第39話「流れ流れて馬賊の詩」 作画監督 田中英二・西城隆司
今回も西城・水村両氏が参加しているので、作画はとても良い。
前回の続きから、馬賊の頭目の正体が忍の部下だった鬼島だと分かり、紅緒はその鬼島から忍の「最期」の様子を聞いている。
鬼島「助かりっこねえ、あんなにされて、しかもあの吹雪の中……」
その時のことを思い出し、鬼島は頭を抱えて呻いていたが、それでも、最後の戦場での出来事を簡潔に、ありのままに紅緒に告げる。
鬼島を助けようと戻ってきた忍は、背後からコサック兵に銃剣で刺され、そのまま崖下に転落してしまったのである。
鬼島「何時間経ったのか、俺は少尉殿を探して歩き回った。それから俺は国境を越えた。逃亡兵……あんな良い奴を見殺しにした軍隊に愛想が尽きたからだ。そして俺は馬賊に身を投じた……俺のせいだ、少尉は俺を助ける為に……すまねえ、紅緒さん」
テーブルを拳で叩き、頭を掻き毟って自分を責めるが、

紅緒「いいえ、私は印念中佐を怒らせなければ少尉は死なずに済んだのです、私のせい……」
西城・水村担当回には毎回言ってることだが、それでも言わずにおられない。
両氏の描く紅緒の顔はやはり素晴らしい! このボリュームのある髪も好き。
鬼島「印念? 村にいる駐在武官か」
紅緒「ええ」

鬼島「そうか、あいつが少尉殿を……その上、身代金なんぞ出す気はなし、あんたまで見殺しに……よし、見てろ、世間が狭いことを思い知らせてやるぜ!」
悲しみから一転、鬼島は印念に対する怒りを燃やし、拳を握り締める。
既に深夜だったが、鬼島は部下を引き連れ、印念のいる駐屯地に奇襲を仕掛ける為に出撃する。紅緒も馬にまたがって同行する。
原作には、部下の中に「団結ゾロ」と言う、訳の分からないキャラも混じっている。

が、印念中佐……今は大佐だが……意外と抜け目がなく、鬼島たちの奇襲を予測していた。
印念「緊急命令、直ちに全然、戦闘配置に付かせろ」
部下「はいっ、しかし、何の為でありますか」
印念「分からぬか、身代金を取り損ねた馬賊がこのまま黙って指を咥えていると思うのか? あーっ?」
部下「馬賊たちは怒って必ず仕返しに村を襲う!」
印念「そいつらを待ち伏せして一気に全滅させるんだ。いっけぇーっ!」
印念の命令で、たちまち兵舎の中に勇ましいラッパの音と兵士を叩き起こす怒号、慌しい靴音などが響き渡り、入り乱れ、夜のしじまを引き裂く。
小屋の中に閉じ込められていた牛五郎は、近くを通り掛かった兵隊から馬賊を待ち伏せするのだと聞かされると、自慢の怪力で扉を叩き壊し、脱走する。

印念「馬賊はイチコロだし、また勲章がひとつ増えて本国へ栄転の日も近いぞ」
部下を頤使しながら、印念本人はさっさとパジャマに着替え、眠りに就こうとしていた。
これは原作どおりなのだが、しかし、自分で馬賊の襲来を予見しながら、全部部下に任せて寝てしまうと言うのはさすがに変である。
原作だと、馬賊の襲撃を予測して待ち伏せなどさせていないから、自然なのだが。

印念「おっといけない、武士のたしなみ、これでよし、これで美しいカールが保てるんだ。美容には気をつけねば」
印念、その顔でナルシストなのか、就寝前、自慢の口髭に黒い布を被せることさえしていた。
原作ではマスクと書かれているが、ここはカーラーでも巻いた方が分かりやすかったかな。

印念「危険な戦闘は部下たちに任せてと……君子あやうきに近寄らず」
可愛らしい、狸とも猫ともドラえもんともつかぬぬいぐるみを抱いてベッドに入る印念。
ま、これはパンダのつもりなのだろう。原作では、壁にパンダの絵は飾ってあるが、ぬいぐるみまでは抱いていない。
また、同じく原作では、すぐ紅緒が幽霊に化けて部屋に現れるのだが、アニメではその前に鬼島たちが駐屯地に近付くシーンが描かれる。
鬼島、駐屯地が見えるところまで接近したところで、全軍を停止させる。
紅緒「どうしたの」
鬼島「少し様子がおかしいゼ、静か過ぎる」
鬼島も、歴戦の軍人であり、馬賊である。待ち伏せの気配を察すると、馬を降り、地面に腹這いになって匍匐全身で移動を開始する。

兵士「帰れ帰れ」
牛五郎「てめえ生国と発しますは関東にござんす、関東と申しましてもひろうござんす……」
と、同じ頃、牢を破った牛五郎が、清水次郎長みたいな格好で、塹壕で機関銃を構えて待ち伏せしていた兵士たちに話しかけ、一方的に訳の分からないことをまくしたてていた。
無論、これは原作にはない。

兵士「そんなことしちゃ駄目、そんなことしちゃ駄目」
牛五郎「何を抜かしてやがんだ、このオネンネ野郎!」
牛五郎の異様な風体と口上に気圧された兵士たちは、機関銃を投げ捨てられたり、TNTと書かれた火薬箱を投げられたり、やりたい放題に暴れられる。
その隙に、馬賊たちは無傷で塹壕を突破し、鬼島は、牛五郎に銃を向けていた兵士の後頭部を棒っきれで殴って気絶させる。
紅緒は、牛五郎と手と手を取って飛び跳ねながら喜びを表現する。

紅緒「良かった、良かった、牛五郎ーっ! うふふっ」
牛五郎「いやーっ、馬賊と言えど、女性に対する趣味も好みもあったんですなぁ」
紅緒「むっ、その一言が死を招く!」

紅緒が牛五郎の余計な一言に強烈なビンタを喰らわすのを、呆気に取られて見ている鬼島。
このやりとり、原作では、牛五郎が印念を倒した後のシーンで出てくる。

鬼島「おい、牛五郎さんとやら、それにしてもこれはどうしたって言うんだ? いつもの警備より厳しいじゃねえか」
牛五郎「いや、あの、そのことね、印念の差し金で罠を仕掛けて馬賊を皆殺しにしようってんでさぁ」
紅緒「まぁ、汚い奴」
鬼島「この礼はたっぷりさせて貰うぜ!」

しばらく後、何も知らずに熟睡していた印念、ふと何かの気配に気付いて目を覚ます。

見れば、窓が開いて風が吹き込み、カーテンが波のようにはためいているではないか。

窓を閉めようと立ち上がった印念だったが、窓の前に白いベールを被った人間のようなものが立っているのに気付き、びっくり仰天する。
印念「だ、誰だ?」
紅緒「ただいま午前4時の時報をお知らせします、暁時、つまりこの世とあの世の波長がいちばぁん一致する時刻……」

紅緒「うう、うらめしや~」
印念に近付いてから、くるっと一回転すると、ほつれ髪を噛んだ古典的な幽霊の姿になる。
印念「だああはああああーーーっ!」 「トムとジェリー」で、足の上にアイロンを落とされた時のトムのような顔で絶叫する印念。

紅緒「馬賊に殺されて地縛霊になってしまったのぉ~」
印念「気味わりぃ、あっちいけーっ!」
紅緒「あーら、そんなこと言わないでぇ」
タレ目の幽霊になって印念にまとわりつく紅緒。
印念「あっち行けと言うのに……」
部屋の中を逃げ惑いながら、印念が夢中で手を振っていると、それが偶然、紅緒のまとっていたシーツを取り払ってしまう。

印念「貴様ーっ!」
紅緒「ふっふーん、バレてしまっては仕方ないのだ、明智君!」
大和先生の好きな「怪人二十面相」ネタが炸裂する。これは原作そのまま。
印念「き、貴様、しぶとくもまだ生きておったのか」
紅緒「おあいにくさま、べーっだ、誰が死ぬもんか。生きて日本に帰ってあなたのことマスコミで大々的に取り上げることにしますからね!」

印念「いやぁ、わしが悪かった、許して頂戴」
紅緒「ふん、今更泣き言言ったって!」
印念「いや、本当に悪かった。ボクと結婚してください……と言うのは真っ赤な嘘だ!」
白々しい詫び言を並べながら、どさくさ紛れに紅緒に求婚した印念だったが、その間に密かに背後の机の抽斗からピストルを取り出し、素早く紅緒に突きつける。
紅緒「うわーっ、ずるい!」 ギャグ顔になってのけぞる紅緒。
ここでは、よこざわけいこさんの可愛い声……分かりやすく言うと昔のドラミちゃんっぽい声が聞ける。
考えたら、印念と紅緒って、スネ夫とドラミちゃんの組み合わせなんだよね。
印念「こうなったら改めて殺しやる」
紅緒「少尉、助けてーっ!」
この作品では珍しく、CMの前後で、このシーンが二回繰り返されている。
そして、アニメも原作も、このタイミングで鬼島が攻撃を仕掛けてくる。
印念たちの部屋にも爆風が雪崩れ込み、そのショックで印念はぶっ倒れ、紅緒にピストルを取られてしまう。

印念「よくもやりおったな、この、俺の地位、俺の立場、俺の建前、全て粉々~」
部屋もめちゃくちゃに壊され、印念は床を拳で打って悔し涙にむせぶ。

紅緒「何よ、そのくらい、あんたの為に私の少尉は死んじゃったんですからね……少尉は」
ピストルを向けたまま、つい忍のことを思い出して目に涙を滲ませ、視線を横に向けた瞬間、観念した筈の印念がゴキブリのごとき生命力を発揮してピストルを叩き落し、形勢逆転。
なお、原作では、ピストルは最初から紅緒が持っていたものである。
ここで、印念がピストルをぶっぱなしながら紅緒を追いかけて建物中を走り回ると言う、いつものギャグ調ドタバタ劇が繰り広げられる。
が、最後は、前述したように、牛五郎が印念を背後から木材で殴り、事なきを得る。

鬼島「全員集合!」
清潔ゾロ「あー、こんなに散らかしちゃってもう」
翌朝、廃墟と化した兵舎の前で、鬼島が部下を呼んでいる。
そこをぶつくさ言いながらホウキで掃いているのは「清潔ゾロ」と言い、一連のゾロキャラクターの一種である。

鬼島「ま、このくらいぶっ壊しゃあいいだろう」

鬼島「紅緒さん、その印念て奴は何処に?」
紅緒「そこに転がっています」
鬼島「この野郎か……いっそ八つ裂きの刑にしてやるか」
鬼島、気絶していた印念を叩き起こして襟首を掴んで引き寄せ、散々脅しを掛けるが、

紅緒「鬼島さん、印念大佐を憎む気持ちに変わりはないけど、でも、その人殺しても、もう、少尉は帰ってこない……」
鬼島「……」
紅緒「うっ、うう……」
紅緒の言葉に、鬼島は印念から手を放し、どさりと投げ捨てる。
紅緒は鬼島の顔を悲しそうな目で見詰めていたが、やがて両手に顔を埋めて泣き始める。

牛五郎「やい、親分がああ言いなさるんだ、ありがたく思え」
印念「気をつけーっ! ボクはあなたをあいらぶゆー、そして手紙をかきくけこー」
牛五郎「あーあ、駄目だこりゃ、機械が壊れちゃってるよ……」
命は助かった印念だったが、一連のショックで遂にぶっ壊れてしまい、廃人同然となってしまう。
原作では、同じコマの中で、「あんたってアイディアにつまるとみんなパーにしちゃうのね」と、編集者が原作者にツッコミを入れている。
いずれにせよ、印念はこれ以降、物語に登場することはなくなる。
やっと、積年の恨みを晴らした形だが、紅緒自身が言ったように、そんなことをしても忍が帰って来るわけではない。祭りの後のむなしさと同じく、全てが終わった後、紅緒の胸に込み上げてきたのは果てしもない絶望感だけだった。

紅緒(バカだった、こんなとこまであなたが死んだこと確かめに来るなんて……いっそ私もあなたの後を追って……そうだ、そうしよう)
草原を吹き抜ける風の中に立ち尽くしていた紅緒は、つらつら考えているうちに、そんな向こう見ずな結論に達してしまう。

紅緒「少尉、これからあなたのおそばへ行きます、どうせこの世に未練はないのだ! それでは皆さん、おさらば、お達者で!」
紅緒、洗面器に水を張ると、「いしょ」と書かれた遺書を傍らにおいて、その中に思いっきり顔を漬ける。
同時に、EDのイントロが流れ出し、

ナレ「長い間、はいからさんをご声援下さいましてありがとうございました……」
実際に、そんなナレーションがかぶさり、

ちゃんと、主題歌入りのノンテロップのEDがちょっとだけ映し出されるのが面白いお遊び。

最後は、こんな画面まで表示され、一瞬、ほんとに終わってしまうのかと驚いた人もいたのではないだろうか。
ま、これも、原作で、紅緒が自殺を決意したコマの下に
「長い間ご愛読ありがとうございました おわり」と言う文字があるのを、アレンジしたものなんだけどね。

牛五郎「親分、なんてことをーっ!」
紅緒「死んでやるーっ! 何が何でも自殺するーっ!」
もっとも、途中で牛五郎が駆けつけ、紅緒の体を持ち上げたので未遂に終わる。
ならばと、今度は大きな酒甕の中に投身自殺するという、いかにも紅緒らしい方法を選ぶが、これまた鬼島に甕を叩き割られ、失敗する。

鬼島「紅緒さん!」
紅緒「ひっく、なんれ、たるけたの? 死なせてーっ!」 何度も書いたけど、よこざわさんの酔っ払い台詞は天下一品の可愛らしさである。文字ではそれが伝わないのがもどかしい。

介抱され、ベッドで静かに眠っている紅緒の寝顔を、鬼島が見詰めている。
夢の中で愛しい忍に再会した紅緒だが、その横に見知らぬ金髪女性(ラリサ)がいるのを見て、手をバタバタさせて忍の名を何度も呼び続けているうちに、現実世界に引き戻される。

鬼島「気がついたかい」
紅緒「頭痛い、気持ち悪い~」
鬼島「当たり前だ、急性アルコール中毒を起こさなかっただけでも感謝しろ」
鬼島の入れてくれたコップの水を飲み、
紅緒「あたし、死ねなかった……」

地平線の向こうへ沈み行く黄色い夕陽を見詰めている紅緒。

紅緒(満州の荒野、少尉の眠っているシベリアにつながっている……マリンカの花!)
忍の声「小さいけれど、逞しい花です」
ふと、足元に、白く小さな花が咲いているのを見て、紅緒は、忍がかつてその花びらを手紙に入れて贈ってくれたことを思い返していた。
忍は、その可憐な花に、紅緒の姿を重ね合わせていたのだ。

鬼島「早咲きだな……荒野の中に生きて、ひたすらに伸びようと願う、だからこそその姿は美しい」

鬼島「死ぬことなんか考えるな、あんたには後を追って欲しいなんて考えん人だ。そう言う奴だろ、少尉殿は……」

紅緒「ありがとう、鬼島さん、そうね、そうなんだわ、少尉が生きていようといまいと、私が少尉を愛してることに何の変わりがあるでしょう」
紅緒(ああ、あたし、生きています! 少尉、一生、一生あなたのことを思いながら!) 最愛の人の死を受け入れ、なおも前を向いて生きていくことを決意した少女の、実に感動的な台詞である。

翌朝、早くも鬼島との別れの時が訪れる。
鬼島「この道を行けば駅に出る」
紅緒「ええ、いろいろありがとう、お元気でね、じゃあ、さよなら」

鬼島「ああ、ちょっと……日本に飽きたら、いつでも満州に来いよ。それから……」
紅緒「それから?」
鬼島「うっ、なんでもねえよ、はっはっはっ、じゃああばよ!」
鬼島、何か言いかけたが、結局何も言わずに馬蹄を轟かせて豪快に走り去っていく。
鈍感な紅緒は、鬼島の意味深な態度にも何の反応も示さず、
紅緒「さ、東京へ帰ろ」
牛五郎「へい」
さばさばした様子で駅へ向かって歩き出す。

鬼島(少尉のことが忘れられたらと……言おうとした。どうも惚れちまったらしいや! 俺らしくもねえ!)
馬上で体を揺らしながら、心の中で、自分の、紅緒への気持ちに気付く鬼島であった。
原作では、鬼島はこれから本格的に活躍するのだが、アニメでは残念ながらこれが最後の出番となってしまう。安原さんの声がピッタリ嵌まっていただけに、実に惜しい。
それにしても、紅緒、ちんくしゃと言われる割に、行く先々でイケメンに惚れられる運命にあるようだが、これは、主に若い女性が読む少女漫画なのだから、当たり前の話なのである。
エロゲーで、何の取り柄もない主人公が、美人でロリ顔でナイスバディでエッチで珍しい髪の色をした女性キャラの集団から何の必然性もなく肉体関係を迫られるのと同じことなのである(註・違います)。
ラスト、失意の紅緒を乗せた汽車が、満州の荒野を走っていく。それを、崖の上から見下ろしている鬼島たちの姿を映しつつ、「つづく」のであった。
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