、路地で、文字通りジタバタする。

吉次「若様……」
忍「え?」
吉次に呼ばれて振り向く時の忍の顔がこれまたひどい出来で……。
原画の人は、自分で描いてておかしいとは思わなかったのだろうか?
吉次「印念中佐と何か面倒なことでも? この前お呼ばれしたお座敷で……」
吉次は、印念が忍や紅緒のことをあれこれ聞いていたと忍に告げる。

吉次「何かあったんですか」
忍「ええ、少しばかり」
吉次「お気をつけ下さいまし、中佐はあの通り、根に持つお人柄、陸軍省関係にも顔の利くお方ですし……何か取り返しの付かないことでも起こったら……」
忍「まさか、大丈夫ですよ……あなたが心配して下さるのはありがたいけれど」
吉次「若様、もしも、若様に何かあったら、私……申し訳ございません。言ってはならないことでした」
忍「……吉次、ありがとう」
彼らは決してうわついた話をしていた訳ではないのだが、離れたところにいる紅緒には分からず、最後に忍が吉次の方にそっと手を置いたのを見て、二人が愛し合っているのだと誤解してしまう。
……
今回の鋭角な原画だが、アントニオ猪木がバイトでアニメーターをしていたという説もある(註・ない)。

ショックを受けてその場から走り出す紅緒。
なんか、紅緒が悪臭を放ちながら走っているように見えるが、これは紅緒のショックと不安を表現しているのである。
その後もどうでもいいシーンが続き、

ラストは、紅緒の持っている黄色い花が回転するイメージに、ナレーションが被さる。
ここでやめときゃいいものを、

回転する花が、いきなり
銀河系になってしまうのである!
意味が分からん。
多分、描いてる人たちも分かってなかったと思う。
(C)大和和紀・講談社・日本アニメーション