第6話「亡き母の悲鳴」(1985年5月21日)
の続きです。
一方、路男は、仲間の一人が働いているオートバイの整備工場で自分たちのマシンの調整をしていた。

路男「だいぶスムーズになってきたな」
部下「隊長の腕もなかなかじゃないっすか、プロの俺もまっつぁおですよ」
路男「少年院時代に修理技術を叩き込まれてるからなぁ……」
大映ドラマに出る度に少年院に入り直してる松村さん。
たまに、ほんとに自分が少年院に入っていたような錯覚に陥っていたのではないだろうか。
暴走族の癖に、路男の得意のペット(彼らはラッパと呼んでいる)を所望する部下たち。
リクエストする方もする方だが、

それに答えて臆面もなく高らかにペットを吹き鳴らす路男も路男である。
「暴走族がトランペット吹き鳴らしてて、すげー怖いんですけど……」などと、近隣住民が速攻で通報して来そうな光景が繰り広げられる。

あと、後ろでうっとり聞いてる部下たちのポーズがなんかイヤ。
だが、路男の目には、周囲の情景は消え、果てしなく押し寄せては岩に砕ける白い波濤の映像が描かれ、その耳には、母親の「助けてくだせーい! お代官さまー!」っぽい哀れみを請うような叫び声と、火のついたような赤ん坊の泣き声が木霊していた。
母親の声は、ちゃんと松井きみ江さんが演じている。赤ん坊は、無論、18年前の路男だった。
なお、今回のサブタイトルは、このことを意味しているのだが、視聴者はてっきり、路男の母親が死んだと思い込むところだが、実は、路男の母親はふてぶてしく生きていることが後に判明するので、なんとなく騙されたような気がするのだ。
ま、あくまで路男が死んだと思い込んでいた……と言う意味なのかも知れないが、釈然としない。あるいは、この時点では、母親は18年前に死んだという設定だったのだろうか?
でも、8話では路男自身が「母親とは生き別れ」と言ってるんだけどね。

路男「おふくろ……おやじ……」
吹き終わってから、目に涙を滲ませる路男。
だーかーらー、暴走族の頭を取る男の子が毎週のように泣いたら駄目だってば。
そんな路男の軟弱ぶりにカツを入れに来たのが、小沢仁志アニキ演じる長田猛と言う不良青年だった。
おまけに、彼が率いるのが、「鬼神組」と言う、げにも恐ろしげな名前を持つ不良グループなのだ。

はい、こちらがその「鬼神組」になりまーす。

あらあら、可愛らしい鬼神だこと。
ちなみに彼女はマヤ(大川陽子)と言って、猛の腹心のひとりである。
じぇーむず・でぃーんの映画みたく、お互いに向かい合ってメンチを切る両グループ。

猛「田辺とかいうチンピラはてめえか」
路男「長田とか言う外道はお前か」 初対面の相手に向かって「外道」って……、いきなり朝男、いや路男節がクリーンヒット!

猛「俺の留守中、好き放題のことをしてくれたそうだな、だがよ、俺がシャパに戻った以上、もう二度とてめえの勝手にはさせねえ」
路男「鬼神組の組長さんよ、断っておくぜ、俺たち渡り鳥連合は好きな時にバイクを転がし、風のように街を走り抜ける。誰にも迷惑を掛けた覚えはねえ、あんたらと争うつもりはねえし、今はそんな暇がねえんだ」
猛「暇がねえだと、この野郎!」
路男「ああ、そうだ、てめえがどんな悪党かしらねえがな、俺が今戦いを挑んでる相手に比べればスケールが小さ過ぎて話にならねえよ」
路男、喧嘩をするつもりはないといいながら、喧嘩を売ってるとしか思えない台詞を放つ。
ま、「戦いを挑んでる」って言っても、毎夜その人の家の前でペット吹いてるだけなんですけどね。
ちなみに、猛は最近まで少年刑務所に年齢を偽って入っていたのだ。
猛、路男の言い草にカッと来て、いきなりその頬桁を殴り倒す。

ゆっくり立ち上がり、ぺっと血を吐くと、「わからねえ野郎だぜ……」

路男「あんたらと遊んでる暇はねえが、売られた喧嘩は買う」
閃光のような左ジャブを猛の顔面に繰り出す。
そして、腹に膝蹴り、背中にエルボーを叩き込み、猛の手を地につかせる。
それでさっさと引き揚げるつもりの路男だったが、猛も追いすがって反撃に転じ、結局、敵味方入り乱れての乱闘騒ぎに発展する。
良いねえ、元気があって……。

だが、そこへ車で乗り込んできて仲裁に入ったのが、我らが貧乳マニアの星・優子さんであった。
優子「路男、猛、やめないかっ」
猛「あねさーん、おひさしぶりです」
優子の顔を見るや、三河屋のサブちゃんみたいな間の抜けた声を上げる猛。

優子「バカッ!」
優子、いきなりその頬を引っ叩く。
優子「少刑からやっと出られたと言うのに、少しは大人しくしたらどうなんだい」
二人は以前からの知り合いのようだった。優子、この世界ではやたらと顔が広いのだ。

猛「このガキ血祭りに上げてから、島田のおやじさんとこ挨拶行こうと思ったんですよ」
優子「路男は私が弟同然に可愛がってる男なのよ、路男と争うことは私が許さない」
猛「さてね、おやじさんがなんて言うか……ま、今日のところは姉さんの顔を立てて引き下がるとしますよ。田辺、今度はケリつけるからな」
猛、それでも大人しく仲間を連れて引き揚げて行く。
優子は、不良ゴッコや復讐ゴッコはやめて真面目なトランペッターになれといつもの説教をするが、路男は自分にそんな才能はない、あくまで復讐を成し遂げるのだと突っぱね、
路男「優子さん、いつか街のどこかで俺の死体を見つけたら、その時は俺の為に涙なんか流さないでくれ。奴は奴で精一杯戦ってきた、そう思ってくれ。どんな虫けらのような人間だって犬死なんてことがあるもんかい」
優子「路男、お待ち!」
優子「なんだい、バカヤロウ! 遺言みたいなこと言いやがって」 粋がった台詞を置き土産に去っていく路男の背中に、悔し涙と罵声を浴びせる優子。
しかし、何度も言うようだが、岡田奈々さんにそんな台詞は似合わない。
……
ところで、路男、「もう二度と会いません」って優子さんに言ってなかったっけ?

一転、高級クラブ「火の国」で、着物姿でめかしこんでしょうもない歌を披露している優子さん。
なんだかんだで、優子は島田には逆らえないのだ。

これを偶然と言うのは憚られるが、店には、へべれけになった龍作の姿もあった。
目論見が外れたと言え、30万の臨時収入があったので、とりあえずこんなところで飲んでいるのだろう。
貯金とか節約とか、そんな殊勝な概念は、人間のクズ代表・龍作の頭の中には存在しないのである。
そんな店でも、龍作は自分についた女の子にしつこく絡んで逃げられる始末。
龍作「ああ、くそ、あの野郎、
大丸には父親の情がねえってのかよ、娘の秘密をばらすって言ったのにビクともしやがらねえ。へっ、こちとらまるで蛇に睨まれた蛙だ。でっけえ像の前のアリンコだよ。確かにあんたでけえよ」
酒をあおりながら、ブツブツ独り言を言っている龍作。
「お前が言うな!」的な台詞も混じっているが、クズはクズなりに、剛造の大きさと自分の卑小さは認識しているようだった。
そこへ、猛たちがぞろぞろとやってきて、事務所でふんぞり返っている島田に挨拶に行く。
島田は猛たちに幾許かの金を渡し、「何かあったら俺が面倒見てやる」と、いかにも大物めいたことを言うのだった。
しかし、島田の組が
一代組で、猛の組が
鬼神組でしょ。
どう見ても、猛の組の方が強そうだよね。

さて、再び大丸家。
則子が、使用人一同を集めて話している。
大丸家にとっても大切なお客である、とある銀行の頭取である鈴本夫妻とその令嬢・直子がやってくるというので、粗相のないよう、彼らの気を引き締めているのだ。
コックはともかく、ウェイターの格好をした男性は、今回だけ雇われた口だろう。
則子はその場で、しのぶに、室内プールの掃除をしておくよう命じる。直子が、千鶴子と一緒に泳ぐのを楽しみにしているらしい。

耐子「頭にきちゃうわ、どうして千鶴子さんたちが泳ぐプールを私たちが掃除しなきゃならないの?」
しのぶ「タエちゃん、私たちは大丸家にご厄介になってる身分なのよ、こんなこと、なんでもないじゃない」
プールの掃除をしながらブツブツ文句を言う耐子を、いつものようにしのぶがたしなめる。
耐子「だってさあ、おんなじ高校生なのに、金持ちと貧乏人に生まれた為にこんなに違うのよ、矛盾感じちゃうわ」
しのぷ「……」
なおも、こんな豪邸でお手伝いとして働いているからこそ実感できる、生まれながらについている貧富の差へ、憎しみに似た懐疑の眼差しを向ける社会派タエちゃんでした。

剛造が、書斎のベランダから、二人が甲斐甲斐しく働いているのをつらそうな顔で見下ろしていたが、そこへ美しく着飾った千鶴子がやってきたので、慌てて室内に戻る。
千鶴子「お父様、この着物でどうかしら」
剛造「いやぁ、素敵だよぉ、わが娘ながら美しいと言わざるをえんだろうなぁ」
剛造は、自分の理想の女性を「凛としてふくよか」と表現し、千鶴子をそんな女性に育てる為に、幼い頃からお茶、生け花、剣道、水泳などを習わせて来たのだと、誇らしげに語る。
ま、別に娘が父親の理想の女性になる必要はこれっぽっちもないと思うのだが、完全なファザコンの千鶴子は、何の疑いも持たず、「私、きっとお父様の思い描く女性になって見せますわ」と、満面の笑みで答えるのだった。
千鶴子、そろそろ良い子モードの最長不倒記録を樹立しそうな勢いで、二人がプール掃除をしているのを見て、しのぶを頭取たちとの茶会の席に招いたらどうかと剛造に提案する。
だが、それは、再び千鶴子を悪魔モードにスイッチさせる為の、シナリオライターの陰湿な策謀だった。
剛造、急いでしのぶに着せる着物を探させるが、現在、屋敷には適当なものがないと聞かされると、

ふと、魔が差したとでも言おうか、あの、慶子の形見の白い着物を抽斗から取り出してみる。
さて、しばらく後、頭取夫妻と令嬢が屋敷に到着する。
まず、茶室でおごそかに茶会が開かれる。
さすがに幼い頃から茶の湯を習っている千鶴子の手並みは大したもので、千鶴子の点てた茶を喫した頭取も感心していた。

やがて、少し遅れてしのぶが姿を見せるのだが、

千鶴子「……」
その瞬間、千鶴子の割と長かった天使時代は終わりを告げる。
しのぶの着ている着物が、慶子の形見の着物だと、千鶴子にはすぐ分かったからである。

だが、剛造の目には、

優雅に立ち上がるしのぶの姿が、

亡き妻・慶子の立ち姿に生き写しのように見えるのだった。
……
一度、眼科に行った方が良いと思うんですが。

千鶴子「しのぶさん、時間に遅れるのはお客様に失礼ですわよ」
しのぶ「申し訳ありません」
さっきとはまるで別人の形相で、しのぶの遅刻を咎める千鶴子。
さらに、今度はお前が茶を点ててみんかーいと言い出す。行儀作法の出来ないしのぶに恥を掻かせようと言う、いかにも千鶴子らしい陰湿な作戦であった。
しのぶは、当然、辞退しようとするが、則子にも冷たく「やれや」と言われたので、やむなく茶を点てる。
ところがギッチョン! しのぶは千鶴子の予想に反して見事な作法で、茶を点ててみせたのである!
鈴本頭取「石州流ですな、作法にかなっておりますよ、いや見事なものだ」
鈴本夫人「何処で習われたのですか」

しのぶ「真鶴に住んでおりました頃、近くのお寺で日曜日ごとにお茶会がありました。そこへ通って住職様に教えて頂きました」
少し面映そうに説明するしのぶ。
しのぶ「お茶や生け花を習う余裕などなかったのですけども、母がどうしてもと言うものですから」
剛造「そう、静子さんが……静子さんはきっとしのぶさんが何処へ出ても恥ずかしくないように大切に育ててくれたんだね。お母さんに感謝しないとね」
しのぶを慈しみ育ててきた静子の面影を、その娘の姿に重ねて、剛造は深い感動を覚えると共に、しのぶが自分の実の娘であってくれたら……と言う気持ちが芽吹くのを感じるのだった。

無論、それを見ていた千鶴子が怒りゲージMAXになったのは言うまでもない。
どっひゃー、こいつはえらいことになりまっせぇーっ!(誰だよ)
その3へ続く。