第38話「やめて唯!父さんを殺さないで」(1987年9月24日)
お待たせしました。一週間ぶりのレビューでございます。
前回のラスト、実の父親・魔破羅こと小源太を追って、そこに踏み入ったものを影に飲み込むと言われる魔幻の森へ消えた結花と由真。

とあるお寺の本堂で、帯庵と般若が深刻な顔で話している。
般若「誰かが結花と由真を救わねばなりません。ならばこの私が……」
帯庵「……」
般若「役目とはいえ、娘たちばかりを死地へ赴かせたこの身、今更惜しい命でばございません」
帯庵「はんにゃああ」
般若「帯庵殿、唯をお返し致します」
般若、死を覚悟で魔幻の森へ向かうことを決意し、同時に、唯のことを帯庵に託そうとする。
二人きりで見詰め合ってるものだから、どちらかが愛の告白でも始めるのではないかとヒヤヒヤした。
ふー、おどかしっこ無しだぜ。

そこへ、戸を蹴破って、ヨーヨーを構えた唯が飛び込んでくる。
帯庵「唯!」
唯「魔幻の森へはこのわちが行く」
帯庵「たわけ、血迷うたか!」
唯「血迷うてなんかおらん、ただ悩んじょるのは、わちの性に合わん! いくち決めたら行くだけじゃ!」
「いくち」て……。

帯庵「お前には分かっておらん。姉たちを助けに行く、それがなにを意味するか……姉たちを助けることはその父・小源太を倒すことじゃ」

唯「……」
頭に血が昇るとIQが劇的に下がる性質の唯、うっかりそのことを、見事なくらい、綺麗さっぱり失念していたのだ。

帯庵「影に飲まれることはおそろしかことぞ、結花と由真が小源太自らの手で闇に飲まれれば飲んだその父を倒さぬ限り、救うことは出来ん」
唯「倒しちゃる、わちがこの手でぶっ倒しちゃる!」
帯庵「だから、結花と由真の父だと言うとるだろうがっ!」 
唯「あ、そうやったね……」
くどいようだが、唯は興奮すると、ただでさえ低いIQが、ますます低くなるのだった。

唯「じゃけん、じゃけん、わちが倒さんと……」
帯庵「結花と由真の父をか?」
唯「くぅ……」
般若(これ、ひょっとして、永遠に続くのかな?) 自分が、TMNが歌っていたように、メビウスの輪に取り込まれてしまったのではないかとちょっぴり不安になる般若でした!
以上の会話、部分的に脚色してあるが、だいたいオリジナルの通りである。

サブタイトル表示後、その結花と由真の様子が映し出される。
およそ現実の世界とは思えない荒涼とした空間を歩いている二人。

と、森の奥で、魔破羅こと小源太が突然現れる。
小源太「何故追って来たのだ?」
由真「おやじぃ」
結花「父さんは私たちをここから帰そうとしてくれたわね。影に入れまいと」
由真「それはおやじの体の中にまだ風魔の血が流れているから……」
小源太「ここまで踏み込んでしまった以上、お前たちに今までのような生はないと知れ。もはや、お前たちの道はただ二つ、死ぬか、それよりもまだ恐ろしい生き地獄、影に落ちるより他にない」
結花「怖いものなんて何もないわ、ただ、父さんと生きたいだけだもの。父さんを父さんって呼びたいだけだもの……影だとか生き地獄だとか、そんなの関係ない!」
小源太、自らの刀を抜いて、その刀身から赤い血をしたたらせ、

小源太「見るが良い、どれほどの多くの人の血を吸ってきたことか」
周囲を、それこそ地獄のような真っ赤な空間に塗り替える。
小源太「私はお前たちを影に飲む、たとえ親子三人、生き地獄へ落ちようとも」
刀を左右に振り下ろすと、刀身に付いた血が地面に線を描き、そこから炎が吹き上がる。

結花「やめて、もう一度、もう一度やり直して! 私たちの世界へ帰ってきて、父さん!」
由真「おやじ、おやじってなんだよ?」 結花&小源太(え、ええーっ?) 由真が生まれてこの方、忍法ばかり仕込まれて、立派なバカに育ったのは知っていたが、そんな幼稚園レベルの知識すらないことに、姉と父親は心の底から慄然とするのだった。
などと管理人が一生懸命嘘をついている頃、唯は、風間家の物置部屋の中にひとり佇んでいた。

唯「姉ちゃん……」

唯「父ちゃん……」
結花と由真の写真の下から出て来た、毎度お馴染み、生命力のありすぎる小太郎の遺影に、管理人、轟沈する。
唯「どうすればいいんじゃ、父ちゃん……」
呆れたことに、唯、結花と由真を助けたいが、それは彼らの実父を倒すことになると、まだうじうじ悩み続けているらしい。

そんな中、ふと、唯は、小太郎の遺品の中に、
「我、いつか再び小源太とあいまみえん。この刃を向けんが為であったとしても」などと柄に彫り込まれた苦無があるのを発見する。
唯「父ちゃん、しっちょったと、小源太さんが影に飲み込まれるかも知れんかったことを……そんでも、小源太さんを倒すつもりやったとぉ?」
小太郎が苦無に残した今の自分へのメッセージのような決意を読み、心を打たれる唯。

その刃を見詰めていると、

その表面に、再びおやじの濃い過ぎる遺影が映り込み、管理人を笑い死にさせようとする。
唯「うちは父ちゃんの跡ば継ぐ娘じゃ。じゃからこれはわちの苦無じゃ!」
若干、ジャイアニズム臭のする論法で、その苦無を自分の所有物にしてしまう唯。
唯「小源太さんを助けられん時は、どうしても救えんかった時は、わちが姉ちゃんらを助けて、小源太さんをたおさにゃならんとやね……たとえ姉ちゃんらに恨まれたとしても」
苦無を握り締め、ぽろぽろ涙をこぼしながら悲壮な覚悟をする唯であった。
そして結花の歌う、やや調子っぱずれの「哀しみのシャングリラ」をバックに、プロテクターなどをひとつひとつ装着していく。

最後に、カメラを睨みながら鉄鉢を額に嵌め込むところは、実に凛々しい。

CM後、唯が再び「魔幻の森」の入り口へやってくると、久しぶりの翔が、面をつけて謡いながら、ひとさし舞っていた。
しかし、これ、すぐ唯が来たからいいようなものの、誰も来なかったらただのアホにしか見えなかっただろう。
唯「翔、あんたとは争わん。わちをよく見ない。あんたとわちは……!」 相変わらず、唯の訛りはひどい。
もっとも、それを聞いている翔の言葉遣いも、
翔「うぬとわらわは戦うさだめ、世迷(よまよ)いごとは聞かぬ!」 わかり難さにおいては五十歩百歩なのだった。さすが双子の姉妹である。
念のため、二人のやりとりを標準語に直すと、
唯「翔、私はあなたと争う気はありません。私をよく見なさい。あなたと私は……」
翔「あなたと私は戦う運命なのです。世迷言は聞きませんことよ」
となる。
考えたら、よくこんな懸け離れた喋り方で意思の疎通が出来るものだと、日本語の玄妙さに目を見張る思いである。
だが、そこへ般若があらわれ、翔は自分に任せて先へ行けと唯を行かせる。
正直、ドラマ的に、ここで翔が出てくる必要はなかったと思うけどね。

さて、唯が森の奥深くで見たものは、丸い石の台座のようなものの上に寝かされている姉たちと、そのそばにマントを翻して立つ魔破羅、いや小源太の姿であった。
小源太「風間唯、この眠りより醒めし時、結花と由真は影となる。見るが良い」
小源太が刀を振るって結花たちの衣服の一部を切り裂くと、その下にある筈の梵字が消えていた。
唯「いかん、影になんか飲み込まれたらいかん!」
唯、必死に呼びかけるが、特殊な眠りに落ちているのか、姉たちはピクリとも動かない。
唯「なんでじゃ、ほんとの父ちゃんがなんでそんげなことをするんじゃ?」
小源太「良い目をしている、風間唯、だが、ヴァジュラを手にするものは二人もいらぬ。ヴァジュラは翔様がその手にするであろう。お前はこの私の手で討たれるのだ!」
雷鳴が轟き、暗雲が天を覆い、周囲は漆黒の闇に閉ざされる。
ビジュアル、システム的には「宇宙刑事シリーズ」の魔空空間や不思議時空と言った特殊な異次元空間のような感じである。
唯「お前も風魔なら、なんでわちらとともに戦わん? お前は負け犬じゃ。見ない、姉ちゃんらは泣いちょる。悔しくて心の奥で泣いちょる!」 そして管理人は、変換するのに一苦労の唯の方言に泣いていた。
唯、あえてそんな侮蔑の言葉を吐いて、小源太の心の底に残っている良心を呼び覚まそうとするが、
小源太「ふふふ、世迷(よまよ)いごと抜かさず、私を倒してみろ」
無論、その程度で正気に戻れるほど「影」は甘くない。
ちなみに翔も小源太も、「世迷(よまよ)いごと」って言ってるけど、普通は「世迷い言」(よまいごと)って言うよね。別にどっちが正しいと言うことではないが。

やがて激しい雨、さらには雪が降ってくる。夏なのに。
小源太「ひとつ教えてやる、お前の父、小太郎を殺すよう命を下したのはこの私だ」
唯「……!」
小源太「私はな、己の為なら竹馬の友であろうが娘であろうが殺す」

小源太の刀の切っ先を、ヨーヨーの表面で受ける唯。
小源太は小源太で、防御ばかりで攻撃しようとしない唯にわざとそんなことを言って怒らせ、本気で自分と戦わせようと仕向ける。

次の瞬間、二人は全く別の場所に移動している。
と言うより、彼らのいる空間が目まぐるしく変化しているのだ。
この辺も「宇宙刑事シリーズ」でよくある、主人公が、千変万化する特殊空間で、延々と戦い続けるというエピソードに通じるものがある。

唯(出来ん、こん人は姉ちゃんらの本当の父ちゃんなんじゃ……)
それでも、さっきの決意は何処へやら、唯はヨーヨーを握り締めたまま、小源太の繰り出す剣をかわすだけで、いっかな攻勢に出ようとしない。

小源太「良く聞け、風間唯、結花と由真はまだ本当には影に飲まれてはおらん。体は動かぬが、心の中では邪と正、二つの意志が激しく戦っている」
その救いがたい優柔不断さに、敵である小源太にまで挑発を装って発破をかけられる始末であった。
小源太「何故ひとおもいに飲まなかったか分かるか? お前の目の前で娘たちを影に飲み込む為だ。ぬっふっふっ、うわっはっはっはっ!」

小源太の笑い声と共に、再び姉たちのいる場所へ戻る唯。
唯「姉ちゃん、あれは姉ちゃんらの父ちゃんなんかじゃなか、魔破羅ちゅう鬼じゃ、わちは倒す、あの鬼ば倒す!」
眠ったままの姉たちにそう叫んでから、漸く戦意を燃え上がらせる唯。

唯「風よ、雲よ、この身に走る、風魔の熱い血が泣いちょる。清く、気高い魂を燃やせと叫んどる」
次には、ヘッドライトの川を後ろに見て、都市の暗闇の中に仁王立ちしている。
この大胆な場面展開は素晴らしい。
ヨーヨーを強く握り締めながら、
唯「こらえきれん怒りに、魂がふるえちょる。魔破羅、お前の体ば叩き壊して小源太さんの魂をこの手に取り戻しちゃる!」 ここで初めて唯が、本気のヨーヨー投げを見せる。

高層ビルをバックに、セーラー服の少女と甲冑をつけた怪人が戦っているという、良く考えたらとんでもなくシュールなシーン。
だが、相手はかつて小太郎と双璧をなした風魔最強の戦士である。攻撃に出た唯だが、引き続き、苦しい戦いを強いられる。

ヨーヨーで小源太の剣を折るが、小源太は折れた剣を素早く突き出してくる。

唯、地面を転がるようにしてそれを避けると、右足でその剣を蹴り返す。
これは、浅香さん本人が演じているようにも見えるが、良く分からない。
小源太、額の兜にヨーヨーの直撃を受けるが、崩れず、逆にヨーヨーを掴んで鎖を断ち切ってしまう。

ヨーヨーを捨て、プロテクターの付いた腕を構える唯。

と、同時に、プロテクターの中に仕込んでいたあの苦無を見て、それを引き抜き、小太郎が刻んだ言葉を見せ付けるように小源太に向ける。
唯「我、いつか再び小源太とあいまみえん。この刃を向けんが為であったとしても……」
小源太「……」

それを聞いた小源太、なんとも言えない悲しそうな顔になると、甲冑を脱いで身軽になり、あの台座の上に飛び降りると、折れた刀を結花の首筋に擬して、
小源太「娘らをこの刃にかければ、お前も心置きなく戦えるであろう」
唯「実の娘を……そげなことを……いかん、いかーんっ!」

小源太「結花、由真、父の手にかかるは本望ぞ!」
影に飲み込むつもりの娘たちを、今度は殺そうとする分裂気味の小源太であったが、無論、それは、唯に自分を殺させるのが目的だった。
唯「やだぁーっ!」(実際は、やめーっ、とか言ってるのだろう)
小源太が今にも刀を振り下ろそうとした瞬間、唯は訳の分からぬことを叫びながら思わず苦無を投げ、それは小源太の無防備なみぞおちに深々と突き刺さる。
小源太「うんがっうんうっ!」

昔のサザエさんのような呻き声を上げて、小源太は結花の体を放す。
小源太「待っていたこの時を、見事だ、唯、よくぞやってくれた。ありがとう」
唯「……」
小源太「結花、由真、これで本当に私はお前たちの父に戻れる。本当の父に……こうなることでしか私が影から解き放たれることはなかったのだ。苦しかったろう、結花、由真、お前たちにかけられた呪いを解いてやろう。ぐふっ」
小源太、そう言うと、先の欠けた刀を自分の腹に躊躇なく突き立てる。
元・風魔最強の戦士だった男らしい、見事な最期だった。

唯「小源太さん……」

茫然とする唯の前には、むしろ満足げな小源太の死に顔があった。
小源太の体じゅうの梵字が消えると共に、結花と由真の体に梵字が甦る。

同時に、禍々しい森は忽然と消え、さきほどとは打って変わった、爽やかな風の吹く高原の只中に彼らはいるのだった。

と、結花と由真が同時に目を覚まして、傍らにうずくまってる父親に気付く。
そして、

ゆっくり立ち上がろうとしたその瞬間、向かって右側の由真のスカートの中が見え、ほんの一筋だが、白いものがはっきりとカメラに捉えられるのだった。
こう言うのを由緒正しきパン チラと言うのである。

唯「姉ちゃん」
結花「父さん! 父さん!」
由真「おやじ……」
その顔には、命を捨てて娘を影から守り抜いた父親の誇りが微笑みとなって刻まれていた。
と、三人が一斉に森の上空の空間へ視線を向ける。

小源太「お前たちの父は幼い頃よりお前たちを優しく見守り、いつくしみここまで育て上げて来た小太郎ただひとり、小太郎の教えを良く守り、しっかりと生きるのだ、結花、由真!」
そこに、小源太の姿が浮かび上がり、結花たちに優しく語り掛ける。
影から解放された小源太の魂は、浄化され、澄んだ空の中へ溶け込んで見えなくなる。

そこへ、翔の、手からビリビリビーム攻撃を受けて傷付いた般若も駆けつけ、
般若「小源太殿、安らかにお眠りください」

と、翔が再び唯の前に忽然と現れる。
その背後には、不気味な老人、果心居士の幻影も見えた。
翔「ふふふふふふ、そう身構えるではない、風間唯、今宵は静かにその者を弔うが良い。だが、次に会うときはどちらかが死ぬ時! 良いな?」
唯「翔!」

結花「唯、あなたがその手で倒したのね、父さんを……」
唯(やべぇ……)
二人の氷のように冷たい眼差しを受け、生きた心地のしない唯であった。
一難去ってまた一難、物語は、またしても姉妹の間に深刻な亀裂を生じさせそうな厄介な火種をはらんだまま、39話へ続くのだった。