第39話「ウルトラ父子餅つき大作戦!」(1973年12月28日)
前回同様、社会の片隅で震えている恵まれない子供たちに焦点を当てたハートウォーミング、且つ幻想的な名作である。
正月を間近に控え、なんとなく気忙しい雰囲気の街を楽しくパトロールしている光太郎と南原隊員。

南原「師走の風は厳しいぜぇ」
光太郎「師走とは先生が走ると書く。12月はそれほど忙しいってことなんだなぁ。南原さん、知ってますか」
南原「知ってますよー、バカにしちゃいけないよ」
光太郎と南原、年齢が近いせいか、特に仲が良くて、そのやりとりを見ているだけでちょっと心が温まる。
ウルトラシリーズって、意外とこういう人間関係って少ないんだよね。他では「ウルトラセブン」のダンとソガのコンビくらいかな。
と、風で飛んできた銀色の星がぺたりとフロントウィンドウに貼り付く。
二人は車を止めて外へ出て、それが何なのか確かようとする。
光太郎「ああ、クリスマスツリーの飾りの星さ。用済みで捨てられたんだ」

女の子「お兄ちゃん、それ、頂戴、私前から欲しかったのよー」
と、近くにいた女の子が光太郎のそばに来てねだる。
光太郎「いいよ、お星様だ」
女の子「うん、お星様、ありがとうー」

女の子は星を持って、嬉しそうに向こうに駆けて行く。
その女の子、髪は伸び放題のボサボサで、サイズの合わないチャンチャンコのようなものを羽織り、素足に下駄を履いているという、見るからに貧しそうないでたちだった。
光太郎「もうすぐ正月だが、クリスマスも祝えなかった子供はどうするのかなぁ?」
その後姿を見送りながら、光太郎は眉根を寄せてつぶやくが、南原は気楽そうに「なぁに、今の子供は正月なんかなくても平気さっ」と、見当はずれの言葉を返す。
さて、ゴルフの打ちっぱなし練習場の中で、町内会の人たちと思われる一団が、景気良く臼と杵でお餅をついていた。

やがて何処からかぞろぞろと子供たちが集まってきて、物欲しげに餅つきの様子を見詰める。
その中にはさっきの鬼太郎ファッションの女の子も混じっていた。
買い物帰りらしいさおりさんもやってきて、楽しそうに見物する。
ついで、光太郎と南原も通りがかり、さおりさんに合流する。

さおり「お餅つきやってんのよ」
男「さぁ、子供たちは帰って帰って、いくら見てても食べられないよー」
と、リーダー格の男性が迷惑そうに子供たちを追い払おうとする。

園長「どうも失礼しました。なんだみんなこんなところにいたのかい。……あ、どうも」
さおり「こんにちは」
さおりとも顔見知りらしい初老の男性がやってきて、子供たちに声をかけて帰るよう促す。子供たちはいかにもつまらなさそうに、ぞろぞろと向こうへ歩いて行く。

光太郎「さおりさん、あの子たちは」
さおり「すぐ近くにある、はこべ園って言う母子寮の子供たちなのよ」
南原「お父さんのいない子ばっかりなんだね。餅も食べられないって訳だ」
光太郎、後ろの餅つきを見ていたが、急に何か思い出したように目を輝かせる。
光太郎「どうだい、俺たちで餅つきのプレゼントしようじゃないか!」 さおり「そうね、きっと喜ぶわ」
南原「よし、やろう」
光太郎の粋な提案に、善人のさおりさんも南原もすぐに乗り気になる。
こういう、人の善意がストレートに表現されたシーンって好きやわぁ。
だから間違っても、
光太郎「どうだい、あの子たちの目の前でたらふく餅を食ってるところを見せ付けてやったら?」 さおり「そうね、きっと歯軋りして悔しがるわ」
南原「よし、やろう」
などと言う心ない嘘を書く気にはなれない(書いてるけど)。
その日の午後、三人はZATの車のトランクに臼と杵を積んで、意気揚々とはこべ園へ向かっていた。
ZATの車を使っているということは、やはり、荒垣副長にも事情を話して許可を貰っているのだろう。
南原「久しぶりに餅つきだなぁ」
さおり「そうね」
光太郎「餅つきと言えばお月さんだが」
南原「おお、出てる出てる」
窓から空を見上げる光太郎たちのショットにつないで、

車窓を滑るように飛んでいくミニチュアの街並みの向こうに、まん丸なお月様の映像が映し出される。
毎回言ってるが、ミニチュアの出来が実に素晴らしい。
さおり「あー、薄いお月さん」
光太郎「あれが濃くなるまでにほかほか餅を腹いっぱい食べさせてあげるぞ」
車はやがて母子寮に到着する。ZATの車を見て、中庭で遊んでいた子供たちがわらわらと集まってくる。
光太郎「寄るんじゃねえ、見せもんじゃねえんだぞ!」 じゃなくて、

さおり「こんにちは、園長さん、ここでお餅つきさせてください」
園長「それはそれはまことに有り難いことで」
光太郎「ZATからのプレゼントだよ!」
子供たち「わーっ!」
光太郎の言葉に、子供たちは飛び上がって喜ぶ。
しかし、これが「新マン」とかの世界だったら、園長は
「ふん、同情なんてして貰いたくねえだ」と、急に訛りながら、彼らの申し出を断りそうな気がする……。

さおり「これはね、普通のお米と違ってね、もち米って言うのよ」
外の流し場で持参した米をあ洗いながら子供たちに説明しているさおりさん。

女の子「園長さん、お餅、お月様で突くんじゃないのー?」
園長「あん、お月様でも突く、この地球でも突く」
ちなみにこの女の子、11話で不気味な少女かなえを演じていた下野照美さんだよね。

順調にもち米が蒸し上がり、光太郎とさおりさんのペアで、ぺったんぺったんと餅つきが始まる。
だが、その最中、雷鳴のような音と共に、月の表面で黒い物体が動くのが見え、光太郎は一旦手を止める。

光太郎「本部、月の付近に異常はありませんか」
森山「今のところは異常ありません」
残念ながら、森山隊員は今回ZATステーションの中から出て来てくれない。

なんとなく不穏な雰囲気が漂い、光太郎たちは、しばしまん丸なお月様を見上げて黙り込む。
南原隊員は念の為、付近のパトロールに行き、残った光太郎は餅つきの続きを始める。

光太郎が何度か餅を突いた時、空から「ガハハハハハ……」と粗野な笑い声が響く。
驚いて振り向けば、飛行船のようなものにぶら下がって、臼に手足の生えたような怪獣モチロンが降りてくるではないか。
光太郎や園長は、慌てて子供たちを建物の中へ避難させる。

その際、あの鬼太郎少女ともうひとりの男の子がその場に残って、待ち切れずに手掴みで餅を食べ始めるあたりの描写が、実にリアルで鋭いのである。
モチロンはそのまま敷地内に着地すると、光太郎が突いた餅を臼ごと掴んで牙の生えた口に放り込む。

それを見た園長、思わず戦時中の空襲の時のことを思い出しておののく。
今回、要所要所で、こういう記録映像的なモノクロ画像が挿入されるのだが、スタッフは、戦争が終わって30年近くになり、改めて当たり前のように享受している平和の大切さを子供たちに説こうとしているのだろうか?
モチロンは餅を平らげると、臼を吐き出し、再び飛行船にぶら下がって何処かへ飛んで行く。
そして、さっき子供たちが見ていた町内会の餅つきに乱入し、餅をすべて掻っ攫ってしまう。
敢えて画像は貼らないが、モチロンが周囲にネットの張られた練習場に覆い被さり、餅と間違えてゴルフボールを食べて吐き出すと言うシーンが、見事なミニチュアセットで撮られている。
モチロンはさらに、山間部の農村へ舞い降りて、庭先で行われていた餅つきの餅を横取りする。
ここでやっとZATの戦闘機が来て、飛行船を燃やしてモチロンを地上に落とし、猛撃を加える。

しかし、モチロンは口から火を吐いて反撃し、さらに、手足を引っ込めて巨大な臼に変形すると、勢い良く転がって、

手当たり次第に民家を押し潰したり、

たまたま近くを通っていた不運なトラックの運転手を轢き殺したりする。
空と陸からモチロンを追撃していたZATだが、不意にモチロンの姿を見失ってしまう。

荒垣「本部、森山隊員、怪獣が逃げた。レーダーではどの方向になってる?」
森山「隊長(発音が変)、さっきから本部のレーダーには怪獣はキャッチされていません」
荒垣「そんな馬鹿なっ」
CM後、荒垣たちは一旦本部に戻って対策を話し合っている。

荒垣「奴は月から来た怪獣だ。月なら地球と同じ元素で出来ているから宇宙怪獣の反応がないことの説明はつく」
南原「そう言えば、あいつ、臼そっくりだったなぁ」
森山隊員の画像を貼ってるだけでしゃーわせな管理人であった。
……しかし、いくら地球と同じ組成だからって、あれだけでかい物体をレーダーが捕捉出来ないというのはちょっと解せない気もする。
後編に続く。