第9話「愛ってなんだ」(1984年12月1日)
と、聞かれても……
と言う訳で、8話と10話の間の9話です(当たり前だ)。
冒頭、前回のクライマックス、相模一高との試合でギネス級の惨敗を喫した後、控え室に閉じ込められた部員たちが滝沢に延々説教され続けて遂にパカになっちゃったシーンをダイジェストで紹介してから、打倒相模一高に向けて今までとは比べ物にならない厳しい練習に身を投じている部員たちの様子を映し出す。
そんなある日、校長と滝沢は教育長に呼び出される。滝沢にとってはかつての上司に当たる人である。

教育長「やー、しばらくだったね」
滝沢「ご無沙汰してます」
校長「いやー、実に良くやってくれてますよ。それで今日のご用件と言うのは?」
教育長「あ、いや、折角久しぶりで会ったと言うのに今日はちょっと嫌なことを……先日の試合の後、滝沢君、君は選手たちを殴ったそうだね」
校長「あ、ええ、まぁ……」
予期されたことだが、それは滝沢が説教の後で部員たちひとりひとりを心を込めてぶん殴った「愛の鉄拳の贈り物事件」に関することだった。

教育長「じゃ、じゃあ事実なんだね?」
滝沢「事実です!」 滝沢は殴ったことを認めた上、「選手を殴ったことを後悔していません!」と明るく爽やかに言い切る。
教育長(ええーっ?) さすがに物分りの良い教育長も、滝沢の言葉に内心、呆れる。
口に出して言わなかったのは、言ったら自分も殴られそうな気がしたからである。
滝沢「殴るしかなかったんです。子供たち一人一人と心を通わせる為には、
殴る以外の方法は思い付かなかったんです」
だったら自分も生徒たちに殴られないと辻褄が合わない気がするのだが……。

滝沢「その方法が正しかったのか、間違ってたのか、それは私には分かりません。教育長、たとえあなたが見ていたとしても、いや、仮に文部大臣が見ていたとしても私は彼らを殴ったと思います」
教育長「滝沢君……」
滝沢「私は教育者としてはヒヨッコです、ぶつかっていくしかないんです。全身全霊で彼らにぶつかっていくしかないんです。それが
私に出来る唯一のスキンシップの方法だったんです」
校長(無言で頷く)
反省も謝罪も一切せず、訳の分からないことを滔滔と並べ立てる滝沢、その横で考え深そうに頷いている校長を見て、教育長は、生まれ落ちてこの方経験したことのないような恐怖を覚えるのだった。
しかし、実際、
「殴ることでしかスキンシップが出来ない」って、ほとんど社会不適応者の域に達してるよね。しかも、仮にも教育者なのに。
ところで、滝沢のあれが問題視されるのなら、同じことしてた相模一高の勝又監督だって糾弾されなくてはならないと思うのだが、何故かそう言う話は聞かないのだった。
その夜、いつもの居酒屋(他に行くとこないんか)で飲んでいる校長と滝沢。

校長「私はあの日、君が子供たちを殴りつけるのをこの目で見ていた。だが止めようとは思わなかった。何故だか分かるかね、君はあの日、子供たちを殴りながら自分自身を殴っていた。
殴られた子供も痛かっただろうが、殴った君の手も痛かった筈だ」
……
校長先生、さっきから何を仰ってるんですか? さらに校長は、「自分の好きにしたらええがな」と無責任なことを言って滝沢を野放し状態に置くのだった。
ここでやっとOPになる。あー疲れた。
しばらくして、川浜市教育委員会から、滝沢に対する処分が通知されてくる。
それは、「厳重注意」と言う、ほとんどお構いなしみたいな寛大な処分であったが、何故か滝沢はひどくショックを受けた様子であった。
どうやら、滝沢、自分の主張が認められて「表彰状」でも送られてくるのではないかと人生を舐めた予想をしていたらしい。
滝沢は自分の方針が否定されたことになるのではないかと動揺する。その動揺は校長に激励されてもおさまらず、やがて滝沢の心に迷いと焦りが生じる。
焦りは苛立ちになって、その後の練習では、選手たちのミスを見付けては、ガミガミと叱り飛ばす、かつての滝沢とは違う姿がグラウンドに見られるようになった。

光男「なんなんだよ、最近の監督は! 文句ばっかりじゃねえか!」
当然、叱られっぱなしの選手たちの機嫌が良かろう筈もない。練習後の部室は、彼らの不満と怒りが渦巻いて、殺伐としたものになる。
それでも選手たちは何とか練習に出ていたが、

滝沢「おい、そんなタックルで外人が倒れるとでも思ってるのか?」
選手「ふぁい」
滝沢の厳しさはますますエスカレートして行く。

滝沢「はい次ぃ、おらーっ! おい、もたもたすんなぁっ!」
自分自身にタックルさせて、向かってくる選手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ショッカーの戦闘員でも扱うようにさばいていく滝沢。
さすがに選手たちの我慢も限界に来て、
「何本やらせば気が済むんだよー」と、誰かが聞こえよがしに吐き捨てる。

滝沢「なにぃ、今文句言ったのは誰だぁーっ! お前ら黙って練習できないのか」
光男「何も言ってませんよ。先生の空耳じゃないんですか」
滝沢「なんだその不貞腐れた言い方は?」
光男「もう3時間もぶっ続けですよ、足がガクガクで……」
滝沢「ネチネチ言い訳をするんじゃない!」
滝沢、光男の襟首を掴んで投げ飛ばす。

星「監督、それはペナルティです! 不意に投げたり……」
滝沢「うるさいっ!」 星「……」
滝沢「お前のしたり顔は見たくない、少しくらいラグビーが出来るからと思ってでかいツラすんじゃない」
口出しした星を、泣きそうな顔で突き飛ばす滝沢。
……毎度のことだが、極端だなぁ。ほとんど違うキャラになってるぞ。

滝沢「俺はもう知らん、お前ら勝手にしろぉっ!」
そして、完全にキレて、その場を立ち去ろうとする気組みを見せる。
玉川とイソップが慌てて前に出て、引き止めようとするが、
滝沢「戻らん! お前らみたいなガラクタいくら鍛えても無駄だっ!」

大木「ガラクタで悪かったなぁっ」
滝沢「……すまん、そういうつもりじゃ」
大木「やめた! ラグビーなんかもうやめだぁーっ!」
滝沢(おっ
)
叫びながらシャツをまくりあげる大木の乳首に、滝沢の目は釘付け(また始まったか……)。

光男「俺もやめた、先生はうそつきだ、先生は俺たちを鍛えて相模一高に勝てるようにしてやるって言ったじゃないか! 何が信は力なりだよ、先生は俺たちのことなんかまるで信じちゃいないんだ」
大木に続いて、光男が滝沢に反旗を翻す。
しかし、大木君、川浜一のワルと言う割に、ひょろっとした体つきしてますね。
顔の濃さと、首から下とのギャップが妙に可笑しい。
迂闊にも、ここで漸く滝沢は自分の過ちに気付き、なんとも言えない悲しそうな顔になる。

選手や、練習を見ていた校長の顔を見詰めていたが、不意に子供が逃げ出すようにその場から走り出す。
イソップ「先生!」
校長「追うことはない。今の一件は非は明らかに滝沢先生にある……」
滝沢はひとり学校を出て、以前、光男と一緒にうさぎ跳びをやらされた神社の石段に腰を落とし、激しく自分を責めていた。「バカ、バカ、バカ、賢治のバカ!」と。

このパターン多い気がするが、失意の滝沢に声をかけたのは、神出鬼没の圭子だった。
滝沢「君、いつこっちへ」
圭子「昨日ちょっと用事があったもんですから……」
滝沢「森田には会ったの? ……ここで会う約束か?」
圭子「こんなところで何考えてたんですか?」
滝沢「……」
圭子の所在地もコロコロ変わって混乱するのだが、今は大阪にいるんだっけ?
でも、常時、父親の部下が圭子を監視してて、自由に動けない筈だったと思うのだが。

滝沢「君、確か、バレー部に入ってたな。監督に叱られたことあるか」
圭子「しょっちゅう叱られてます、でも私が下手だから仕方ないんです」
滝沢「それで納得できるのか?」
圭子「そりゃ、たまには頭に来ることだってありますよ、
殺してやろうかと思うこともありますよ、だけど、監督は練習が終わると人が変わったみたいに私たちをいたわってくれるんです」
あれ、圭子って馬術部じゃなかったっけ? 今まで、バレー部の話なんて出たことあったっけ?
滝沢、「あいつらがどんなに必死になって頑張ってるかも考えないで結果ばかり見て怒鳴ってたんだ……」と、圭子を相手に反省する。
そこへ制服に着替えた光男がやってくる。光男は滝沢を無視して、圭子の手を引っ張って連れて行く。

その晩、節子と差し向かいで食卓についている滝沢だったが、いかにも浮かない顔で、箸もほとんど動かない。
節子「どうしたの、あなた、ちっとも進まないじゃない。どこか具合でも悪いの」
考えたら滝沢、毎日、こんな美人の顔を見ながらご飯食べてるんだよね。
なんとなく腹が立ってきた。 
夫が気落ちしているのに気付いた節子は、なにしろ良妻賢母の鑑なので、根掘り葉掘り聞こうなどとはせず、「たまには外で飲んで来たら」と、お金を渡す。
節子「もやもやしてる時にはパーっと発散するのが一番よ。はい、特別カンパ」
まるでエッチなお店に行くよう勧めているように聞こえるが……。
次のシーンでは、

言われたとおり外出し、飲み屋街を歩いている滝沢の姿が映し出される。
……
なんだかんだ言って、こいつも光男と同じで、「人に言われるまま動いているだけじゃねえの?」と言う疑惑が濃厚になる管理人であった。
滝沢、
偶然、下田と会い、小粋なバーのカウンターで飲んでいると、
偶然、内田親子もやってくる。
滝沢賢治ニューシングル
「きっと、偶然じゃない」 NOW ON SALE!

滝沢「相変わらず老けてるな」(註1)
勝「ええ、まぁ、先生はあんまり元気なさそうですね」
(註1……正しくは「元気そうだな」)

既にかなり出来上がっている内田は、この前のボロ負けした試合のことを持ち出し、無遠慮に滝沢を責める。

内田「恥ずかしいと思わないのか?」
滝沢「恥ずかしいです」
内田「そうだろう」
滝沢「死ぬほど恥ずかしいです。おっしゃるとおり、私はかつてオールジャパンのメンバーだった男です。その私が指導するんだから、子供たちにはなんでも教えてやれる。(中略)とんでもない思い違いでした」

結局、自分には試合の間中、「すまん、お前たちにこんな惨めな思いをさせたのは俺の責任だ」と心の中で詫び続けるしかなかったんですぅ! と、自分で自分の話に感動してぼろぼろ涙を流し始める滝沢であった。
からみ酒に、泣き上戸……あまり関わりたくない人たちですね。

滝沢「(前略)子供たちに勝つ喜びを教えてやろう、そう決心したんです。でもダメです」
内田「ダメ? じゃあ今のジャリどもじゃ、とても見込みがないと言うのかね」
滝沢「違います、ダメなのは私です。私は勝つ為に彼らに技術だけを教え込もうとしていました。一番大切な心を教えるのを忘れていた。いえ、私自身がラグビーの基本精神を何処かに置き忘れていたんです」 飲んでるうちにネガティブモードのスイッチが入ったのか、滝沢は自分のダメさ加減を切々と語り、遂には「自分には監督になる資格なんかないんです」とまで言い出す。
感情の起伏が極端から極端に飛ぶ傾向のある滝沢……と言うか、大映ドラマ的なキャラクターを、現実的な感性でたしなめるのは、例によって経験豊富な下田の役割であった。
下田「あんた、神様になろうとしてるんじゃねえですか。何もかも悟り澄ました神様にね。冗談じゃねえ、そんなことできるわけねんだ。いいじゃないですか、怒鳴りたい時に怒鳴ってぶっ飛ばしたい時にぶっ飛ばせば……ただ、自分が間違ったと思ったら素直に謝りゃ良いんですよ」 滝沢「下田さん!」
下田「やめることなんかねえっすよ、子供たちはまたきっとついてきますよ」
大して独創性のある助言ではなかったが、滝沢はスッカリ目が覚めたような顔になり、

その足でバーを出て(支払いは二人に任せて)、生徒たちひとりひとりの自宅を訪れ、誠心誠意、謝罪するのだった。
またしても人の言いなり……
今のシーンで、下田に「じゃあやめれば?」と言われてたら、ほんとにやめてた可能性大。
で、生徒たちの中にはイソップのように快くその謝罪を受け入れてくれる者もいたが、大木や光男のように、激しく反発する者もいた。

翌朝、祈るような気持ちで滝沢がグラウンドにやってくるが、果たして、ラグビー部員の姿はひとりも見えなかった。
……でも、早朝練習しているのはラグビー部だけじゃないと思うので、無人と言うのは変なんだけどね。
まぁ、昨日の今日で、すぐ生徒たちと和解できると考えるほうが虫が良過ぎるのだ。

力のない足取りで、とりあえず部室へ向かう滝沢。
背後に貼ってあるポスターの文句が、「クソフォアボール」に見えてしまう……。

どうせ誰も来てないだろうと思いつつドアを開けると、ただひとりイソップがいて、いつものようにボールを磨いていた。
イソップ「おはようございます」
滝沢「おはよう……イソップ、お前いつもそうやってボール磨いてるのか」
イソップ「なんとなく僕の役目になっちゃったんですよねー、でもこれ好きなんです(中略)ボールに話しかけたりして、僕っておかしいんですかね」
ひときわ孤独が身に染みる滝沢にとって、イソップの存在は涙が出るほど有難いものだった。
そしてレギュラーになる見込みがないと知りながらひたむきにラグビーに打ち込むイソップに対する愛情が滝沢の胸に込み上げてきた。

滝沢「イソップ、ランパスやるか」
イソップ「えっ」
滝沢「来いよ、思う存分相手してやるからな!」
イソップ「はいっ」

こうして、誰もいないグラウンドで、二人だけの早朝練習が行われる。
管理人、このシーン好きなんだよね。
そして、イソップがあと少しで死んでしまうのかと思えば……ちょっと泣けてしまうのである。

一方、例によって光男はまだグジグジと文句を垂れて、ラグビー部を辞めてやる! と夕子や圭子相手に喚いていた。
圭子「いいんじゃないの、やめたきゃやめれば?」
夕子「あんた!」

圭子「光男さんは良いわね、こうやって心配してくれる人が大勢いて……私なんか誰もいやしない」
光男「圭子!」
圭子「けど私は少しくらい叱られたからってバレーボール辞める気はないわよ」
光男「え、圭子って馬術部だったんじゃ……」
圭子「お黙り!」 嘘はともかく、圭子は「甘ったれ、あんたも一度地獄を覗いてみたら良いんだわ!」と、モナリザっぽいタンカを切って、さっさと店を出て行く。
下田「あの子、結婚したら、亭主の操縦上手くなるぞ」
夕子「あん?」

滝沢にとって嬉しいことに、イソップと練習していると他のメンバーもどんどんやってくる。
滝沢「玉川!」
玉川「今辞めたら元も子もありませんからね」
で、結局、光男と大木以外の全員が集まってくるのである。
さすがにちょっと簡単過ぎる和解だよね。
滝沢はひとりひとりの目を見ながら「おはよう」「おはよう」と心から挨拶する。

そして少し遅れて光男もやってくる。
光男「本気でラグビー辞めようと思ったんだけどよー、圭子の奴が……ラグビー辞めたら絶好よなんて言うから……」
玉川「この野郎、朝っぱらからのろけやがってー」

玉川「おー、やっちまえっ!」
当然、フクロ叩きの刑に遭う光男。普段からよほどみんなに嫌われているらしい(註・嘘です)。
滝沢「待て待て、俺にも殴らせんかーい!」
玉川「あれ……先生、光男の様子が……」
滝沢「え、おい、森田、冗談は顔だけにしろ!」
光男「……」
玉川「あ、死んでますね、これ」
こうして、光男は部員たちのリンチによって全身打撲で死亡、滝沢は懲戒免職、ラグビー部は廃部になり、かわって、元バレー部の節子が監督となり、圭子や加代たちと共にバレーボール日本一を目指す傍ら、校内にはびこる悪を退治していくと言う、
「新スクール☆ウォーズ~月に代わってお仕置きよ」が始まる……訳ねえだろ(それはそれで見たいが)。

滝沢「のろけた罰として、森田を的にみんなでタックルだ」
森田「え、そりゃないっすよ!」
滝沢「いいから、やれーっ!」
こうして、ボールを持った光男に、みんながタックルを仕掛けるという練習が行われる。
久しぶりに、グラウンドに選手たちの笑い声が響く。
だが、その中にひとり大木の姿がないことが、滝沢には気がかりだった。
ひとりだけグラウンドに戻って来なかった大木、学校にも行かず、街中で他校の生徒たちを相手に暴れていた。

いつものように、清美たちもくっついていて、大木に加勢しようとして不良に襲われる。
さりげなくこの不良が清美たちの胸をタッチしているのが許せない。

清美&明子「先輩、カッコイイー!」
大木「バカヤロウ、余計なことすんじゃねえ!」
清美「やばいっ、警察来たよ」
大木「いいから、お前たちずらかれ」
パトカーがサイレン鳴らしてやってくるが、大木は逃げようともしない。
清美たちは大木に詫びつつ、言われたとおりその場を離れる。

その後、警察署の前で大木が出てくるのを待っている二人(貼りたいだけ)。

やがて、滝沢に伴われて、大木が放免されて出てくる。
大木「あんたが身元引受人とは知らなかったぜ」
滝沢「俺じゃ不足だってのか……とにかく俺と一緒に病院に行くんだ」
大木「病院?」
滝沢「ああ、おふくろさんが倒れたんだ」
大木「!」

二人が病院へ行くと、節子も来て待っていた。
大木「まさか、奥さん、うちのおふくろの付き添いに?」
滝沢「ああ、倒れたと聞いた時、女手がいると思ってな」
大木「すいません」
節子「いいのよ、あなたにはゆかりを助けて貰ったこともあるし……」
大木「で、おふくろ、どうなんですか」
節子「面会謝絶よ」
大木「そんなに悪いんですか!」
節子「……嘘よ」
大木「嘘ぉ?」
節子「お医者様は大事をとって一日だけでも入院したほうが良いとおっしゃってるけど、ご本人は今すぐにでも帰りたい様子よ」
大木、ホッとすると同時に節子に向かって声を荒げる。

大木「悪い冗談やめてくれよ!」
節子「何が冗談なの?」
大木「だって、あんた今、面会謝絶だって……」
節子「そうよ、あなたみたいな親不孝な子は会わせる訳に行かないわ」
大木「なんだとぉ?」

節子、急に厳しい顔付きになって、
節子「大木君、お母さんがどうして倒れたか分かってるの? あなたが喧嘩して警察に連れて行かれたって聞いたからよ。どうして喧嘩なんかしたの?」
大木「それは……つい物の弾みで」
節子「バカぁ、物の弾みで喧嘩して、それが原因でお母さんに万が一のことがあったらどうするの?」
大木「すんません」
節子「良い、二度とつまらない喧嘩なんかするんじゃないわよ? 分かった?」

大木「はい、わかりました」
節子にぴしゃりと言われた大木は、まるで借りてきたチワワのように大人しくなるのだった。

大木が母親の病室へ行った後、滝沢はじっと節子の顔を見詰める。
節子「どうしたの」
滝沢「いや、あまり見事なお手並みだからさ。知ってるだろ、あいつはついこないだまで、川浜一のワルって恐れられた男だ。それを頭ごなしに叱り付けるんだからな。随分良い度胸してるなって感心してたんだよ」
節子「そぉ、私には可愛い坊やにしか見えないけど」
……しかし、節子さん、前は川浜高校へ行って、不良たちを見ただけでびびって逃げまくってましたけどね。
嵐世会(懐かしい)のチンピラにつきまとわれたりして、耐性が出来たのだろうか?
で、その後、川浜高校恒例、不良生徒の処分について話し合う職員会議が開催される。

その最中、外から窓をガンガン叩いて、割り込んできた者がいた。清美と明子である。
清美「ちょっ、開けてよ」
甘利「なんだ君たちは、うちの生徒でもないものが勝手に入り込んじゃいかんなぁ」
清美たちは、大木が喧嘩をしたのは、不良たちがラグビー部のことをからかったのが原因だと説明する。
大木自身は「些細なこと」だとしか、喧嘩の原因について釈明していなかったのだ。

野田「君たち、今の話は本当だろうね」
清美「嘘じゃないよ」
明子「ねえ、先輩どうなるの」
校長「心配しなくて良いから、早く帰りなさい」
清美「ほんっとに大丈夫?」
校長「ああ、大丈夫」
清美たちは校長の言質を取ると、たちまち安堵の表情になって、

清美「じゃ、行こうか」
明子「うん、じゃあね」

明子「バ~イ!」
清美「バ~イ!」 軽やかに手を振りながら、余裕たっぷりに帰っていくのだった。
校長以下、中年男性俳優たちは「やっぱり若い女の子は良い!」と心の中で叫んでいたと思われる。

校長「はっはっはっ、バ~イ」
野田「なんなんですかね、あの子たちは」
三上「大木の親衛隊でしょうか」
校長「あ、三上先生いたんですか」
三上「いましたよ!」 じゃなくて、
江藤「親衛隊ね」
校長「あー、そりゃあいい、だけど、嬉しいですね」
教頭「なんですって、校長、嬉しい?」
校長「だってそうじゃないですか、あの川浜一のワルと言われる大木大助にして我が川浜高校を愛し、ラグビー部を愛する心があったとは」
校長は清美たちの証言を信じ、大木の行為について情状酌量するのだった。

河原で、滝沢がその結果について大木に伝えている。
大木「ラグビー部預かりぃ?」
滝沢「つまり、お前の今後の行動如何によってラグビー部の運命が左右されるってことだ」
大木「きたねえぞ」
滝沢「汚い?」
大木「そうじゃねえか、そんなことで俺を縛ろうなんて……第一俺は昨日ラグビー部を辞めると言った筈だぜ」
滝沢「俺は認めてない」
大木「冗談じゃねえ、俺は人に縛られるのが何よりも嫌いなんだよ!」 大木は二度とラグビーなどやるものかと訣別宣言をする。
滝沢「大助」
大木「気安く呼ぶんじゃねえよ。そりゃあおふくろのことは感謝してるが、それとこれとは別だ!」
滝沢の手を振り払って行こうとする大木だったが、

そこに現れたのはイソップであった。
イソップ「弱虫! 大助の弱虫! だってそうじゃないか。練習がきついからって逃げ出すのは弱虫じゃないか」
大木「バカ、そんなんじゃねえよ、俺はラグビーなんてのが性に合わねえと……」
イソップ「どこが性に合わないんだ、相手を思うようにぶん殴れないからか? 分かってるぞ、大助がラグビー嫌いなのはなかなか上手くならないからだ。いつまで経ってもお山の大将になれないからだ。だからお前はラグビーから逃げ出そうとしてるんだ!」
いつになく激しい口調で大木を罵るイソップ。
大木もカッとなってその胸倉を掴み、拳を握り締めるが、さすがにイソップを殴ることは出来ない。

イソップ「俺はラグビーが好きだ。自分を捨ててチームに尽くすラグビーと言うスポーツが大好きなんだ。レギュラーになれなくても良い、でも俺はラグビーをやりたい、みんなと、お前と一緒にグラウンドを走りたいんだ!」
遂にイソップは泣き出し、「お前とは絶交だーっ!」と叫んで駆け去ってしまう。
……しかし、イソップが昔からラグビーが好きだからって、特に好きでもなく、なりゆきでラグビーを始めた(8話参照)大木がなんでそこまで言われなきゃならないのか、いまいち釈然としないシーンである。
青春をかけるに値するスポーツや芸術活動は、他にも一杯あるしねえ。
これは、そう言うドラマなんだから……と言う身も蓋もない理由しか思い当たらない。
それに、入学してからこっち、イソップが大木をラグビー部に誘うと言うシーンもなかったと思うが……。

滝沢「このままでいいのか? お前今までずっと突っ張って生きてきた。でもその突っ張りの為に今一番大切な友達を失おうとしてるんだぞ。中学校時代からお前ずっとイソップを庇い続けてきた。それは何故だ。弱い奴助けて良い格好したかったからか? ただそれだけなのか」
大木「違う! 俺は……俺は……なんて言って良いかわかんねえけど、とにかく俺は奴が好きだから……」
滝沢(食い気味に)「そうだっ! お前イソップが好きだ。それはイソップが本当の友達だからだ! 今まで川浜一のワルと恐れられたお前に尻尾を振って擦り寄ってきた人間はたくさんいただろう、だが本当に心を開いて付き合ってくれた友達は、イソップだけだった、違うか?」
滝沢「……」
大木「お前もそんなイソップにだけは誰にも見せない素顔を見せてきた。そうだろう?」
滝沢は更に言葉を続けて、イソップは自分の夢を大木に託しているのだと話す。
滝沢「分かるか、ボールを持って走るお前は、イソップ自身なんだ」
滝沢の台詞終わりのタイミングで、「ヒーロー」が流れ出し、ボールを持って相手のタックルをかわす大木の姿に、イソップの姿が重なる。
滝沢「お前の上げるトライはイソップの上げるトライだ」
大木「じゃあ、イソップの上げるトライは?」
滝沢「勿論、イソップのトライだ!」
大木「ヒィィィーッ! まるでジャイアンだ!」
……嘘です。ごめんなさい。
滝沢「そんな他人の夢の為に、汗水垂らしたくないって言うんだったら、俺はもう何も言わん。昔のワルに戻って、みんなを悲しませれば良いんだ!」
滝沢は最後通告のように大木に向かって叫ぶ。
なんか、断ったら大木が悪人みたいな状況になって来たが、でもやっぱり、「他人の夢の為に~」と言うのは根本的に間違ってる気がする。
もしこれが修造だったら、イソップに向かってこういうだろう、
「何故、君自身がレギュラーになろうとしないのかっ?」と。
それに、大木にだって何か他にやりたいことがあるかも知れないんだしね。少女漫画家になりたいとか。
大木「先生、俺、脈あるのかよ? 本当に俺みたいな奴が選手になれるのかよ」
滝沢「大助、言っただろう、今の川浜のラグビーに必要なのはお前のようなファイトのある奴だって」
こうして、なし崩し的に大木はラグビーに戻り、苦しくも楽しい汗を流すことになったのだが……。
ラスト、練習していたイソップが突然頭を抱えて倒れ込む……と言う、大映ドラマの伝家の宝刀「不治の病」が遂に抜かれた、と言うところで10話へ続く。
追記 ちなみに今回は、岩崎良美さんの都合か、加代が一切登場しない。
なのに、滝沢たち登場人物はそのことに一切言及しようとしない。ドラマだから当たり前と言えば当たり前なのだが、良く考えたらかなり不気味である。一言、「加代は風邪で休んでる……」と断れば済む話なのに。
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